筑波技術短期大学卒後教育システム構築に関するパイロットスタディ 筑波技術短期大学理学療法学科1)教育方法開発センター(視覚障害系)2) 吉田 次男1)薄葉 眞理子1)前島 徹1)小林 和彦1)高橋 憲一1)石田 久之2) 要旨:卒後教育、同窓会、インターネット利用の3点に関し、調査を行った。筑波技術短期大学視覚部3学科(鍼灸学科、理学療法学科、情報処理学科)の平成5年度から平成11年度までの卒業生217名を対象に、郵送によるアンケート調査を行った。回答は無記名とした。有効回答数は63名(回収率30%)。22名は住所不明で返送された。卒後教育については51名(81%)が必要性を感じ、12名が必要性を感じていないという結果であった。 同窓会については、43名(68%)が必要性を感じ、17名が必要性を感じておらず3名が無回答であった。パソコンをインターネットに接続しているものは65%、パソコンによる電子メール利用は56%であった。これらの結果から、卒後教育の重要性とそれを実現するための1つの方法としてのインターネットの重要性が明らかになった。回収面では、卒業生の住所の把握が不十分なことを痛感した。卒業生の住所、就職先'情報をどのように充実させていくかということも今後の重要な課題の一つと考えられた。 キーワード:卒後教育 視覚障害 インターネット 1.目的  卒後教育システム構築に関するパイロットスタディとして、以下の3つの目的で、調査・研究を行った。 1.卒後教育システム構築に対する調査及び卒業生の動向の把握 2.本調査の結果を踏まえた卒後教育システム構築の具体的な検討と試み 3.同窓会活動に対する支援の検討 2.調査の対象と方法  筑波技術短期大学(以降本学と記す)視覚部3学科(鍼灸学科、理学療法学科、情報処理学科)の平成5年度から平成11年度までの卒業生を対象とし、目的のところで述べた3つの目的でアンケート調査を行った。アンケートは、郵送とし回答は無記名とした。宛先は自宅、就職先、帰省先のいずれかとした。平成13年3月に卒業生217名に対してアンケートを発送した。  質問事項は以下の通りである。なお、本章の最後に調査に用いた質問紙を添付した。 視覚部卒業生に対する質問事項 調査1 卒後教育について 必要性/学習内容/学習形態 調査2 同窓会について 必要性/期待すること 調査3 インターネット利用について パソコン利用の有無/パソコンの設置場所/インターネットの有無/電子メール/携帯電話やPHSによる電子メール利用/メーリングリスト/ホームページ/電子図書利用 3.結果と考察  2001年5月末までに回収は64名。うち1名は亡くなっており、家族から返送されたため有効回答数は63名であった。また、22名は住所不明で返送された。回収率は約30%であった(図1)。  回収面では、卒業生の住所の把握が不十分なことを痛感した。卒業生の住所、就職先情報をどのように充実させていくかということも今後の重要な課題の一つと考えられた。 3.1 卒後教育について  卒後教育を「卒業後自分の専門分野に関するスキルを向上させる目的の教育」と定義し、卒後教育の必要性を感じているかどうか質問した(図2)。  さらに、卒後教育の必要`性を感じていると答えた者に、卒後教育としてどのようなことがらを学習したいか(複数回答可)、また、どのような形態で卒後教育を受けたいか(複数回答可)質問した。  その結果、卒後教育の必要性を感じている51名のうち、学習内容として専門分野を希望した者は44名(86.3%)で、このうち専門分野とともに視覚障害の克服を挙げた者が2名、専門分野とともに一般常識を挙げた者が1名、その他2名、無回答が5名であった(図3)。  卒業後の生涯学習は近年ますます盛んになっており、文部省や自治体も社会人の生涯学習については大いに力を入れているところであり、実践状況の報告や見通し、提言などが数多く提出されている[1]  一般の社会人を対象とした生涯学習に関する調査[2]によると、調査の回答者が過去1年間に受講した学習領域は、「健康・スポーツ」関連が23.7%、「趣味的なもの」が23.2%で断然多く、「職業上必要な知識・技能」(9.9%)や「家庭生活に役立つ技能」(8.5%)などは受講頻度が低かった。  視覚に障害を持つ社会人に対する生涯学習に関する意識調査[3]ではもっともニーズが高かったのは、「専門的な知識・技能」についての学習であり、この項目をチェックした人は460人中315名(68.5%)であった。本学卒業生を対象とした、生涯学習に関する過去のアンケート調査[4]では、生涯学習で学びたいことのトップは職業に関する知識であった(75.0%)。2番目は、「コンピュータや新しい情報機器に関する事」であった(62.5%)。  本アンケート調査でも、卒後教育の必要性について聞いているが、81%という非常に高い肯定率を得るとともに、そのほとんどは専門分野であった。これらのことから視覚障害を有する社会人にとって職業上の専門的な知識・技能についての卒業後の教育が重要であることが示唆された。  