視覚障害者のための電子図書館その5 ―図書館蔵書管理システムと電子図書閲覧室の融合― 筑波技術短期大学視覚部一般教育等1)鍼灸学科2) 村上 佳久1)上田 正一2) 要旨:視覚障害者の電子図書館を構築するためには、電子図書の蔵書管理と電子図書の閲覧システムが融合して運用されないと利用できない。ここでは、電子図書の書誌と所蔵を管理する図書館蔵書管理システムと電子図書を閲覧するための端末とデータを管理する電子図書閲覧室とのシステム融合について、その技術的内容について検討する。 キーワード:電子図書館 視覚障害 蔵書管理システム 1.はじめに  われわれは、視覚障害者のための電子図書館構築に向けて研究を進めてきたが、電子図書館利用に当たっての電子図書の問題を整理する。 ①利用方法(端末問題) ②管理方法 ③検索方法 大きく分けての3つに分類できる。 ①の利用方法は、個人別の視覚障害補償環境を実現する端末の問題で、電子図書閲覧室で運用しているシステムで研究を進めてきた。 ②の管理方法は図書館蔵書管理システムでどのように電子図書を管理するかについて研究を進めてきた。 ③の検索方法は、図書館蔵書管理システムで検索した結果が、電子図書閲覧室システムと連携し、反映されて初めて実現する項目である。  そこで本研究では、図書館の業務系システムである図書館蔵書管理システムと電子図書閲覧室の教育系システムである電子図書閲覧システムの両者を融合し、視覚障害者のための電子図書館として、端末から電子図書の利用が個人の視覚障害補償も含めて連動出来るために必要な技術開発を行うことを目的とした。 2.図書館蔵書管理システム  視覚部図書館の図書は、図書蔵書管理システム(Limedio)が管理している。このシステムでは、文部科学省の情報学研究所の書誌データベースに基づき、 ①書誌データベース ②所蔵データベース ③検索データベース の3つが稼働しているが、図書館蔵書管理システムで最も重要なのは、①の書誌データベースである。 この書誌データベースを基に②③の2つのデータベースが作成されリンクされる。したがって、書誌データベースを整備することは図書館の蔵書管理では最も重要な作業である。  しかし、電子図書を運用する場合には、②の所蔵データベースを利用して、電子図書データの形態を知る必要がある。つまり、実際に利用するデータの形式や形態、分冊情報などを入手しないと利用できない。この情報は、電子図書を閲覧するためのアプリケーション・ソフトを決定する重要なものである。  視覚部図書館で所蔵している電子図書は、墨字・点字・録音の3種類があるが、墨字図書に比べ点字図書・録音図書は分冊が多い。一般に点字図書の冊子体は、墨字図書の冊子体の約6~8倍程度となる。したがって、冊子体の書誌に対応した分冊の所蔵のデータが必要になる。  これらの分冊の所蔵データは図書館蔵書管理システムの所蔵データベースで管理されるが分冊は1つの書誌として扱われないため、「この図書は何冊の分冊があります」と言う情報のみが提供される。分冊にまで全て独立した書誌データを与えることは現在の書誌データの管理方法からでは無理なので、この書誌データベースから派生した所蔵データベースに電子図書のデータベースをリンクさせる仕組みが新たに必要となる。さらに電子図書の閲覧に利用するアプリケーション・ソフトの情報もデータベース化してリンクさせる必要がある。  つまり、次の2つのデータベースが新たに必要となる。 ④分冊情報データベース ⑤アプリケーション・ソフト情報データベース この2つのデータベースは、図書館蔵書管理システムでは管理できないため、電子図書閲覧システムで管理する必要がある。 3.電子図書閲覧システム  電子図書閲覧室には、様々な経緯で収集された電子図書データがサーバ群に収録されている。それらのデータは、ディレクトリ毎に分類され、ディスクに保存されている。  これらのデータは、電子図書閲覧室の端末で、ディレクトリ・サービスで認証されたユーザのみが利用することが可能である。(電子図書閲覧室のディレクトリ・サーバにログインする必要がある)  電子図書閲覧室で、収録されているデータは、様々な端末により利用される。  MS-DOS、Windows 3.1、Windows95/98/Me、Windows NT4/2000、Linux、Solarisの様々なOSで利用可能である。  最も利用条件が厳しいのがMS-DOS端末(合成音声装置付き)である。MS-DOSに対してサービスする必要があるため、ディレクトリ構造及びファイル名の命名法がMS-DOSの制限に合わせてある。  さらに、点字エディタなどのアプリケーション・ソフトをネットワークに対応させなければならない。  MS-DOSベースのアプリケーションの多くがネットワークを前提に設計されていないため、それなりの仕組みが必要となる。