企業情報システムの現状 筑波技術短期大学情報処理学科1) ダイアモンドソリューションプラザ2) 隈 正雄1) 高瀬 弘勝2) 要旨:コンピュータ活用分野の一つに企業の経営活動領域がある。今日の企業活動において情報システム・コンピュータは不可欠のものになっているが、マーケットのグローバル化、顧客指向化等の経営環境の変化に対応できる企業経営を実現するために、システムの再構築が必要になってきている。ここでは、こうした企業における情報システム活用の現状と新しい情報システム構築の基本となるERP(Enterprise Resource Planning:企業の資源最適投入計画)の概念及びERPを実現する手段としてのERPソフトウェア製品の特徴、導入事例等について紹介する。また、ERPソフトウェア以外の最近の企業における情報システム活用の動向についても紹介する。 キーワード:企業情報システム、エンタープライズ・リソース・プランニング、パッケージソフトウェア 1.はじめに  企業活動は、製品の研究・開発、生産、販売、物流、サービスなどの消費者への製品提供に関する基幹活動と、これらの企業活動のコントロールや支援のための会計管理、人事管理、経営管理などの管理活動に大別できる。  日本の企業は1960年代から本格的にコンピュータを導入し、今や情報システムは企業活動の基盤として不可欠のものとなっている。企業の情報システムには、企業活動に対応して生産管理システム、販売管理システム、物流管理システム、サービス管理システム、会計システム、人事管理システム、経営管理システム等がある。これらの情報システムの導入により、業務の効率化とスピードアップ、経営管理の精度向上、顧客サービスの向上等の効果を実現してきた。  こうした企業情報システムも再構築の時期にあり、本論では、その現状と動向について述べる。 2.企業経営環境の変化と情報システムの課題 2.1 企業経営環境の変化  近年、企業を取り巻く経営環境は大きく変化してきている。第一の変化は、企業間競争がグローバルマーケットでの大競争時代に突入し、日本企業が生産拠点・販売拠点を海外に拡大してきたことである。第二の変化は、マーケットの主導権が生産者側から消費者側に移り、顧客志向の経営がますます重要になってきたことである。こうした経営環境の変化に対応できる企業のみが、生き残れる時代になってきている。 2.2 情報システムの現状と課題  企業における情報システムは重要な経営基盤となっており、こうした経営環境の変化への対応、競争力強化実現のために情報システムの果す役割は大きい。しかし、現在の情報システムは過去の情報技術により構築されてきた経緯があり、現在のシステム枠組みの延長では、経営環境変化に対応した情報システムの構築は難しい。新し情報システムをどのように構築していくのかが課題となっている。 3.新しい情報システム構築の必要性  経営環境の変化に合わせて情報システムも、最新の情報技術を活用したシステムに再構築する必要がある。情報システム再構築のポイントは次の通りである。  第一は、経営環境の変化に対応した新しい業務の見直しと再設計を行い、革新後の業務に合わせて情報システムを再構築する。  第二は、新しい情報技術(インターネット等)を活用し、企業全体の業務を連携、各業務活動の情報を一元管理、情報のリアルタイム把握と活用が図れる情報システムに再構築する。  第三は、企業活動のグローバル化、経営活動のスピードアップ化、業務の高効率化、顧客重視、他社との競争優位化等を実現できる仕組みを組み込んだ情報システムを再構築することである。 4.新しい情報システムの構築方法  新しい情報システム構築方法には、次の3つの方法がある。  第一の方法は、自社のニーズを確実に実現するため、自社の要求に合わせてオーダメードでシステムを構築する方法である。この方法は、開発時には自社に最適なシステム構築ができるが、システムの開発に膨大な費用と期間がかかり、環境の変化に柔軟に対応することが難しい面がある。  第二の方法は、ERPパッケージを利用して構築する方法である。ERPによる開発では、自社のニーズを完全に実現できない場合もあるが、それ以上のメリットも多い。  第三の方法は、ERPパッケージと自社開発の混合により構築する方法である。  構築方法は企業の情報システム構築の狙い、構築方針等により最適な方法を選択する必要があるが、近年ERPパッケージを利用して構築する方法が、特に注目されている。 5.ERPの概念とERPパッケージソフトウェア  ERPについて考察する。ERPとは(Enterprise Resource Planning:企業の資源最適投入計画)の略称である。企業経営の目的は、企業の経営資源である人・物・金を最も適した部門・活動に配分し、これを管理運営し最大の利益を出すことにある。  ERPも企業経営の目的と同じように、「企業全体の経営資源を有効且つ総合的に計画・管理し経営の効率化を図るための概念・手法」を意味する。具体的には、企業における、生産管理、販売管理、在庫管理、財務会計、人事管理までの企業の基幹業務に関する情報をコンピュータで一元管理し、情報の共有や計画・管理を行い、企業全体として経営の効率化を図る手法である。これを実現するソフトウェア製品が、ERPパッケージソフトウェア(以下、ERPパッケージと称す)である。 6.ERPパッケージの特徴と機能  ERPパッケージは、経営環境の変化に対応が可能な情報システムを構築できるソフトウェア製品として注目されている。