平成12年度公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから 筑波技術短期大学情報処理学科1) 同教務第二課2) 宮川 正弘1) 三宅 輝久1) 小林 真1) 遠藤 純子2) 要旨:表記公開講座4回目の概要を記し,応募者,受講者の希望,満足度,感想についてのアンケートを,昨年度のアンケートと対比しながら分析した。今回は定員(12)を大幅に上回る応募者(59)があった。受講者は「(パソコンによる)点訳とはどのようなものかを知ってみたい」人だと思われ,「点訳がどのように行われるか」理解していただけたと思う。パソコンと点訳に対する興味を尊重した今回の路線を継続するのが望ましいと思われる。 キーワード:点字,点訳,公開講座,パソコン,地域交流 1.はじめに―目的―  点字関係の公開講座は4回目[1,2,3]である。前回の結果を踏まえ講座の目的は, 1.点字について広く知っていただく, 2.学科で活用しているEbraWin[4,5]を用いたパソコンによる点訳技術の入門, を目指した.併せて本学の活動についても理解を深めてもらうこととした。講座に満足してもらい,点訳ボランティア志望へのきっかけにもなることが講座開設の目標であった。2000年1月に細目と担当者を決め,事前に配布資料の印刷製本とソフト(EXTRA,EbraWin)のインストールを行った。 2.応募者  応募者59名は前年度(平成10年37名,平成11年22名)に比べて増加し,定員を大幅に越えたので,どのように対処すべきか迷った。これだけの応募が来年もあれば,講座を複数回開催するなど対処するとして,今年度の受講者としては,この中から昨年度の落選者7名を優先し,定員12名の残りを無作為に選んだ(男性2,女性10)。受講者の居住地は,つくば市5,土浦市2,牛久市1,龍ヶ崎市2,茎崎町2,美浦村1である。応募者の居住地域は近隣の広い範囲にある。地域を表1にしめす。  男性は3名で1人以外は60才以上,このうち昨年同様定年退職後のボランティアについて言及しておられた方が2名である。  職業は主婦および無職が第一位であるが,広がりがある。応募用紙にかかれたままの分類を表2に示す。  応募者の年齢層は表3 に示す通りであった。最多層40歳代は昨年と変わらない。 表1:応募者の居住地 表2:応募者の職業 表3:応募者の年令 2.講座の内容  講座内容は昨年を踏襲した。7月5日(水)-6日(木)10:00-12:00,13:00-15:00 2日間の延べ8時間行った。下表にその内容を示す。主講師を一人として,残りの講師全員がパソコン操作や点訳実習に対応した。最終日には修了証書を手交し,アンケートに記入していただいた。 表4:講座の内容 2.受講者の感想―アンケートから―  受講者に対し,1.受講の目的と達成度,2.点字およびパソコンの経験,3.講座の期間,4.難易度およびテーマについての興味の度合い,について答えていただいた。 以下に,その集計結果を示し若干の考察を行う。 4.1 受講者の目的と満足度  受講の目的を次表に示す。 a.点字の習得 3 b.点字処理ソフトの習得 9 パソコンを使って点字処理をしてみたかったという立場であろう。次の意見が書かれていた:1.これから点訳ボランティアをする上でExtraの使い方などを知りたかった。2.点字処理ソフトの仕組みについて知りたかった。 3.パソコン操作ができる様に。 目的の達成度については,次の回答である。 a.十分満足 4 b.まあ満足 7 c.不満が残った 1 b.の内容は以下の通りである: 1.あとは家で練習し、納得しなればと思う。2.自分が勉強不足である。 公開講座の時間だけでは足りないのである。昨年も同じ感想があった。 4.2 点字とパソコンの経験 a.点字に経験なし 11 b.点字学習経験有り 1 c.点字に熟達している 0 b.に示された点字の学習場面は以下の通りであった。1.社会福祉協議会の点字中級を受講し、「並木点訳の会」で見習い中。 パソコンの利用経験については, a.ほとんどない 3 b.ワープロ使用 5 c.日常的に使用 4 d.自宅にあり 10 ない1,無記入 e.(職場で)毎日使う 3 使わない6 パソコンを自宅に持つ人10人である。日常的に使用する人4人であるがワープロ使用を含めれば,実用的な使用経験は9人となり,大部分の人が日常的にパソコンを使用していると考えてよいと思われる。昨年は1/3(5/15人)がパソコンを日常的に使用であった。家庭でのパソコン使用は1-2年で急速に浸透している。パソコン使用の場面は,印刷2,図1,文章作成2,インターネット,ホームページ作成,Eメールであった。昨年からインターネット利用が行きわたってきた。