聴覚部における新高速情報通信ネットワークシステム 筑波技術短期大学,情報処理通信センター(聴覚部)1),情報処理通信センター長2)前情報処理通信センター長3) 浅草 肇1)西岡 知之1)内野 權次2)清水 豊3) 要旨:新高速情報通信ネットワークシステムが完成したので、聴覚部における概要を紹介する。新システムはスイッチを中心とするネットワークであり、VLANと、DHCPサービスの導入により、利用者の利便性、機動性が向上した。 キーワード:設計指針、VLAN、DHCP、設定、運用 1.はじめに  平成14年2月末に、ほぼ1年間にわたる設置調整工事が終了し、新高速情報通信ネットワークシステム(以降、「新高速ネットワーク」と称する)が完成した。ここでは、聴覚部における新システムの概要を紹介する。 1.1 学内情報ネットワークの変遷  本学の学内情報ネットワークは、表1にその概要を示すように、平成5年5月に発足した情報処理センター(仮称)設置準備委員会が、平成5年12月に「学内情報ネットワークの分離先行早期整備」の方針を決定したことを受けて、平成6年2月にネットワークケーブルの敷設工事が始まった。同年3月に、学内LANとして、10BASE5同軸ケーブルによるイーサネットネットワークシステム(以降、「旧ネットワーク」と称する)が完成した。また、対外接続としては、視覚部・聴覚部両キャンパス間、並びに、視覚部・RIC-Tsukuba(つくば相互接続ネットワーク協議会)間をそれぞれ64Kbpsのデジタル専用回線で接続する情報通信ネットワーク回線が完成した。この結果、平成6年8月に学内ネットワーク完成披露式が挙行され、視覚部・聴覚部それぞれ1サーバ体制での運用が開始された[1]。なお、SINET(学術情報ネットワーク)には、RIC-Tsukubaを経由して、SINET筑波大学ノードに接続する形態となった。  この際、障害学生に対する情報保障の手段としてのマルチメディア通信を行うために、学生寄宿舎の全補食室に10BASE5⇔10BASE T変換機能を持つハブが設置され、さらに、寄宿舎全居室にRJ45コネクタに対応したモジュラコンセントが設置され、この情報コンセントとハブとがカテゴリ5のUTPケーブル(Unshielded Twisted Pair Cable)で接続されたことは、当時のMS-DOS全盛の時代としては、特筆に値するとともに、末端で100Mbpsの回線速度を目標としていたことが確認できる。  この旧ネットワークの完成を受けて、学内情報通信ネットワークシステム及び平成7年度に導入された全学共用電子計算機の管理運営、並びに、情報処理・通信に係る調査研究・整備等を行うことを目的とし、また、将来の省令設置による情報処理センターの樹立に向けて、学内措置により、「情報処理通信センター」が平成8年4月設置され、現在に至っている。 1.2対外接続の変遷  対外接続は、平成7年6月に、視覚部・聴覚部両キャンパス間直接接続を取り止め、視覚部・聴覚部両キャンパスがそれぞれRIC-Tsukubaに直接接続するように変更された。平成10年1月には、128Kbpsに回線速度が向上した。平成11年3月、RIC-Tsukubaの解散(平成10年6月)により、直接SINETに接続する形態に変更された。平成12年4月には、回線速度を1.5Mbpsとし、対外接続用のルータを両キャンパスにそれぞれ新設し高速化に対応した。また、SINET筑波大学ノード設置のルータもこれに対応して交換された。 1.3 聴覚部における運用形態の変遷  聴覚部での運用形態は、平成7年にサーバ2台体制での運用となり、平成12年度には、新高速ネットワークへの拡充を念頭に置いて、系統的な7台のサーバシステムに一新され、安全性、安定性、保守性が飛躍的に向上した[2]。 1.4 新高速ネットワークシステム計画の変遷  新高速ネットワークシステムは、旧ネットワークの完成問もない、平成8年2月の平成7年度第5回情報処理通信委員会(当時)において、平成9年度概算要求(特別設備費)「工学・医学画像通信及び障害者高等教育用情報保障のための研究開発用ATMネットワークシステム」として決定されたのが、その発端である。  