総合的な学習を目指したメディア開発とその活用-スポーツ指導場面におけるメディア利用の試み- 筑波技術短期大学聴覚部一般教育等1)同機械工学科2) 齊藤 まゆみ1)新井 達也1)米山 文雄2) 要旨:現在の聴覚障害学生に対する教育環境は、少人数でありながら、クラス内の個々の能力差が大きいことが特徴である。そのような教育場面において、我々は、学習支援ソフト・教材の作成におけるメディア開発とその活用を目的として、数学やスポーツ科学の立場からいくつかの試みを実行し、教育効果に対する有効性を確認してきた[1][2]。そこで本研究では、これまでに試作した学習支援ソフト・教材を実際の授業場面に導入するとともに、 1)教室以外で行う授業に活かせるメディア開発 2)WWWとして提供すること、そしてそれらを活用すること、を試みた。 キーワード:聴覚障害学生 動的教材 スポーツ指導 イメージ 1.はじめに  運動学習において重要なことは、自分の身体がどのような状態にあるのか、どのように動かすかを自分で把握することである。しかし、実技・実習の授業では、個々の技能レベル差が非常に大きく、一斉指導による画一的な指導・助言が難しい。特に聴覚に障害がある場合、実際の動きに同期した言葉がけによる指導が難しく、動き作りの中で指導者が意図するイメージと学生が抱くイメージにギャップが生じていることも事実である。また、指導者が用いる手話やゼスチャーによって、学生の自由なイメージや動きが、限定されたものになってしまうことも考えられる。当然のことながら、指導者の持つイメージと学生が持つイメージをマッチングさせるためには1対1対応でのきめ細やかな指導力泌要である。しかし、限られた実習時間内に、すべての学生に効果的な対応をするためにどのような指導方法を工夫すべきか。この点に着目し、動画を用いることにより、学生が持つ身体動作に対する自己イメージと、他者がみた動作に関するイメージをマッチングさせ、短いコミュニケーションのなかで的確で効果的な指導をはかることを目的とした授業を試みた。そしてこれらを通じて、スポーツ指導におけるメディア利用の可能性について検討したので報告する。 2.対象および方法 2.1対象  聴覚部の保健体育2.基本運動選択学生23名 2.2期間  平成13年12月~平成14年2月 2.3方法  一斉授業形式による全体学習を2回、体育館で実施し、基礎知識とフォーム作りのイメージトレーニングを行わせた。その際、ステップとスイングがシンクロナイズすること[3]を中心に、鏡を利用して自分のフォームを視覚的にも確認させた。次に学外実習場において3回の実習を行った。まず、課題に応じた練習を1時間実施し、全体をビデオ撮影した。この1時間に、指導者が学生に対し、個別に指導・助言をしながら全体を移動する形式をとった。23名の学生が同時に実習を行うため、1時間で1学生あたりの指導回数は最大で7回、平均すると2.5回であった。その後公式ゲームを実施し、デジタルビデオカメラ(Sony:DCR-PClOO)を用いて全学生のフォームを撮影した。撮影した画像は、パーソナルコンピュータに取り込み、動画ファイルとして即日ホームページ(以下HPとする)にアップロードし、受講生が次回の実習までに自由にフォームチェックできるようにした(図1、図2)。このことを実習ごとに配付するプリント(図3)及びテキスト[4]に記入し、同時に実習授業時にもアナウンスした。  実習終了後、下記の項目についてアンケートを実施した。 1)HPの利用状況 2)HPを利用した場所 3)自分のイメージしていたフォームと動画で見たフォームとの比較 4)動画からわかったこと、役に立ったこと 5)HPを利用しなかった理由 6)体育の授業やスポーツの場面でのメディア利用に対する考え 図1 実習ホームページ 図2 動画表示 図3 配付プリント例(抜粋) 3.結果と考察 3.1HPの利用状況  受講生の78%が、HPを利用したと回答した(図4)。 学科別では、情報工学とデザイン学科の学生の利用率は100%であった。その他の学科では利用しなかったという回答があった。 3.2HPを利用した場所  所属する学科のパソコンがもっとも多く、次いで個人のパソコン、図書館、体育館、寄宿舎共用パソコンがあげられていた(図5)。このことから、校舎棟、メディア棟、寄宿舎、体育館と学内の全てのエリアから利用されていることがわかり、メディアを積極的に利用できる環境にある本学の特徴がいかされたことが推察される。 3.3自分のイメージしていたフオームと動画で見たフォームとの比較  自分のイメージしていた動きと動画で見た動きの違い(の有無)を自己評価させた結果を表したものが図6である。自分のイメージと動画でみた動きとの間に違いがあると回答した者が全体の71%であった。イメージよりも良かった者が21%、悪かったと回答する学生が50%であった。  どの点がイメージと違ったのかについては、「自分ではまっすぐステップしているつもりだったが、曲がっていた」や「スタートから3歩まで腕が動いていなかった」、「腕をまつすぐにスイングしていないので格好悪い」などが具体的に記述されていた。また、イメージ通りだったと回答した者では、「イメージ通り4歩でなかった」「イメージ通り手足がばらばらだった」と記述しており、動きを頭の中である程度理解しているものの、それを身体で表現することの難しさを表していた。実技の授業では、動きを理解することとそれが動きとしてできることとは一致しないことがある。反対にみかけの動きはできているが、動きを理解していない場合もある。アンケートに具体的に記述できる学生は、前者であり、理論的には理解ができているが、運動パフォーマンスとして発揮できていないことがわかる。そのような学生に対しては、フォームを見ることによって気づくこと、得ることがあり、動画を見ることが有効に働くものと思われる。 3.4動画からわかったこと、役に立ったこと  アンケートの結果より、HPの動画利用によって、自己のもつ運動イメージと実際との違い(の有無)を確認できたという、今回の試みに肯定的な意見の回答が、利用したすべての学生から得られた。また、HPを利用した者の78%が、指導者が実習中に行った「言語を中心とした」指導・助言の理解にも役立ったと回答し(図7)、実技授業における動画利用の有効性が示唆された。特に、「自分のイメージよりも動きがよくないことがわかった」ことに気づく学生が多く、言葉で示す働き・運動」と学生が持つ「動き・運動」のイメージ、実際の「動き・運動」のマッチングをはかることの難しさと重要性が再認識される結果であった。  