学内広報設備における民営テレビ放送番組等の字幕放送化 筑波技術短期大学教育方法開発センター(聴覚障害系) 内野 權次 三好 茂樹 森山 利治 小林 正幸 要旨:筑波技術短期大学の聴覚部では通常の学内放送の代わりに、ケーブルテレビシステムを利用して開学時から文字と画像を中心とした学内広報〔1〕〔2〕や、学生に必要な様々な情報伝達を行ってきた。またこの設備は、通常のテレビ放送を受信し、再転送放送も行っており、時代の変遷に伴って用途に応じた様々な改善や機能増設を施しつつ活用されている。ここ数年間に一般のテレビ放送局においても、聴覚障害者のための情報保障として字幕放送番組が増えつつある。また、放送大学でも本学と単位互換協定を結んで、昨年から字幕入りの講義科目を開設している。一方全日本ろうあ連盟では独自の聴覚障害者専用ディジタル衛星放送「目で聴くテレビ」を平成12年度から開始した。そこで本学では、これを期に学生達が寄宿舎の個室で様々な学習』情報や生活情報など、字幕放送を通じてより多くの知識が吸収出来るよう設備の改善充実を実施した。その内容について報告し、活用状況と運用上の課題および今後の検討事項などについて触れてみたいと思う。 キーワード:学内広報 CATV 情報保障 聴覚障害 デジタル衛星放送 1.はじめに  平成2年度開学後の授業開始とともに活用を始めたCATV(Commmity Cable Tblevision)別名ケーブルテレビとも呼ばれている装置を学内広報用として取り入れ、本学の様々なスケジュールや教育情報の伝達に使用してきた。本報告以前までに利用してきた機能について列挙してみると以下のようになる。 1.1学内広報  学科広報・教育方法開発センター広報・教務課広報・寄宿舎広報・緊急情報テロップ 1.2自主放送  学内行事や講演会などの一斉放送・授業や実験実習の中継放送・字幕入り教材の放送・学園祭の中継放送 1.3テレビ局放送の再送信(東京からの7局VHF) 1.4障害者専用衛星放送実験〔1〕の参加協力等を行ってきた。  今回はこのシステムに新たな機能増設を施したものである。 2.増設した新しい機能〔4〕 2.1 東京からの7局VHFテレビ放送を全局自動字幕放送化をした。 2.2 放送大学の字幕付き授業の学内放送化をしたこと。 2.3 「目で聴くテレビ放送」聴覚障害者専用衛星放送を受信し、CATV26チャンネルで放送開始した。(写真7参照) 2.4 学生のサークル「TCT-Studio」が発足し,CATV22チャンネルで放送開始した。  以上が、平成12年度からで準備実験や整備をして平成13年5月から実用運用を開始したものである。図1に学内広報装置の送受信部ブロック図と今回の増設機能の関連を示す。 写真8にはシステムラックに実装された学内広報機器の外観を示す。 3.増設機能の詳細(図1ブロック図参照) 3.1 東京7局テレビ放送の自動字幕放送化  学内共同聴視用のVHFアンテナ(校舎棟6F屋上)で受信し、ブースターアンプで所定のパワーに増幅してCATVスタジオに送り、これを信号分配器を通して8分配する。もう1つはFMラジオ電波用を含めて各チャンネル毎にテレビ変調器を通してからMIXERに送り、CATVケーブルラインに送出する。字幕放送は各チャンネルともに文字放送チューナーを経由しテレビ変調器に送る。使用した文字放送チューナはSONYのTXT-1を採用した。その理由は自動字幕設定が12時間程度の長時間停電でも消去されなかったことである。以前のチューナーでは雷等の瞬時停電でも設定が消去してしまうものがあった。本学のような準業務用放送システムにとって自動復帰方式がメンテナンス上非常に重要である。文字放送チューナの実装状況を写真9に示す。 3.2 放送大学字幕放送の学内放送化  校舎棟6階屋上のUHFアンテナを経由UHFブースターを通しCATVスタジオに送り、これを文字放送チューナーで受け、自動字幕放送に設定し、出力信号をテレビ変調器に送りMIXERを通してCATVケーブルラインに送出する。(写真1参照) 3.3 CS障害者放送「目で聴くテレビ」  従来のアナログ実験放送用衛星はスーパーバード(SCC)B号を使っていたがこれを12年9月で休止して、デジタル化に伴い新たにスーパーバード(SCC)C号に移行した。  これに伴って本学でも新規に受信設備を導入整備した。衛星の方向は、茨城県の筑波においては約真北から174度、磁北からは180度(方位角)仰角は48度である。アンテナのコンバーターの局部発信周波数は,11.2GHz、水平・垂直の偏波が電圧切り替えタイプであること(実際には垂直(V)偏波が使用されている)。アンテナ系統はこれまで使用してきたものがそのまま流用可能であった。衛星を捕まえるのに冬場の屋上は寒気寒風が厳しいものがあり、平成13年入学式後の少し気温が上昇するのを待って据え付け調整作業を実施した。