情報保障とネットワーク利用の現状と将来 建築工学科 浅草 肇 教育方法開発センター(聴覚障害系) 内野 權次 電子情報学科情報工学専攻 村上 裕史 デザイン学科 生田目 美紀 電子情報学科電子工学専攻 内藤 一郎 電子情報学科電子工学専攻 加藤 伸子 電子情報学科情報工学専攻 皆川 洋喜 電子情報学科情報工学専攻 西岡 知之 教育方法開発センター(聴覚障害系) 三好 茂樹 要旨:情報ネットワークは情報保障の基盤技術であるとの立場から、情報ネットワークの現状把握を定量的に行い、これらに基づき将来構想を行った。 キーワード:情報保障、ネットワーク、利用状況計測、将来設計 1.はじめに  情報ネットワーク技術は情報保障の重要な基盤である。障害者の高等教育機関である本学は、この最先端技術の利用手段を確立させ、その利用技術情報を蓄積し、さらにこの成果を社会に公開し障害者の情報保障に寄与する責務がある。  この観点から、著者らは、情報ネットワーク技術を聴覚障害学生に対する情報保障の重要な手段と考え、先ず、ネットワーク利用の現状調査を行い、次に、「本学が学生に保障すべき環境は何か」、そのためには「何が必要なのか」あるいは「入学したくなる情報保障環境とは何か」、さらに「卒業生が情報保障技術を指導できる情報リテラシーとは何か」などを取りまとめるために、平成11年度教育改善推進費(学長裁量経費)を要求し、認められた。  そこで、この研究プロジェクトはまだ初期段階ではあるが、現在までに判明したネットワーク利用の現状と将来計画について報告する。 2.ネットワークの現状  本学はクラスBのIPネットワークにより構成され、回線容量は10Mbpsである。学外へは両キャンパスからそれぞれ学術情報ネットワーク(SINET)に接続されている。その容量は64Kbpsであったが、平成10年1月からデジタル専用回線128Kbpsによる接続となった。  視覚・聴覚両キャンパスは、それぞれ15bitアドレスで独自にサブネット化され、さらに、聴覚部キャンパスでは各学科・センターなどごとに10bitアドレスでサブネット化されている[1]。  聴覚部キャンパスにおける各サブネット内のネットワーク構成としては、学科・センターなどが独自に利用目的に応じて各種サーバ(DNS, メール, Web など)を設置・利用している。一方、利用者からは学内外間での応答が遅いとの不満があがっている。このことに対して、その原因を調べる定量的かつ直接的な調査はなされず、間接的な比較調査がなされたにとどまっている[2]。 3.ネットワークの現状調査  本プロジェクトでは、先ず、現ネットワーク状況の定量的把握を行うことにした。このためにネットワークアナライザーソフトウェアをパーソナルコンピュータに設置し、サブネットの状況を計測した。対象としたサブネットは学生寄宿舎と2~3の学科(プライバシーに関わるため匿名で表す。A、B、C学科とする。)である。  図1は、横軸に時間をとり、縦軸に10Mbpsに対する各サブネットの回線の利用率について30秒間で算出した最大値と平均値とを1時間単位に示したものである。  図2は、各サブネット内でのノード間通信の状態を表したものである。円周上に各ノード(ルータ,WS,PC,プリンターなど)を配し、通信が観測されたノード間を直線で結んでいる。  表1は、各サブネット内で全プロトコルのパケット数を計測し、全パケット数に対する各プロトコルのパケット数を割合で表示した結果である。  表2は、表1のプロトコルの内、IPプロトコルの総パケット数に対するIPサブ・プロトコルのパケット数を割合で表示したものである。  各サブネットのデータ計測時期および期間は異なる。このためにこれらの結果を直接比較することはできない。しかし、サブネット内のネットワークの利用量と利用形態の概要を考察する基礎資料にはなり得る。  回線の利用状況を見ると、平均値ではかなりまだ回線の利用状況に余裕がある結果となっているが、しかし、使用者にとっては、利用している正にその瞬間に遅延無く通信が行えてこそ、初めて快適な通信環境となる。この観点に立脚すると、回線の利用状況は基本的に最大値で評価を行うべきである。  回線の利用率が80%を越えるのはftp転送を学内サーバに対して行っているときである。学外サーバへの通信時の利用率は、概ね学外接続回線容量に一致することが認められる。今後、MPEGなどの動画転送時の負荷容量を詳細に計測する必要がある。なお、ビデオサイズが320×240ドット程度の場合、最大20%程度の利用率になる。  