また、中間報告ではあるが、本学がごく最近施行したアンケート調査「企業を対象とした大学設置に関する調査」では、本学卒業生についてフォローアップを求める声が回答の84%を越えており卒後教育に関する本学リソースへの期待は高いとある。さらに、障害者自身を再教育することにより、職場適応、専門性の向上を図り、様々な問題を解決したいという意図が窺えるとある[5]。  「卒業生が希望する卒後教育の形態(複数回答可)を図4に示す。最も多かったのは、インターネット等の情報通信手段を利用したい」で、次いで「大学で行う講演会やセミナー等に参加」であった。その他のうちでは、開催場所を地方、東京、大都市、職場近くというものが、約半数あった。  視覚に障害を持つ社会人に対する生涯学習に関する意識調査[3]では生涯学習を阻む要因として、経済的理由が第一位であったが、第二位に「交通が不便だから」というもので、176名(38.5%)が指摘した。本学卒業生を対象とした、生涯学習に関する過去のアンケート調査Mでは、卒業生が学習することが困難である理由として、学習時間の確保が最大の問題であった。この時間のうちには会場まで行く時間も含まれると思われ、インターネットを利用することにより、ある程度時間が節約できることが期待される。  本アンケート調査では、来学して講演会やセミナー等に参加するものが38.1%あったほか、半数近く(32人、50.8%)がインターネット等の情報通信手段を利用したいと答えており、ITの推進とともに「交通の不便さ」は、卒後教育の妨げにはならなくなっていくと考えられる。卒後教育の必要性を感じていないと答えた者12名に、その理由(複数回答可)を聞いた。最も多かったのは「自分で学習、独学できるから」(7名)、次いで「興味のある内容がないから」(2名)、「今の知識、技術で十分だから」、「学習の場がないから」が各1名、その他3名であった。 3.2 同窓会について  同窓会の必要性についての調査結果を図5に示した。 同窓会が必要であると答えた者43名に、同窓会に期待することがらを自由記述形式で回答してもらった(複数回答可)。情報交換という回答が32名と最も多かった。その他「交流」3名、「同窓会誌の発行」1名であったが、これら2者も情報交換と捉えれば36名すべてが情報交換となる。無回答は7名であった。  同窓会を必要としない理由(複数回答可)については、11名が回答し、「個人的又は少人数で会っている」が一番多かった(6名)。その他「必要性を感じない」が4名であった。 3.3 インターネット利用について  パソコンを利用している者は52名、いない者は11名であった(図6)。アンケート実施時において回答者の5人のうち4人(82.5%)がパソコンを利用している。またパソコン利用者52人のうち41人(788%)がインターネット接続をしている。これは全有効回答者63名の65.1%にあたる。一方、全国では2000年11月におけるインターネットの世帯普及率は34.0%であり、また、パソコンによるインターネットの利用者数は2000年末で3,723万人(15歳以上79歳以下10,351万人のうち)と推計され、おおよそ3軒に1軒、または3人に1人の割合でインターネットを利用している[6]。単純な比較はできないが、本学卒業生のインターネット利用率は全国平均よりはるかに高いと言える。  パソコン利用者のうち、置き場所についての結果を図7に示す。「仕事先」のみは4名であり残り47名は、「自宅」「自宅と仕事先両方」「ノートパソコン」のどれか1つ以上を答えており、何らかの形で自宅でパソコンを利用しているものはパソコン利用者の90.4%(47/52人)と、大多数である。  全国的にはパソコンによるインターネットの利用者の利用場所は自宅が多く(82.3%)[6]、本学卒業生の場合も「自宅」にのみパソコンがある人のうち75.0%(16/23人)が、また「自宅と仕事先両方」にパソコンがある人は95.2%(20/21人)が自宅か仕事先のどちらかでインターネットを利用しており、全国的傾向と同じように自宅でインターネットを利用している卒業生が多いと思われる。  パソコンからインターネットを利用している人に対して行った全国的な調査では、利用率が最も高いのは「電子メールの送受信」(88.3%)であり、次いで「趣味等の情報検索」(77.9%)、「生活実用上の情報検索」(63.0%)、「仕事上の情報検索」(54.0%)となっている[6]。本学卒業生の回答では、インターネットを接続している41人のうち35人が電子メールを行っておりその割合は85.4%であり、電子メールとして利用している点では全国的傾向と同様である。  携帯電話やPHS等パソコン以外で電子メールを行っている回答者は36.5%(23/63人)でおよそ3人に1人である。携帯電話やPHSからのインターネットの利用者数は全国的には2000年度末で2,364万人(22.8%)と推計され、急激に伸びており今後も伸びていくものと予想される[6]。