筑波技術短期大学視覚部入学者選抜方法研究委員会報告 ― 入学試験成績と入学後の学習成績との関係調査 ― 鍼灸学科(現:健康科学大学)1 ) 理学療法学科2 ) 鍼灸学科3 ) 情報処理学科4 ) 伊藤 隆造1) 須田 勝2) 野口 栄太郎3) 三宅 輝久4) 要旨:視覚部では、本学に相応しい学生を募集するために入学者選抜方法に改善を重ね、新しい方法を導入してきた。その結果選抜された学生が、入学後にどのように学習到達度を達成しているかを分析し、今後の選抜方法の改善に役立てたいと考え調査を行った。対象は平成3~11年度の入学者で、鍼灸学科169名、理学療法学科89名、情報処理学科79名の合計337名(そのうち卒業者は308名)であった。分析の結果、3学科に共通して、一般入試で入学した学生は学力試験の成績と入学後の成績に相関があるという予想された通りの結果となった。しかし面接試験の成績については、理学療法学科では一般入試・推薦入試とも入学後の学業成績と相関は認められなかったが、鍼灸学科では一般入試で、情報処理学科では推薦入試で学業成績との相関傾向が現れている。これらの結果から、今後とも本学独自の入学者選抜方法、特に面接方法について検討を続けて行く必要があると考えられた。 キーワード:入学試験、学習成績、学力試験、面接試験、統計分析、ノンパラメトリック法 1.はじめに  本学視覚部は、平成3年4月に第1期生を迎え入れてから、現在平成14年度の入学者選抜試験(以後入試と省略)まで12回の入試により、483名の学生を受け入れ、平成13年度末現在、308名の卒業生を社会へ送り出してきた。この12年間に少子化やノーマライゼイションの普及など社会全般の変化のため、受験生および入学生の状況が変わったが、我が国唯一の視覚障害者のための高等教育機関としての立場は変わっていない。視覚障害に配慮した教育を通じて豊かな教養と社会のニーズに応えられる専門的な知識・技能を身につけた卒業生を送り出すことが本学視覚部の使命である。  視覚に障害のある人が、レベルの高い専門的職業人として社会自立するために必要な教育を受けることのできる高等教育機関として、これに相応しい学生を選抜することは重要な課題である。  視覚部の3学科は共通して、一般入試では英数国の3科目の学力試験と、面接試験により選抜してきている。推薦入試では、小論文テストと面接試験及び書類審査の合計点に基づき、選抜してきている。平成9年度から導入された社会人入試でも小論文試験と面接試験により選抜している。しかし、平成13年度の入試から鍼灸・情報処理の2学科では2回以上の時間をかけた面談の評価による相対話特別選抜を導入した。この選抜方法では、小論文テストは行わずに面談中ないし、2回の面談の間に課題を課し、これに対する対処の仕方から、学力や意欲を評定している。この選抜方法は、特に鍼灸学科のアドバンスコースや情報処理学科の医療情報コースに、既に鍼灸師の資格を有する人たちを積極的に受け入れる上で、有効な選抜方法として機能しているが、応募者のなかには、従来ならば、一般入試や推薦入試を受験したであろう人たちが、多く含まれるために後2者の受験生の人数が減少してきている。  以上のように本学に相応しい学生を募集するために選抜方法に工夫と改善を重ね、新しい方法を導入してきたが、その結果選抜された学生が、入学後にどのように学習到達度を達成しているかを分析することにより、今後の選抜方法の改善に役立てたいというのが、本調査の趣旨と目的である。  視覚部としては、このような調査の最初であるために、また、学生数が少ないため、細かなグループ分けをせず、相対話特別選抜導入以前に入学し、卒業した学生の入学試験の成績と在学中の学業成績との相関関係、および、同時期の全学生について、選抜方法の種類による入学後の退学などの動向の差違を検討した。 2.対象  平成3年度から平成11年度の間の入学者は鍼灸学科が169名、理学療法学科が89名、情報処理学科が79名の合計337名であった。そのうち平成11年度までの卒業者数は鍼灸学科が156名、理学療法学科が81名、情報処理学科が71名の合計308名であった。  入学試験の成績と入学後の学業成績の関連性に関する分析の対象は、卒業者308名中、社会人特別選抜による入学者を除いた298名であった。学科毎の内訳でみると、鍼灸学科は156名で、うち一般入学試験受験者が88名、推薦入学試験受験者が68名であった。