ドイツの最新式点字関連視覚障害者支援機器 The Newest German Braille Equipment for the Visually Disabled 筑波技術短期大学視覚部情報処理学科 齋藤 玲子 Reiko Saito Department of Information Sciences Summary:ドイツ製の点字プリンターや点字表示器は既に日本にも導入されているが、一般にはあまり知られていない。今回マルブルクにある民間会社Brailletecの点字関連視覚障害者支援機器開発の現状を視察した。同社の製品のうちから、(1)盲聾重複障害者対応点字入出力端末、(2)紙テープ用高速点字タイプライター、(3)自動校正式点字製版機など、特に優れていると思われるいくつかの新製品を紹介する。  The Braille embossers or refreshable Braille made in Germany have already introduced into Japan but not so well known yet. I visited a private company Brailletec and observed the present status of their development of Braille equipment for the visually disabled. From their products, the outlines of some excellent new products are presented;(1) Braille input/output terminal for the deaf-blind(2) High speed Braille typewriter for paper tape(3) Braille embosser for metal plates with automatic checking system. Keywords:点字印刷、盲甕重複障害、視覚障害、通信、ドイツ Braille printing, deaf-blind, visually disability, communication, German 1.はじめに  ドイツのマルブルク(Marburg)にある点字印刷機器メーカーBrailletec(ブライユテック)は、マルブルクの高等盲学校(Deutsche Blindenstudienanstalt)の点字機器製作部門が独立して営利企業になったものである。  同社の製品は、高等盲学校の中にあった時代から、ドイツ語の盲学校(Blindenstudienanstalt)の短縮形であるBlistaの愛称が「ブリスタの点字タイプ」などと呼ばれて世界中で親しまれていたので、同社は分離独立後もこの愛称を商標として引き継いでいる。  同社の製品開発は、音声合成や可動ピンによる点字表示器に手を広げることなく、あくまでも点字打刻装置に限定して開発力を集中していることが特徴である。  同社は以前から盲甕重複障害者支援に意欲を示していたが、最近の電子技術の発展を追い風に、実用的で高機能な相互通信端末を発表するに至った。 2.盲聾重複障害者支援機器  盲聾重複障害者の通信手段については長年暗中模索が続いたが、最近になって点字が究極の通信手段として注目を集めるようになり、この点で点字の意義が急速に再認識されるようになった。  同社は以前から、独自の点字タイプライターの技術を活用して、盲聾重複障害者のための紙テープ用高速点字タイプライターを製作していたが、より広範な情報交換の自由度を求めて、最新の電子技術を応用し、小型の電動点字タイプライターを中心とする、盲甕重複障害者と視覚障害あるいは聴覚障害を持たない人々を結びつける画期的な通信システムを開発した。  以下に同社の代表的な新旧2機種を紹介する。 2.1 電動式点字タイプライター:『エロタイプ』 Elotype 4,Elotype 4E 【概要】  盲聾重複障害者対応のコミュニケーション手段として、視覚障害者用の電動点字タイプライターをベースに開発された。聴覚障害者も対象になるという。  本体は連続用紙用のマイクロコンピューターを装備した電動点字タイプライターである。単体でも簡易型の点字ワープロとして利用できるが、パソコンやキーボード、墨字プリンターなどと接続することにより、入力と出力の両面にわたって多彩な機能を発揮する。  同社の野心的な新製品である。 【機能】 (1)点字入力 (2)点字印刷 (3)点字文書編集・保存(高機能型) Elotype4は基本型、4Eは高機能型である。 (4)通信(シリアル、パラレル) a.フルキーボードと接続 b.