フィンランドの盲教育と大学入試特別措置 筑波技術短期大学一般教育等 加藤 宏 要旨:フィンランドのユベスキュラ盲学校等を訪問し視覚障害者教育の実状を視察した。また大学入学試験での視覚障害者のための特別措置の対応を調査した。フィンランドでは単純障害の児童生徒は統合教育され、盲学校は重複障害のための寄宿舎学校とリソースセンター機能を持つ。大学入試は高校卒業資格試験と二次試験の二段階選抜方式で、視覚障害者への特別措置として点字問題も作成されている。 キーワード:フィンランド、ユベスキュラ盲学校、リソースセンター、大学入試、マトリキュレーション、視覚障害者特別措置 1.はじめに  フィンランドといえば、オーロラとムーミンとLinux、つまり北欧幻想とハイテク立国のイメージである。またフィンランドはスウェーデンなどと並んで福祉先進国ともいわれる[1]。そのフィンランドで視覚障害者教育はどのように行われているのか。  日本の9割の面積の国土にフィンランド語による盲学校は1校のみ、中部のユベスキュラ市にある。ここでは重複障害の児童生徒が学ぶ。単純障害の児童生徒は統合化が進み、地元の学校に通っている。フィンランドでは大学への進学には高校卒業資格試験と各大学による入試が必要である。それぞれに視覚障害者特別措置もある。  筆者は文部科学省の科学研究費補助金の助成(基盤研究(B)(1)13410083研究代表 藤井 聰尚:岡山大学)を受け2003年1月末フィンランド視察の機会を得たので、視覚障害者教育事情等について報告する。 2.フィンランドの概要  人口は約520万(日本の約25分の1)、面積は33.8万平方キロ(日本の約0.9倍)である。首都はヘルシンキで人口約54万。広大な国土には少ない人口と多くの湖沼が点在する。通貨は2002年からユーロに替わった。  フィンランドはヨーロッパでも特異な国と言われる。ロシアと国境を接し、遠い祖先は中央アジアのフン族とつながるともいわれる。フィンランド語はウラル語系に属し、日本語や朝鮮語にも近い膠着語という構造を持つ。近隣ヨーロッパ諸国の印欧語族言語とは著しく異なっているのである。つまり民族的にも言語的にもユーロ圏では特異な位置をしめている国といえる[2]。  政治体制は1917年の独立までロシアに支配され、それ以前はスウェーデンの統治を受けていた時代が長く続いた。そのためか、スウェーデン語を母語とする国民が6%存在する。現在も公用語はフィンランド語とスウェーデン語の2言語体制である。歴史的に周囲の国からの脅威を受け続けてきたという背景もあってか外国語教育はさかんである。英語教育は小学校3年からで第二公用語であるスウェーデン語教育(4年生から)よりも早期にはじめられる。  近年、その地政学的・言語学的特異性にもかかわらず、英語学力の高さや高校生の科学知識の高さ・大学教育のレベルの高さで注目を集めている[3]。フィンランドの大学生はTOEIC得点において世界一になった[4,5]。言語学的に他のヨーロッパ諸国とは異なるウラル・アルタイ語族グループに属するフィンランドの驚異的成績が日本の英語教育のヒントになるのではないかと注目を集めているのである。 3.フィンランドの教育制度  義務教育は7歳からの15歳までの9年間の総合学校(comprehensive school)での教育である。これは6年間の初等課程+前期中等課程3年からなる。多くは1年以上の就学前教育を受けている。また、9年間で義務教育の課程内容を修得できなかった者には1年のレメディアル・コースも総合学校内に設けられている。  ほぼ全員後期中等教育課程に進学するが、ここからは大学進学の準備教育を行う後期中等教育学校と職業学校へのコースに別れる。1990年代前半には大学進学コース進学者数が職業コース進学者数を追い抜いた。職業学校からはポリテクという職業高等教育課程に進む場合が多いが、大学に進学することもできる。  大学への新入生は同世代の26%、ポリテク等の職業高等教育機関への進学者は46%である(1999年)。両者合わせると、ほぼ7割の若者が何らかの高等教育機関に進学していることがわかる。高等教育進学率はヨーロッパでもトップであり、なお急上昇中である。18歳以上の男子には兵役の義務(8~11ヶ月)があり、兵役終了後に進学する者も多く、大学新入生の平均年齢は20歳を超えている[6]。 4.フィンランドの視覚障害者  全人口520万に対して視覚障害者は約8万人と推定されている[6]。このうちフィンランド盲人協会(FFVI)に登録されているのは14,000人である(2001年)。