使用チューナはASTEM社のDragon SG-1でCS障害者放送専用のものであり、地上波のテレビ放送とCS障害者放送を切り換え方式によって、通常テレビの字幕放送も見られるものである。 3.4 TCT=Studio(学生サークル)放送の開局  本学開学以来初めてのスタジオサークルが発足した。設立までは色々な意見もあったが、スタートしてみると学生達の活動は素晴らしいものがある。業務用放送の機器なども使用しているが、専門技術を学んでいる学生達には、それほどの苦もなく簡単な指導の基に各種の機器を使いこなしている。現在のところ、放送内容の確認は顧問教官が見ているが、それなりの注意事項を守って問題なく運用されている。(写真5,6参照) 4.運用結果と課題 4.1 運用結果  今回の増設改造が全て終了して約8ヶ月を経過したところであるが、学生達の反応は非常に良好である。放送大学の字幕講義が自分の部屋で受講できること。字幕入りドラマやニュースが普通のテレビで見らて、生活情報や新しい技術情報なども字幕を通して入手できるので、これまでテレビを見なかった学生がよく見るようになっている。  また、今回のシステムの運用を開始して字幕放送用のチューナーについて一つの困った欠陥に直面した。我々はこの問題を究明するために時間をかけた調査して、当面の解決策を考案し実行したので紹介をして置きたいと思う。 4.2 不具合の状態 TXT-1文字放送チューナが字幕放送の受信時に以下のような異常動作を発生した。 1)字幕放送が開始されない。 2)字幕放送が終了しても終了処理がされず最後の字幕が画面に残ってしまう。 3)字幕放送が開始すると、字幕放送ではなく文字放送モードになってしまう。 以上ような誤作動が8台のTXT-1チューナを連続運用していると、約1週間に1~2回発生し、その状態は次の字幕放送が開始しても復帰することはないので非常に困った現象である。色々調査の結果いったんチューナの電源を切って入れ直すと復元することが分かった。  この不具合を解決するために、製造メーカの技術サ一ビス部門の技術者も参加して検討した。制御用集積回路のチップやプリントボードの交換などを行ったが本質的な解決策を見いだすことが出来なかった。 4.3 実験観測の結果から推定される問題の発生原因  我が国の文字放送(字幕放送を含む)方式では、文字や制御隣Rをテレビの同期信号の帰線期間にコード化した情報を載せて送信している。そこで、考えられる不具合の原因として、たまたま字幕放送の開始や終了のための制御情報を読み取り解読の最中に気象条件の悪化等により受信電波のパワー強度が低下したり、パルス雑音の混入が起こった場合等にチューナで判読ミスが起こる。チューナがこの一回のチャンスでコードを判定しているとすれば4.2で述べたような現象が起こっても仕方のないことである。実際に本学で観測した結果として、たまたま気象条件が悪化したときに電波の受信異常が発生し、字幕放送の開始時に字幕放送が実行されなかった。このような事例に直面した。  この時にもチューナの電源を入れ直すまでは機能を復帰する事はなかった。観測結果から現在のチューナの機能を簡単に手直し改善する事は不可能であることが分かり、次項のような暫定的な解決対策を考案し実行した。  また、この調査結果は、別途製造会社には連絡することにした。 4.4 本学で実行した問題解決策  この問題は、一般家庭で受信している場合は、放送開始時異常であれば視聴者が電源をON/OFFすればよいが、自動放送化を行っている本学あるいは、放送をビデオで予約録画をする時などに字幕のない放送を受信してしまうことになる。この問題のためにオペレータを常駐させることは不可能であるので、自動復帰対策として次のような方式を考案し実用化した。  今回導入した8台の全てのチューナの電源を24時間サイクルのタイマースイッチを介して供給し、一日に1または2回1分間だけAC電源をOFFすることにした。(写真10参照)  こうすれば一時的に不具合が発生しても最長1日で復帰することが出来る。また、通常のウイークデイでは職員が出勤するのでその問で異常に気づけばリセット操作を追加することが可能である。  今回はもう1つの対策として、受信アンテナからチューナに入力する信号のパワーをブースタ増幅器を用いて可能な限り増強し、受信感度をを上げることで不具合の発生確率を低減する対策も併せて実行した。以上2つの対策を施すことで、最近では、字幕放送異常の連絡を受けることがなくなってきている。 4.5 今後の課題  今後更に字幕付きの放送が増力けることが予想されるのでより信頼度の高い運用システムへの改善が必要であること。学生用の広報番組を寄宿舎の個室で視聴出来るようにVHFバンドのチャンネルを確保することであり、そのためには現在の広報の入力システムの構造を改造することが必要である。また広報の入力方法をできるだけ簡略化し、利用者が情報入力し易くすること。