パソコンと接続 c.Elotype同士で接続 (5)端末 a.パソコンの点字入出力端末 b.複数のElotypeで構成するネットワークの端末(高機能型) (6)ビープ音出力  視覚障害者のためにはビープ音があって、たとえば、コマンドやファイル名が正しく入力されたときは高いビープ音が鳴り、マシンが理解できない誤った入力がなされると低いビープ音が鳴る。 (7)振動出力(オプション)  盲聾重複障害者のためにバイブレーターがある(オプション)。ビープ音に対応してバイブレーターを作動させることができる。 【利用法】 (1)電動点字タイプライター (2)点字プリンター  パソコンに接続して、簡易型の点字プリンターとして用いる。 (3)触図作成  Elotype 4Eは、点の間隔縦横とも2mmで点図を描くことができる。 (4)簡易型点字ワープロ (5)点字から墨字への変換 aパソコンに接続して、点字キー入力で普通の文字コードを入力する端末として用いる。 b墨字プリンターに接続して、点字キー入力して、墨字印刷する。 (6)墨字から点字への変換  フルキーポードに接続して、フルキー入力した文字を点字で印刷する。 (7)Elotype同士のネットワークによる教室システム  たとえば、先生や生徒のなかに視聴覚障害者がいても、先生から複数の生徒に同時に情報を送り、生徒たちは自分に適したメディアでそれを受け取ることができる。逆に一人一人の生徒から先生に情報を送ることもできる。 (8)Elotype同士のネットワークによる会議システム  盲聾重複障害者を含む視・聴覚障害者とそれらの障害を持たない人たちの間で会議を行う場合のコミュニケーション支援システムとして用いる。  発言者のElotypeがマスターとなって、全員のElotypeに同時に情報を送ることができる。発言者が代わるごとにマスターが自動的に代わり、全員で討論を行うことができる。 【仕様】 (1)キー配列:前面に8点点字キーとコントロールキー点字入力とモード設定を行う。 (2)ピンヘツド:4本式  点字1文字を2回にわけて打つ。例えば6個の点全部を使う文字{1,2,3,4,5,6}は、{1,2,3}、{1,2,3}と2回打つわけである。 (3)点字体系:6点式と8点式 (4)印字速度:毎秒12~14字 (5)キーボード・コネクター:PS-2 (6)通信ポート:シリアル、パラレル各1 (7)ビープ音出力と振動出力:ビープ音出力 ビープ音に対応するバイブレーター(オプション) (8)モード設定:コントロールキーと点字キーを用いる動作や入力に関するモード設定 (9)寸法と重量:幅420mm、奥行290mm、高さ100mm、重さ4.9kg (10)現地価格:4680ドイツマルク(約30万円) 【システム構成例】  システムの構成例を図1に示す。  デモをしている人物は晴眼者である。右手を触れているのがキーボードで、文字を入力している。中央がElotypeで、入力した文字が点字になって打ち出されている。左手側にあるのはノートパソコンで、入力した文字がモニター画面に墨字で表示される。  視覚障害者・盲聾重複障害者は、打ち出される点字でデモをしている人物からの情報を認識できる。聴覚障害者は、モニター画面上で認識できる。  バイブレーターは、Elotypeの右側面の手前にある。 【備考】  言語は現在7か国語に対応しているが、ソフトを作れば日本語にも対応できる。 2.2テープ用点字タイプライター:『ステノグラフィック・マシン』 Stenographic maschine 【概要】  盲聾重複障害者の即時的コミュニケーションを支援するために開発された、細い紙テープに1文字ずつ点字を打ち出すタイプライターである。  健聴者が会議の発言などを即座に点字入力したものを盲聾重複障害者が読みとったり、盲聾重複障害者が入力した点字を健聴者が読みとって読み上げたりして用いる。  小型軽量で高速印字に耐える。既に日本を含む各国で利用されて定評を得ている。 【機能】 (1)細い紙テープに1文字ずつ点字を打ち出す。 (2)高速で打てる。(最大毎分300ストローク程度) (3)いわゆるダイモテープにも点字が打てる。 【利用法】  通訳者が話の内容をこのタイプライターで点字でタイプしていき、盲聾重複障害者は、点字が打たれてするすると出てくるテープを逐次読んで理解することができる。  また、盲聾重複障害者は、自分の意見をこのタイプライターで点字で打ち出し、通訳者がそれを読み上げて全員に伝えることにより、会議に参加することができる。 【仕様】 (1)標準仕様の他に点字の間隔が大きい仕様がある (2)標準仕様の他に片手打ちのための右手対応と左手対応の仕様がある (3)ダイモテープのアダプター (4)寸法と重量:幅210mm、奥行110mm、高さ70mm、重さ12kg 図1. Elotypeのシステム構成例 3.