平成13年度公開講座「パソコンを利用した点訳入門」アンケートから 筑波技術短期大学1) 情報処理学科1)教務第二課2) 宮川 正弘1)三宅 輝久1)小林 真1)遠藤 純子2) 要旨:表記公開講座5回目の概要を記し,応募者,受講者の希望,満足度,感想についてのアンケートを,昨年度のアンケートと対比しながら分析した。今回は昨年受講できなかった方から受講者を選択した。受講者は「パソコンによる点訳はどのようにして行うものかを知ってみたい」人だと思われ,受講後は「パソコンによる点訳が予想以上に直接的で,能率的である」ことを理解していただけた事がアンケートにより伺える。今年度より始まった「初級点字入門」と連携を取りながら,パソコンによる点訳を短期間で手ほどきする公開講座を継続するのが望ましいと思われる。 キーワード:点字 点訳 公開講座 パソコン 地域交流 1.はじめに-目的-  点字関係の公開講座は5回目[1,2,3,4]である。前回の結果を踏まえ講座の目的は, 1.点字について広く知っていただく, 2.学科で活用しているEbraWin[5,6]等を用いたパソコンによる点訳技術の入門, を目指した.併せて本学の活動についても理解を深めてもらうこととした。講座に満足してもらい,点訳ボランティア志望へのきっかけにもなることが講座開設の目標であった。  2001年1月の学科会議で,継続して点字に関する公開講座を開くことの意義について確認した。視覚障害者教育における点字と点字図書の果たす役割,当大学だけで使われている点字エディタEbraWinの有用性を世間に認めてもらうこと,毎年、多くの希望者があること,特に昨年の希望者は59名で,多くの希望者に次年度まで待っていただく状態であったこと,などが講座開設の理由である。 平成12年度公開講座からの変更点  大筋と担当者を決める2001年1月の段階では,アンケートで評判の良かった前年度の講座内容を踏襲することにした。直前に配布資料を作成する段階で点訳ソフト(仮名分かち書きへの変換)を,有償ソフトのExtra(昨年までは,無償で使用が可能な旧版を使ってきた)から岐阜大学で公開されたフリーソフトIbukiTenに変更した。また,点字エディターも,限られた時間のために,フリーソフトのBASE,TDCやIBM社が開発し、無償で提供しているWinBESを講座では使わないことにした。講座の直前にテキストの印刷製本とソフト(IbukiTen,EbraWin)のインストールを行った。 2.応募  昨年は多数の受講希望者があったため,今年の公開講座受講希望の案内は昨年の応募者で受講できなかった方だけにお送りした。その結果24名の方が再び応募された(歴年の応募者数は平成10年37名,平成11年22名,平成12年度59名)。他に1名,点字の経験者で,是非Windows上での点字ソフトについて知りたいというかたが,別ルートで応募された。この方は,学内向けに開催したEbraWinの講習会に参加していただき,今年度の受講者としては,定員12名を無作為に選んだ(女性12名)。受講者の居住地は,つくば市6,牛久市2,阿見町1,美野里町1,境町1,守谷町1である。応募者の居住地域は近隣の広い範囲にある。地域を表1にしめす。  男性の応募者は別ルートの一人をあわせ4名で1人は60才以上,残りは40台後半から50才前半である。  職業は主婦および無職が第一位であるが,広がりがある。応募用紙にかかれたままの分類を表2に示す。  応募者の年齢層は表3に示す通りであった。最多層40歳代は昨年と変わらない。 表1 応募者の居住地 表2 応募者の職業 表3 応募者の年令 3.講座の内容  講座時間数は昨年を踏襲した。7月4日(水)5日(木)10:00-12:00,13:00-15:00 2日間述べ8時間行った。 表4にその内容を示す。主講師を一人として,残りの講師全員がパソコン操作や点訳実習に対応した。最終日には修了証書を手交し,アンケートに記入していただいた。  二日目,専門点字の内容は次のとおりである。2級英語点字による英文の表し方,数学記号の表し方,プログラムリストの表し方である。また,IbukiTenとEbraを用いた専門文書の点訳では,TeXによる数学記号の入力法も紹介した。さらに,EbraWin2開発者の染田 貞道元教授により,触図などに説明のための点字を添える簡便なやり方が紹介された。すなわち,別なファイルにローマ字入力された墨字をEbraWinを用いて,点字に変換し,さらにそれをドラッグ.アンド・ドロップする手法により,Windows上の任意の図表の任意の場所に,点字の説明を挿入することが出来る。 4.受講者の感想-アンケートから-  受講者に対し,1受講の目的と達成度,2点字およびパソコンの経験程度,3.講座の期間,4難易度およびテーマについての興味の度合い,について答えていただいた。以下に,その集計結果を示し若干の考察を行う。 4.1 受講者の目的と満足度 受講の目的を次表に示す。 a. 点字の習得 3 b. 点字処理ソフトの習得 11 c. その他 1  昨年と同じく,点字の習得より,パソコンを点字処理に使ってみたいという立場であろう。  次の意見が書かれていた:1.パソコンによる点訳について興味を持った。 目的の達成度については,次の回答であった。 a. 十分満足 3 b. まあ満足 7 c. 不満が残った 1 c.の内容は以下の通りである:1.パソコンを理解していないので少し無理があった。もう一度受講したいこれはおそらく,キーボードと日本語入力への不慣れの意味であろうと思われる。 4.2点字とパソコンの経験 a. 点字に経験なし 5 b. 点字学習経験有り 7 c. 