理学療法学科は78名で、うち一般入学試験受験者が59名、推薦入学試験受験者が19名であった。情報処理学科は64名で、うち一般入学試験受験者が33名、推薦入学試験受験者が31名であった。  入試区分毎に見た学生の動向に関する調査対象は、鍼灸学科、理学療法学科および情報処理学科に平成3年度から平成11年度までに入学した337名で、学科別にみると鍼灸学科が169名、理学療法学科が89名、情報処理学科が79名であった。 3.分析方法 3.1 入学試験の成績と入学後の学業成績の関連性に関する分析 3.1.1 入学試験の成績の集計方法  分析に用いた入学試験の成績は入学試験選考報告書に記載された成績に基づき、一般入学試験成績、推薦入学試験成績別に集計したものである。これらの成績は初期の年度と現在では点数配分が異るため、それぞれについて100点満点に換算した。また、一般入学試験成績と推薦入学試験成績では試験内容が異なるため、それぞれ別々に入学試験成績を算出した。 3.1.1.1 一般入学試験成績の集計方法  一般入学試験成績と入学後の学業成績を比較するために、一般入学試験の成績を面接点、学力検査総得点および総合得点の3つのカテゴリーに分け、100点満点に換算し集計した。学力検査総得点は国語、英語、数学の合計点を100点満点に換算し、総合得点は学力検査と面接試験の合計点を100点満点に換算した。鍼灸学科と情報処理学科では第4回目より2科目選択になったので、その合計点を100点満点に換算した。また、国語、英語、数学についてはそれぞれの得点を100点満点に換算し、入学後の学業成績との相関分析を行った。 3.1.1.2 推薦入学試験成績の集計方法  推薦入学試験成績と入学後の学業成績を比較するために、推薦入学試験の成績を面接点、小論文得点および総合得点の3つのカテゴリーに分け、100点満点に換算し集計した。総合得点は面接、小論文、書類審査の合計点を100点満点に換算し、入学後の学業成績との相関分析を行った。 3.1.2 入学後の学業成績の集計方法  入学試験との相関を見るため、入学後の学業成績を鍼灸学科と情報処理学科については学業総合成績、専門教育科目成績(情報処理学科については「コア科目」という)の2つのカテゴリーに分けて集計した。理学療法学科については、臨床実習の評価が学内の授業と異なり、知識・技術の応用性や臨機応変な患者への対応などに重点がおかれるので、臨床実習成績を学業総合成績に含めず別個のカテゴリーとして扱い、学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績の3つのカテゴリーに分けて集計した。  各カテゴリーの成績の算出は成績証明書の原本に記載された評定に基づき、Aを3点、Bを2点、Cを1点として学生毎の平均点を計算した。具体的には、各学生のカテゴリー毎の総得点を算出し、それを履修科目数で除した数値を各カテゴリー毎の成績とした。なお、学業総合成績は一般教育科目等と専門教育科目の成績を合わせた平均点とした。 3.1.3 入学試験の成績と入学後の学業成績に関する統計処理について  一般入学試験受験者と推薦入学試験受験者に関して、入学試験の成績と入学後の学業成績との間に関連性が認められるかどうかを確認するため、ノンパラメトリック法を用いて相関分析をおこなった。具体的には、入学試験成績と入学後の学業成績についてSpearmanの順位相関係数(ρ)を求めて相関の有無について検討した。  一般入学試験と推薦入学試験における面接点の比較および一般入学試験受験者と推薦入学受験者の学業成績の比較にはMann-Whitneyの検定を用いた。 3.2 入試区分毎に見た学生の動向に関する調査  平成3年度から平成11年度の間の入学者337名(鍼灸学科169名、理学療法学科89名、情報処理学科79)名について、入試区分毎(一般入学試験、推薦入学試験、社会人特別選抜)の入学者数、退学者数、留年者数、卒業者数について集計を行った。鍼灸学科と理学療法学科に関しては、国家試験の合否についても集計した。国家試験の合否については、一回目の受験で合格した者を合格者として数えた。 4.結 果 4.1 鍼灸学科 4.1.1 対象者内訳  平成3年から平成11年度の鍼灸学科入学者171名のうち、卒業した学生は一般入学試験合格者83名、推薦入学試験合格者67名と社会人特別入学試験合格者6名の合計156名であった。