第9回三大学連携・障害者スポーツイベント実施報告 中島幸則,香田泰子,天野和彦,向後佑香 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 要旨:2007年から本学で実施されてきた障害者スポーツイベントは10回目となり,翌年から三大学連携となってからは9回目を迎えた。2016年11月に開催された本学でのイベントには総勢165名が参加した。1回目のイベント開催以来,参加者からは大変好評を得ており,障害者のスポーツ参加へのきっかけとして,重要な役割を果たしているとともに,障害者の生活の質の向上,地域社会の活性化,共生社会の形成に繋がっていると考える。三大学連携イベントとして9年が経ち,各大学がそれぞれの強み,特長を生かしたイベントを提供するようになってきた。2019年に茨城県で開催される「全国障がい者スポーツ大会」に繋がる活動だと考える。 キーワード:障害者スポーツ,スポーツイベント,スポーツ振興,地域貢献 1.はじめに わが国では,2020年東京オリンピック・パラリンピック大会開催が近くなり,ここ数年で障害者スポーツを取り巻く環境は大きく変わってきている。そのきっかけとも言える2011年「スポーツ基本法」の公布・施行がある。今まで記されていなかった「障害者」の文字が,基本理念の中に記載されたことは大きな意味があった。2015年にはスポーツ庁が設置され,それまで健常者スポーツは文部科学省,障害者スポーツは厚生労働省が担当していたが,スポーツ振興の観点から行われる障害者スポーツに関する事業はスポーツ庁に移管された。2017年に第2期スポーツ基本計画が発表され,その中に障害者スポーツの振興が重点施策として盛り込まれたことは記憶に新しいところである。その中には,スポーツ実施率の具体的な目標の数字も掲げられた。これは,過去1年間にスポーツ・レクリエーションを行った日数を調べた報告で,週1回以上のスポーツ実施率は,健常成人が47.5%であったのに対して,障害者は18.2%と極端に低い参加率であることを問題視している。そこで,第2期スポーツ基本計画では,障害者のスポーツ実施率を40%に挙げるという数値目標を掲げられた[7][8]。しかし,この目標を達成するためには,多くの問題があると考える。行う場所の問題,指導する人材の問題などが考えられるが,一番は障害者本人に定期的なスポーツ実施してもらうためのアプローチの方法が重要だとも考える。また,障害者を支援する家族や友人である健常者に対する啓発も重要だと考える。これらの課題に対して本学では,大学としての特長を生かして,地域における障害者のスポーツ参加の促進および障害者のスポーツ環境の整備に資することを目的として,平成19年度に「筑波技術大学・障害者のためのスポーツ体験イベント(支援センター長裁量経費による事業)」を実施した[1]。そして,翌年からは現在の「三大学連携・障がい者のためのスポーツイベント」と規模を拡大して実施し,9回目を迎えることができた[2][3][4][5][6]。近隣の茨城県立医療大学,筑波大学,障がい者スポーツ振興に関わる団体(茨城県障がい者スポーツ研究会,茨城県障がい者スポーツ指導者協議会)と共催し,茨城県,つくば市,つくば市教育委員会,阿見町の後援を得て行っている。過去10回本学で開催したイベントでは,参加者は年々増加してきた。また,参加者へのアンケート結果によると,多くの人がイベントを楽しんでいただけていることが明らかになり,今後も継続的な実施を望む声が高いこともわかっている。このように,本イベントは本学での恒例行事として認知されるようになった。 2.三大学連携イベントとしての実施計画及び内容 例年,3つの連携大学とイベントに関わる関係団体で実行委員会を立ち上げ,各大学でのイベント開催日および予算等を確認することから始まる。第9回は7月末に実行委員会が組織され,これまでと同様に3大学(筑波技術大学,筑波大学,茨城県立医療大学)と2団体(茨城県障がい者スポーツ研究会,茨城県障がい者スポーツ指導者協議会)が共催することに決定した。イベント開催日については,11月13日(日)に茨城県障がい者スポーツ研究会を開催し,本学は11月23日(水・祝),筑波大学12月10日(土),茨城県立医療大学12月11日(日)と決まり,例年通り,イベント開催のためのポスターを作成した。研究会及び各大学におけるイベントの概要については以下の通りである。 2.1 第12回茨城県障がい者スポーツ研究会 今回で12回目になる本研究会であるが,毎年,3大学イベントと同じ時期に開催している。研究会は,障がい者スポーツを多面的に研究し,健康と体力の回復,維持および向上を図ると共に,茨城県における障がい者スポーツの発展に寄与することを目的としている。今回は「RioからIBARAKIへ」というテーマで,①「ドクターから見たRioパラリンピック」,②「リオ・パラリンピックとブラジル国内の障害者対策」,③「リオなないろ駅伝」,④「地域の障がい者スポーツ教室」について,4人のシンポジストからの情報提供が行なわれた。 2.2 筑波技術大学 例年,午前2時間,午後2時間の合計4時間を使って,実施してきた。しかし,今回は大幅に時間を延長して開催した。第1部として10時から15時の5時間を通しで行い,その後,第2部として15時から16時半の1時間半行った。