現状では、様々なOSに対応するネットワークシステムで合成音声による視覚障害補償をサポートできるのは、NetWareしかなく、これが制限要素となる。  このネットワークシステムに収録された電子図書データと図書館蔵書管理システムのデータベースを連携させる必要がある。  視覚障害者が様々な電子図書を利用するためには、電子図書の閲覧のためのアプリケーション・ソフトと各自の視覚障害の状況に合わせたソフトウェアの設定が必要である。この設定は学生毎に異なるため、この情報を収録するためのデータベースが必要である。  また、視覚障害を補償する画面読み合成音声ソフトウェアや画面拡大ソフトウェアの設定も、学生毎に収録されるため、独立したデータベースが必要である。  これらの情報は、電子図書閲覧室のサーバ群でディレクトリ・サービスで集中管理することが可能である。 ⑥ディレクトリ・サービス情報データベース  最大の問題は、これらのディレクトリ・サービスのデータベース情報を図書館蔵書管理システムのデータベースと、どのように連携させるかが問題となる。 4.2つのシステムの連携  図書館蔵書管理システムと電子図書閲覧室のシステムをどのように連携させるかは技術的に難しい課題である。この2つのシステムは本来、全く独立しており、リンクする情報すら持たない。そのため2つのデータベースを連携させるためのデータベースが必要となる。  他大学の電子図書館では、電子図書のデータも全て図書館蔵書管理システムで管理し運用する。しかし、この方法では視覚障害補償を行いながら電子図書を閲覧するという視覚部学生の電子図書の利用形態が確保できない。つまり、はじめに視覚障害補償を行う電子図書閲覧端末があり、それに基づいた電子図書を配信するという新たなシステムが要求されるからである。  ここで、問題となる6つのデータベースをどのようにリンクさせるかを再検討することにする。 ①書誌DB ②所蔵DB ③検索DB ④分冊情報DB ⑤アプリケーション・ソフト情報DB ⑥ディレクトリ・サービス情報DB  利用者から考えると、⑤と⑥の端末のディレクトリ・サービス情報をサーバ側で管理し、①から③の情報を受け取るリンク情報を新しいデータベースで受け取れれば問題はないが、点字データや録音データには④の分冊情報が必要なために、この情報も含めて新しいデータベースを構築するのにはリンク方法などに問題がある。  通常、リンクと呼ばれる手法には、リレーショナル・データベースの関連付けや、ハイパーテキストによるリンク付けなどの手法がある。後者は、webなどのhttpプロトコルで近年最もよく利用されている手法であるが、本来、各種情報を管理しているデータベースそのものはリレーショナルデータベースであり、その検索結果などの,情報をwebとリンクさせる手法を用いるのが一般的である。  例えば、視覚部や聴覚部のホームページから図書検索を行う場合は、図書館蔵書管理システムのデータベースとweb情報をリンクさせて運用している。  しかし、視覚障害補償を行う端末での利用に関しては、各自の視覚障害補償ソフトウェアが個々に異なるために、各自の個人情報や端末情報に合わせたWeb配信が必要となる。  各自の個人情報や端末の視覚障害補償方法などは、電子図書閲覧室のディレクトリ・サービスで集中管理しているが、この情報は、メタディレクトリであり、データベース的な概念は有するがweb情報としての管理は困難である。  なぜなら現在の図書館蔵書管理システムでのWebによるデータ配信はweb側の管理で端末側からはデータのリクエストは出来るが、端末側から視覚障害補償情報は送信できないからである。  そこで、新しい考え方として、データベース構造を通常のデータベース化されたものと考えずにweb情報として運用できないかどうか検討した。もし可能であれば、ディレクトリ・サービス情報に連携できる分冊情報データベースをwebサーバで運用できる。  この場合、データの管理はデータベースというものからwebサーバのメニュー形式の構造をとる。そのため管理状況が手作業で行う可能性があるのがこの方式の欠点でもある。  このディレクトリ・サービス,情報に対応したWebサーバは、NetWareのサーバ上で運用されるが、このディレクトリ情報には、視覚障害補償端末からのディレクトリ・サービス情報もリンクさせる必要がある。  実際にこのようなシステムが構築された例は無く、様々なデータベースをどのように組み合わせ連動させるかは、システムエンジニアとして極めて困難な作業である。  最終的に連携させたブロック図を示す。 ⑥のデータベース情報を2つのサーバで別々に運用し、両者をwebサーバ上のディレクトリ・サービスで統合管理する。  