視覚障害者と晴眼者で遊べるネットワークゲームの作成 筑波技術短期大学情報処理学科 伊奈 諭 要旨:視覚障害者は図形情報を使ったコミュニケーションにおいて困難を感じている。ネットワークを介して遠隔地の晴眼者とともにゲームをしたり仕事をしたりことについてはなおさら難しいことと思われる。そこで触覚と聴覚を主体にパソコンのグラフィック画面に非視覚的にアクセスする方法を用いて連珠(五目並べ)とトランプ(七並べ)のマルチユーザネットワークゲームを作成してみた。この結果、触覚と聴覚による非視覚的インタフェースの工夫と作り込みにより、グラフィック画面の図形情報によってはオンラインでリアルタイムなコミュニケーションが可能となり、晴眼者と一緒にゲームを行うことができることが分かった。 キーワード:視覚障害、触図、ノーマッド、非視覚的インタフェース、ネットワークゲーム 1.はじめに  ここ数年のパソコンの低価格化およびインターネットの普及、マルチメディア機能の充実は目を見張るものがある。しかしながら急速なGUI(Graphical User Interface)の発展と浸透により、視覚障害者がこれらの恩恵に浴することはほとんどない。GUI上の図形情報にアクセスする方法がほとんど存在しないためである[2]。したがって視覚障害者と晴眼者がネットワーク上で一緒に行えること(仕事やゲーム)にも大きな制約がある。そこで視覚に変わって触覚と聴覚を使った非視覚的アクセス方法を工夫作成し、晴眼者と視覚障害者が共に使用できるマルチユーザネットワークゲームの作成に適用してみた。これは将来的にはCSCW(Computer Supported Cooperative Work)のような協調作業の段階にまで発展できないものかと思っている。 2.パソコングラフィック画面への非視覚的アクセス  グラフィック画面への非視覚的アクセスを可能とするためにノーマッド[1]と呼ばれるタッチパネルを利用することにする。ノーマッドは7,8年前にオーストラリアで開発された視覚障害者用の音声による図形提示システムである。しかしノーマッドの基本ソフトはMS-DOS版しか提供されていなかったため、Windows下で使用するためには新たにデバイスドライバを用意する必要がある。そこで押された画面座標をリアルタイムに通知することのできるデバイスドライバ(PadX[3]と呼ぶ)を開発した。ノーマッドとPadXと市販のスクリーンリ-ダー(98Reader)を組み込んで、複数の視覚障害者と晴眼者が参加できる2種類のネットワークゲームを作成した。一つは連珠(五目並べ)で、もう一つはトランプ(七並べ)である。 3.盤ゲーム(連珠:五目並べ)  連珠はインターネットを介して、二人のプレーヤーが対戦できるゲームである。本ゲームでは、視覚障害者はノーマッドパネル上に碁盤の触図を取り付ける。その様子を図1に示す。対戦相手が決まったら、先攻(黒石)後攻(白石)を決めてゲームをスタートする。石を置く場合は触知化碁盤上の位置(格子上)をプッシュすることによって行う。また自分の指した手や相手の指した手、これまでの石の配置確認、石置きの可否、待った、などすべての操作とゲーム進行状況は合成音声のガイドによって知ることが可能である。 本ゲームのサーバー/クライアントの実行中の画面例を図2に示す。ゲームの進行に当たっての相互の連絡や話し合いは別に作成した音声化チャットによって行う。 図1 基盤の触図を取り付けたノーマッド 図2 連珠ゲームのサーバ/クライアントウインドウの実行例 4.トランプ(七並べ)  七並べはインターネットを介して、2人から6人までのプレーヤーが同時に参加できるマルチプレーヤーゲームである。視覚障害者では、ノーマッドパネル上に図3に示すような七並べのカードレイアウトのテンプレート触図を取り付ける。触図の原図の作成と出力はプログラムメニューから行えるようになっている。触図原紙の作成サイズはノーマッドパッド枠に収まるサイズであれば大きさは自由に設定できる。触図の例を図4に示す。  プレーヤーメンバーのエントリと順番選択、ゲームの進行状況やメンバーの出したカード、自カードの残り状況、および進行履歴など戻しての再確認など、すべての情報は画面の変化や操作ボタンの押下に対応して合成音声によるガイドがなされる。本ゲームの2プレーヤによる実行中の画面例を図5に示す。 図3 七並べのレイアウト触図を取り付けたノーマッド 図4 七並べ用の触図 図5 七並べのマルチユーザウインドウ(ここでは2ユーザ)での実行例 5.討論と考察  連珠は視覚障害を持つ初心者にはかなり難しいようである。被験者は、黒石と白石の数が多くなるに従って石の配置状況を思い浮かべることが難しくなるためと推測される。従って配置状況を知らせる音声ガイドの助けが頻繁に必要となる。初心者は後半に、局面の見落としによって自滅する場合がほとんどである。  今回のゲームサンプルに対するインタフェースはそれぞれの目的に応じてノーマッドパッド用の触図を用意するなど、個々の問題向きプログラムとして個別作成する必要がある。しかし一つのコミュニケーション補助が付け加えられることによって晴眼者との協同ゲームが楽しめることが分かった。このようなマルチメディアインタフェースの考え方が、将来、晴眼者と視覚障害者の協同共存作業環境の端緒となればとの思いがある。 6.おわりに  ここでは視覚障害者がネットワークを通して晴眼者とコミュニケートながら、一つの課題(ゲーム)を遂行する可能性を探るために連珠とトランプのオンラインゲームを構築した。そしてオンラインリアルタイムでの触覚、聴覚サポートがあれば、インタフェースの工夫により文字だけでなく図形情報を含んでいても、コミュニケートしながらの協同作業の遂行が可能であることを確認できた。結果としてノーマッド用のデバイスドライバが新しい非視覚的・非言語的インタフェースの構築を容易に行え、かつ役立つことが分かった。 参考文献 1)Quantum Technology, Pty Ltd.(1994), Touch Blaster Nomad Installation and User Guide for Nomad Pad and TouchBlaster software. 2)INA,S.(1999), a Support System for the Visually Impaired Using a Windows PC and Multimedia. INTERACT’99, Vol2,37-38 3)伊奈: Windows パソコンとネットワーク利用による視覚障害補償機構と環境の検討-Nomadタッチパネルの可能性とゲーム類の試作-、第24 回感覚代行シンポジウム発表論文集、p.85-89, 1998.12 図表類 図1 碁盤の触図を取り付けたノーマッド 図2 連珠ゲームのサーバ/クライアントウィンドウの実行例 図3 七並べのレイアウト触図を取り付けたノーマッド 図4 七並べ用の触図 図5 七並べのマルチユーザウインドウ(ここでは2ユーザ)での実行例 Network Games in which the Visually Impaired Can Play with Sighted People Satoshi INA Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology Abstract: Visually impaired people have difficulty in communication of graphical information. It is even more difficult for them to play/work in cooperation with sighted people via a distance network. I developed a non-visual access method to graphically screen through tactile and auditory senses, and applied it into a multi-user board/card game on the network. As a result, I confirmed that the online real-time tactile/auditory aid could support visually impaired people to communicate graphical information and to execute a cooperative game with a sighted person. Key Words: Visually impaired, Tactile graphic, Nomad, Non-visual interface, Network game