筑波技術短期大学における教官業績に関する自己点検・自己評価-報告書記入の具体例- 教官の業績に関する検討研究ワーキンググループ 清水 豊 黒川 哲宇 形井 秀一 根本 匡文 安田 輝男 要旨:本号に掲載されている「筑波技術短期大学における教官業績に関する自己点検・自己評価」報告書は,各教官にかなり詳細に記述することを要求している。教官に対する毎年の業務として点検評価を導入した場合,報告書の記述に混乱が生じないようどのような記述が該当するかを予め指針として提示しておく必要があろう。特に教育や学生指導の質的問題にまで踏み込んだ自己点検・自己評価についての記述は,報告者の戸惑うところとなってはならない。本稿では報告書作成のために指針とするための具体例を示す。 キーワード:教官業績,自己点検,自己評価,報告書の具体例 [様式の1ページ目] 平成13年度 教官業績(教育・学生指導・大学運営等)に関する自己点検・評価報告書(記入例) [様式の2ページ目以降] Ⅰ.授業に対する白己点検・評価 1.教育に取り組む姿勢(障害者教育への理解,授業への熱意など)  障害学生に対して授業を進めるに当たって以下の問題点を解決する必要性を感じた。  視覚障害学生に対しては,教科書「画像設計学」を使用すべく検討したが掲載図面やフローの解説に支障を来たす。8名の学生に拡大投影器を使用し2名の学生には触図を提供する方法で解決できないか考察を進めた。それらの機器教材を使用した場合,授業進行の過程でどの場所を説明しているかを同時に学生に伝達する指示方法も考察した。  また,聴覚障害学生に対する演習を実施する場合,パソコン画面に集中している複数の学生に対して口頭による指示が伝わりにくいため,どのような方法でこちらからの指示を行うか配慮する必要があると考えた。 2.授業の計画性(授業計画の立案,過去の点検結果の反映など) ①計画の立案(科目間の関連性,授業レベル,問題意識や意欲の喚起,思考力の育成,知識や技能の修得計画など) ②前年度の学生による授業評価に対する配慮や自己点検結果の反映 ①学科のシラバスを参照したところ,A教官のプログラミング概論の講義内容と論理処理解説の授業に共通する点があったため,打ち合わせの上,論理設計の解説に重点を置くこととした。  管理システム論を講義するにあたって,「近代管理システム論」やBerkeleyのFreeman教授がインターネットで公開している講義内容を参考にして,最近の知見を授業内容に加えることとし,マルクス商取引論を授業から削除する方針にした。  データ処理論を講義するにあたって解説プリントを配布することとし,ブランク個所を多面的に配置して講義を受けることによって全体が完成する方式をとるようにした。また,この講義を受けることによってデータベース管理者資格試験の合格に結びつくよう,基本事項を重視しつつ試験対策解説書との整合性をとり,試験合格を誘導するよう検討を図った。 ②前年度の学生授業評価によると商取引の授業が分からないとの評価が多かった。そこで,この分野の専門用語解説を補足資料として配布すると共に,当該時間にクイズを出して答えを入念に添削することとした。  前年度の学生授業評価によると図表の説明がわかり難いとの評価があったので,電子メディアで解説することとした。  前年度解説が不十分であった,インターネット商取引の項目を詳しく説明するようにした。 3.授業の実施(授業開始前の準備,教育の実施,学生の受講態度や理解度の把握など) ①授業の準備(教育計画の具体化,教科書や教材,資料,設備の工夫,前回の授業との関連性の検討状況など) ②授業の実施(授業内容をうまく説明できたか,教材は適切であったか,予定通りの授業ができたか,休講に対する対策はとったかなど) ③学生の受講態度,理解度の把握と対応(受講態度を掌握できていたか,学生の理解度に配慮したか,コミュニケーションは円滑になされたか,質問に適切な対応ができたかなど) ①毎回の理解度をチェックするため,5分間クイズを解かせるようにして回答状況を分析し,次回授業の冒頭に解説を加えて確実な知識を与えるように努力した。  高速フーリエ変換の意味を理解しやすくするため,数式展開に||頂を追って解説を加え,かつ,実例として画像処理に応用した場面を使って理解を深めるようにした。  