視覚障害教育研究資料のデータベース化とインターネット利用 一般教育等(視覚障害系) 黒川 哲宇 要旨:教育や医学に関する英語の研究文献データベースについては、最近インターネットによって無料で公開されるようになった。しかしながら、日本語の研究資料をインターネット上で提供している例は少ない。そこで、視覚障害教育に関係する研究文献の書誌情報をデータベース化し、インターネット上で公開することにした。このデータベースは、視覚障害教育の実践者だけでなく、視覚障害児を持つ親や、リハビリテーション・福祉に携わる人、あるいは視覚障害福祉機器の開発者にとっても役立つと考える。 1 はじめに  著者は最近調べもののために図書館に行くことがなくなった。自分の狭い研究室でほとんどの仕事がすむからである。例えば、辞書や事典のたぐいの参考資料は、電子辞書やCD-ROM版が充実してきており、携帯性の点からも大変使いやすくなっている。また、インターネット自体が大きな百科事典であるため、さまざまな情報を自在に収集できるようになった。出不精の者には有り難いことである。  英語による情報に関しては、2、3年前まで大型計算機に収納されていて、有料で提供されていた書誌情報データベースは、主なものが無料で公開されるようになった。 教育関係のデータベースとして有名なものにERIC(Educational Resources Information Center)(http://ericir.syr.edu/Eric/)があるが、1,000以上の学術雑誌や報告書の書誌情報を無料で、また一次資料としての報告書(マイクロフィッシュ)をこれは有料で提供している。 また、医学関係の学術情報を提供しているMedline(http://www.nlm.nih.gov/databases/freemedl.html)も書誌情報の検索は無料で、オリジナルは有料で提供するというシステムになった。ただ、工学関係のデータベース、例えばCOMPENDEXなどはまだ無料で利用できないようである。著者の場合は、書誌情報をインターネットで検索して、オリジナルのコピーを本学の図書館を通じて入手している。  ところで、日本語で書かれた情報は、文部省の学術情報センター(NACSIS: http://dirr.nacsis.ac.jp/)で主な学会の研究発表物を提供している。例えば、「雑誌記事索引データベース」や「学会予稿集電子ファイル」などであるが、接続料や検索さえも有料であるので使いにくい。 一方、障害教育関係の書誌データベースを用意している例としては「岐阜大学教育研究文献情報データベース」(http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/edmars/index.html)があるが、すべての障害種別を含めて4,000程度の項目を収容しているだけであるので本格的なものではない。  視覚障害教育関係の研究文献としては、視覚障害教育関係の研究会から発刊されている雑誌記事、研究大会の口頭発表抄録集、大学・研究所、あるいは学校から出されている研究紀要などがある。障害教育関係の文献リストを図書として刊行した例としては、津曲裕次編「年表情報集覧」(大空社、1999年)があるが、電子化したデータベースとして公開されているものはない。  研究文献情報のデータベースは次のような人たちに役立つと思われる。  まず、教育現場の教師に役立つ。自分が指導している生徒と同じ特性を持つ障害児にどのような指導がされたのか。その効果や課題は何であったのか。また、ある指導の試みをしたが、どのような結果になったのかなどは、特に赴任して間もない教師の研修のための情報として活用できる。  また、障害を持つ子供の父母に役立つ。自分の子どもと同じ障害を持っている子供がどのような指導を施されているのか。その成果や将来はどうなのか。これらの情報は障害を持つ親の障害受容や学校に対するニーズを考える上で活用できる。  さらに、障害者を受け入れようとしている学校や大学などの担当者にとって、その人の障害はどのような特性なのか、どのような配慮をすべきなのかなどの情報を提供してくれるはずである。また、視覚障害支援のためのシステムを開発している人にとっては、どのような機械技術が必要とされているのか、いままで開発されたシステムの種類や課題は何であるかというような情報を提供することができる。  今回のプロジェクトでは、以上のような問題意識に基づいて視覚障害関係の研究文献の書誌情報のデータベース化と、それをインターネットを介して公開することを計画した。 2 システムの概要  本データベースのシステム構成は、パーソナルコンピュータ(Macintosh G3)をサーバとして使用し、インターネットとの接続機能を持つ市販のデータベースソフト(ファイルメーカーPro)により、データをCD-ROMに保存して提供することにした。  収録した書誌情報は、1956年から1998年までに発行・発表された研究情報であり、約4,300であった。これらには、「盲心理論文集」とか「盲心理研究」という1950年代に発刊されていた初期の研究誌、および現在発行されている雑誌の記事情報、さらに「特殊教育学研究」に毎年掲載されている「本邦特殊教育関係部会別文献目録」の盲・弱視部会編からの情報を収録した。盲学校等の教育現場で発行している研究紀要の情報も収録したかったが、これらは本データベースを公開した後、各学校からの協力によりデータを追加することにした。書誌情報の項目は、「著者名」、「題目」、「雑誌名」、「発行年」、「巻・号・ページ」、「要旨」、および「キーワード」であった。データの入力にはパートタイマーを一人約5ヶ月間雇用して作業してもらった。  インターネットにより本データベースを公開したが、そのことについて特に広報活動は行わなかった。