毎年1,500から1,900名が新たに登録される。年齢別にみると18歳未満は全体の5%にすぎず、2001年に新規に登録された視覚障害者に占める割合ではわずか2%である。圧倒的に高齢者の占める割合が高く(65歳以上が7割)、障害の原因も加齢や糖尿病によるものが多い。全盲は約2%だが、強度弱視を含めると20%強が重度視覚障害である。  次に視覚障害者の教育レベルについてみてみる。全視覚障害者でみると義務教育9年課程のみで教育を終えた者は5割となっている。中等教育修了までの者が残り4割。大学・大学院レベルの教育を受けた者は5%ということになっている。国民全体の平均では、この比率はそれぞれ4割、5割、1割となっている。しかし、これは現時点の高校卒業年齢時などの進学率を表したものではない。フィンランドでは近年高等教育進学率が急上昇しており、その進学率はヨーロッパ圏随一であり、今後視覚障害者の大学進学者も急増していくものと考えられる。  就業に関しては、15歳以上65歳未満の就労年齢でフルタイムの定職を持っている者が健常者で56.5%に対して、視覚障害者では17.8%である。しかしまた、26%の視覚障害者はパートタイムの職を持っている。視覚障害者の職業としては多い順からマッサージ、製造業、一般事務職、プランナー、教員、ソシャル・ワーカー、農業、看護師となる。その他店員、ホームヘルパー、清掃業、電話交換などの職にも就いている[7]。 5.特別教育とユベスキュラ盲学校 5.1.ユベスキュラ盲学校の由来と概略  現在のフィンランドの特別教育はインクルージョンを基本とするが多様なサービス形態を包含する国と分類されている[8]。しかし、かつてこの国では、障害児の多くは寄宿学校に通っていた。  1846年と1865年に、それぞれ最初の聾学校と盲学校ができた。1921年には法律で障害を持った子供のための特別の教育が保障され、1960年代まではセグリゲーション政策が採られた。しかし、1970年代になるとアメリカの影響を受けた脱施設化論議からインテグレーションが検討されだす。保護者達も子ども達が親元から通える学校を望んだ。同時に、政府による地元学校への統合教育化の推進と盲学校の統合とセンター化が計画された。  1972年、政府はヘルシンキとクオピオにあった2つの盲学校を統合してユベスキュラに移転し、新たな盲学校を作った。保護者の中にも移転に反対する者や、盲学校教師の反対運動もあった。しかし、盲学校が完成し、移転が終了すると、盲学校が居住区から遠く成りすぎたことも影響し、生徒の住む地域の学校への統合化が急速に進んだ。  統合化と共に教師の養成や生徒のスキルの維持向上のための機関の必要性、心理発達面へと関与という視点から特殊学校のセンター化が推進された。統合クラスを受け持っている担任教師はユベスキュラ盲学校で研修を受け、特別教育のための情報を得るようになっていった。  現在、フィンランドには学齢年齢の視覚障害児は650人いるとされる。児童生徒の多くは地域の学校でインクルージョンされながらセンターから支援を受けている。支援を受けるのは生徒だけでなく、親、担任、アシスタント、その他の関係者なども含まれる。しかし、1990年代には経済の落ち込みの影響で、特殊教員のクラス加配が難しくなるなどの問題も起こってきている[9,10]。  開学当時は生徒数100名を数えたユベスキュラの生徒も、現在は重複の障害を持つ約40名が寄宿生として在籍しているのみである。幼稚園から高校レベルまでの子どもたちが寄宿生活をしながら学んでおり、職業教育・IT教育にも力が入れられている。現在のユベスキュラ盲学校の主眼はリソースセンター機能であり、寄宿生徒への教育(就学前教育から後期中等教育レベルまで)に加え、全国各地の視覚障害児への支援・講習、地域への教育カウンセリングとコンサルテーション、教師、親などへの研修指導が主たる業務となっている。教材の開発・販売や地元ユベスキュラ大学との連携による特別教育研究や教員養成協力校としての機能も重要である。  2言語政策をとるフィンランドにはスウェーデン語教育の盲学校がヘルシンキにあり、こちらは生徒数10名と小規模である。視覚に障害を持った子供を盲学校に入れるか、地元の学校に入学させるかは、行政ではなく親の判断と責任によって最終決定される。 写真1 厳寒の中でも行われるユベスキュラ盲学校での歩行訓練 5.2 ユベスキュラ盲学校による地域学校の教師やスタッフへの研修プログラム  ユベスキュラ盲学校の支援サービス機能についてさらに詳しくみる。 (1)支援サービスの第一は地域教育相談である。