大学生におけるビタミン、ミネラルの認知度調査-筑波技術短期大学学生、栄養学科学生、その他一般大学生との比較- 跡見学園女子大学短期大学部家政科1)筑波技術短期大学鍼灸学科2) 栗畑 亜紀子1)今中 正美1)道本 千衣子1)一幡 良利2) 要旨:今回、筑波技術短期大学学生、栄養学科学生、その他一般大学生を対象として、11種類の栄養素について認知度や必要度に関する項目を中心にアンケート調査を行い、健康、栄養関係の情報はどの程度認知され、日常の食生活に影響を及ぼしているのかなどを検討した。その結果、顕著な差は見られなかったものの、筑波技術短大の学生、栄養学を専攻する学生、他の学生の順に栄養に関する意識や知識が高くなっており、食品の摂取頻度も多い傾向にあることがわかった。 キーワード:ビタミン ミネラル 認知度 食事調査 大学生 1.はじめに  わが国の食生活は、戦後急激に変化した。それまで主なエネルギー源は炭水化物がであったが、脂質、動物性たんぱく質の割合が増加し、理想的とされた日本型食生活から欧米型へと移行してきた。これに伴って、日本人の平均的体格は向上したが、一方で生活習慣病が深刻になり、医療制度の改定にまで発展するなど、多くの問題を抱えている。この対策として、近年では「一次予防」の動きが活発になり、病気になってから治療するのではなく、病気にならない生活を心がけるよう、一般大衆に広く呼びかけている。 その結果、新聞、雑誌、テレビなどのマスメディアを通して日常的に健康増進、健康維持に関する食情報が得られるようになった。また市場では食品に特定の栄養素を強化してその栄養素を大々的に宣伝したり、食品を摂取することによって期待される効果を表示したりするものも多く見受けられるようになった。2001年度に行った先の調査では、この社会的な状況を受けて、どのような栄養素に関する情報が最も認知されているのか、またそれらの情報は食事の摂取状況に実際に影響を及ぼしているのかなどについて、10代から70代までの首都圏在住者を対象にアンケート調査を行い、考察を試みた。結果、40代、50代女性は特に食事が健康に及ぼす効果に対して興味があり、栄養素に対する認識率も高く、実際の食事も比較的バランスのとれたものを摂取しているのに対して、10代、20代の学生では、認識率、食事状況とも低い結果となった。これは10代、20代では、健康よりも見た目の美しさなどに、より関心が置かれているためではないかと考察した。今回は新たに生活環境の異なった筑波技術短大の学生を加え、前回と同様ビタミン及びミネラルの必要度や認知度を中心にしたアンケート調査を実施し、認知度と食事の摂取頻度の関係を中心に検討した。 2.調査方法および内容 時期:栄養学科の学生(以下栄養学科学生とする)およびその他一般大学生(以下一般学生とする)は2001年7月~9月に行い、筑波技術短期大学視覚部の学生(以下筑波学生とする)は2002年5月に行った。 ズ橡:栄養科学生130名、一般学生132名および筑波学生24名。 方法:授業時にアンケート用紙を配布し、自記記入式で行った。 内容:「第六次改定日本人の栄養所要量」で新たに策定されたミネラルのうち、「亜鉛」「銅」「マンガン」、以前から所要量が策定されていた「カルシウム」「鉄」、また、同時に、ビタミンから「ビタミンA」「ビタミンB1」「ビタミンB2」「ビタミンC」「ビタミンD」「ビタミンE」のあわせて11種類の栄養素に関して、その認知度と食事の摂取状況を中心にアンケート調査を実施した。 《調査預目》 ①性別②家族構成③身長、体重、ダイエット実施状況④主観的健康感および日頃の健康状況⑤栄養に関する情報源⑥ビタミン、ミネラルの必要度⑦ビタミン、ミネラルの認知度⑧食品群別摂取頻度⑨サプリメントの摂取状況 3.結果および考察 ①性別、家族構成  筑波学生は男子16名、女子8名、全員が一人暮らしであった。栄養学科学生は女子130名で、このうち121名が家族同居、9名が一人暮らしである。一般学生は男子3名女子129名で、112名が同居、17名が一人暮らしであった。今回の調査ではサンプル数の大幅な相違が見られる爪この影響を考慮し検討した。 ②身長、体重、BMI  身長、体重からBMIを算出した結果を図1に示した。BMI18.5以上25未満は、日本肥満学会が定義する肥満度で「普通」とされている。筑波学生は、この分類に属する者が約80%となっており、栄養学科学生の約60%、一般学生の70%に比べて割合が多くなっているが、先の調査によると、男性は一般にBMIが高い傾向にあったため、今回の調査で男子学生の割合が多かった筑波学生のBMIも高くなったと考えられる。  