しかし、インターネット上の検索エンジンなどで存在を知った人が結構アクセスしてきている。先日、視覚障害関係のメーリングリストで紹介されていたので、著者からレスポンスを行った。今年度分の新しいデータの入力は、データ件数が200件程度であり、発表される時期もそれぞれ異なっているので著者が逐次入力作業を行っていけばよいと考えている。また、今回収録できなかったデータの遡及入力については今後検討していきたいと考えている。 3 今後の課題  問題点の最初は視覚障害を持つユーザに対する対応である。今回使用したデータベースソフトは初期設定の段階でグラフィック表示のサイトが構成されるようになっており、著者の技術力の不足により、それをテキスト表示に変更することができなかった。このままの状態で合成音声を利用してアクセスすると、表示切り替えなどの操作がうまくできないことが考えられる。マークアップ言語の達人に助力いただければ幸いである。  第2の問題は1次資料の問題である。今回作成したデータは2次資料としての書誌情報であった。このデータベースにアクセスして読んでみたい資料が見つかった場合、そのオリジナル、すなわち1次資料を何らかの手段で取り寄せなければならない。大学や学校から発刊されている研究紀要などはその機関や部署に連絡することになるが、雑誌などの記事の場合はどこでその雑誌のその号をそろえているのかを知っていなければならない。いずれにしても、読者ははやく読みたいものである。探したものがどうにかしてもっとはやくユーザに届く仕組みは考えられないものか。筑波技術短期大学が公開している「障害者支援学術情報システム」(http://www.tsukubatech.ac.jp/techno/index.html)は、オリジナルの一次資料を無料で公開しているもので大変意義深い企画である。 書誌情報の中の項目に「テクノレポート」の記事が見つかり、このサイトへのリンクが用意されていれば、ユーザは読みたい記事をすぐ取り寄せることができる。  第3は1次資料と2次資料との関係の問題である。一番よいのは書誌情報(2次資料)とオリジナル(一次資料)が両方とも用意されていることである。ただ、書誌情報は関係するものはなるべく全部まとまっている方がよろしい。教育関係のものが全部含まれているERICのようなものが一番望ましいと思われる。ユーザ側にしてみると、一つのデータベースにアクセスしていれば、障害関係のものも探せるし、障害に関係のない情報も検索することができる。現在、筑波大学の図書館にあるデータベースでは付属盲学校の研究紀要についての書誌情報を検索することができる(http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/pub/kiyo-kensaku.html)が、自分の探したい情報が別の機関が提供しているデータベースに登録してある場合にはそのサイトに移動しなければならない。わずらわしくて、不便である。そこで、2次資料としての書誌情報は文部省などの大きな機関が一元的にしかも細かく用意しておいて、一次資料としてのオリジナルは教育研究機関や研究会ごとに無料で公開しておくと便利である。  今回のデータベースは、実は特殊教育学会の常任編集委員会でも話題になった。この学会では掲載論文にキーワードをつけているが、投稿者からのキーワードの付け方に問題があることと、書誌情報がデータベース化されていない限り、キーワードの採用自体に意味がないのではないかということで議論された。特殊教育関係の一元的なデータベースを構築すべきかどうか今後検討されると思われる。  オリジナルのデータベースが公開されるということは、同時に著作権の問題が浮上することを意味する。これを無料とするべきか、何らかの負担をユーザにお願いするかがあるが、基本的には無料にすれば利用が進み、有料にしている間は利用されず、極端に言うと研究自体が進まない。行政も研究教育機関も、受益者負担というようなことを言っている時期でなくなっていることを自覚する必要がある。  なお、この研究は筑波技術短期大学学長裁量経費の支援を受けて行われた。 Web-Based Database in Japanese Education of the Visually Impaired. Tetsuu Kurokawa (General Education, Division for the Visually Impaired) Abstract: Although the free databases of education or medicine in English have been recently provided on the Internet, there are little Japanese web-based educational information presented at this time. The author constructed the database of education for the visually impaired in Japan, and provided search services of the references on the Internet. The information may be useful to the teachers and parents of visually impaired children, the rehabilitation specialists of the institutions and the developers of assistive technology for the visually impaired. Key words: database, the Internet, education of the visually impaired