講義で使用する図表をOHPからパソコンに切り替えることによって動的な表現を可能にした。また,拡大投影器でも十分な明瞭度を得られるよう明暗・色彩に工夫を加えた。 ②パソコン演習中,機器に集中しすぎて教官の指示を受け取りにくい面があったため,聴覚障害教育用には画面に強制的に注意文字を表示すると共に,視覚障害教育用にはキーボード振動システムを導入して教育効果の向上を狙った。  工夫した図表教材提示場面では学生は注目して聞いていた。しかし,アニメーションが面白いから注目していたのかも知れず,試験をやってみると理解できてないところもあった。 ③数式展開の説明個所で,学生の数学の基礎学力にバラツキがあるため,予定よりも大幅な時間超過となってしまったのでやむなく補講を行った。学生にはその補講が不満であったようである。  点訳教材や触図,拡大投影器を多用したので複雑な説明は伝達できたと思われる。  授業には手話を併用したが,専門用語については手話がないため約束としてサインを取り決めた。それについて多くの学生は理解してくれたが一部の学生は抵抗を示した。  授業中の質問について全員に関係するものは丁寧に回答したが,稚拙な質問については後で個別に説明するからと言って授業時間を確保した。しかし,その学生にとっては稚拙な質問を突破しないと授業についてこられないようで,対応策を検討する必要があった。  授業での世間話には注目したが,授業解説になると居眠り防止器やおしゃべり警報機の必要性を感じた。 4.総括(授業計画の達成度,成績評価,次年度以降の授業改善など) ①授業計画の達成度 ②成績評価(評価基準が明確であったか,適正かつ厳正な評価を実施したか) ③次年度以降の授業の改善方針 ①予定授業の90%は達成できたと思われる。  他大学の授業と同等のレベルを保つように講義を進めた結果,試験成績の上位者でも60%程度しか得点できなかった。 ②試験成績についての学生の問い合わせに対して答案を提示し,誤り個所の指摘と正解を説明し,全受講者の中でどの辺の成績にあるかを説明した。なお,試験答案は学生には返却しなかったが誤りの指摘を受けた学生は以後注意するとのメモをとらせた。  レポートの評価については,7項目の中で5項目が説明できていればAで合格としたことを学生に説明した。  レポートの評価については減点方式で対応し,説明項目のないものや不適切な説明については減点になったことを学生に説明した。 ③来年度は図表や数式を説明するのに電子メディアを使ってみたい。  来年度の授業にも手話を多用する予定であるが,3年生については社会人との対応を配慮して全く手話を使わない方式も一部取り入れてみたい。  学生が興味を持つメディアを使って画像設計演習のマニュアルを改変したい。 Ⅱ.学生指導に対する自己点検・評価(担当した学生指導の事例,対応と実現度,反省など)  1年次において毎学期必ず3回は欠席することを権利として肯定する学生Bに対して,2年次の第1学期も3回続けて欠席したため授業に追随できなくなることを指摘した。特に,演習においてはBだけが欠席のために遅れてしまったため,遅れを取り戻すための補習を実施し,とにかく授業についていけるよう配慮した。演習や実験での欠席は教科書や参考書ではカバーできないことを体験させたが,2学期は改善が見られたものの3学期になってまた欠席が2回続いた。病気での欠席ではないため,面倒ではあるがこれからも指導したい。  推薦入学した学生Cは高等学校で物理学を学習していなかったため,モデルなど抽象世界での数理的展開を理解するのが困難で授業についてくるのに苦労している。しかし,本人は極めて勉学意欲が高いので授業時間外に特別指導し,どうにか単位を取得させたが会社に入ってからが心配である。  パソコンソフトをコピーさせてほしいと学生が申し入れてきた。断ると,Z先生は卒研をやるためにコピーを認めてくれたし,新しいソフトは1人が購入して学生どうしで回していると言って引き下がらなかった。市販ソフトには著作権があることを説明したが不満のようであった。このため,授業時間に著作権についての大切さを特別に解説し注意をうながした。 Ⅲ.大学運営への参加に対する自己点検・評価(担当した大学運営業務に対する対応と反省など)  教務委員を担当したが,分科会と本委員会が月1度は開催され,それらの結果を受けての学科内での意見取りまとめなど頻繁な作業が伴った。