利用形態の特徴としては、寄宿舎サブネットでは、ネット内にサーバがないことも原因と推測されるが、ルータへの一局集中型となっており、PC間の相互通信はほとんど認められない。このことは現在PCが、1対1の実時間相互通信にはほとんど利用されていないことを示している。  A学科では、集計時間が長いこともあるが、数個程度のノードを中心に、各ノードが相互の通信を行っている様子がよく分かる。  B学科でも、4ノード程度を中心としたノード間通信を行っている様子が見える。  通信に利用しているプロトコルは、ほとんどがIPプロトコルであるが、AppleTalkも測定されておりwindows一辺倒ではないことを示している。また、寄宿舎においてNetBIOSの比率が大きいのは、PCのネットワークの設定において、不要なプロトコルの設定しているのが原因かもしれない。この点については今後さらに詳細な計測・調査を必要とすると同時に、学生に対するこのような観点からの情報リテラシー教育が必要であるのではないだろうか。  全体的に、Loopbackが予想以上に多く発生していることに対する原因調査も必要であろう。また、IP以外のプロトコルが発生していることを考えると、利用者の要求があれば、サブネット外との通信を確保するためにも、ルータの設定を再確認する必要があろう。  IPサブ・プロトコルの内訳では、学科サブネットにおいてはnetbiosが多くwindowsを中心とした利用形態が主であることが推測される。また、サブプロトコル中、wwwは学内webサーバへの通信を示し、proxyは学外webサーバへの通信を表す。A学科では学内と学外のwebサーバの通信パケット数はほぼ同数であるが、B学科ではほとんどが学外サーバへの通信である。C学科では不明である。一方、寄宿舎ではproxyが40%を占めており、wwwを合わせると半数のパケットがweb通信であることを示している。次に多いパケットがnetbios(Windowsのネットワーク通信環境で自動的に発生しているものと考えられる)であることを考慮すると、現状の学生の主要利用目的はweb通信であり、直接のコミュニケーションには利用されていないと推測される。情報保障手段になり得る情報ネットワークが利用されていないことについては、今後、その原因調査と環境整備及び教育を行う必要があろう。 図1-1 ネットワーク利用率 図1-2 ネットワーク利用率 4.ネットワークの将来構想  本学の情報ネットワークの第1目的を学生に対する情報保障サービスであるとの前提に立脚すると、以下のようなことが必要になるのであろう。  学生が最新の次々と生み出される情報保障ツール(コミュニケーション支援ツール。例えば、内線文字電話としてのチャットの利用[3]。)を自由に試用し、その中から自分たちの要求を満たせるコミュニケーション方法を見出し確立できる環境が必要になろう。また、全ての学生(学生寄宿舎居住、学外居住を問わず)が、同じサービスを受けられる環境も構築する必要があろう。  上記の観点から考えると、理想的には、学生が自由に自主的に運用・使用ができるサーバを設置し、学生の中に管理委員会を組織させ、その組織で、ユーザ登録、コミュニケーション支援ツールの試用、コミュニケーション方法の開発・確率ができる環境を整える必要があろう。この場合学生に対する今以上の情報リテラシー教育が必要であり、さらに、学生運用サーバの監視体制も確立させる必要があろう。  また、学外への通信、学外からの通信方法の確立、並びに、高速化を図り、新たなコミュニケーション方法を発見できるような環境を確立する必要があろう。 5.おわりに  今後一層のネットワーク内の通信状況の計測を行い、より詳細なデータ収集を図る一方、学外接続状況を直接計測し、現在の問題点を定量的に明確にする予定である。  また、ほとんどの学生が使用している携帯電話と学内ネットワーク間の通信方法、パソコン・携帯電話間の実時間双方向通信を実現するための調査を開始したい。 図2-1 寄宿舎ノード間通信 図2-2 A学科ノード間通信 図2-3 B学科ノード間通信 表1 プロトコル内訳 表2 IPサブプロトコル内訳 参考文献 [1] 渡辺 隆ほか:筑波技術短期大学コンピュータ・ネットワーク.筑波技術短期大学テクノレポート第2号:pp.103-107, 1995 [2] 筑波技術短期大学平成9年度第2回情報処理通信委員会:資料4, 1998 [3] 皆川 洋喜ほか:視覚障害・聴覚障害を考慮したネットワークコミュニケーションメディアの可能性と問題点.信学技報教育工学研究会,2000年1月