近年、若い女性のやせ願望が問題になっているが、今回の調査でも、女子学生の「やせ」に属する割合は非常に高くなっている。 ③ダイエット実施状況  ダイエットをしているかとの問いに対して、栄養学科学生で約33.1%、一般学生で43.2%が実施していると回答した。一方筑波学生は16.7%にとどまった。これも、男子学生の割合が多いことが考えられる。 ④主観的健康感および〈日頃感じている不定愁訴  主観的健康感については「非常に健康」「まあまあ健康」「ふつう」「あまり健康でない」「まったく健康でない」の5段階に分類した。健康を感じている割合は一般学生に多少多くなっていたものの、どの群もほぼ同じ割合となっており、「非常に健康]が約10%「まあまあ健康」と回答した者が約30%、「普通」と回答した者が約30%、「あまり健康でない」「まったく健康でない」と回答した者があわせて30%であった。  さらに、日頃感じている不定愁訴について聞いたところ、図2に示すように、筑波学生は不定愁訴の数が少なかった。不定愁訴の項目としては、全体では「疲労がたまりやすい」(50.0%)、「いらいらする」(31.8%)、「体力減退」(43.7%)、晴こり」(50.4%)、Ⅲ荒れ」(42.0%)などの割合が多くなっているが、筑波学生では、「肩こり」の割合が他に比べて多く、「肌荒れ」や、「いらいらする」の割合は少なくなっていた。 ⑤栄養に関する情報源  栄養に関する情報源をどこから得ているかとの問いに対して、どの群も「テレビ」の割合が多く、ついで「授業」、「家族や友達から聞いた」という回答が多かった(図3)。筑波学生では「インターネット」と回答している割合が8.5%と、他の学生が0.6%や0.7%となっているのに比べて有意に多くなっている。 ⑥ビタミン、ミネラルの必要度  「ビタミンA」「ビタミンB1」「ビタミンB2」「ビタミンC」「ビタミンD」「ビタミンE」「カルシウム」「鉄」「亜鉛」「銅」「マンガン」の11種類の栄養素についてその必要性をたずねた。「非常に必要」を5、「まあまあ必要」を4、「普通」を3、「あまり必要でない」を2、「まったく必要でない」を1として集計した。その結果は図4に示した。どの群も必要と感じている割合が最も高いのは、「カルシウム」で、ついで「ビタミンc」、「鉄」となっている。新たに所要量が策定された「亜鉛」「銅」「マンガン」などは、後述するように認知度も比較的低くなっているが、同様に必要と感じている割合も低くなっている。  筑波学生において、「ビタミンA」に対する必要度が他に比べて多くなっているのは、「ビタミンA」が視機能に関与するといわれており、視機能の維持のために必要と考えている学生が多いためと考えられる。  「ビタミンC」の必要度が高いのは、「ビタミンC」の美肌効果を期待するものが多いためではないかと推察した。 ビタミン広報センターによる調査の結果によると、ビタミンCの効果として「肌を白くする」という項目の認知度が「風邪の予防」に次いで多くなっている[1]。そのため、特に女子学生の多い栄養学科学生と一般学生の必要度が高い割合になったと考えられる。 ⑦ビタミン、ミネラルの認知度  必要度と同じく11種類の栄養素について各5つの設問を設定し、それらについて知っているものには○印をつけるという方法で行った。5つの設問の内容はそれぞれの栄養素の体内での働き、多く含まれている食品、欠乏症についてなどである。  全体を見てみると、結果は必要度と同じく「カルシウム」が最も高くなっており、5個の設問中平均4個について知っていると答えていた。次に「鉄」の認知度が高くなっていた。カルシウムは、成長期の骨の形成に欠かせない物質であること、鉄は、特に女性の貧血に深くかかわりがあることが広く知られており、欠乏症力顕著に表れるため、特に意識している人が多いと考えられる。  また必要度と同様、「亜鉛」「銅」「マンガン」の認知度は低くなっていた(図5)。これらの栄養素は近年になってようやく人体での生理作用やその欠乏症などiが解明され、第六次改定日本人の栄養所要量に正式な値が示されるようになった。これを受けて、新聞や雑誌、市販食品の栄養表示などにもミネラル類が多く取り上げられるようになってきている。今後、これらの栄養素の認知度も次第に増加することが考えられる。  所属別では、筑波学生と栄養学科学生は、一般学生に比べてどの栄養素に関してもやや認知度が高く、総合すると筑波学生の認知度が最も高かった。