カウンセリングは生徒本人、親、教員や学校スタッフを対象に行われる。視覚障害専門の巡回教師や特別教師が学校や家族を学校での教育方法やリハビリテーションに関する情報を提供する。ユベスキュラのスタッフがエキスパートして個別の学習プランを作成する。また、生徒の居る地域におけるサポートネットワーク作りを支援する。 (2)ユベスキュラの第二の仕事は教員やアシスタントの訓練である。実習はユベスキュラ盲学校にて実施される。コースは障害の程度や教員側からの要求などに対応できるよう3日から9日間の各種コースが用意されている。ここで教師は障害に関する基礎知識だけでなく、教育方法、支援ツールなどについて実践的な知識を身につける。また同様な立場の教員達のネットワーク作りもこの実習を通して形成される。教員やアシスタントがこのコースに参加するための費用は、生徒の通う学校の所属する自治体が負担する。 (3)最後はそれぞれの地元学校にインクルージョンされている生徒自身のための短期研修プログラムである。 次に障害を持つ生徒本人の研修プログラムについてさらに説明する。 5.3 統合教育を受けている視覚障害児のユベスキュラ盲学校での研修  コースは通常1週間であるが、生徒の必要においてより長期または短期の研修も設けられる。しかし、研修の長短よりも、その生徒が所属する学校に戻ったあとでも、教育効果が持続することに研修の主目的が置かれる。  研修は就学前年齢から9学年までの全盲・弱視児を対象に行われる。弱視が点字を学ぶこともできる。フィンランドに在住の盲の生徒であれば1年に2回無料でこの研修に参加できる。弱視は適宜参加することになっており、年1回あるいは数年に1度参加している場合が多い。  費用は生徒の所属する学校の自治体が負担し、残り半分は州(state)が持つ。これには移動や宿舎費、食費、教材費、介助、調査費、報告書、レクリエーションなどの諸費用も含まれる。次にどのように応募するかについて述べる。  ユベスキュラ盲学校に登録されたフィンランド国内の視覚障害児にはカウンセラーが指定されている。毎年春になると子どもには支援ニーズの有無がカウウンセラーから問い合わせられる。照会は教師にも行われる。親または教師の方から子どもに研修を受けさせた方がよいと考えた時も、まずはじめにそのカウンセラーにコンタクトを取ることになる。  ユベスキュラでは全国から集まったレポートを審査し、必要度に応じて、その年の学期の研修参加者を決定し、結果を親と学校に伝える。この通知を受け、親は地元の教育委員会に研修参加への許可を申請する。突然の視力低下など急を要する場合などにも、カウンセラーがユベスキュラと連絡を取り、研修が受けられるように便宜を図ることになっている。  研修を一緒に受けるグループ分けは視力、年齢、カリキュラム、その他の障害などを考慮して決められる。弱視と全盲は別のコースとされる。グループは最大でも6人におさえられる。重複障害や就学前指導の時はさらにグループは少人数にされる。また、子どもの側でニーズに特化したコースを選択することもできる。研修に先立っては、補償機器の使用状況、学業での得意不得意、移動手段、その他の日常スキル状況などを眼科医師の診断書といっしょに提出が義務づけられる。ユベスキュラでは集められた資料に基づき、それぞれ専門家が合同で協議し、コース・プログラムを決める。2001年から2002年にかけてのコースでは約200名の生徒が参加した。  次に研修のねらいと目的であるが、同じような障害を持つ仲間と出会いコンタクトを取り続けることがまず第一にあげられる。  研修中は生徒は日中はほとんど授業を受けている。ここでは特別教師とアシスタントの補助を受けながら、数学、音声読書器、地図の見方、情報機器操作などを学ぶ。就学前の子どもや重複障害をもつ子どもたちのコースには幼稚園教諭、心理学者、介護士などもチームに加えられる。放課後は宿舎での日常動作訓練や余暇の時間に当てられる。  子どもがはじめてユベスキュラの研修に参加する時には、同伴者として親も招待され、一人分の旅費、滞在費等がユベスキュラ盲学校より支給される。また、親のための3日間の研修コースもあり、これは子どもの研修と同じ週に行われるようにセットされ、費用は保険省が負担する。親への研修の目的は教室での子どもの様子を実際に見ることと、親同士のネットワークを作ることである。  研修終了後には、指導を担当した教師はレポートを作成し、家族、学校、地域の病院のリハビリ担当者などに報告する。レポートには研修成果の評価、補償機器の紹介、次年度の研修参加への勧めなどが書かれる。