視覚障害教育現場から-点字使用の学生に対する貸借対照表理解のための指導法について- 大橋会計事務所1)筑波技術短期大学情報処理学科2) 大橋 克巳1)夏目 武2) 要旨:視覚に障害のある学生、特に、点字使用の学生が、経済社会において、合理的意思決定を行使することを目的とし、効率的に、かつ確実に主要な財務諸表の一つである貸借対照表を理解するための、新たな指導法を、大学での講義を前提とし、現場教育を通して開発した試案とその試行を紹介する。併せて、視覚障害を持つ教官が自らの培った専門分野を新たな環境において表現していく立場からその方法、新たに開発した教材及びそれらの教育効果についての評価と検討したものについて考察する。 キーワード:点字、貸借対照表、視覚障害補償、会計学、指導法 1.はじめに  現在のような複雑化した経済社会において、企業活動も、複雑多岐に及んでいる。そして、私たちは企業との関連において、数々の局面で、意思決定を遂行していかなければならない。ここにおいて、いかに合理的な意思決定を遂行していくかが、重要な課題となる。換言すれば、意思決定における不確実性の、排除が課題となってくるのである。そのためには、企業活動に関する情報を入手し、それを分析することが必要となる。  その情報のひとつに、企業の作成する財務諸表がある。財務諸表とは、主に、一事業年度に関する経営成績を表す、損益計算書と、事業年度末における財政状態を表す、貸借対照表からなる。これらは、公開会社においては、証券取引法によって作成と公開を義務づけられており、意思決定の合理化にとって有用な情報となるものである。  この状況は視覚に障害がある場合にも、当然ながら、まったく同様である。すなわち、視覚に障害がある場合、現行の状況では、明らかに、活字情報である財務諸表に、触れる機会、その理解のための指導を受ける機会は、ともに少ないと思われるが、上述の財務諸表に関する理解は、経済社会において、合理的な意思決定を確保するために、必ず、有効な手段となるものと思われる。ここでは、大学での会計学の講義を前提として、視覚に障害のある学生、特に、活字の認識が困難な点字使用の学生を対象にして、財務諸表のひとつである貸借対照表の理解のための、指導法を試案、開発し、実施し、その評価事例を報告する。 2.貸借対照表  貸借対照表とは、上述のように特定の企業の事業年度末、すなわち、決算日時点の財政状態を、表す財務表である。すなわち、貸借対照表は企業の決算日における、資金調達の状態とその運用形態をあらわすものである。そして、貸借対照表は、借方、貸方という区分に項目、勘定科目を文字で、その金額を、数字で、一定の様式に基づき、表現したものである。  このような貸借対照表を、視覚に障害がある学生、特に、活字認識の困難な点字使用の学生が、効率的に、確実に、理解するためには、視覚以外の感覚を、利用していけばいいことになる。そして、視覚以外の感覚、本稿では、触覚について述べるが、視覚との瞬間における情報量の差、二次元空間認識の差、点字自体の特`性等を念頭に入れながら指導法を工夫していく必要があると思われる。以下、具体的に、貸借対照表の理解のための指導法を試案し、提示しながら検討していく。 3.貸借対照表の理解における課題  貸借対照表は、企業の、財政状態を、報告する財務表であり、損益計算書とともに、企業の作成する重要な財務諸表のひとつである。貸借対照表は、証券取引法と商法によって、その作成が、要請されている。そして、その様式も証券取引法と、商法では、若干の相違がある。ただし、その相違は、本稿においては、貸借対照表の内容を理解するという目的から特に取り上げることは要さないものとした。貸借対照表は一定の様式により、勘定科目と金額から成り立っている。そして、その勘定科目を資産の部、負債の部、資本の部の三つの部分に分類して、記載するのである。そして、現行の公表貸借対照表は勘定式なので、区切り線を中央に縦線として引き、その左側に資産の部を記載し、区切り線の右側に、負債の部及び資本の部を記載する。  ここで、資産の記載される左側を会計学上、借方と呼び、負債と資本の記載される右側を、貸方と呼ぶ。さらに、資産、負債、資本は、それぞれ項目に細分化され、各々勘定科目が、記載され、それに対応して、金額が記載されるのである。  以上のような、貸借対照表は、貸方が、当該企業の資金調達源泉を表し、借方が、資金の運用形態を表しており、借方、貸方の関係の理解は、貸借対照表理解のためには、不可欠のものである。即ち、右と左に記載されている、項目、勘定科目の内容の理解と、右と左の関係の理解がきわめて重要なのである。以上の課題を視覚障害のある学生、特に、点字使用の学生を対象とした試案を提示し、貸借対照表理解のために実施した工夫と効果とを具体的に検討していく。 4.貸借対照表の記載内容の指導法 4.1背景  貸借対照表の記載内容の理解のために、貸借対照表を完全な様式で点訳しようとすると、貸借対照表自体の情報量の多量さと、点字の特徴である字数(マス数)の多量の消費ということから、活字であらわせば、1ページで収まるものが、通常5から6ページに及んでしまい、その全体像を把握することは、きわめて難しくなってしまう。