点字に熟達している 0  今回は,点字経験者の割合が昨年より多い(昨年は1名のみ)。b.に示された点字の学習場面は以下の通りであった。1.点字サークルに参加している。2.中学校のときの文化祭で。 パソコンの利用経験については, a. ほとんどない 0 b. ワープロ使用 8 C. 日常的に使用 4  パソコンを自宅に持つ人11人である。日常的に使用する人は4人であるが,大部分の人が日常的にパソコンに接していると考えてよいと思われる(職場では毎日使う3,使わない6)。昨年は1/3(15人中5人)がパソコンを日常的に使用であった。家庭でのパソコン使用は浸透したとかんがえられる。  パソコン使用の場面は,インターネット3,メール2,図表作成2,Excel1,画像処理1,編集作業1,文書処理1,印刷1であった。一昨年から始まったインターネット利用が昨年に続き行きわたってきた。自宅にあるパソコンの機種については昨年同様メーカーがさまざまである(NEC5,富士通3,Mac2,IBM1,シャープ1)。 配布したEbraWinはWindowsでは使用可能であるが,残念ながらMacでは使えない。 4.3期間 a. 適切である 7 b. その他 5  適切と答えた人の意見は,書かれていなかった(解答の場所が設けられていない)。 その他と答えた人の意見は,以下の通りである。 1.受講内容からは時間不足3。 2.小学校低学年の子どもがいる場合が気になる。 3.-週間程度の講座があれば。 4.3日間ぐらいを同時間帯で開講してほしい。  もうすこし時間をかけて点字になじみたいという感想を持った方は,点訳ボランティアなどで点字を使いたいのであろう。本講座はそこまでの充実度は持っていない。従って,本講座では当分このままの内容でよしとし,希望者には以後の点字勉強の道を示すことで良いと思われる。幸い,教育方法開発センターの主催で,「点字講座」が今年からはじまった。 4.4 テーマについての回答  講座の難易度に対する反応は a. やさしい 0 b. 適度 8 c. 難しい 4 である。b.は以下の通り:1.少し早く進んでしまうところがあったが易しかったと思う。 全般的には,この程度で良いという事であろう。 テーマ毎についての反応は次の通りである。 【表】 e.についての感想として次がある:1.点字編集ソフトは初めてなのでこれ以上は少々つらい。 その他の回答  パソコンの操作にもっと時間を割いた方が良いかについては昨年と同じ意見が半々(5:6)であった。感想としては次がある: 1.Windowsの経験者には必要ないが、未経験者には必要3, 2.初心者、初級、中級ぐらいに別れたほうが良い。この回答から,受講者はパソコンの仕組み,および,点字処理全体についての関心があることがわかる。  これまでに使ったことのある点字ソフトとしては,BASE, WinBes,Winbがあった。  「初級者点字講習会」への申し込みについては,申し込み者は4名に留まっている。申し込まなかった理由は,仕事の都合1,日程的1である。 5.おわりに  パソコン点訳入門を行う啓蒙的公開講座についての受講者の評価・感想をアンケートからまとめた。毎年、多くの方に応募していただき,さらに公開講座がおおむね好意的に受け取られている事は主催者にとり,何より力づけられることである。この成功は,ひとえに,染田 貞道本学元教授が日夜開発を続けておられる混在点字エディターEbraWinのおかげである。  一方,短期間の講座を受けるだけでは,パソコンを実際に点訳に使うところまでは,なかなか行かないようである。講座がきっかけで,筆者の-人は,点訳ボランティア活動をされていた大学時代の恩師と33年ぶりの劇的回合に恵まれた。その縁で,「もりや点訳サークノレきつつき」との交流を行う機会を得たが,ここでも,新しい点訳ソフトの浸透までは時間が必要のようである。  昨年,一昨年と開講日を2日にしたことは受講者にも密度の高い緊張感を与え良かったと思う反面,毎回数人の方が,もう少し長い時間の開講を希望される。今年度はまた,Windows時代の最新の点訳技術を知りたいという,足利市のボランティアのかたにEbraWinの講習会に参加していただき,本学関係者が開発された最新のソフトに満足していただくことが出来た。講座でEbraWinの使い勝手のよさに驚かれる点訳ボランティアに接するにつけて,点訳ソフトを使いこなすことができるボランティアを各地に育成することに役立ちたいと思う。  本学の活動についての理解を広く社会に求める立場からも,受講者の意図を尊重した講座開設を心がけたいと思う。 謝辞  本講座を受講しアンケートにご協力いただいた受講者12名の方にお礼を申し上げます。染田 貞道本学情報処理学科元教授には開発されたEbraWinを日頃より提供していただくとともに,公開講座での使用配布を快諾していただきましたことを感謝いたします。栗原 亨助教授には資料を提供していただきましたことをお礼を申し上げます。  昨年度にひきつづき,「混在点字エディターEbraWin講習会」を,開発者の染田 貞道情報処理学科元教授を招いて,公開講座の時期に合わせて行った(平成13.7.6)。対象者は、学内の点字資料作成に関わっている職員,アルバイター,および公開講座に申し込まれた点字の経験者(足利市でボランティア活動をしておられる方)である。受講者は,学外者(1),教務係(1),管理係(1),点訳アルバイタ(1),情報処理学科(7)であった。内容は,オンラインヘルプ,インストール,アンインストール,文書間および他のアプリケーションへの切り貼り(ドラッグ&ドロップ)(以上は拡充された機能),単語登録,数式の入力,2級英語への変換など,専門点訳の手ほどきであった[7,8]。