学校の担任はこのレポートを指導のガイドラインとするのである[10]。 6.フィンランドの大学と進学率  フィンランドに大学は20校ある。うち総合大学は10校で、あとは単科大学である。すべて国立大学である。学生総数は大学院を含め16万人(2001年)、年間の新入生は約20,000人。高等教育機関としては、このほか高等職業専門学校であるポリテクニク29校(2000年)があり、こちら90年代の経済後退期以降に整備された。ポリテクの新入生は24,000人で、2000年には高等教育機関全体の新入生の約半数を占めるようになっている。進学率は急進しており、ポリテクと大学を合計した高等教育進学率は2000年次の新入生では67%に達した。女子の進学は男子よりも19ポイントも高い。  フィンランドでは大学入学者選抜は2段階で行われる。全国共通の高校レベル卒業試験と各大学が独自に行う入学試験である。大学が独自の選抜試験を行うというのもヨーロッパとしては少数派である。いずれの試験にも視覚障害者のための特別措置が設けられる。競争倍率は最も入りやすい工学・自然科学系で2倍程度。ビジネス・人文系で4から5倍、医学・法律が7倍、最も競争が熾烈な芸術系は30倍以上にもなる[11]。  フィンランドの大学は、以前は卒業までに修士(Master)の学位を修めるものであったが、近年は3年で中退し学士(Bachelor)のディプロマを授与される道を選ぶ者もいる。これはスウェーデンと同様なシステムである。修士修了までの平均年数は6.5年。ポリテクでは学位は出さず、専門士が与えられる。こちらは3年半から4年の課程である。大学生の約4分の1が中退するか、在籍のみし学業放棄し、卒業まで行き着けないといわれる。ポリテクでは、卒業年限等が厳しいためこのような問題は生じていない[12,13]。なお、全学生に占める障害を持った学生比率は2%である。[14] 7.フィンランドの大学選抜制度 7.1 Matriculation  ヨーロッパでは高校卒業資格試験が大学入学要件になっていて入試のない国も多いが、フィンランドでは大学入学者選抜は2段階選抜で行われる。第一段階の選抜はmatriculationと呼ばれる後期中等教育学校の卒業資格試験である。この試験は後期中等教育の課程を修了していることと大学で学業を続けるための要件を満たしているかを見るためのテストと位置づけられ1852年から導入されている。全国一斉に行われる国家試験であり、試験は点字受験者も含め地元の学校で行われる[12]。  このテストは卒業を認定できるかの学力をみるものでアメリカ、スウェーデンなどで行われている適性診断テスト(SAT)とは異なる。よって、科目単元についての知識を問う試験になっている。しかし、科目に関する小問を集めた総合試験となっており、日本のセンター試験ほどの細かい科目別知識を要求されることはないようである。  テストは春と秋の年2回行われる。テストは再受験が可能で成績のよかった方の結果を認定成績とすることができる。合格しないテスト科目があった場合でも連続3回までの受験機関中に合格すればよい。  それぞれのテストには難易度が2段階あるが、受験生は受験期間中に科目の難易度を変えて受験することも可能である。ただし、先の期間内に全科目にパスできなかった場合ははじめから全科目を受験しなおさなければならない。  大学受験資格として義務づけられているテストは4科目である。母語、第二公用語、外国語、そして数学または一般教科の4種である。志望する学科によってオプションが付加される場合もある。  母語はフィンランド語、スウェーデン語、ラップ語から選択できる。母語の試験は作文試験である。第二公用語と外国語の試験はリスニング、読解、作文で行われる。数学では電卓も使用できる。一般教科試験には宗教・倫理学・心理学・哲学・歴史学・公民・物理学・化学・生物学・地理などの科目からの出題が含まれる。各教科から10題ほど、全部で100題ほど出題され、受験生はこの中から8題を選んで解答しなければならない[12]。  教育省はこの試験のために大学教員から成る大学入学資格試験委員会(Matriculation Examination Board)を構成している。委員会は問題作成協力委員とともに問題作成と試験実施の運営にあたる。 写真2 Matriculation問題サンプル(晴眼者用全科目) 7.2 Matriculationの得点化  受験生には全科目にパスした時点で、その成績が通知される。成績は素点ではなくレベルと階級値で表される。