自宅にあるパソコンの機種については昨年同様メーカーがさまざまである(NEC2,COPMPAC1,IBM1,Mac1,東芝1、富士通2,自作1, DOS/V1)。今回配布したEbraWinはWindowsでは使用可能であるが,残念ながらMacでは使えない。 4.3 期間 a.適切である 8 b.その他 3 c. 1 適切と答えた人の意見は,以下の通りである。1.パソコン点訳の仕組みを知るだけなら十分だと思う。2.もっと専門にやる人を養成するならばもっと長期にやるべき。 3.パソコン操作の段階でスムーズにできないので、もう少し時間があればと思う。  その他と答えた人の意見は,以下の通りである。1.3~4日,2.もう1日で実際の操作を練習したい。3.もっと時間が必要。  一般市民が日常生活で遭遇する点字は,缶類など限定された商品などでお目にかかる程度で,それほど頻繁ではない。講座で手ほどきした点字はどのように使われるのであろうか。もうすこし時間をかけたいという感想を持った方は,点訳ボランティアなどで点字を使いたいのであろう。本講座はそこまでの充実度は持っていない。時間数をこのままにして充実感を与える講義のやり方を工夫することで解決できると思う。パソコン操作に習熟した方ばかりだと(今回も仮名入力を使用してこられた方が一人いた),講座の時間をパソコン操作から点字にシフトできる。従って,本講座では当分このままの内容でよしとし,希望者には以後の点字勉強の道を示すことで良いと思われる。 4.4 テーマについての回答 講座の難易度に対する反応は a.やさしい 1 b.適度 7 c.難しい 3 である。a.は以下の通り: 1.点字は難しいが、パソコン操作は易しいと思う。c.の理由は若干の点字規則を使い分けねばならないところにあると思われる。全般的には,この程度で良いという事であろう。テーマ毎についての反応は以下の通りである。 パソコンの操作にもっと時間を割いた方が良いかについては意見が半々(5:6)であった。感想としては次がある:1.点字エディタEbraWin。2. 点字やパソコンの初心者の対象者をしぼったほうが良いのではないか。3.EbraWinの他のメニューが知りたい。4.自分で打ち込んで、習得できる時間が欲しい。  e.についての感想として次がある: 1.現在、WinBESを使っているので、それも教えて頂ければ良かった。  この回答から,受講者はパソコンの仕組み,および,点字処理全体についての関心があることがわかる。 5.おわりに  パソコン点訳入門を主とする啓蒙的公開講座についての受講者の評価・感想をアンケートからまとめた。昨年と同様開講日を2日にしたことは受講者にも密度の高い緊張感を与え良かったと思う。公開講座はおおむね好意的に受け取られている事が伺える。多くの人の点字への関心は必要な時には「点字」あるいは「音声」による情報補償が得られる社会の到来を感じさせる。点訳への意欲を啓蒙の段階で留めないで,発展させる受け皿を何らかの方法で(あえて本学といわず)社会が準備する時期かも知れない。本学の活動についての理解を広く社会に求める立場からも,受講者の意図を尊重した講座開設を心がけたいと思う。 謝辞  受講しアンケートにご協力いただいた受講者12名の方にお礼を申し上げます。染田 貞道本学情報処理学科元教授には開発されたEbraWin を日頃より提供していただくとともに,公開講座での使用配布を快諾していただきましたことを感謝いたします。栗原 亨助教授には資料を提供していただきましたことをお礼を申し上げます。 参考文献 1)伊奈 諭:「公開講座「パソコンを利用した点訳入門」の概要と結果,筑波技術短期大学テクノレポート,4,205-209,1998. 2)宮川 正弘,栗原 亨,他:「公開講座「パソコンを利用した点訳入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,6,183-185,1999. 3)宮川 正弘,三宅 輝久,他:「公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,7,101-103,2000. 4)染田 貞道:情報処理・数学記号および英語混在文章用点字エディタ,筑波技術短期大学テクノレポート,4,103-105,1997. 5)染田 貞道,宮川 正弘,他:専門点字混在文章用エディタの開発と活用,筑波技術短期大学テクノレポート,7,101-103,2000. 6)染田 貞道:EbraWin2操作(資料),6.16,2000. 付録1.(受講者の感想) 最も役立ったこと ・点字にふれ、覚えられたこと。(2) ・Extraが実際に使えそう。 ・点字の仕組みがわかったこと。(3) ・改めてパソコンの仕組み、操作を勉強できたこと(3) ・点字ソフトというものや操作を知りえたこと。(2) ・失明された方の苦労が少しわかった。