また、同様の理由から借方と貸方を別々のページに表わさざるを得ない状態になる。貸借対照表理解のために、きわめて重要な借方と貸方の関係の理解に重大な支障をもたらす。すなわち、貸借対照表の借方、つまり左側に、資産の各勘定が記載され、貸方、つまり、右側に、負債、資本の各勘定が記載されるというイメージがつけにくいということである。  このイメージ化は、資産、負債、資本の相互関係の理解のために、きわめて有効である。すなわち、資産の合計額は、負債、資本の合計額に等しいという、基本原理をきわめて効率的に、イメージとして理解できるからである。  この事は、さらに負債、資本が、資金の調達源泉を、あらわし、資産がその運用形態をあらわすということが、表の右側が資金の調達、左側がその運用といった形で、イメージとして強調され、容易に理解することができるのである。また、この事は、各勘定が表のどちら側にあったかを想起しやすくし、勘定科目自体の内容の理解につながるのである。  この事から、貸借対照表の記載内容を理解し、その全体像を理解するためには、貸借対照表を完全な形で点訳するのではなく、上記イメージ化に資する形での点字表現が、必要になると思われる。  以下、上記要請に応えるべく、点字による、簡易的貸借対照表使用による指導法という試案を提示し、具体的に検討していく。 4.2簡易的貸借対照表使用による理解  本稿において、簡易的貸借対照表とは、貸借対照表を、完全な様式で、点訳したものではなく、貸借対照表について、理解しようとする内容に焦点を合わせ、大胆に省略化した形で点訳をされた貸借対照表を意味するものとする。  そして、それを項目記載型簡易的貸借対照表と勘定科目記載型貸借対照表という二段階に分けて検討する。ここで、項目記載型簡易的貸借対照表とは、借方に流動資産、固定資産、繰延資産という各項目の文言を、貸方に、流動負債、固定負債、資本という各項目の文言を、点字で記入しただけの、最も省略化した形で点訳された貸借対照表を意味する。それに対して、勘定科目記載型簡易的貸借対照表は借方、貸方に、流動資産等の項目に、加えて、各勘定科目まで記載したものを意味する。両者には、金額の記載は無いものとする。前者は、貸借対照表の概要の習得を目的とし、借方と貸方項目、即ち、資産と負債、資本との関係を際立たせることに有効と思われる。  また、後者は貸借対照表にどのような勘定科目が、存在するかを理解し、各勘定科目の位置付けを習得することを目的にするものである。 4.3簡易的貸借対照表の作成 4.3.1項目記載型簡易的貸借対照表の作成  用紙は、B5版の標準的な点字用紙を使用するものとする。また、点字板は一行32マスのものを使用する。  点字による記載方法は、項目記載型簡易的貸借対照表とは、用紙の左側、借方に流動資産、固定資産、繰延資産という文言を、右側に、貸方に流動負債、固定負債、資本という文言を記載したものである。以下、点字による表現を述べる。また、点字は、本稿においては、カタカナで表現するものとする。まず、用紙の1行目に10マス目から、(コウモク キサイガタ)と記載する。そして、2行目に区切り線を引く。そして〈5行目、3マス目から、(リュウドウシサン)と記載し、同行19マス目から、(リュウドウフサイ)と記載する。  上記によって、左側の借方に、流動資産という文言が、また、右側の貸方に、流動負債という文言が、点字によって記載されることになる。  同様にして、9行目に固定資産と固定負債を、13行目に、繰延資産と資本を点字で、記載していくのである。 また、借方と貸方とを分ける中央の区切り線は用紙を折ることによって、表しても良いし、上から3行目からの各行の16マス目をメ点で埋めることによって、表現しても良いと思われる。ただし、会計でよく使われる、T字形フォームを、際立たせようとすれば、針金などによって、上記各区切り線を作成することも、一案であると思われる。 4.3.2勘定科目記載型簡易的貸借対照表の作成  用紙は上記項目記載型簡易的貸借対照表と同様、B5版の点字用紙を使用し、また、点字板は一行32マスのものを使用する。  勘定科目記載型貸借対照表とは、借方と貸方に、前述の項目に属する、代表的、典型的な、勘定科目を、記載したものである。ただし、固定資産項目だけは、さらに、細分化した項目をクッションとして、置き、その細分化した項目、つまり、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の三項目について、勘定科目を記載することにする。また、資本については、単純化のため、資本金、資本準備金、利益準備金及びその他剰余金という項目を並列的に記載することにとどめる。  以下、点字による表現を検討していく。用紙の、1行目に8マス目からカンジョウカモクキサイガタと記載する。そして、2行目に区切り線を記載する。