この要求システムは、情報保障を行うマルチメディア通信を行うために、広帯域性が確保できるATM(Asynchlronous Transfer Mode)ネットワークを対外接続と建物間接続の基幹部分に採用し、各階に設置したフロアスイッチングハブ間を100Mbps、フロアスイッチングハブと情報コンセント間を10Mbpsで接続する計画であった。基本的にこの要求案がその後も継続されていたが、その後の技術革新に伴い、学内接続にはファーストイーサネット、ギガビットイーサネット技術の利用、対外接続には無線LANや、レーザビーム接続などの方法が検討されるようになった。 これらの計画の基本概念は、以下のようであった。 ①末端での回線速度は、マルチメディア通信が可能となる速度であること。 ②基幹の回線速度は、末端の通信がそれぞれ独立して確保できるような高速であること。 ③対外接続は、これが支障とならないような高速性を確保できること。  平成12年10月情報処理通信センター運営委員会において、(1)ネットワーク用ケーブルの敷設工事、(2)ネットワーク機器の調達、(3)対外接続の高速化、の3事案に分割し、平成12~13年度にわたり、新高速ネットワークを構築することが決定された。 表1学内情報ネットワークの変遷 2.新高速情報通信ネットワークシステムの概要  新高速ネットワークの概要を図1に示す。スイッチングハブを中心としたネットワークであり、基幹は光ファイバーにより1Gbps、末端はⅥPケーブルでlOOMbpsの通信速度を確保している。 2.1ネットワーク用ケーブルの敷設工事  平成12年度筑波技術短期大学基幹整備(高速情報通信ネットワーク用ケーブル)工事として、先行施工され、平成13年3月に完成した。情報処理通信センター内にネットワーク機器を収納するための2連EIA19インチラック(以降、「2連ラック」と称す)と、校舎棟各階と主要位置にスイッチングハブを格納するためのEIA19インチラックポックス(以降、「情報ボックス」と称す)が設置された。これらのラック中には、光ファイバーおよびUTPケーブルを接続するためのパッチパネルがそれぞれ格納されている。2連ラックと全情報ボックスは、光ファイバー(l000BASE-SX対応)により接続された。  学生寄宿舎においては、各棟1階の情報ボックス内格納のギガスイッチにより、光ファイバー(1000BASE-SX)をUTPケーブル(1OOOBASE-T)に変換して、各階補食室設置のスイッチングハブを接続しており、2連ラック(情報処理通信センター(聴覚部))から補食室まで1Gbpsの通信速度を確保した。補食室から各居室までは、旧ネットワークのカテゴリ5のUTPケーブルをそのまま使用し全居室で100Mbpsを確保できるように計画した。  校舎棟、メディア棟などでは、教官研究室、講義室、実験室などに、RJ45コネクタに対応したモジュラーコンセント(以降、「新情報コンセント」と称す)を新設した。この新情報コンセントと情報ボックス間は、カテゴリ5EのUTPケーブルで接続し、最大1Gbpsの通信速度に対応できるようにした。 2.2 ネットワーク機器の調達  ネットワーク機器の調達は、平成13年3月に仕様策定委員会において「聴・視覚障害教育研究用高速情報通信ネットワークシステム」として仕様が決定された。入札公示(4月)、入札(6月)の手続きを経て、平成13年8月設置工事開始、同年11月正式運用開始となった。  機器は、2連ラックに格納されるスイッチングルータと情報ボックスに格納されるスイッチングハブから構成される。  スイッチングルータの主な仕様は以下のようである。 ①レイヤ3のスイッチング機能を持つこと。 ②可変長サブネットマスクに対応すること。 ③動的VLAN(VirtualLAN)サーバ機能を有し、かつ、VLANルーティング機能を有すること。 ④DHCP(Dynamic Host Conhgulation Protocol)リクエストをDHCPサーバに中継する機能を有すること。また、DHCPサーバ機能も有すること。 ⑤NTP(Network Time Protocol)による時刻同期機能及びNTPサーバ機能を有すること。 ⑥1OOOBASE-SXによりスイッチングハブと接続できること。 ⑦SNMP(Simple Network Management Protocol)エージェント機能を持つこと。 ⑧電源部及び制御部が2重化されていて、かつ、ホツトスワップ時に再起動の必要がないこと。スイッチングハブの主な仕様は以下のようである。 ①レイヤ2のスイッチング機能を持つこと。 ②VLANの機能を有し、動的VLANクライアントとして動作すること。 ③1000BASE-SXによりスイッチングルータと接続できること。 ④1OOBASE-TXと10BASE-Tを各ポートごとに自動切り替え、及び、選択設定ができること。 ⑤SNMPエージェント機能を持つこと。 2.3 対外接続の高速化  対外接続方法としては、安定性、保守性等を考慮して、ATM接続を計画していた。しかし、平成13年度にSINETが筑波大学ノードのATM端末の将来廃止を表明したこと、また、平成14年1月より10GbpsのスーパーSINETの運用が始まることなどを勘案した結果、平成13年9月、ATM接続の計画を取り止め、イーサネットによる接続方法の調査を開始した。この結果、SINETにファーストイーサネット(100Mbps)で接続するためには、SINET筑波大学ノードに設置しているルータの交換と、両キャンパスとSINET筑波大学ノード間の接続を専用イーサネット回線に変更することで可能との結論が得られた。  平成13年度教育改善推進経費を用いて、ルータの交換を行い、平成14年2月より専用イーサネット回線の使用を開始し、10MbpsでSINETと接続されることになった。なお、平成12年4月に両キャンパスに設置した対外接続用ルータは、そのまま使用できた。また、これらの3対外接続用ルータ体制で、対外接続100Mbpsまで対応が可能である。 図1 聴覚部学内情報ネツトワークの概要 3.新高速ネットワークシステムの設定・運用 3.1 IPアドレス  本学が取得しているクラスBのIPアドレスの中で、第3オクテットの第1ビットについては、 第1ビット=0:視覚部 第1ビット=1:聴覚部 と情報処理通信センターで定めている。聴覚部では、さらに、新高速ネットワークにIPアドレスを割り当てるに際し、旧ネットワークと同時使用できるように、第3オクテットの第2ビットを次のように定義した。 第2ビット=0:旧ネットワーク 第2ビット=1:新高速ネットワーク この結果、新高速ネットワークのIPアドレスとしては、147.157.192.0~147.157.255.255を割り当てることになった。 3.2 VLANとサブネットワーク  定義した新サブネットワーク名とその割り当てIPアドレス数を表2に示す。全ての新サブネットワークはそれぞれ静的なVLANとして定義され、新たに、保健管理センターや各会議室などがそれぞれサブネットワークとして独立した。また、この静的VLANの導入により、いわゆる「飛び地問題』が解決された。旧ネットワークにおいては、同一サブネットワーク上に複数の学科が混在し、IPアドレス管理や運用等の問題となっていた。新サブネットワークの構成に当たっては、新情報コンセントごとに、所属や利用目的に対応してVLANを設定したので、「飛び地問題』は解決し、単純明快な環境が構築できた。  新サブネットワークの大きさは、学科等については1日ネットワークと同じホストアドレスピット長10ビット分を割り当てたが、新たに定義したサブネットワークについては、利用者を予測して、7~9ビットのホストアドレスピット長を割り当てた。また、将来の無線LAN導入などに備えて、ホストアドレスビット長11ビット分と10ビット分の連続した領域を確保している。 3.3 DHCPサービス  新高速ネットワークの運用に当たり、「聴覚部内のどこでも新情報コンセントに接続するだけで、パソコン設定を一切変更することなく使用できること」との運用指針に基づき、DHCPサービスを、学内向けサーバA,B機[2]で2重化し安定性を確保した上で、運用開始した。この結果、各学科のネットワーク相談員及び情報処理通信センターに寄せられるネットワーク設定関係の質問・疑問は皆無となり、利用者の利便,性を向上させるとともに、ノート型パソコン等の機動性が飛躍的に向上した。  DHCP用のIPアドレスは、各サブネットワークの予測最大利用者数の2倍程度をそれぞれのDHCPサーバに設定した。これは、片方のサーバが停止した場合でも、IPアドレスの発行には支障を起こさせないためである。