最優秀(L:7点)から不可(I:0点)までの7段階で階級と得点が割り振られる。数学に関しては満点分の取得得点の分数でも成績が表される。階級値は相対評価で優秀な方から受験生比率でL(7点):5%、E(6点):15%、M(5点):20%、C(4点):24%、B(3点):20%、A(2点):11%、I(0点):5%となるように割り振られる[12]。 7.3.入試の視覚障害者特別措置と二次試験  視覚障害を持った受験生への特別措置については点字問題の作成を行っているヘルシンキ点字図書館で取材した。視覚障害者用に点字問題が作成されており、1.5倍の時間延長が認められている。弱視用にはA3版の拡大問題も作られる。視覚障害者は自前のコンピュータを使用して解答できる。解答は点字ではなくプリント・アウトしたものを提出すればよい。  問題中の図や写真は、触図化または代替化される。この点は、図は原則削除というスウェーデンのSATの入試点訳と異なっている[15]。  図の削除・代替が行われるのは、複雑すぎる図、触図化には大きすぎる図、写真などの場合である。図の削除、文章による記述化、別問題への差し替えなどは点訳にあたっている点字図書館職員が原問題の作成組織と交渉し行っている。  国家試験レベルの点訳としては、問題の質の観点やセキュリティ管理に問題があると感じられる。触図の原盤も図書館職員の手書き原稿で作られていた。日本のように大学入試センター機能の一部として、専門組織のもとに点字問題作成が行われるシステムの方が点訳の質や安全管理上は優れたシステムと考えられる。スウェーデンの場合、問題は基本的に高等教育庁と協力大学が管理している。一方、フィンランドの場合、二次試験も含めて点字図書館の関与が大きい。小さいシステム故の問題であろうか。  二次試験は志望大学の教授が指定した専門書からの口頭試問で行われることが多い。かつて全盲の法学部受験生のために4册もの法律書を点訳したことがあったそうである。受験生には数ヶ月前に二次試験のために読むべき本が指定され、その本を点字図書館に持ち込むシステムになっている。点字受験者は全国で年間1,2名である。500万の人口に大学が20校なら、上述のような手作り的点訳が許されるのも致し方ないとも考えられる。 写真3 生物の墨字問題とその触図 8.ユベスキュラ大学にみる障害学生受験措置の実態と障害学生支援  ユベスキュラ盲学校に近いこの大学は特殊教育学科も持ち、特別教員のための教員養成課程を持っている。ユベスキュラ大学での障害を持つ受験生への対応をみてみる。  全般的要件としては障害を持った学生も入学のための要件は健常の学生とまったく変わらない。入試と高校卒業資格試験が要求される。成績もまったく同レベルが求められる。二次試験に当たっての差別はないが、これは適切な補償手だてさえ行われれば、その学科で研究していける能力があるかを問うためのものである。  障害学生は受験前に志望学科とコンタクトを取り、自分の志望などの他の障害の状態などを書いた文書を提出する。  障害が軽度のものには、時間延長、コンピュータ受験、照明、拡大問題、車椅子介助などが認められる。障害が特に重い全盲などの場合には学校推薦または卒業試験の成績だけで入学が許可される場合もある。点訳、コンピュータ受験などが認められおり、その他必要に応じてオープン・ユニバーシティで障害学を学ぶ学生の中などから支援スタッフが派遣される場合もある。しかし、いずれの場合も試験の難易度は健常の受験生とまったく同じである。 9.視察の終わりに  盲学校や大学の視察後にエスポー市の視覚障害者職業教育センター(アウラ・インスティテュート)で学ぶ全盲学生の話を聞くことができた。彼女はヘルシンキ大学の言語学の博士課程で学びながらマッサージ師としての職業訓練も受けていた。彼女の話では難関大学では高校卒業試験の成績はほとんど考慮されず、各大学が実施する二次試験の比重が高くなるとのことであった。彼女の場合は、二次試験は点字ではなく口頭試問で行われた。  合否もほとんどこの二次試験のみで決められたということである。よって特別措置は、制度としては存在しても、ほとんど意味はないともいっていた。まさに実力次第ということなのであろう。フィンランドが高等教育進学率が高いのも、大学を出ないと職に就けないからと言っていた。その彼女も研究者としての職には就けず職業訓練に通っているのである。  また、視察の最後の日にはヘルシンキ駅前で白杖をついてバスを降りた盲人に出会い、駅構内まで手引きする機会にもめぐまれた。はじめは、しばらく様子をうかがっていたのがだ、誰も特に声をかけるでもなく、当人も人の手を積極的に求めているようでもなかった。