次に、借方項目である資産項目の記載を行う。即ち、用紙の3行目lマス目から、リュウドウシサンと記載し、4行目、5行目、6行目、に、それぞれ、3マス目から、ゲンキンヨキン、タナオロシシサン、ユウカショウケンと、記載する。これで流動資産の部分は完成する。  次に、固定資産の部分は用紙の7行目1マス目からコテイシサンと記載する。そして、8行目3マス目からユウケイコテイシサンと記載し、その勘定科目として9行目5マス目からタテモノと記載する。次に、10行目3マス目から、ムケイコテイシサンと記載する。そして、その勘定科目として、11行目5マス目からエイギョウケンと記載し、さらに、12行目3マス目から、ソノタと記載し、その勘定科目としては13行目5マス目からトウシユウカショウケンと記載する。ただし、トウシユウカショウケンの記載の場合、字数の制限から、わかち書きは、省略するものとする。これは、紙面の右半分に、借方の各項目を、記載する必要から生じるものである。これで、固定資産の部分が完成する。次に、借方の最後は,繰延資産の記載である。即ち、14行目3マス目から,クリノベシサンと記載する。そして、その勘定科目としてシケンケンキュウヒと記載する。これで、借方項目の資産についての、記載が、完成する。  次に、貸方項目である、負債と資本の記載を行う。まず、3行目17マス目から、リュウドウフサイと記載する。その勘定科目として、4行目、5行目、6行目に、それぞれ、19マス目から、カイカケキンシハライテガタ、タンキカリイレキンと、記載する。さらに、8行目17マス目から、コテイフサイと、記載し、その勘定科目として、9行目、10行目に、それぞれ、19マス目から、タンキカリイレキン、シャサイと、記載する。これで、負債の部分が完成する。次に、12行目、13行目、14行目、15行目に、それぞれ、17マス目から、シホンキン、シホンジュンビキン、リエキジュンピキン、ソノタジョウヨキンと記載する。これで、貸方項目は完成し、借方と、貸方の、区切り線を、前述の方法によって記すことによって、すべてが完成されることになる。  上記、点字による記載によって勘定科目記載型簡易的貸借対照表が完成されるのである。これによって、一枚の用紙に、左側に借方項目の勘定科目が、右側に貸方項目の勘定科目が明瞭に記載されるのである。 4.4指導法の検討と効果  上述の簡易的貸借対照表を使用した貸借対照表の理解のための指導法とその効果を検討する。  第一段階として、項目記載型簡易的貸借対照表を使用する。これは本来の、貸借対照表を、大胆に省略化することにより、借方に、流動資産、固定資産、繰り延べ資産という文言のみを記載し、貸方には、流動負債、固定負債及び資本という文言のみを記載したものである。その結果、用紙の、左側に、資産が、右側に、負債と資本が、きわめて単純化された形で、表示される。その結果、点字によって字数をきわめて制限的ではあるが、使用することが可能となり、より明確な位置関係の理解に資する事ができるものと思われる。これを、配布することにより、貸借対照表の概要の理解を目的とし、借方が用紙の左側であり、貸方が用紙の右側であることを繰り返し解説する。このことは、会計学の基本的概念のひとつである借方、貸方の理解を、具体的な位置関係で理解することに、有効であると思われる。この際、資産の合計額と、負債、資本の合計額が、合致するということも繰り返して解説する必要がある。  また、この段階で、貸借対照表が企業の財政状態を表していることを、これを使用しながら、解説することも必要であると思われる。すなわち、貸借対照表の、右側が、資金の調達源泉を表し左側が、その運用形態を表している。これを当該点字を触読してもらいながら、繰り返し解説する事は具体的な位置関係としての明確な理解につながり、貸借対照表の意味を理解することに有効であると思われる。  また、この項目記載型簡易的貸借対照表は、学生自らが作成する事も併せて貸借対照表の概要を、理解することには有効と思われる。  第二段階として、勘定科目記載型簡易的貸借対照表を使用する。  項目記載型簡易的貸借対照表によって、貸借対照表の概要を理解した上で、その貸借対照表の構成要素である、勘定科目の、代表的かつ典型的なものを、点字で記載したものである勘定科目記載型簡易的貸借対照表によって、資産、負債、資本の内容を、より詳細に理解し、加えて、貸借対照表の全体像を、より明確に理解する事を目的とする段階である。  勘定科目記載型簡易的貸借対照表は、用紙の左側に、資産の種類別に各勘定科目を記載し、右側に、負債の種類別各勘定科目と、資本項目を記載したものである。ただし、勘定科目等は、例示的に記載し、点字用紙一枚への記載可能性を重視した。このことは、やはり点字の特徴である行数、マス数の表示制限に対処した結果である。点字用紙が、数枚に及んだのでは貸借対照表の全体像は理解し難くなるのである。  また、この省略化は、理解すべき対象を浮き彫りにするためにも、非常に有効であると思われる。以下、具体的に検討する。  