本学卒業生は全国水準より高いレベルの利用が見られるが、本学卒業生の年代では決して高いとは言えない。本学でも学生が携帯電話でメールを打つ姿を目にするが、全盲や強度弱視の学生には小さな画面しかない携帯電話によるメールなどのインターネットは今のところ利用しにくいのではないかと思われる。利用していると答えた回答者と視力とは相関があるかもしれないが、今回のアンケート調査では不明である。  以上のことから本学卒業生は全国平均と比べてインターネットの利用が高いこと、全国的な傾向と同様にインターネットではメールをよく利用していることがわかった。本学では在学中にほとんどのすべての学生がパソコンを使えるようになっており、卒業後もその技術を利用して、インターネットを活用し積極的に他の人とコンタクトを取ったり,情報を得ているものと考えられる。  本学の一部ではすでに行われているが、もし卒業生および本学教官でメーリングリストを作ったら参加するかとの問いに「参加する」34名54.0%、「インターネットを始めたら参加したい」14名222%の合計76.2%の積極的な回答があった。「どちらとも言えない」、「内容によりけり」が各1名、無回答が3名であった(図8)。  ホームページに載せてほしいことがら(複数回答可)として、仕事上の相談コーナーが50.8%と最も要望が多かったが、メーリングリスト希望の理由も同じようなものだと思われる(図9)。  むしろ双方向に連絡ができるメーリングリストの方がこの内容にはふさわしいかもしれない。今後卒後教育を充実させる点で重要項目であると考えられる。  本学の電子図書資料を利用したいと考えている回答者は68.3%あり(図10)、そのうちの半分の回答者が、「教科書、参考書的なもの」、「学術文献」を望んでいる(図11,図12)。  本学視覚部卒業生は、鍼灸、理学療法、情報処理方面に多く就職しており、卒業後も新しい専門的知識と技術が要求されるにもかかわらず、拡大本や点字資料が容易には入手しにくいものと思われる。点字資料以外の著作権の問題[7]、常に新しい資料作成を行っていかなければならないなど課題も多い分野であるが、卒後教育として本学が積極的に関わっていくべき領域でもあると考えられる。 図1 回収 図2 卒後教育の必要性 図3 卒後教育の学習内容(複数回答可) 図4 卒後教育の形態(複数回答可) 図5 同窓会の必要性 図6 パソコンの利用について 図7 パソコンの置き場所について(複数回答有り) 図8 メーリングリスト 図9 ホームページ開設項目(複数回答可) 図10 回線等を利用した電子図書の利用 図11 電子図書:利用資料の形態(複数解答可) 図12 電子図書:利用資料の種類(複数解答可) 謝辞  アンケート調査用紙発送等に多大なご協力を頂きました理学療法学科技官大沢 富士子さん他、同学科の教官の方々には深く訪憶を表します。 文献 [1]「教育自書」平成8年度我が国の文教施策-生涯学習社会の課題と展望-、文部省、1997. [2]「生涯学習に関する世論調査」、総理府、1992. [3] 小畑 修一、沖吉 和祐他:身体に障害を持つ社会人に対する高等教育のあり方に関する調査研究、筑波技術短期大学文部省委託調査、1988. [4] 根本 匡文、石田 久之他:本学卒業生における職場適応の状況と生涯学習の必要性に関する調査研究、筑波技術短期大学平成10年度学長裁量経費プロジェクト報告書、1989. [5] 筑波技術短期大学視覚部ワーキンググループ:企業を対象とした大学設置に関する調査(中間報告)、2001. [6] 平成13年版情報通信白書、総務省、2001. [7] 吉田 次男、水島 和夫:視覚障害学生用学習教材作成上の著作権問題処理について-パソコンによる点訳上の問題点-、メディア教育研究、No6:15-22,2001. アンケート調査用紙 Ⅰ教育について 1.卒後教育(卒業後自分の専門分野に関するスキルを向上させる目的の教育)について伺います。 (1)卒後教育の必要性を感じていますか。 ア.感じている イ.感じていない アとお答えの方のみ、ご回答ください。 ア―(1)卒後教育としてどのようなことがらを学習したいですか。(複数回答可) ア―(2)どのような形態で卒後教育を受けたいですか。(複数回答可) ア.筑波技術短期大学で行う講演会やセミナー等に参加する。 イ. インターネット等の`情報通信手段を利用したい。 ウ.その他 イとお答えの方のみ、ご回答下さい。 イ―(1)卒後教育が必要でないのはなぜですか。(複数回答可) Ⅱ同窓会について伺います。 1.同窓会の必要性について伺います。 ア.必要である イ.必要でない アとお答えの方のみ、ご回答下さい。 ア―(1)同窓会に期待することがらを書いて下さい。(いくつでも) イとお答えの方のみ、ご回答下さい。 イ―(1)同窓会を必要としないのはなぜですか。(複数回答可) Ⅲインターネット利用についてお伺いします。 1.パソコンを利用している ア.