主要なERPパッケージだけでも35社の製品があり、その内代表的なものには、ドイツSAP社の「SAPR/3」や米国オラクル社の「Oracle/Application」等がある。ほとんどのパッケージは、生産管理、販売管理、会計管理等の企業が必要とする機能を保有している。 ERPパッケージの主な特徴と機能を次に示す。 【ERPパッケージの主な特徴】 ①企業の基幹業務の統合化が図れる。  販売、生産、購買、会計、人事、経営管理等すべてのデータを統合・一元管理することで、企業の基幹となる業務の統合化が図れるシステムを構築できる。 ②経営計画、管理機能が充実している。  すべての業務のデータをリアルタイムに一元管理し、経営者が常に経営状況、業務状況を把握でき、かつ、計画に対する実績状況把握や経営判断に必要な資料が、即時に提供できる。 ③グローバルな企業活動に対応できる。  世界の主要国の言語、通貨、会計基準等の異なる多国籍環境への対応が可能である。また、世界共通の仕組みや関連会社等、複数企業の総合的管理ができる。 ④最新の情報技術をもとに作成されたパッケージである。  最近のオープン系のハードウェア、ソフトウェアの情報技術(クライアントサーバ、リレーショナルデータベース、UNIX等)をもとに開発されたパッケージである。 ⑤多数の企業の優れた機能を取入れ成長し続けるパッケージである。  多数の企業への導入実績を持ち、これらの企業で実践されている優れた機能をパッケージに取入れて成長しつつある。ERPパッケージ導入にあたっては、これらの優れた機能を活用することが可能である。 【ERPパッケージの主な機能】 ①販売管理(受注管理、出荷管理、請求管理、販売分析等) ②購買管理(購買管理、在庫管理、倉庫管理、購買分析等) ③生産管理(販売事業計画、基準計画、能力所要量計算、資材所要量計算、製造指図管理、繰返生産、受注組立、プロセス生産管理、生産分析等) ④品質管理(品質計画、品質検査、統計的工程管理等) ⑤財務会計(一般会計、連結会計、売掛・買掛管理等) ⑥管理会計(原価管理、収益性分析、活動基準原価計算等) ⑦資金管理(資金管理、資金予算管理、拡張財務管理) ⑧人事管理(適性分析、人員配置、人材管理、給与管理等) ⑨経営管理(利益センター会計、経営情報管理) 7.ERPパッケージ導入の事例  ERPパッケージの3つの導入事例を示す。事例が示すように、ERPパッケージの導入は、必ずしも成功するわけではない。 【ERPパッケージ導入事例1(海外販売会社への導入)】 ①海外販売会社の事業内容 家電品の販売 ②事業拠点 本社、営業所(4拠点)、倉庫(1拠点) ③ERP導入の目的 既導入システムの陳腐化に伴うシステム再構築 ④企画から導入までの導入期間9ヶ月 (自社開発と比較して、期間が4分の1に短縮、開発費用は3分の1で導入) ⑤パッケージ導入の考え方 原則として提供されたパッケージの機能をそのまま利用し、不足機能はパッケージの外側に付け加えた。 ⑥パッケージを適用した業務分野 会社の全分野(販売、在庫管理、販売管理、会計管理) ⑦導入の効果 会社のトップマネージメントが会社全体の業務の動きをリアルタイムに把握でき、会社経営の意思決定が早く、且つ的確に指導ができるようになった。 会社の販売部門、仕入・在庫管理部門、経理部門等の従業員が会社の業務内容と状況把握でき、業務を効率的に行なうことができるようになった。 【ERPパッケージ導入事例2(日本の製造会社への導入)】 ①製造会社の事業内容 電子製品の製造、販売 ②ERP導入の目的 事業拡大に伴うシステム再構築 ③導入期間 企画・設計から開発・稼動まで9ヶ月(ERPパッケージ利用により自社開発と比較し、期間、費用とも6分の1で導入が完了) ④パッケージ導入の考え方 原則としてパッケージの機能をそのまま利用。 ⑤パッケージを適用した業務分野 販売管理、資材管理、生産管理、経理管理 ⑥ERPパッケージ導入の効果 電子部品の生産・販売事業の事業立ち上げ支援事業開始に間に合せた短期間のシステム構築。 【ERPパッケージ導入事例3(日本の製造工場への導入)】 ①事業内容 映像機器製造 ②ERP導入の目的 生産管理の業務効率化 ③導入期間 1年間の計画に対して2年を要した。 ④パッケージ導入の考え方 工場の業務遂行に不足機能は、追加開発及びパッケージの内容変更して対応。 ⑤パッケージを適用した業務分野 生産管理(生産計画、部品展開、部品手配、製造手配、在庫管理等) ⑥ERPパッケージ導入の効果、評価 最終的には、システム導入の目的を達成したが、導入期間、費用とも計画より大幅増となった。 8.ERPパッケージ導入の成功・失敗要因  ERPパッケージ導入は、企業の業務革新、競争力強化の魔法の杖のように言われている。一方では、自社の基幹事業分野の競争力強化のためには、自社独自のシステム開発をする必要があると主張する企業もある。導入事例に示すように、ERPパッケージ導入に成功するケースも失敗するケースも発生している。  ERPパッケージ導入には、自社の事業モデルがパッケージの持つ機能で対応できるかの検討、導入以前に実施するべき業務ルールの変更、関係者への周知徹底等十分な計画策定と準備が重要である。ERPパッケージ導入の事例等をもとに、ERPパッケージ導入の成功要因、失敗要因を次に示す。 「成功要因」 ①トップマネージメントのERP導入目的、方針の明確化とリーダシップ発揮。 ②ERPパッケージ導入の目的に適合したERPパッケージの十分な調査と選択。 ③業務革新について関係者のコンセンサスを得る。 ④導入検討初期からERPの機能を前提とした業務革新アプローチ展開。 ⑤業務に精通したシステムエンジニア及び実務担当者の参画及びERPパッケージに精通しているコンサルタントの活用。 ⑥ERPパッケージの標準機能を活用し、追加が必要な機能はERPパッケージを変更せず外付けで追加。 「失敗要因」 ①トップマネージメントのERPパッケージに対する 過大な期待と現場部門の問題意識とのミスマッチ。 ②トップマネージメント及び現場部門の業務プロセス 革新の意識及び意欲不足。 ③ERPパッケージ導入についての計画・準備不足、 ERPパッケージの当該企業への適合性調査不足。 ④外部コンサルタント任せの導入。 9.最近の企業をとりまく情報システムのトピックス  企業環境の変化に対応して企業活動の基盤となっている情報システムは常にダイナミックに進化しており、その一つの流れがERPである。ここでは、その他の新しい情報システムの動向についても概観する。 9.1 SCM(Supply Chain Management)システム構築の動き  サプライチェーンとは、商品(物の流れ)から見て、小売業、卸売業、配送業者・物流業者、製造業者、原材料業者といった川下から川上までの連鎖をいう。SCMとは、こうした物の流れを中心に各企業を、ネットワークで統合する。そして、商品、仕掛品、原材料等の在庫情報、顧客からの注文量、注残状況等の各種情報を、関係企業間でリアルタイムに交換する。よって、チェーン企業全体として在庫削減、物流コスト削減、供給・流通全体の納期短縮、経営のスピードアップ、顧客満足度の向上を図ることを狙う企業間情報システムを構築するものである。 9.2 EC(Electronic Commerce:電子商取引)システム構築の動き  インターネットの普及により、コンピュータネットワーク上で不特定多数を相手にする電子商店街、電子店舗、電子公開入札等といったインターネット上で行う「電子商取引(EC)システム」システム構築の動きが、急速に拡大している。 9.3 ASP(Application Service Provider)業者の出現と新サービスの提供  ASP業者とは、情報システム機能の提供から情報処理、運営まで一括してサービスで提供する業者をいう。企業は、インターネットを通して自社のデータの送信と処理結果を得るサービスを受けることで、自社で情報システム開発、情報処理、運営部門を持たずにすみ、情報システム費用の節減、固定費用の増加抑制及び最新の情報システムを利用することができる。最近このサービス事業が拡大しつつある。 10.おわりに  コンピュータのハードウェア及び利用技術の進歩は著しい。企業は自らの存続維持・拡大を図るため、こうした技術を活用して新しいビジネスの創出や経営の革新を推進している。情報システムに携わるシステムエンジニアは、常に自ら技術力を高めなくてはならない。そして、求められている技術の提供や新しい技術の提案ができるように、担当領域でのコンピュータ活用の状況と今後の方向を把握しておくことが、重要になってきている。 Present Condition of The Enterprise Information System Masao KUMA1),Hirokatsu TAKASE2) 1)Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology 2)Diamond Solution Plaza Abstract: One of the management activities areas of an enterprise is computer use. Information system and a computer are indispensable things in today's enterprise activities. But, re-building of the system has bocome necessary to realize the enterprise management with which to cope with a change in the management environment of the customer satisfaction and market globalization. The present condition of the information system use in the enterprise and the general idea of ERP which becomes the basis of new information system building and the characteristics of the ERP software product as a means which realizes ERP is introduced. Also the movement of the information system use in the recent enterprise except for the ERP software is introduced. Key Words: Enterprise information system, Enterprise resources planning, Package software