聴覚部学生による授業評価に関する-考察 筑波技術短期大学電子情報学科情報工学専攻 小池 将貴 要旨:聴覚部の授業評価ワーキンググループは、平成11年度と平成12年度の学生による授業評価に対してデータ解析を行った。その解析結果を利用して、特定の学科・専攻や特定の科目に関する授業について従来からよく聞く意見の当否をデータを通して検討してみた。 キーワード:授業評価 アンケート調査 主成分分析 数学教育 1.評価データ 1.1 授業件数と受講学生  平成11年度は76件、平成12年度は106件の授業に関する評価データが得られた。ひとつの授業を受ける学生の人数は、専門の必修科目で約10名、最大でも一般教育科目で約50名、最小が専門の選択科目で4~5名である。 1.2 評価項目  授業を受けた学生はあらかじめ用意された複数の質問に答えた。質問は、(良い、やや良い、普通、やや悪い、悪い)という5水準のいずれかに反応させるものである。  今回の授業評価に採択された評価項目は、11項(目的・理解・興味・疎通・機器・準備・熱意・態度・受話・通話・総合)であり、評価項目毎に受講学生の5段階評定を受けることによって、授業が評価されることになった。 2.主成分分析 2.1 主成分分析の適用  授業評価の本質は授業同士の差別化である。そこで、多変量(11項の評価項目)の線形結合を主成分(授業の代表評価指標)として、その分散を最大化させる主成分分析法を適用することにした。 2.2 入力データ  こうして、年度別に2種類のデータ行列(平成11年度は76行11列、平成12年度は106行11列)が得られた。データ行列の行は、平成11年度は76件、平成12年度は106件の授業から成る。データ行列の列は、平成11・12年度共通に11項の評価項目から成る。  各評価項目のデータは、良いという最高水準への受講生の反応率とした。例えば、ある授業を10人の学生が受講し、その授業のある評価項目について、(良い、やや良い、普通、やや悪い、悪い)の各水準に対する反応の内訳が3人、2人、2人、1人、2人であった場合には、3÷(3+2+2+1+2)=30%という値をその授業のその評価項目に対する評価結果として、主成分分析への入力に用いた。 2.3 主成分分析の計算結果  平成11年度のデータ行列(76行11列)及び平成12年度のデータ行列(106行11列)に対してそれぞれ主成分分析を適用した。 それぞれの第1主成分を取り上げる(表1と表2)。  表1は、第1主成分が評価項目とどのように関連しているかを調べるために作成したものである(平成11年度)。表2は平成12年度に関して同様の目的で作成したものである。双方の年度に共通していることがある。それは、第1主成分は、すべての評価項目との相関係数が正でかつ1.0にきわめて近い値をもっているということである。 2.4 代表指標としての第1主成分  第1主成分とある評価項目との相関係数が正でかつ1.0にきわめて近いとは、授業の第1主成分の値が大きければその評価項目の値も大きく、第1主成分の値が小さければその評価項目の値も小さくなるという連関の成立を意味する。第1主成分はすべての評価項目との相関係数が正でかつ1.0にきわめて近いというのだから、この連関がすべての評価項目について成立する。つまり、授業の第1主成分の値が大きいならば、学生からの評価が全般的に高く、第1主成分の値が小さいならば学生評価が全般的に低いといえる。  よって、これからは11項も有る評価項目の代りに第1主成分というひとつの代表指標を用いて議論する。  まず、平成11年度の76件の授業に対応する第1主成分の値(76個)のヒストグラムを図1に示す。横軸の5つの階級は第1主成分の値を適当に区分けして構成した。縦軸の件数比は、階級に属する授業件数をヒストグラム作成に用いた全件数76で除算して%表示したものである。つまり、各階級に何パーセントの授業が属しているかを示すものである。  同様に、平成12年度についても106件の授業に関する第1主成分のヒストグラムを描いた(図2)。 表1:第1主成分と評価項目との相関係数(平成11年度;授業76件) 図1:平成11年度76件の授業 図2:平成12年度106件の授業 3.数学関連授業についての意見の当否をデータ検証 3.1 学科・専攻による評価の差  聴覚部の授業評価の対象は、6つの学科・専攻から成る。そのうち機械工学科・電子工学専攻・情報工学専攻の3つの学科・専攻については、『数学に関係する難しい授業が多くて、学生評価も悪くなりがちである。』という意見をよく聞く。そこでこれらの3つの学科・専攻をグループAとする。残りの一般教育等・デザイン学科・建築工学科をグループBとする。そして各グループに属する授業の第1主成分のヒストグラムを描いた。まず平成11年度について、グループAを見る(図3)。 同じ平成11年度についてグループBを見る(図4)。  ここで手近の図4を見ながら、ヒストグラムの見方を説明しておく。まず前面の棒グラフは、平成11年度の76個から成る第1主成分のうちグループBに属す授業の32個のヒストグラムである(32個が100%を構成する)。その背景に見える上に尖った三角形のようなものは、全授業76件の第1主成分のヒストグラムである(ここでは76個が100%を構成する。実は図1と全く同じもの。)。したがって、背景よりも上にはみ出た棒グラフの階級は、同じ階級の授業全体の件数比よりも高いのだから、授業全体の傾向よりも上に偏っている。逆に、背景よりも下に留まっている棒グラフの階級は、全体の件数比よりも低いのだから、全体の傾向よりも下に偏っている。例えば図4においては、グループBの授業は授業全体の傾向よりも評価の高いほうに偏っていて、喜ばしいことである。  続いて、平成12年度について、グループAを見る。 次に、平成12年度について、グループBを見る。  平成11年度については図3と図4とを対比して見る。さらに平成12年度については図5と図6とを対比すると、『グループA(機械工学科・電子工学専攻・情報工学専攻)の授業は数学に関係する難しい授業が多くて、学生評価も悪くなりがちである。』という意見もなるほどと思われる。 3.2 数物系の授業の評価  そこで、更に一歩を進めて、数物系の授業(科目名に数学あるいは物理というキーワードが含まれているもの)に焦点を当ててみた。平成11年度は全授業76件のなかで数物系の授業が10件含まれていた。平成12年度は全授業106件のなかで数物系の授業が12件含まれていた。それぞれを図7と図8にヒストグラム化した。  数物系の授業は難しいので厳しい評価が下されるであろうとは思っていたが、図7と図8とによりあらためてそのことが追認されたと考える。  数物系の授業を聴覚障害の学生にいかに教えていったならばよいかというテーマは聴覚部ではこれまでしばしば取り上げられ検討されてきた。ここで、それがあらためて浮き彫りにされたということである。 図3:グループA (平成11年度;44件) 図4:グループB (平成11年度;32件) 図5:グループA (平成12年度;52件) 図6:グループB(平成12年度;54件) 図7:数物系の授業(平成11年度;10件) 図8:数物系の授業(平成12年度;12件) Remarks on the Instructional Evaluation Questionnaire KOIKE Masayoshi Department of Information Science, Tsukuba College of Technology Abstract:Many questionnaires on the instructional evaluation of the lectures recently given in Tsukuba College of Technology have been conducted. A research report has been issued, analyzing the questionnaires in the year 1999 and 2000. The aim of this study is to verify an opinion by quoting from the research report. The opinion is as follows: it is difficult to teach the subjects relating to mathematics, so the grades in instructional evaluation of the lectures on these subjects are getting worse. It has been positively proved by making use of the results of the research report. Key Words:instructional evaluation , questionnaire , principal component analysis , education in mathematics