いる イ.いない 2.パソコンを利用していると答えた方にお聞きします。 利用していない方は、3.以下にお進みください。 (1)パソコンの置いてあるのはどこですか。 ア.自宅 イ.仕事先 ウ.自宅と仕事先両方 エ. ノートパソコンで自宅と仕事先両方に持ち歩いている (2)そのパソコンはインターネットを接続していますか。(自宅と仕事先の両方にある場合はどちらでも可) ア.いる イ.いない (3)そのパソコンで個人的な電子メールのやり取りを現在行っていますか。 ア.いる イ.いない 3.携帯電話やPHS等パソコン以外の機器で電子メールを行っていますか。 ア.いる イ.いない 4.もし卒業生および筑波技術短期大学の教官の中の希望者で、メーリングリストをつくって電子メールによって情報をやりとりすることが可能になったら、あなたは参加しますか。(メーリングリストとは特定の人たちだけが共通に読み書きできる掲示板のようなものです。「卒業生キャンパス」を-部の方に配信していますが、改めてお答え下さい。) ア.参加する イ.インターネットを始めたら参加したい ウ.参加しない 5.現在短大にホームページを開設していますが、このホームページに載せて欲しいことがら。 ア.就職`情報 イ.同窓会,情報 ウ.仕事上の相談コーナー エ.その他 6.短大の電子図書資料を公衆電話回線等を通した利用について伺います。 ア.利用したい イ.利用の必要はない。 7.利用したいとお答えになった方にお聞きします。 (1)利用資料の形態 ア.墨字資料 イ.点字資料 ウ.録音図書 エ.その他 (2)利用資料の種類 ア.教科書、参考書的なもの イ.学術文献 ウ.触図 エ.録音図書 オ.その他 Pilot Study of Design of a System of Postgraduate Education Tsuguo YOSHIDA1) , Mariko USUBA1) , Toru MAESHIMA1), Kazuhiko Kobayashi1), Kennichi TAKAHASHI1) , Hisayuki ISHIDA2) 1) Physical Therapy, Tsukuba College of Technology 2) Research Center on Educational Media, Tsukuba College of Technology Abstract : A questionnaire survey was carried out to explore possible plans in postgraduate education, the demand for an alumni association and graduates' use of the Internet. The questionnaires were mailed to 217 alumni of the Division for the Visually Impaired who graduated between 1994 and 2000. They studied Acupuncture/Moxibustion, Physical Therapy or Computer Science. We collected 63 (30%) valid questionnaires. Twenty-two questionnaires were returned as "address unknown." On the need for an alumni association, 43 (68%) of the valid questionnaires were affirmative, 17 were negative, and 3 had no answer. Sixty-five percent of the 63 connected their personal computers to the Internet, and 57% of the 63 used e-mail. From these results, there is no doubt about the importance of postgraduate education and the Internet as one of the methods to realize it. This study also revealed that the mailing list and records on graduates' occupations are incomplete. This is considered to be one of the important problems to be solved in the future. Key Words : Postgraduate education, The visually impaired, Internet