筑波技術短期大学における教官業績に関する自己点検・自己評価 教官の業績に関する検討研究ワーキンググループ 清水 豊 黒川 哲宇 形井 秀一 根本 匡文 安田 輝男 要旨:最近,教官の業績評価を的確に実施することが課題になってきた。本学では教育業績や管理運営に関する業績等を含めたこの課題を検討するために「教官の業績評価に関する検討研究ワーキンググループ」が設置され,主な検討事項として教官の業績評価の在り方の整理,教育及び管理運営に関する業績の評価事項の抽出整理及び記録方法について検討された。本稿ではワーキンググループで取りまとめられた結果を報告する。 キーワード:教官業績 教育業績 学生指導 大学運営 自己点検 自己評価 1.はじめに  教官の業績評価を的確に実施することを目的として,学長の諮問に基づいて構成された「教官の業績評価に関する検討研究ワーキンググループ」では,当該問題に対する教官各々の意識調査をアンケートにて聴取すると共に,6回に及ぶ委員会を開催して検討を行ってきた。  全教官に配布したアンケートの回答率は69%に達し,約7割の教官がこの問題に関心を示していることが認められた。多くの教官は「教官の業績」を研究の業績,すなわち,権威ある学会誌に研究論文をいかに多く書いているかに直結させている。このことは年月日をもって明らかな実績を表現できるので,検討の余地は少ない。  一方,最近話題にされるのは,教育上の能力と実績をいかに評価するかということである。「教育の業績」に触れる多くの教官は,担当教育科目数や担当時間の多さなど教育に負担する量的な時間を評価対象とすることを望んでいるようである。これについても実数を把握できるので議論の余地は少ない。問題となるのは,教育がうまくできているかという質的な面をどのように評価するかという点である。  当ワーキンググループでは,このアンケートを十分に吟味しつつ「筑波技術短期大学における教官業績に関する自己点検・自己評価報告書」の作成を毎年提出する方向での取りまとめを行い,学長に答申した。 2.教官の業績に関する基本的な考え方  平成13年度に改正された大学設置基準では,大学の教官には研究上の能力のほかに「大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有する」ことが求められている。大学教官に教育能力を求めることになった背景には二つの契機があると思われる。ひとつは,大学に教育機関としての役割が強く求められるようになったことである。従来の大学が研究活動を中心に据えていたのに対して,大学を教育機関として位置づけ,その役割をきちんと果たしてもらおうという機運が強まった点である。もうひとつは,教育活動に熱心で学生指導にも優れた教官が人事面で評価されていないという実情から,教育業績を正当に評価できる機構をつくる必要性が生じてきたのである。 2.1 教育業績についての考え方  このワーキンググループの作業目的は,教育業績についての事項を整理し記録法を検討することにある。しかしながら,教育業績を考えていく場合には,どのような業績を,誰が,どのような方法で評価するのかといった問題を無視して進めるわけにはいかなかった。また,事項を検討する際に前提となる教育業績についての考え方をある程度整理しておく必要もあった。そこで,次のような問題についての議論をはじめに行った。 (1)研究業績と教育業績との関係  研究業績の場合は,学位や著書,あるいは学術論文の質や量が対象となるため,客観的な評価をしやすいのに比べて,教育業績ではシステマチックな評価がしにくいといわれている。すなわち,研究業績が研究活動の成果であるのに対して,教育業績の場合は,ダイナミックな教育活動それ自身が対象になる。そのためには,教育成果だけでなく,教育活動の過程や副産物,あるいは教育活動に費やした努力や労力なども業績として捉えなければならないだろうという側面がある。また,教育活動の効率を,学生や同僚がどう評価したかも対象となってくる。つまり,教育業績の評価は多面的な性質を持つのである。  一方,研究業績と教育業績のどちらが大学教官の仕事として重要かという議論がある。研究能力がそこそこ優れている教官は比較的得やすいし,逆に教育能力においては優れた力量を示す教官も比較的得やすい。しかしながら,研究も教育も両方に優れている教官は極めて希であると言われる。我々に求められているのは,教育業績を研究業績の補完的なものとして位置づけるのではなくて,両方同時に,同じ質的な価値を持つように遂行することが求められているという立場に立つべきであろう。 (2)何を教育業績とするのか  本報告では,どのような教育活動や成果を教育業績として評価していこうとするのかという評価事項の検討が最初の課題となる。それらは担当授業や学生指導,あるいは管理運営活動の実績であることもある。また,担当授業の点検・評価や,教育活動の記録や授業改善の努力,作成した教材なども対象となってくる。本ワーキンググループでは,本学の全教官を対象として望ましい教育業績評価の事項についての調査を行い,その結果を参考にして事項の整理を行った。  第二は,その業績がどのような形になるのかということである。業績として評価されるためには,評価者に対する説明資料としての証拠性が求められる。すなわち,教育業績として評価の対象とするには鈩記録とか教材というように形として残っているものである必要があるだろう。また,授業担当や管理運営分担などは,活動内容とは別に分担として記録が残っているものである。