こうして、⑤の情報を基に電子図書閲覧端末には所蔵データに基づく電子図書データがリンクされ、各視覚障害別の補償方法によって電子図書が閲覧可能となる。  実際には、様々なディレクトリ情報をリンクさせるための手法とリンクさせるためのアプリケーションを開発してその連携で運用しているが、利用者にはそのようなことを感じさせることなく電子図書を閲覧することが可能である。 図1データの流れ図 5.実際の運用例  実際に視覚部図書館のホームページから図書検索を行い、目的の電子図書を利用するまでを示す。 最も重要なのが、ディレクトリ・サービス情報のデータベースである。この情報は本システムの要であり全てのデータベースをコントロールする。また、システム上で問題なのが、各種のサービスを行うサーバ群の同期である。ディレクトリ・サービス,情報を各種サーバに転送するために時間の同期とデータ構造の同期が不可欠である。さらにユーザ情報も同期している必要がある。  Solaris, Linux, NetWare, Windows 2000/NTの各サーバでこれらの同期を取るためのディレクトリ・サービスは、現状ではNDS(Novell Directory Service)以外になく技術的に高度なため、図書館員での維持・管理は不可能であることが難点である。 図2 実際の連携画面 6.おわりに  図書館蔵書管理システムと電子図書閲覧室との融合は長い間の夢であったが、最新のIT技術である、ディレクトリ・サービスによりある程度の実現の可能性を示した。しかし、様々なデータベースを連携させ融合する技術は極めて高度で、もはや図書館職員が管理できる能力を超えている。MCSEやCNEと言った企業認定のシステムエンジニアでなければ実際的な管理は不可能であろう。  平成2年頃、「点字データベースなんか簡単に出来る」と言った虚言をよく聞かされたが、最近でも「Windowsは簡単だから設定など誰にでも出来る」といった虚言がよく聞かれるようになった。現実には簡単な話ではない。  技術を正しく評価できる人が、システムデザインや設計を行い、データを収集し、よく吟味し、実験を重ねて、地道な努力を続けて、初めて到達できるのがこのようなシステムである。  最新の技術を利用するためには、最新の正しい知識が必要である。うわべだけの知識を語ることは、間違った結論しか導かない。日々の努力と研究の蓄積こそが正しい道を知っている。  なお、このシステムの一部は特許出願中または準備中である。 参考文献 [1]石黒 敦子他著:海外ILLハンドブック,第1版,石黒 敦子他編,日本図書館協会,東京,1994. [2]実践女子大学図書館:インターネットで文献検索,第1版,実践女子大学図書館編,日本図書館協会,東京,2000. [3]国立情報学研究所:目録所在`情報サービス利用の手引き,第1版,国立情報学研究所編,国立情報学研究所,東京,2001 [4]日本図書館協会:電子資料の組織化,第1版,日本図書館協会目録委員会編,日本図書館協会,東京,2000. Digital library for the Visually Impaired 5th Integration of "Library Management System" and "Computer Library Room" MURAKAMI Yoshihisa , UEDA Shoichi Department of General Education, Tsukuba College of Technology Department of Acupuncture/Moxibustion, Tsukuba College of Technology Abstract : If the collection management of digital books unites with the digital reading system, the Visually Impaired Digital Library can be constructed. In this paper, the technical content of the system integrate with "Computer Library Room" where the terminal for the inspection of the "Library Management System" which manages the bibliography of digital books and owning and digital books and data are managed is examined. Key Words : Digital Library, Computer Library Room, Library Management System