これらの学生は健康に対する意識がより高いと推察することができる。またここでも筑波学生は「ビタミンA」の認知度が高くなっており、必要度と同様の考察をすることができる。 ⑧食品群別摂取頻度  食品を16の群に分類し、摂取する頻度を質問した。集計は「毎日食べる」を5,「週2~3回食べる」を4,個1回食べる」を3,「月1回食べる」を2、「ほとんど食べない」を1として合計し、平均値を示した。  全体を見ると、どの群も同じ傾向を示し、白飯、卵類、精肉類、野菜類の摂取頻度が高く、いも類、魚介類、豆類、牛乳や乳製品、果物、海藻類の摂取頻度は低くなっていた(図6)。  所属別に見てみると、栄養学科学生と一般学生に比べて、筑波学生の摂取頻度はやや低くなっている。これは、栄養学科学生や一般学生は、家族と同居し、食事を作ってもらえる環境にあるのに対して、筑波学生は一人暮らしが100%を占めていることが影響していると考えられる。  先の調査で、10代から70代までの調査結果を分析した結果、10代よりも40代、50代の方が健康に対しても、食生活に対しても関心を持ち、認知度も高く、食品の摂取頻度も高くなっていた。また一人暮らしよりも、家族と同居している者の方が食品の摂取頻度も高くなっていた。海外の調査でも同様に、家族で食事をすることが子供の食の質を高めると述べられている[2]。このことを考慮に入れて考えると、筑波学生の摂取頻度が一般学生に比べて低くなっていたのではないかという推測ができる。  この仮定から、次に一人暮らし者のみを抽出してみた結果を図7に示した。一人暮らしの場合では、筑波学生と栄養学科学生は、一般学生に比べて食事摂取頻度が高い傾向にあり、特に筑波学生はどの食品群についても平均的に、やや摂取頻度が高くなっている。この結果から栄養素に関する認知度が高いだけでなく、生活の中に根付いていることがわかる。  グラフには示していない力ミサプリメントの摂取頻度は筑波学生が最も低くなっている。栄養は食品から摂取し、サプリメントには頼らないという傾向がうかがえる。  家族と同居の場合と、一人暮らしの場合で摂取頻度に大きな差があるのは、魚介類や加工魚介類、果物である。魚介類は、精肉類に比べて調理操作が煩雑だったり、調理法にレパートリーがないなどの理由で、摂取頻度が低くなると考えられる。その他一般学生では、一人暮らし者の白飯摂取頻度は減少し、かわりにパンの摂取頻度は、増加している。これは、パンはさまざまな種類があり、そのまま手軽に食べられるという理由からではないかと考えられる。またこの群では「精肉類」「卵類」がほかに比べて摂取頻度が低くなっている。これはこの群の学生にダイエット実施者が多いことも関係しているのではないかと思われる。  この結果を考え合わせると、筑波学生は健康に対する意識が高く、栄養に関する知識度も他の群に比べて高い傾向にあり、日常生活の面でさまざまな栄養素を摂取しようと実践していると考えられる。 図2 日頃の身体状況(不定愁訴数) 図3 栄養に関する情報源 図4 ビタミン、ミネラルの必要度 図5 ビタミン、ミネラルの認知度 図6 食品群別摂取頻度(全体) 図7 食品群別摂取量(一人暮らし) 4.まとめ  今回の調査結果から、必要度、認知度、食品の摂取状況について、筑波学生、栄養学科学生、一般学生の間で顕著な差は認められなかった。先の10代から70代までに行った同様のアンケートでは、年代間にこれらの有意差が見られたことから、栄養に関する知識や関心度の違いは、生活環境の違いよりも、年齢によって決まる傾向にあることがわかった。これは年齢が高くなるにつれ、体の不調が増すことが多くなり、健康管理に対して若年者以上に関心が高いためと考えることができる。しかしながら、筑波学生は健康に関する意識が高く、「ビタミンA」に対する必要度、認知度が特に高い割合になっていたことや、どの群の学生も「カルシウム」や骨に対する認識が高いこと、女子学生に特に「ビタミンC」に対する認識が高いことなどを考えると、現在の自分にとって特に必要な栄養素に関しては認知度が高いことがわかる。これは当然のことといえるが、人体に必要な栄養素は数十種類にも上っており、これらが複雑に絡み合ってわれわれの生命活動を維持しているのであるにもかかわらず、それらには関心が払われていないことが今回の調査から読み取ることができる。  とくに一部を除くミネラル類は認知度も非常に低い。ミネラルは多くの酵素合成に必要とされ、代謝に欠かせない物質であるため、欠乏すると成長障害などを引き起こす。