第1部実施種目は,ビームライフル,ボルダリング,ボッチャ,卓球バレー,スナッグゴルフ,自由遊び(レクリエーション),体力測定,ボッチャ大会を行った。第2部は聴覚障害者のサッカー体験会「手話deフットサル」を行った。なお,イベント参加資格については,障害当事者のみならず,特別支援教育に携わる教職員も含め,障害者スポーツに関心のある一般の人も対象であることを強くアピールした。 2.3 筑波大学 「つくりんピック」と銘打ったイベントを実施した。対象を,地域の知的障害児,肢体不自由児とし,指導は筑波大学体育系アダプテッド体育・スポーツ研究室の学生がスタッフとして参加した。実施種目は,Gボール,ストラックアウト,ボールプール,バッティング,遊びの広場など,リクリエーション的複数種目のブースを準備して行なった。 2.4 茨城県立医療大学 例年通り,車いすバスケットボールの体験を実施した。参加者は,基本的には障がいを持ち,車椅子に乗車可能な方を対象とし,指導は医療大学スタッフの指導のもと,開催された。 3.筑波技術大学でのイベントの計画・運営・内容 3.1 開催日時および実施種目 本学でのイベントは,これまで毎年11月23日・勤労感謝の日に開催してきたので,今回も同様の日程で実施した。実施種目は,前述の通りで,これまで長年行なってきた種目を基本とした。前回との変更点は,第1部にスナッグゴルフを行い,昼休みを取らずにボッチャ大会を行ったことである。また,これまでのイベント開催時間を延長し,第2部として手話deフットサルを行なった。参加形式については,これまで同様,参加時間・参加種目とも制限を設けない自由選択形式としたが,ボッチャ大会と手話deフットサルについては,事前申し込みとした。各種目には専門の指導者または障害者スポーツ指導員を配置し,参加者は必要に応じて,指導・支援が受けられるようにした。配置した指導者の多くは茨城県障がい者スポーツ指導者協議会に登録のある指導員にお願いした。ただし,スナッグゴルフは日本で唯一の聴覚障害を持つ男子プロゴルファー菊地倫彦氏,ビームライフルには視覚障害者でパラリンピック金メダリストである本学卒業生井口深雪氏,手話deフットサルには日本ろう者サッカー協会日本代表チーム監督植松隼人氏に指導をお願いした。また,前回からゲストとして参加している女子プロゴルファー東尾理子氏にも,今回は参加者の要望に答えてゴルフスイング指導を行ってもらった。 3.2 スタッフの確保 スタッフ確保のために,6月頃から関係団体等への依頼を開始した。実施種目の指導者および指導補助者については,茨城県障がい者スポーツ指導者協議会と相談し,各種目の専門家や障害者スポーツ指導員資格保有者に依頼した。内諾が得られた後,本学事務担当者と連携しながら派遣依頼書の送付などの必要な手続きを進め,今回は総数21名のスタッフに協力頂いた。なお,前述したビームライフル,スナッグゴルフ,ボルダリング,手話deフットサルについては,専門性が高いため,より早い時期から確認・依頼を行なった。また,これまで受付業務は種目指導を兼ねて茨城県障がい者スポーツ指導者協議会に依頼していたが,今回は,本学産業技術学部学生で,「初級障がい者スポーツ指導員」の資格取得を考えている学生に担当してもらった。また,昨年から,本学開催のイベントポスターについても,本学デザイン学科の学生に作成してもらい,当日のカメラマンとしても活動してもらっている。このように,本イベントは教員だけで行なうのではなく,学生も関わるイベントとした(図1)。また,外部からのボランティアについても毎年受け入れているが,今回は神奈川県の補聴器販売店社長が,「スタッフに障がいを理解してもらう機会にしたい」ということから4名の参加があった。 図1 本学開催イベントのポスター 3.3 共催・後援依頼,広報など 学内においては,共催名義および施設使用申請を事前に行った。学外に対しては,茨城県,つくば市,つくば市教育委員会,阿見町に対して,三大学で分担して後援依頼を行った。本イベントの広報については,各大学でポスターの送付(近隣の小中学校,県内の特別支援学校,社会福祉協議会,障害者関係団体・施設など)を行った。本学では例年通り独自のポスターを作成して,大学ホームページへの掲載,face bookに投稿して広報活動を行った。また,手話deフットサルを行なうことから,日本障がい者サッカー連盟に対しても後援依頼を行なった。 3.4 その他 イベント実施にあたっては,本学の健康・スポーツ科目担当教員4名が,7月からミーティングを繰り返し行い本番に備えた。イベント1週間前には当日の運営やスタッフ個々の役割分担などについて打ち合わせを行った。当日は,指導者,補助者,ボランティア,全ての人に開始前に集合してもらい,自己紹介,当日の流れや参加者への接し方,緊急時の避難場所と経路等について確認した。 4.参加者へのアンケート調査 今回の参加者総数は165名で,内訳は,参加者104名,引率・保護者11名,指導者及びスタッフ24名,取材・大学関係者13名,ボランティア(学生含む)14名であった。今回,新たな試みをしたこともあり,昨年と比べて参加者は倍増した(図2)。なお,開催時間を延長して行なったボッチャ大会,手話deフットサルの参加者合計は40名であった。 図2 本学イベント参加者数の推移 毎回,参加者には,入場時にアンケート用紙を配布し回答をお願いしているが,今回は84名に配布して33名からの回答を得た。