盲学校やアウラで感じた視覚障害者への手厚い配慮ではなく、自立はあくまで個人の責任と見ているような冷徹さとでもいうのだろうか。  たまたま2年続けて、スウェーデンとフィンランドという北欧2国を視察することができた。両国は似た面もあるが、異なる面も多い。両国の障害者教育について書かれた文献[1,16-18]を読んでも、「福祉国家の教育施策」などという教育学的・福祉的言説で他国の施策を括ることのむなしさと無意味さ何よりも感じた視察であった。 文献 [1] 訓覇 法子,藤岡 純一,高橋 睦子著,仲村 優一,一番ヶ瀬 康子編:世界の社会福祉1,スウェーデン・フィンランド,旬報社,1998 [2] フィンランド人はどこからやってきたか?http://www.finland.or.jp/origin-j.htm [3] OECD生徒の学習到達度調査(PISA)《2000年調査国際結果の要約》http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/index28.htm [4] 中條 清美,竹蓋 順子,高橋 秀夫,竹蓋 幸生:語彙力と実用コミュニケーション能力の開発,Language Education & Technology 39:105-115,2002 [5] Jaatinen, S. & Mankkinen, T. The Size of Vocabulary of University Students of English, Finns as Learners of English: Three Studies, Sajavaara, K. & Takala, S. (eds.), Jyvaskyla Cross-Language Studie No.16,147-211,1993 [6] EURYBASE:The Information Database on Education System in Europe: The Education System in Finland (2000/2001) , http://www.eurydice.org/Eurybase/Application/frameset.asp?country=FI&language=EN [7] OJAMO, Matti : The Finnish Register of Visual Impairment: Annual Statistics 2001, Finnish Federation of the Visually Impaired.2002 [8] European Agency for Development in Special Needs Education, Special Needs Education in Europe, Thematic Publication http://www.european-agency.org/publications/agency_publications/SNE_europe/downloads/ThematicPublication_English.doc,2003 [9] Leena Honkanen The education system for the blind in Finland http://www.icevi-europe.org/topics/ebu2000/finland.html [10]Tarja Hännikäinen Temporary Education Courses for Visually Impaired Pupils: a Method Supporting Inclusion - the Supportive Role of the School for the Visually Impaired in Jyväskylä http://www.icevi.org/publications/ICEVI-WC2002/papers/01-topic/01-hannikainen.htm [11]Statistics Finland:http://www.stat.fi/tk/he/edufinland/eduh.html [12]The Finnish Matriculation Examination:http://www.minedu.fi/yo-tutkinto/esteen.html [13]Ministry of Education, Finnish Universities 2000 http://www.minedu.fi/julkaisut/pdf/Yliopistot_english.pdf [14]The National Union of Finnish Students(SYL) http://www.syl.helsinki.fi [15]加藤 宏:スウェーデンの大学入学者選抜における視覚障害者対応,筑波技術短期大学テクノレポート9(2) ,65-69,2002 [16]石田 祥代:スウェーデンのインテグレーションの展開に関する歴史的研究,風間書房,2003 [17]カールG.