また、2台のDHCPサーバが、週末に、同時に、動作を停止しても、週明けまではIP通信が可能であるように、リース期間は3日間とした。  なお、ネットワーク管理者が存在するサブネットワークには、固定IPアドレスを割り当て、それぞれの管理者にIPアドレスの管理を一任した。 3.4学生寄宿舎の切り替え  学生寄宿舎を旧ネットワークから新高速ネットワークに切り替えるには、(1)捕食室において新旧ハブの切り替え、(2)このハブに接続している全パソコンのIPアドレス等を同時に変更、の2作業を各補食室単位で行う必要があった。しかし、補食室単位で全パソコンの変更作業を同時に、かつ、確実に行うことは不可能と判断し、ハブの切り替え作業だけで新高速ネットワークへの変更が可能となるように、次の設定作業をした。  図1に示されるように、(1)旧ネットワーク学生寄宿舎の回線を大学会館2階設置のスイッチングハブを経由して新高速ネットワークに直結し、さらに、(2)学生寄宿舎の新旧サブネットワークを同一VLANに設定した。  設定作業の結果、新旧どちらのハブに接続していても、また、パソコンを新旧どちらのネットワーク用に設定にしていても支障なく通信できる状態になったので、平成13年10月末までに順次新旧ハブの切り替え作業を行った。その後、十分な時間をかけて、パソコン設定もDHCP利用に変更させ、平成14年1月、学生寄宿舎を新高速ネットワークに支障なく完全に移行させることができた。 表2 新高速ネットワーク・サブネット一覧 4.おわりに (1)動画を含む電子会議を行える通信容量が十分にあることを確認できた。 (2)VLANの導入により、所属や利用目的に対応した適切なサブネットワークを構成することができた。 (3)DHCPサービスの導入により、利用者の利便性・機動性が飛躍的に向上した。 参考文献 [1]渡邊 隆,内野 權次他:筑波技術短期大学コンピュータ・ネットワーク.筑波技術短期大学テクノレポート2:103-107,1995. [2]浅草 肇,西岡 知之,清水 豊:情報処理通信センター(聴覚部)における新サーバシステム.筑波技術短期大学テクノレポート9(1):47-52,2002. A New Local Area Network System at the Division for the Hearing Impaired ASAKUSA Hajime1), NISHIOKA Tomoyuki1), UCHINO Kenji2) and SHIMIZU Yutaka3) 1) Center for Computers and Communication at the Division for the Hearing Impaired, Tsukuba College of Technology 2) Director of Center for Computers and Communication, Tsukuba College of Technology 3) Former Director of Center for Computers and Communication, Tsukuba College of Technology Abstract : A new high speed LAN (Local Area Network) system at Tsukuba College of Technology, was designed and constructed. This report introduces an outline of the system at the Division for the Hearing Impaired. This new network system consists of Gigabit/Fast Ethernet and Layer 2/3 Switches. By the introduction of VLAN and DHCP service, the new constructed system seems to have improved the convenience and mobility of users. Key Words : System, Design, Construct, DHCP, VLAN