回答が得られた範囲での回答者内訳は,年齢では9歳〜56歳の幅があり,10歳未満3名,10歳代11名,20歳代5名,30歳代1名,40歳代1名,50歳代2名であった。性別では,男性15名,女性9名であった。障害別では,聴覚障害5名,肢体不自由12名,知的障害2名,その他1名であった。なお,本人が回答できない場合には,保護者または付添の方に回答してもらった。本学イベントを知った方法については,これまでと同様で「友人の誘い」が約半数で一番多く,「その他」が多いのは本学で月に1回行なっているスポーツ教室に来ている人が,教室で案内を聞いて参加した人である。イベントへの参加目的については,「楽しみ,余暇活動」が約58%と最も多く,この辺りもこれまでと同様の結果であった。また,今回はボッチャ大会が行なわれたことから,「障害者スポーツ大会の参加」が約20%いた(図3)。 図3 イベント参加目的 4.1 イベントへの参加回数 イベント参加回数については,1回目の参加者が82%で,2回以上が15%であった。実際には,リピーターの方は間違いなく増えているのだが,アンケートに答えてくれていない方が多いのが現状である。今後は,リピーターの方にもアンケートに答えてもらえる工夫を検討する必要があると考える(図4)。 図4 イベント参加回数 4.2 イベントでの参加種目および参加満足度 参加種目については,「ボッチャ」は50%を超え,「ビームライフル」,「卓球バレー」も45%を超えていた。「ボルダリング」,「自由遊び」,「スナッグゴルフ」も20%以上であった(図5)。 図5 イベント参加種目 参加満足度については,「とても面白かった」58%,「まあまあ面白かった」40%と,参加者からは高い満足度を得られた。しかし,1名は「あまり面白くなかった」と答えていることから,このような方の意見も確実に聞けるように工夫したいと考えている。アンケートの自由記述で寄せられた意見には,「楽しかった」,「多くのスタッフに支えられていると感じた」,「感謝,サポートしたい」という嬉しい声をいただいた。しかし反面,「寒かった10月にして欲しい」,「ボッチャの大会に参加できない人が多かった」,「昼食も販売できるといい」という記述も見られたことから,今後も引き続き,参加者からの意見を聞きながらイベントを作っていく必要があると感じた。 4.4 今後のイベント参加希望および希望する開催頻度とやってみたい種目 今後のイベント参加希望について,「参加しない」はいなかったものの,「参加したい」が64%,「種目など内容による」が36%回答したことから,今後の種目選定については,参加者からの要望を確認しながら進めていく必要があることが,再確認できた。また,イベント開催頻度に関する希望については,年に「3〜4回程度」とする回答が33%と最も高く,「2回程度」との回答が30%「,1回」との回答が21%であった。今後,やってみたい種目については図6の通りで,「ボッチャ」40%,「卓球バレー」36%,「ボルダリング」27%と続いた。このように,参加者の希望する,開催頻度,種目についてもしっかりとニーズを掴んでおくことが大切であると再認識できた。 図6 今後やってみたい種目 4.5 本イベント及び茨城国体についての理解 今回,本イベントが茨城県内の三大学の連携イベントであること,また2019年に茨城県で全国障がい者スポーツ大会が開催されることについても質問した。結果は,三大学連携であることを「知っている」58%「知,らない」39%と,知っているが上回った(図7)。また,全国障害者スポーツ大会開催については,「知っている」73%,「知らない」27%と,多くの参加者が知っていた。1年後に迫った,国内最大の障害者スポーツのイベントが茨城県で行なわれることを,多くの人に認知されていることが確認できた。 図7 本学スポーツイベントが三大学連携イベントだと知っている 5.まとめ 2007年に本学単独でイベントを開催して以来,10回目を迎え,参加者からは上記結果のような高い評価を得ている。また,三大学共催としては9回目となったが,参加者への認知度も高まり,2019年に本県で開催される「全国障害者スポーツ大会」に繋がるイベントとなっていることを確認することができた。この9年間,各々の大学が特色を生かしたイベントを開催してきた。本学でも,毎回参加者の方からのアンケートを元に,試行錯誤を繰り返してきた。及川らはこれまでのイベント実践を踏まえた上での将来的な検討課題として,「定期的な活動への発展:スポーツ教室の開催や日常的なクラブ活動など」,「障害者のスポーツに関する情報の定期的な発信」を挙げているが[5],2015年から月1回のスポーツ教室を始めることができた。また,天野らの報告にもあるように,イベントの実施を通じ,三大学連携のメリットを生かす一方で,連携を契機に各大学がそれぞれの強み・特長を再認識することで,各大学の独自性をさらに深化・発揮させていくことが期待されると述べられているが,まさに9回目を迎え期待通りの状況まで発展してきたと言えるだろう[6]。本学でも,今回,特色を生かした新たな取り組みとして,聴覚障害者サッカー体験「手話deフットサル」を行なった。本学は聴覚障害・視覚障害学生のための大学であり,イベント情報を聞きつけた東京都在住の聴覚障害をもつ小学生が親子で参加してくれた。