アールストレーム他著:スウェーデンの障害児教育改革,二文字理明編訳,現代書館,1995 原著は Karl-Georg Ahlstroem, Ingemar Emanuelsson, and Erik Wallin, Studentlitteratgur, Lund, Sweden, 1986 [18]鳥山 由子:スウェーデンの視覚障害者教育,弱視教育,40,22-28,2003 Education and Special Arrangements for University Admission Tests for the Visually Impaired in Finland KATOH Hiroshi Department of General Education, Tsukuba College of Technology Abstract:I visited the Jyväskylä School for the Blind and blind-related institutions in Finland in late January of 2003. I would like to report on the Finnish situation with regard to education for the visually impaired and university admission arrangements for them. In principle visually impaired children go to local regular schools in Finland, except for the multiple disabled, who go into special schools. The Jyväskylä School for the Blind is the only special school for the visually impaired but there is another blind school in Helsinki for Swedish speaking people. One of the functions of Jyväskylä School is to be a dormitory school for the blind from preschool to upper secondary level. It also serves as a resource center. The advancement rate to universities in Finland is the highest in the EU. Finnish universities require applicants with visual impairment to pass a two-step selection process for admission, the same as for the sighted. The first condition is passing the school leaving examination (matriculation) and the second is the entrance examination administered by each university. Braille tests for blind applicants are prepared for both exams. Key Words:Finland, Jyväskylä School for the Blind, resource center, university admission, matriculation, entrance examinations in Braille