これは貸借対照表自体の解説の際、または、資産、負債、資本の個別的な解説の際に、指導側が、作成し、配布し、常に学生に繰り返し触読してもらい、その記載位置を確認することによって各段階においての明確な理解に、資する事ができると思われる。この段階では、資産の種類、各資産の種類別の、勘定科目の概要を理解することによって、資産のより深い理解を目的とする。また、資産が、貸借対照表の左側、借方に記載されていることを、再度確認することも重要な目的である。  また、負債についても、その種類別勘定科目の理解と、その記載位置、資本についても、その概要と、記載位置を理解することを目的とする。  そして、この理解が、貸借対照表自体の、より深い理解につながると思われる。また、学生自らが、当該簡易的貸借対照表を、作成することも、項目記載型と同様に、貸借対照表の理解には有効であると思われる。  以上から、資産と負債、資本の位置関係の理解、各勘定科目の記載位置の理解をより明確に且つ効率的に行うことが出来、貸借対照表の記載内容の、効率的な理解に資する事ができると思われる。そして、その全体像をイメージとして、より明確な形で理解することができると思われる。 5.資産と負債、資本の量的関係の理解 5.1背景  資産、負債、資本は、貨幣的に評価されている。換言すれば、各項目の大きさは、金額によってあらわされているということである。即ち、資産と負債、資本の量的関係はこの金額の相互関係によって表されているのである。  活字版による基本書では、資産と負債、資本の関係を各項目の金額を、Tフォーム上において、長方形の面積として表現することによって、解説している。これは、資産と負債、資本の関係を具体的に、把握することが可能となり効果的な方法と思われる。  また、この関係を理解することは、資産、負債、資本の本質を理解するためにも効果的であるといえる。ただ、点字使用の学生にとっては、これをそのまま、触図として表現しても、視覚による認識ほど効果的に機能しない可能性がある。これは、視覚と触覚の二次元空間認識能力の差ということから起因するものである。以下に、触図よりも、内容を把握をより良くするのに適している方法を検討する。 5.2立体的貸借対照表による理解  本稿において、立体的貸借対照表とは貸借対照表の構成要素である資産と負債及び資本をその大きさを面積としてとらえ、厚みのある板等によって各構成要素を表現し、それをつなぎ合わせたものである。これは、資産と負債及び資本の量的関係を触覚によって、触図よりも、より明確に認識するための物である。ここにおいての目的は、あくまでも、資産と負債及び資本の量的関係の把握である。 5.3立体的貸借対照表の作成  発泡スチロール、プラスチック、木材等、特に素材には、こだわる必要はないが、厚さ1センチ、縦横10センチ程度の板状のものを用意する。以下、これを資産、負債、資本の各々の部分を表すために長方形に加工したものをパーツと呼ぶことにする。また、点字テープを使用する。これは、点字を打ったものを貼り付けることができる物である。  横10センチ、縦20センチの長方形に、加工したパーツの中央に点字テープにシサンと記入し、貼り付けることによって、資産部分を作成する。  次に、横10センチ、縦10センチの正方形に、パーツを加工し、中央にフサイと記入した点字テープを貼り付ける。さらに、負債部分と同様に、横10センチ、縦10センチの長方形に、パーツを加工し、中央に、シホンと記入した点字テープを貼り付ける。これで、負債、資本の部分も完成する。  つぎに、作成した資産、負債、資本の各パーツをつなぎ合わせるのであるが、まず貸借対照表の配置と同様に各パーツを配置し、資産部分と負債部分をテープでつなぐ。そして、負債部分の下部と、資本部分の上部をテープでつなぐ。以上により、立体的貸借対照表のひとつのパターンが完成する。これは、あくまでも、ひとつの例であり、縦の長さ、負債、資本の比率等は、解説の必要に応じて、適宜、変更しながら数種作成することも必要である。また、市販のブロックやつみきを使用することも、効果的な方法と思われる。 5.4指導法と効果  指導側が、立体的貸借対照表を用意し、学生に配り、貸借対照表の解説の際に、学生に触れてもらう。学生が、概要を把握するまで、充分に時間を置く。  次に、各部分の解説を行いながら、資産と負債、資本との量的関係を立体的貸借対照表を使用しながら解説する。  この場合、当初は、個人指導力泌要と思われる。その後は、講義の中で、適宜これを使用しながら解説していく。  立体的貸借対照表によって、学生は、資産、負債、資本の金額的大きさを、各パーツの大きさによって、実感として把握できると思われる。これにより、資産と負債、資本との量的関係も、実感として、把握できることになると思われる。この触覚による認知は、資産の金額が負債と資本の合計金額に等しいという基本原理を、実感として認識すし、理解することに効果的であると思われる。これは、その後に続く会計学の習得にも、大いに役立つことである。