ご協力をいただいた教育方法開発センターに感謝いたします。 参考文献 [1]伊奈 論:公開講座「パソコンを利用した点訳入門」の概要と結果,筑波技術短期大学テクノレポート,4,205-209,1998 [2]宮川 正弘,栗原 亨,他:公開講座「パソコンを利用した点訳入門アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,6,183-185,1999. [3]宮川 正弘,三宅 輝久,他:公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,7,101-103,2000. [4]宮川 正弘,三宅 輝久,他:平成12年度公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,7,187-191,2001 [5]染田 貞道:,情報処理・数学記号および英語混在文章用点字エディタ,筑波技術短期大学テクノレポート,4,103-105,1997. [6]染田 貞道,宮川 正弘,他:専門点字混在文章用エディタの開発と活用,筑波技術短期大学テクノレポート,7,101-103,2000 [7]染田 貞道,宮川 正弘,他:専門点字混在文章用エディタの開発と活用(その2),筑波技術短期大学テクノレポート,9,-,2002. [8]染田 貞道:EbraWin2操作(資料),616,2000 [9]染田 貞道:EbraWin2Ver242トピック(資料),7.05,2001. 付録.(受講者の感想) 最も役立ったこと ・点字の仕組みがわかった2 ・点字に取り組むきっかけとなった2 ・パソコン操作や知識3 ・パソコン点字にふれられた ・PCを使って点訳が出来る流れを実際に体験できたこと ・ワードなどで作った文章を点字に出来ること ・現在利用しているソフトより使い勝手が数段良い ・EbraWin,IbukiTenを知ったこと 最もおもしろかったこと ・パソコンの仕組みや中身2 ・自動点訳ソフト4 ・授業の全て楽しく面白く受けられた ・普通の英文が2級英語になるところ ・自分で作った文章を点字印刷できたこと ・全て ・変換が簡単に出来る ・点字の切り貼りや点字の覚え方(歌)など その他 ・有難うございました3。 ・わかり易かった。 ・6点入力法をもっと勉強したい。 ・もう少し時間をかけて勉強したい。 ・先生方の雰囲気も和やかですぐに緊張がほぐれた。 ・点訳のルールを理解すれば点字を全て覚えていなくても点訳ができるという希望が持てた。 全体についての感想 ・他の講座やサークルなどへの紹介4。 ・4年目にして初めて受講でき楽しく学べたが、できれば2,3年目での受講ができれば良い。 ・点字の講義が少なかった。 ・充実した時間が持て、点字を打つこと、読むことがまったく反対なので戸惑ったがこれからももっと、実践してみたい。Macでも利用できるようになると良い。 ・より深く勉強しボランティアなどに役立てたいと思う。 ・このソフトを使った点訳を勉強したい。 ・もう少し長い日数にして欲しい。 Report on Open University Course: 5-th "Braille Transcription" — An Analysis from its Questionnaire — Masahiro MIYAKAWA1) , Teruhisa MIYAKE1) , Makoto KOBAYASHI1) , Junko ENDOH2) 1) Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology 2) Academic Affairs Second Section, Adminisntrative Division, Tsukuba College of Technology Abstract : This report summarizes a regular open university course (5th time since 1998) of braille transcription taught by the Department of Computer Science. The subscribed people (12) were chosen randomly from the applicants (25) who applied last year. An analysis is made of the applicants, regarding their habitation areas, occupations and ages. Based on their questionnaires, another analysis was made, especially as to the intention of the subscribed people toward braille learning, and the degree of their satisfaction after the course. They seemed to enjoy learning braille and welcomed this course. Continuing the annual course may be very useful for spreading braille in society. Key Words : Braille transcription, Open university course, Spread of braille