HPの動画を見てわかったことについては、ステップとスイングの同期が最も高く、動画を見た全ての者がyesと回答した。ステップとスイングを同期させることは、この授業において最も重要と位置づけ、動き作り、イメージ作りに時間を費やした内容である。次に、スイングの向きやステップの方向があげられている。スイングの向きで使用した「まっすぐ」という言葉と自分のイメージでの「まっすぐ」、そして動画で見る「まっすぐ」との間にズレがあることに気づくことができれば、本研究の目的は達成されたと思われる。  一方、リリース時に関する項目については、あまり肯定的な評価がなされていなかった。これは撮影方向も関連していると思われ、前方、側方、後方の三方向からの撮影を実施し、それぞれのから見た動画を表示する方法がよいであろう。 3.5HPを利用しなかった理由  HPを利用しなかった者は5名(22%)であった。その理由として、指示されたサイトにアクセスできなかった(n=2)、動画がうまく表示されなかった(n=l)などがあった。指示されたサイトにアクセスできなかった具体例は、アドレス入力時の「~mayumi」という記号の入力方法がわからないためであった。  今回は授業に関する内容であるため、公開範囲を学内からのアクセスのみに限定した。そのためアパート居住の学生が学外からアクセスできなかった。しかしこのことを除くと、配付プリントにURLだけでなく、アクセスの方法を具体的に示すなどすれば、解決される内容であると思われた(図8)。また、動画ファイルとして今回はAVIを使用したが、表示までに時間がかかること、学生が使用するソフトによっては表示されないなど、検討すべき課題も指摘された。 3.6体育授業でのメディア利用について  今回、体育の授業でパソコンや動画はじめとするメディアを積極的に取り入れてみた。体育という科目特性から、メディア導入などに抵抗感を示す者もいるのではないかと思われたが、学生の興味や関心も高いことがわかった(図9)。とくに、積極的に利用したいという回答が半数を超えたこと、また、あまり利用したくないと回答するものが1名だけであったことから、今後も積極的に利用する価値があると思われる。 図4ホームページを利用した者の割合 図5ホームページを利用した場所 図6自分のイメージと動画との比較 図7動画からわかったこと、役に立ったこと 図8HPを利用しなかった理由 図9体育授業でメディア利用について 4.まとめ  本稿は、平成13年度教育改善推進プロジェクトとして実施した研究の一部である。動的教材を用いることにより、学生が待つ身体動作に対する自己イメージと、他者が見た動作に関するイメージをマッチングきせ、短いコミュニケーションのなかで的確で効果的な指導をはかることを目的とした授業を試みた。そしてこれらを通じて、スポーツ指導におけるメディア利用の可能性について検討した結果、スポーツ指導におけるメディア利用の有効性が示された。今回実施した方法は、スキーやアウトドアの活動、総合的な学習においても応用が期待されるので、今後も継続してこれらの課題に取り組んでいきたい。 5.文献 [1]米山 文雄,新井 達也:聴覚障害児のコミュニケーション分析ツールの開発,筑波技術短期大学テクノレポート8(2):5-10,2001. [2]米山 文雄,新井 達也他:動画教材の利用による数学的思考力育成の可能性について、第35回全日本聾教育研究大会研究集録:135-136,2001. [3]須田 開代子:ボウリング入門.技術と練習法Spoltslessonseries,成美堂出版.1987. [4]齊藤 まゆみ:保健体育・基本運動「ボウリング集中」テキスト2001. The effect of dynamic teaching-materials in the physical education class for hearing impaired students SAITO Mayumi1), ARAI Tatsuya1), YONEYAMA Fumio2) 1) Department of General Education, Division for the Hearing Impaired, Tsukuba College of Technology 2) Department of Mechanical Engmeering, Tsukuba College of Technology Abstract: It is important for both students and teachers to have the same movement image. Students with hearing impairment would be affected by teacher's expression of sign language and gestures in building their movement image in the Physical Education Class. We have applied media for matching their image to body movement, such as video, dynamic teaching-material and WWW, in physical activity coaching. As a result, the application of media in physical activity coaching was readily accepted by students with hearing impairment, and 78% of the subjects have positive opinion of media usage in physical activity coaching. It is suggested that visual information, such as video, dynamic teaching-material and WWW, suitably fits hearing impaired students and has the possibility of application to various physical activity coaching. Key Words : Hearing impaired students, dynamic teaching-material, physical activity coaching, movement image