大量点字印刷装置  情報伝達の時間的不利に常にさいなまれてきた点字印刷にとって、最も重要な課題は迅速性である。迅速性を保障するためには、単に印刷装置の運転の高速性のみならず、点字印刷の正確』性と確実性が不可欠である。  特に、点字が大量に印刷されるのは公共的な印刷物である場合がほとんどで、印刷の正確性には重大な社会的責任を伴う。これらを実現するためには、印刷装置の堅牢性とともに校正の効率化が必須となる。  同社では、製版機と輪転機を用いる大量印刷の場合と、点字プリンターを用いる比較的少量の印刷の場合の双方に対して、紙面に印刷された点字の校正の過程を省くための画期的な開発を行っている。  大量印刷に関しては、製版機に校正をおこないながら点字を打刻するシステムを導入し、これは既に実用化している。点字プリンターに関しては、印刷した紙面を光学的に校閲するシステムを検討しているが、これはまだ開発途上である。  以下に、これら2機種の現状を紹介する。 3.1点字原版作成機:『ピューマ」 PUMAⅥ 【概要】  同社の説明に依れば、印刷部数が100部を越える場合は原版を用いる印刷が適し、それ以下の場合は点字プリンターによる印刷が適するという。印刷に原版を用いる場合も、印刷部数が比較的少ない場合は原版に紙を挟んで一対のローラーの間を手動で通過させる方法もあるが、印刷部数がきわめて多い場合は、後述の輪転機Rotabrailleと組み合わせて世界最高速の点字印刷システムを構成して実行することができる。  本装置は点字印刷用輪転機に使われるアルミ原版を作成する、これまで5大陸の50か国以上で使われてきた「マルブルク点字原版作成機」の最新版である。  電子自動校正システムにより、点字を打刻しながら入力と出力を対照して同時に校正を行い、校正の段階が省略できる点が最大の特徴である。  PUMAが原版を打刻している様子を図2に示す。 【特長】  電子自動校正システムは、点字打刻時のピンの上下をセンサーで検知し、コンピューターからの入力データと1文字ごとに照合する。もしも、実際の印字が入力データと一致していれば印刷を続行し、印字が入力データと異なれば印刷を中断する。原版方式の点字印刷では、実際に用紙に印刷されたものは原版に完全に一致していると考えられるから、これによって用紙に印刷された点字の校閲が省略できる。  これは、時間とコストの大幅な節約につながる。 【仕様】 (1)点字体系:6点式と8点式 (2)点字サイズ:標準サイズと大型サイズ (3)両面印刷モード:インターポイント (4)印字速度:毎秒18文字 (5)通信ポート:シリアル (6)触図作成:グラフィック機能(オプション) なめらかな線で描画可能 (7)プレートのサイズ: 標準仕様:285mm×340mm、厚さ0.6mm、それ以外も対応可能 (8)プレート材質:亜鉛99.9%、アルミニウム990%、銅 (9)コンピュータ制御:視覚障害者はElotypeや点字ディスプレイで操作可能 (10)電子自動校正システム(オプション) (11)重量:275kg 3.2点字印刷用輪転機:『ロータブライユ』 Rotabraille 【概要】  PUMA Ⅵで作成した一対の原版を一対のローラーに取り付けて点字を印刷する高速輪転機である。 【仕様】 (1)印刷速度:毎時7,200枚(片面2ページで両面印刷の場合は、28,800ページ) (2)点字用紙サイズ:標準A3、他のサイズも対応可能。 (3)寸法と重量:幅105m、奥行127m、高さ1.10m、重量465kg 3.3点字プリンター:『マグナム』 Magnum 860i 【概要】  簡易型点字プリンターとしてのElotypeと、大量印刷用の輪転機Rotabrailleの中間に位置する点字プリンターである。  Magnumの点字印刷の中枢部を図3に示す。 【仕様】 (1)点字体系:6点式と8点式 (2)印字方向:ポートレイトとランドスケープ(製本に便利) (3)両面印刷:片面印刷と両面印刷が選択可能 両面印刷モード:インターポイント (4)印字速度:毎秒150文字以上(毎時600ページ) (5)点間隔:可変 (6)触図作成:グラフィック・モード (7)寸法:幅725mm,奥行660mm,高さ1150mm 図2.点字原版作成機PUMA Ⅵ 図3.点字プリンターMagnum 860i 4.おわりに  ドイツの点字関連視覚障害者支援機器開発に学ぶものは、点字の需要に関する理解の正確さと思慮の深さであるとともに、視覚障害者支援機器開発に関して、常に最新技術を応用して目的を達成しようとする意欲と、独自の技術を確実に蓄積する堅実な態度である。