保護者の方は本学の名前は知っていたが,この機会に大学に行ってみようと考え参加してくれたようである。また,情報入手の方法も,前回から始めた大学face bookを見て参加してくれたとのことから,今後は,茨城県内のみならず,全国に情報発信していくことも必要ではないかと考える。そのことが,多くの障害のある方のためでもあり,本学の地域貢献という大きな役割でもあると考える。 本イベントの実施にあたっては,次の助成を受けた。 1 平成28年度学長のリーダーシップによる教育研究等  高度化推進事業経費 2 平成28年度障害者高等教育研究支援センター教  育研究等推進経費 3 平成28年度日本体育学会アダプテッド・スポーツ科  学専門領域活動支援助成事業経費 参照文献 [1] 香田泰子,及川力,天野和彦,他.「筑波技術大学 障害者のためのスポーツ体験イベント」実施報告.筑波技術大学テクノレポート.2009; 16: p.149-152. [2] 香田泰子,及川力,天野和彦,他.「三大学連携・障がい者のためのスポーツイベント」実施報告.筑波技術大学テクノレポート.2009; 16: p.153-157. [3] 香田泰子,及川力,天野和彦,他.障害者のためのスポーツイベント実施報告と今後の展望.筑波技術大学テクノレポート.2010; 17(2): p.144-148. [4] 香田泰子,及川力,天野和彦,他.障害者のためのスポーツイベント・2010年の実施報告.筑波技術大学テクノレポート.2011; 19(1): p.71-75. [5] 及川力,香田泰子,天野和彦,他.〜第4回三大学連携障害者のためのスポーツイベント実施報告〜.筑波技術大学テクノレポート.2012; 20(1): p.93-98. [6] 天野和彦,及川力,香田泰子,中島幸則,栗原浩一.第6回三大学連携・障がい者のためのスポーツイベント実施報告.筑波技術大学テクノレポート.2015; 23(1): p.89-94. [7] 平成25年度文部科学省委託事業「健常者と障害者のスポーツ・レクリエーション活動連携推進事業(地域における障害者のスポーツ・レクリエーション活動に関する調査研究)報告書」.2014.3. [8] 文部科学省「体力・スポーツに関する世論調査」.2013.1. Report of the 9th Joint Sports Event for the Disabled by three universities held in 2016 NAKAJIMA Yukinori, KOHDA Yasuko, AMANO Kazuhiko, KOHGO Yuka Division for the Hearing and Visually Impaired,Research on Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired,Tsukuba University of Technology Abstract: It was the 10th time for Tsukuba University of Technology to hold this sports event since 2007, and it was the 9th time since it has become a joint sports event of three neighboring universities in 2008. 165 people participated in the sports event held in November, 2016, and it has garnered good feedback since the first time this sports event was held. It plays an important role in providing an opportunity for the disabled to participate in sport and physical activity as well as contributing to the improvement of their life quality, the reinvigoration of communities, and the creation of an inclusive society. It has been 9 years since the sports event became a joint event of three neighboring universities, and each university has increasingly contributed their strength to this event. This activity will certainly add to the success of the National Sports Competition for the Disabled which will be held in Ibaraki Prefecture in 2019. Keywords: Sports for the disabled, Sporting event, Sports promotion, Contribution to community