国際規格の障害関連事項について 筑波技術短期大学情報処理学科 夏目 武 要旨:国際規格に関する活動母体であるISOとIECが古くからNGOとして活動していることは周知のことであろう。現在の国際標準化活動はIEC/ISO Directive‐IEC及びISO活動指針に基づいて行われている。昨年2000年10月に「高齢者と障害を持つ者のニーズの規格化への取りくみ」と題するPolicy Statement- 所信表明文書が発行された。ADA(American Disability Aids)から遅れること10年、しかし、やっとのことで機能障害(Disability)に対する諸製品の操作性、サービスの適用性及び諸環境状況に関する配慮(accessibility)についての指針が表明された。この指針に基づき世界規模での工業規格の見直しと概念の導入が進めば、これからの製品やサービス等のアクセシビリティ機能の向上が期待されることになる。ここではこの文書の紹介及びそこにある精神性と適時性と効用等を評価する。 キーワード:ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気会議)、国際標準化、アクセシビリティ、アクセシブル デザイン、ユニバーサル デザイン、プロダクト ライフ サイクル 1.導入  ISO(International Standard Organiza-tion)とIEC(International Electro- technical Commission) は世界の工業規格を作成し制定するNGO 組織体である。ISOは主として全般的な分野の標準化活動を、またIECはおおむね電気関連分野の工業規格の制定と管理の役割を持っていて、役割をそれぞれの分野を区分し分担している。 近年システム指向した製品形態、ソフトウェアによる機能移動、安全性の様に両分野にまたがる新たな開発領域が現れ、作業の重複、冗長性等の弊害が現れていて, ISOとIECの活動を管理統合されてきている。 IEC/ISO DIRECTIVES(IEC/ISO専門業務用指針)が発行され両者の共通活動基盤となっている。[1] [2]  この主題も同等のレベルでAdministrative Circular 75/AC (2000-05-12)として提案されている。タイトルはPolicy Statement on addressing the needs of the elderly and people with disabilities in standardization work‐「高齢者と障害を持つ者のニーズの規格化への取り組み」に関する所信表明文書である。規格は適時性、有効性、普遍性、容易性、経済性を基盤特性として各国の共同作業の下に合意され、制定されたものである。工業規格として英語版とフランス語版が出版される。1997年には通産省(現経済産業省)はこれらの国際規格を日本工業規格化し又日本固有の規格を国際規格として提案することで世界規格との整合性を実現し、国際貿易の促進に役立てることを表明した。その為の活動資金が予算化され、本格的な推進を開始している。英語だから適当に参照し、規格は事後に整えておけば良いという従来のやり方は既に終焉し、現在は国際規格を受け入れない企業や製品は国際貿易と市場から脱落を意味するようにまでなった。 2.IEC/ISO Directive[3]  IEC/ISO専門業務用指針文書は三部から構成されている。第一部は専門業務手順、第二部は国際規格制定の方法論、そして第三部は国際規格の起草及び様式でる。この冒頭に国際規格そのものの本質が記述されている。 a)Modern technology and programme management-先進技術と計画運営管理 b)Consensus-同意と相互理解 c)Discipline-規律と概念統一 d)Cost- effectiveness-経済効果と効率 今回の所信表明もこの一環の中で進められている。 3.Policy statement‐機能障害に関する所信表明[7]  A4, 9pageの英語とフランス語の2ヵ国語で書かれていて、約1,700語ほどの小論である。機能障害は高齢者の固有のものと何らかの事由で障害を持つ者への配慮のもとに、製品,サービス及び諸環境でのアクセシビリティ‐操作容易性を配慮した設計を勧告し、推奨(recomendation)している。もともと国連規則の中で障害者の機会均等と高齢者に関する国連原則の中で主張しているアクセシビリティの重要性の延長線上にある思潮である。これは障害者や高齢者及び機能弱者に対してアクセシビリティが向上すると生活の質が向上する。それはより多くの人々のアクセス可能な製品、サービス及び環境が増加する機会が生じ、結果として社会全体が利益を生み、世界貿易を増加することにつながるという主張である。ISOとIECのこれからの標準化活動がこの目的に添って、規格開発を行うべきことを推奨している。  製品やサービスの設計とはニーズと要求の定義と製品概念、開発と設計、製造と据付、運用と保全、廃棄と次期継続製品計画といった一連のプロダクト_ライフ_サイクルに沿ったプロセスを採るのが現在の工学の基本でる。アクセシビリティの設計も出来合いのものへの付加的機能追加の従来型のものではなく、このプロセスに沿った製品と同期した工程により実現することを意味する。これをAccessible Design と表現している。一般の健常者向けのみを考慮した設計から機能障害を持つ人々が容易に操作可能な範囲まで設計を拡張することである。これらの実現のための施策として1)汎用設計とその拡張を促進する。2)規格作業でこの概念の導入の為に規格作業委員会とアクセシビリティの規格担当の委員会との整合を取る。3)規格の序文に拡張設計の指針を表明する。4)規格作成に当事者の代表者を参加させる。5)研究レベルのプログラムと標準化との連携をとり継続させる。以上五項目が掲げられている。  個々のプロジェクトからみると開発等の経費は増加し市場競争力を低下させる要因を作る。設計思想が世界のすべての当該供給者により受容されれば、市場競争は対等になり、需要者もその分を分担することで問題を回避出来る。 4.ADA - American with Disability Act(1990)との対比[4][5]  ADAの理念は障害を持つ人々の公的な又は私的な状況下でのサービスと雇用の機会均等を保障することである。Overview, 1. Employment, 2. The public sector, 3. Private sector service, 4. Tele-communicationから構成されている。これは名のごとく法律である。その為に実施に関してはTAX creditのような抑制を行うことで法の推進をしている。一方、規格は任意法であり、指針である。大きな差はここにあり、善意と質の向上との支えで成り立ち、結果的には製品の良さと経済性とで推進していることになる。この指針との対比は3. 項のアクセシビリティの項と対比できる。しかし、10年の歴史が刻まれている事実を驚異とみるべきであろう。世界規模の展開はこれからである。しかし、これに追従しようとした多くの国が法令化を試みたが失敗に終わっている。 5.