ところが,教育活動の報告書のように自己申告の記録などでは,それを裏付ける証拠が用意されていない場合がある。その教育活動や成果を裏付ける何かをなんらかの手法で示すことができる方法を工夫しなければならないだろう。ただ,今回は,教育業績をどうするかという検討の第1段階であるので,各教官がどのような教育活動を行っているか,その活動内容や効率を自分としてはどう評価するかについての自己点検・評価を記述することから始めたらよいのではないかということになった。 (3)誰が評価するのか  教育業績の場合は,①教育活動の自己点検・評価報告書,②学生による授業評価,③同僚教官による評価,④大学当局(上司や管理職)による評価,⑤第三者機関による評価に分類される。外国の大学では1),学生による授業評価,同僚教官による評価,および大学当局による評価が一般的に採用されていることが多いようである。 (4)何に利用するのか  教育業績を何に利用するかということを考えると,新規雇用や,昇任人事,あるいは昇給の資料となるだろうし,大学設置審議会に提出する個人調書の記載事項にもなるだろう。さらに,法人化されたときの予算化の資料として教育実績が要求されることもあろうと考えられる。そのことから,多様な人や機関から評価されるためには,教育業績に客観的な,性格を持つ証拠としての性格を持たせる必要が生じてくると考えられる。 2.2 今回の教育業績についての事項  本学の教育業績評価はまだ緒についたばかりであり,それぞれの教官が教育業績について考え,何らかの用意をし,記録していきながらよりよいものを作り上げていかなければならない。そのような観点から,本ワーキンググループでは,各教官に教育活動に関する自己点検・評価報告書を作成してもらうこととし,当面はこれをもって教育業績とすることではどうかと考えた。その際,以下の三つの項目を取り上げることにした。 (1)教育活動に関する自己点検・評価  自己の教育活動についての業務報告書に当たるものである。教育活動の実績として,担当授業科目や担当時間数,学生指導の記録などである。また,学内の管理運営に関する業務分担とその貢献度の記述である。これは当該年度における教育活動の実績として点検・評価されるものである。 (2)教育に関する成果  教育活動に関する著述や教材などであって,自己点検・評価報告書に記述されている事項を裏付ける証拠として用意されるものである。これらは教育業績のポートフォリオとして用意されるばかりでなく,研究業績のように教官個人の業績として積み重ねられていくものである。 (3)教育活動に関する記録  それぞれの教官が行った教育活動について,どのような目的やプロセスで指導を行ったのか。その結果,どのようなことが達成できたか等について記述してもらうものである。この項目については,本来それらの記述の裏づけとなる証拠が要求されることになると思われるが,このことについては今後の課題としたい。 3.自己点検・自己評価報告書の様式  この報告書は「教官の業績」を自己点検・自己評価することを目的としてA4用紙数枚で構成される。第1ページは報告年次の担当授業科目や担当時間,学生指導,大学運営参加,教育活動の実績の具体的内容を記述する。 これだけで,当該年次の量的実績が把握できる。第2ページ以降に自己点検・自己評価を設定項目別に自由記述する。以下に,報告書の様式を示す。 [1ページ目の様式]:本来はA4一枚であるが,ここでは紙面の都合で記述欄の行間は省略してある [2ページ目以降に記述する項目] I授業に対する自己点検・評価 1.教育に取り組む姿勢(障害者教育への理解,授業への熱意など) 2.授業の計画性(授業計画の立案,過去の点検結果の反映など) ①計画の立案(科目間の関連性,授業レベル,問題意識や意欲の喚起,思考力の育成,知識や技能の修得計画など) ②前年度の学生による授業評価に対する配慮や自己点検結果の反映 3.授業の実施(授業開始前の準備,教育の実施,学生の受講態度や理解度の把握など) ①授業の準備(教育計画の具体化,教科書や教材,資料,設備の工夫,前回の授業との関連性の検討状況など) ②授業の実施(授業内容をうまく説明できたか,教材は適切であったか,予定通りの授業ができたか,休講に対する対策はとったかなど) ③学生の受講態度,理解度の把握と対応(受講態度を掌握できていたか,学生の理解度に配慮したか,コミュニケーションは円滑になされたか,質問に適切な対応ができたかなど) 4総括(授業計画の達成度,成績評価,次年度以降の授業改善など) ①授業計画の達成度 ②成績評価(評価基準が明確であったか,適正かつ厳正な評価を実施したか) ③次年度以降の授業の改善方針 Ⅱ学生指導に対する自己点検・評価(担当した学生指導の事例,対応と実現度,反省など) Ⅲ大学運営への参加に対する自己点検・評価(担当した大学運営業務に対する対応と反省など) Ⅳその他(当該年度の自己点検評価に関する特記事項,FDへの意欲と参加,担当授業に関する成果の報告書や論文や授業公開への意欲,インターンシップ指導,学外での障害教育活動,学外委員会委員など) 参考文献 [1]Dilts,D.A.,Haber,L.J.,and Bialik,D.(1994)Assessing what professors do:An introduction to academic performance appraisal in higher education,Greenwood Press.