また、本稿で、示した立体的貸借対照表は、あくまでも、ひとつの例であり、解説すべき対象によって、それに見合った物を作成することも必要と思われる。例えば、債務超過という概念を解説する場合、資産のパーツより縦の長い負債のパーツを作成し、それを貸借対照表の配置同様にテープでつなぐことにより、立体的貸借対照表を完成させ、債務超過を解説する。ただし、この時は、資本のパーツを敢えて作成しない方が、わかり易くなると思われる。すなわち、マイナスの資本の概念を資産より負債が大きい状況を当該パーツを触ることにより、実感してもらいながら、解説していくことで、充分な効果を得られると思われるからである。さらに、学習が進み、企業の経営分析を解説する際には、ここで示したものより、パーツを細分化し、作成すると良いと思われる。即ち、資産をさらに流動資産とそれ以外の資産に分けたり、負債を流動負債と固定負債に分けて作成することである。  これらを、使用することにより、分析に使用する各種の比率の意味が、より具体的に認識できると思われる。  以上のように、立体的貸借対照表は、学習の段階に応じて、いろいろな形で使用できると思われる。また、立体的貸借対照表は、各パーツを識別の容易な、色彩を施す事等によって、弱視の学生にとっても、有効に機能すると思われる。 6.考察  以上、貸借対照表の理解のための指導法について試案を提示しながら検討してきた。簡易的貸借対照表による指導法および立体的貸借対照表による指導法は、ともに理解すべき対象にのみ光を当て、余分な情報を極力、省く事に留意した。この事によって、確実な理解を効果的に、得ることができるものと思われる。  この試案は、当然、改善の余地はあるものである。大学での講義を通じて、より良好なものへ研究を進めていく所存である。現段階におけるこの検討が、視覚障害の学生にとって、特に、点字使用の学生にとって、幾分かの障害補償となり、貸借対照表の理解、ひいては、会計学の理解の一助となればこの上ない幸福である。 参考文献 [1]若杉 明:精説財務諸表論,第4版,中央経済社,東京都,1996. [2]鳥居 修晃:視覚障害と認知,初版,放送大学教育振興会,東京都,1993. Experiment Report — A new teaching method for accounting balance sheets for blind students — OHASHI Katsumi1), NATSUME Takeshi2) 1) Ohashi's the accountant office 2) Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology Abstract : A new teaching method for accounting balance sheets for blind students which was developed by a blind teacher, an accounting specialist with a Japanese authorized Accounting license who encountered damage to his eyes due to disease of eyes, is presented. Through his experience, his current situation and his own needs, a new unique teaching method with some support apparatus for teaching of Accounting was developed. And implementation of this way to his class on the Accounting in the college and evaluation of it or actual cases is reported. An improvement plan is also introduced for future steps. Meanwhile, this class is a business case of educational trial for one of an Accounting course for as an introductory course in this college, but it may be also meat to aid in developing a new occupation for blind people, such as this accounting professional. Key Words ! Braille, accounting balance sheet compensation for Visually impaired, Accounting, teaching methods