そのためにインターネットを活用し、運用にはセキュリティ管理を導入してユーザーが任意の端末から利用できよう利便性の向上をはかるとともに管理上の合理化をしたいことなどである。 引用文献 [1]内野 權次・小林 正幸・石原 保志,学内広報CATVシステムとその拡充について,教育方法開発センター年俸,第一号)25-28,1994. [2]内野 權次,学内広報CATVの授業活用システム,筑波技術短期大学教育方法開発センター年俸,第2号,112-114,1995. [3]内野 權次・川口博・石原保志,聴覚障害者専用衛星テレビ放送の受信実験と学内放送での実用化,筑波技術短期大学テクノレポート4,141-144,1997 [4]内野 權次・小林 正幸・三好 茂樹,ケーブルテレビ・システムを用いた学内広報装置の現状,第35回全日本聾教育研究大会 研究集録,99-100,2001. 写真1.字幕入り放送大学授業 写真2.新星の金貨 写真3.プロジェクトXのタイトル画面 写真4.プロジェクトX 純国産ロケット「HⅡ」による通信衛星の打ち上げ 写真5.学生サークル「TCT-Studio」 写真6.学生広報によるサークル紹介放送が開局した学生広報 写真7.全日本ろうあ連盟のCS衛星放送「目で聴くテレビ放送」 写真8.メディアセンター5階調整室のCATV送受信設備の全景 写真9.字幕放送用に設置した文字放送チューナ(SONY TXT-1) 写真10.悪天候等よる電波障害等で発生する自動字幕制御機能の誤動作を防止用に設置したAC電源用のタイマースイッチ 図1.聴覚障害系キャンパス学内広報送受信部設備のブロック図 注、塗りつぶし部分が平成12~13年度の新規増設部分 Construction of Captioned TV Broadcast with Cable TV of College Information Kenji UCHINO , Shigeki MIYOSHI, Toshiharu MORIYAMA , Masayuki KOBAYASHI Research Center on Educational Media Division for the Hearing Impaired, Tsukuba College of Technology Abstract : Recently, captioned Television (TV) broadcasting for hearing impaired people has gradually become popular in Japan. Considering this, we constructed a special converting system which transmits the TV program through the cable TV antenna. The system made it possible for our hearing impaired students to conveniently watch many useful TV programs with VHF TV. For example, they could enjoy CS satellite broadcasting for the hearing impaired people, captioned lectures of the University of the Air*, and other captioned TV programs. As a result, TV broadcasting has become more attractive for the students. Moreover, they had a chance to increase their knowledge. Although serious problems occurred while operating the system, they were solved by the periodic initialization of a captioned TV program tuner. Now, we strongly state that our establishment of the system was a big factor in helping the hearing impaired students access information. *The University of the Air: the University that offers courses through radio and TV broadcasting Key Words : College information, Converting system, Cable TV, Hearing impaired