特に新陳代謝の激しい若年者には必要不可欠な栄養素である。日常の食生活ではこれらの栄養素の欠乏症は現れないとされているが、年々ミネラルの主な給源である穀類の摂取量は減少しており[3]、さらに吸収阻害物質を多く含む加工食品の摂取量が増えていることなどから、欠乏症のリスクは高くなっている。個人個人が人体に必要な栄養素を意識して考えて摂取しなければ、欠乏することも考えられる。  栄養素の認知度と摂取度の関係についてみると、認知度が高いほど、食品の摂取頻度も有意に高くなっていることがわかった(図8)。さらに、食品の摂取頻度の高率な群の方がやや日頃の不定愁訴数が少なくなっていた。(図9)。われわれの食事は一日3回、一年365日繰り返されている。毎日の良好な食生活の積みかさねが重要であることは言うまでもない。今回の調査は、対象者の健康及び栄養に関する意識及び知識をさらに高め、実践するためのきっかけとなったのではないだろうか。われわれは健康、栄養、その実践に関する正しい情報の重要性について再確認した。 図8栄養素の認知度別食品摂取頻度 図9食品摂取頻度と日頃の健康状況(不定愁訴の数) 参考文献 [1]ビタミン広報センター『ビタミン認知調査2001』 [2]Gillman MW et al.,Family dinner and diet quality among older childlen and adolescents、Archives of Family Medicine 9235-240,2000 [3]『戦後昭和の栄養動向 国民栄養調査40年を振り返る』第一出版東京, A Survey about the Knowledge and usage of Vitamins and Minerals for College Students — The differences among the three groups of students, those of Tsukuba College ofTechnology, those who are majoring nutrition and other students — KURIHATA Akiko1), MANAKA Masami1), DOMOTO Chieko1), ICHIMAN Yoshitoshi2) 1) Department of Home Economics, Atomi Junior College 2) Department of Acupuncture, Tsukuba College of Technology Abstract: In order to clarify how well students understand information regarding health and nutrition, and how they apply the knowledge in their daily eating habits, we conducted a survey by sending out questionnaires to three groups of students; those of Tsukuba College of Technology (TCT), those who are majoring nutrition and other students. In the questionnaires, we tried to clarify the depth of the knowledge and usage of 11 kinds of nutrients, such as vitamins and minerals. As a result, although there are not remarkable differences among the three groups, it can be said that students of TCT are the best, both in the knowledge and the intake of those nutrients, and students who are majoring in nutrition are the second. Key Words : Vitamins, Minerals, Knowledge, Questionnaires, College Students