教育機関としてこの委員会は学校の中核的存在であることはわかるが,この委員を担当する場合にはその他の委員会委員の併任を少なくしてほしい。  教育方法開発センター運営委員会の委員を担当したが,委員会の招集を受けるものの学科の委員としてはその席での意見反映を行うところが殆どなく,委員会の単なる頭あわせのような気がした。この委員会についての学科からの委員は必要ないと思われた。  職域開拓WG委員に選ばれたが,企業とは関係ない仕事をしてきたため障害者雇用に関する企業情報に乏しく委員会での役割を十分に果たせなかった。これからは,障害者雇用についての問題意識を高めて障害者の職就先の拡大に努めたい。  入学試験問題作成委員を担当したが,社会的にも責任のある仕事であり神経をすり減らした。この委員は学内で公表された委員ではないため貢献への認知度が低い。大学管理者はこの仕事を高く評価してほしい。 Ⅳ.その他(当該年度の自己点検評価に関する特記事項,FDへの意欲と参加担当授業に関する成果の報告書や論文や授業公開への意欲,インターンシップ指導,学外での障害教育活動,学外委員会委員など)  本年度は演習教材やプレゼンテーションの電子化など教材を充実することができた。また, これら教材を用いて学生に実のある授業を行ったと思われる。このような教材を導入した授業方法について公開するので,関係者の批評を求めたい。また, こうした教材を活用した効果について分析を行い,さらなる改善を試みるとともに,教育効果をレポートにまとめてみたい。  大学および部で開催されるFDへの参加状況は40%程度であった。真に教育改善や学生指導,大学運営に貢献できると思われるタイトルであればもっと参加してみたい。主催者との価値観の相違によるものなのか。  学生のインターンシップ結果の報告会を聞いた。インターンシップ日誌を見ると受け入れ先の評価者は「ほめ言葉」で括っておられた。日常の授業態度と比較するとそれが事実なのか率直に捉えがたいが,結果を信用することにしたい。そのためには,学生の生活態度などもっと厳しく指導すべきであった。  大学,部,学科等の委員会やWGなどの集会に引っ張り出され,お決まりの授業をするのがやっとであった。卒業指導やゼミなど学生の個別指導にもっと力を入れたい。さらに,学会や研究会に度々出席し,井の中の蛙にならず,アカデミックな大学人になりたいと思うが,365日の時間配分を教育公務員としてどう配分すればよいのか苦慮する状況である。  メインとする学会の理事になることの要請を受けたが,本務が極めて多忙なため断った。年1回の学会に参加,発表するのがやつとという現状で,教育活動と研究活動の両立の難しさを実感している。  しっかりした授業は学生との信頼関係で成立すると思っている。そのため,教室では和気藷々の雰囲気を作るよう努力して授業ができたと思われる。この効果が浸透して教室外で学生と顔を合わせると多くの学生との間では互いに挨拶ができるようになった。このことは授業を担当した私の励みにもなっている。しかし,数名の学生は横を向いてすれ違うようである。彼らは授業をビジネスと考え単位修得後は私とは赤の他人であっても構わないと考えているのであろうか。  基本情報処理技術者資格試験のために時間外指導を実施したことのあるDさんから就職後5年目になって試験に合格したとのメールを受けた。同時に,メールに曰く,情報の学生なので物理学や電子工学の授業は関係なく面白くないと先輩から聞かされていたので勉強しなかったが,今になってそれらの科目の必要性を感じたと報告してきた。在学中に関連科目の必要性を全員に説明していたのであるが,教官より先輩の言うことの方が参考になっている風潮は本学において根強いようである。とてもよい実例が得られたので,この例を挙げてこれからの学生に関連科目を勉強する重要性を説明していきたい。  学生からの授業評価によると内容が難し過ぎるとの批判があった。他大学のレベルや社会からの期待を考えると教育レベルはこの程度を保つことは譲れない。この批判が障害者の感覚障害による問題であるのか,学生の能力にあるのかさらに詳しく検討したい。 (謝辞)「筑波技術短期大学における教官業績の自己点検・自己評価」報告書をまとめるに当たって,本学庶務課企画法規係長の河野眞純氏にお世話になった。ここに記して謝意を表したい。