点訳についての理解が深まった。ローマ字入力で点字を知らなくても点訳できること。 ・パソコンのことが少しわかり、利用する機会を増やそうと思った。 ・EbraWinの存在を知りえたこと。 最もおもしろかったこと ・自動点訳で文章が点字にかわったところ。(2) ・点字の仕組みは難しいが、理解できたらおもしろと思った。 ・点字における語の書き表し方 ・パソコンの仕組み(3) ・自動点訳(2) ・点訳がどのように行われるかわかった。 その他 ・もう少し点字についての知識(入力規則等)の説明の時間があると良いと思った。Ebraは無償で提供されているが、Extraや点字プリンタは非常に高価で、実際に活用する機会がなさそうで残念だと思った。 ・パソコンの仕組みついての説明がとてもわかりやすく、参考になった。 ・次のステップへつなげられるクラス。 ・ファイル操作が役立った。 全体についての感想 ・系統的に点字そのものの学習をしないと、実際の作業は無理なように思う。 ・受講後、どうすれば自分のものにし、手助けとなることができるか。 ・点字講座+パソコン点訳だともっと身近になるかもしれない。 ・入門コース上、初級、中級があるとよい。 ・英語点訳に興味があり、そのような講座を作ってほしい。 ・もっと理解し、点字を勉強する機会があればと思う。 ・軽い気持ちで参加したが、点字は考えていた以上に興味深いことがわかった。 ・先生方の説明、対応が大変わかりやすかった。 Ebraのホームページへの掲載、ありがとうございました。 ・今後も続けて学ぶ方法や点訳グループがあれば是非、紹介して欲しい(3)。 ・操作のレベルアップをはかりたい。 ・毎年、講座を受けられ方が増え、その方々が学習しボランティアにつながればと思う。 ・もっと、色々な事について吸収したいと思う。 付録2.「混在点字エディターEbraWin講習会」の内容  今年度の新しい試みとして,公開講座と共に,表記点字エディターの講習会を,学内の点字資料作成に関わっている職員,アルバイターを対象に,開発者の染田 貞道情報処理学科元教授を招いて行った(2時間)。受講者は,一般教育等(2),鍼灸(2),情報(11)であった。内容は,インストール,数式の入力,単語登録,図形ソフトで作成した触図への点字の導入法など,専門点訳の手ほどきであった[6]。  講習会開催を支持していただいた本学教育方法開発センターにお礼を申し上げます。 Report on Open University Course ''Braille Transcription''- An Analysis from its Questionnaire - Masahiro MIYAKAWA1) Teruhisa MIYAKE1) Makoto KOBAYASHI1) Junko ENDOH2) 1)Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology 2)Academic Affairs Second Section, Administrative Division, Tsukuba College of Technology Abstract: This report summarizes a regular open university course (4th time since 1998) of braille transcription taught by the Department of Computer Science. There were many more applicants (59) than the class capacity (12). An analysis is made on the applicants about their habitation areas, occupations and ages. Based on their own questionnaire, another analysis is made especially as to the intention of the subscribed people toward braille learning, and the degree of their satisfaction after the course. They seem to enjoy learning braille and welcome this course. Continuing the annual course may be useful for spreading braille in society. Key Words: Braille transcription, Open university course, Spread of braille