まとめ  要求事項と社会的ニーズを明確にし、正しく製品やサービスに反映させることは表現方法の限界と併せて急激な情報技術の進展する環境下では容易なことではない。一般的な製品とサービスの顧客要求に基づいた事項の実現は、現在の競争市場経済にあっては、利益の追求の中で、一番効果を上げ得るものは、ライフーサイクルの短縮化と製品仕様の限定である。これは本来ここで求めているアクセシビリティ機能の低減を意味する。国際規格適用の限界がここにある。マクロな立場での全体的なこのポリシー推進と工学的視点からのAccessible Designの啓蒙運動による効果に期待したいし、社会全体の認識と導入する動向と付加価値によるコスト高を社会全体への配分として競争原理の要素から除く等の措置をするのも一つの解答になろう。[6]その他、企業間での相互的技術共有と共同活動等で、それらの期待される効果がないと実現は難しい。コスト削減の問題と利潤追求の為の仕様削減と機能縮小とのコストバランスの中に最適値を見出し、逐次、時間をかけて実現していかなければならない。  幸い、ここの環境は視覚障害と聴覚障害の観察と要求定義の場が与えられている。この分野での正しい、時宜に沿った技術要求と社会的ニーズの取りまとめとその報告の作成及びその提供は社会全体へのアクセシビリティの設計資料として有効である。またこのことはアクセシビリティ設計の導入とその効果としての製品群の提供を推進するリーダーシップの役割を担うことになる。これは主題のポリシーステイトメントに沿った設計への支援となり、製品開発への貢献の機会が与えられたことになる。積極的な障害情報の提供者としての立場からの世界規模の社会的貢献が期待できるし、その場が与えられていることを主張したい。 6.参考資料 1)http://www.IEC.ch, 2)http://www.ISO.org 3)IEC/ISO Directive 1990/1999 4)American with Disability Acts (1990‐03) 5)ADA A comprehensive overview (1998) 6)75/AC(2000-05-12): Draft ISO/IEC Policy statement on addressing the needs of the elderly and of people with disabilities in standardization work On IEC/ISO Policy Statement for the Disability Takeshi NATSUME Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology Abstract: ISO (International Standard Organization) and IEC (International Electro- technical commission) are world-wide NGOs, organizations for standardization for international industries as discipline. They have IEC/ISO directives which are guidelines for their activities for international standardization. The fundamental concept for international standard is described at the first page of this directive for people who are engaging in the development of international standards, that is a) Modern technology and programme management, b) Consensus, c) Discipline, d) Cost- effectiveness. The subject document was released as the same valuable note as the above mentioned fundamental items for standardization. That is ISO/IEC POLICY STATEMENT ON ADDRESSING THE NEEDS OF THE ELDERLY AND OF PEOPLE WITH DISABILITIES IN STANDARDIZATION WORK. This policy statement argues to introduce accessible DESIGN for elderly people and for people with disabilities for all products, services and environmental items which may be offered to all society as commercial products and services. The design means a product life cycle process for realization of required accessibility which are included all activities from requirement and concept stage, design and development stage, manufacturing and installation stage, operation and maintenance stage, and disposal and next new system introduction. Here, the policy and its contents are introduced and concepts and their true meaning, and assertion through this document are discussed. Finally the author will suggest that this concept will develop and improve our educational environment and equipment for people with disabilty and for visually impaired people, and we may have the chance to contribute these design activities from the view point of requirement analysis and its evaluation. Key Words: ISO,IEC,Disability, International Standardization, accessibility, universal design, accessible design, product life cycle process