入試成績と入学後の学業成績の比較では入学者の少ない社会人特別入学試験合格者を除いて行った。(表4.1.1) 4.1.2 入学試験成績の基礎統計  一般入学試験合格者では、総合得点、学科成績(2教科または3教科合計点)および面接点を示し、得点は実施年度による配点を一般化する目的で百点満点に換算して示してある。(表4.1.2.1) 推薦入学試験合格者の得点も同様に、書類点、面接点、小論文、総合得点の平均値を示す。(表4.1.2.2) 4.1.3 入学後の学業成績の基本統計  鍼灸学科の教育課程は、一般教育等の科目と専門基礎科目および専門科目からなる。専門基礎科目をさらに基礎医学科目と臨床医学科目に分けて各科目の評点をまとめた。(表4.1.3.1-2) 表4.1.1 卒業者の内訳 表4.1.2.1 一般入学試験合格者の入試成績 表4.1.2.2 推薦入学試験合格者の成績 表4.1.3.1 学業成績(一般入学) 表4.1.3.2 学業成績(推薦入学) 4.1.4 鍼灸学科の分析結果 4.1.4.1 入試成績と学業成績との相関  入試の成績を、入学後の学業成績と比較した際の、各相関係数と危険率を、表4.1.4.1および表4.1.4.2に示す。  一般入試では、各項目のうち英語と国語の成績では弱い相関しか認められなかったが、他の何れの組み合わせでも相関係数は0.4以上とかなりの相関が認められた。特に相関の高いのは、学力試験合計点と学業総合成績であり、これらに比べて面接得点との相関は低かった。  学業総合成績と面接点(図4.1.4.1)、学業総合成績と入学試験時の学科得点合計点(図4.1.4.2)、学業総合成績と一般入試総合点(図4.1.4.3)の相関図を4.1節末に示す。  推薦入試では、入試の各項目及び総合得点と学業総合成績(図4.1.4.6)に相関が認められた。しかし他の書類審査成績、小論文得点(図4.1.4.5)、面接点(図4.1.4.4)では弱い相関しか認められなかった。 表4.1.4.1 一般入学試験の成績と入学後の学業 表4.1.4.2 推薦入学試験の成績と入学後の学業 4.1.4.2 一般入試入学者と推薦入試入学者の学業成績の比較  平成13年度までの全ての卒業生について入試区分により学業成績に差異があるかを検討するためMann-Whitneyの検定を行った。その結果、表4.1.3.1と4.1.3.2の対応した各項目の、何れの項目の間にも危険率5%で有意な差は認められなかった。 4.1.5 入学者の動向(留年者・退学者の内訳)  平成11年度までの全入学生のうち、中途で退学した学生(9名)または規定年限で卒業出来なかった学生(2名)、および3年以上在籍し卒業した学生(留年者)の入試形態による分類を示す。(表4.1.5) 表4.1.5 留年者・退学者の選抜方法による分類 4.1.6 鍼灸学科における国家試験不合格者の解析  鍼灸学科の卒業生はすべて、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師の国家試験を受験する。卒業直前の1回目のはり師試験に合格した者とそれ以外の卒業生の入試成績と学業成績との関係を調べた。  合格者は、はり師国家試験合格者(126名)のみを示し、不合格者(30名)には、きゅう師とあん摩マッサージ指圧師試験の合格者とを含んでいる。  国家試験の合否と選抜方法で分類し比較検討したが、選抜方法ごとに含まれる合格者または不合格者の比率はほぼ同率であった。(表4.1.6.1)  合格者と不合格者の入試成績および入学後学業成績の対照表を表4.1.6.2に示す。  入学試験および学業成績の各項目の平均値に対して、合格者と不合格者間でMann-Whitneyの検定を行った。その結果、入試項目では、面接点を除いて危険率5%で有意の差があった。学業成績では、全ての科目群の平均値において合格者と不合格者間に有意な差が認められた。(表4.1.6.2) 表4.1.6.1 入試区分別解析 図4.1.4.1 面接点と学業総合成績との相関 図4.1.4.2 学科得点合計と学業総合成績との相関 図4.1.4.3 一般入試総合得点と学業総合成績との相関 図4.1.4.4 面接点と学業総合成績との相関 図4.1.4.5 小論文成績と学業総合成績との相関 図4.1.4.6 推薦入試総合得点と学業総合成績との相関 4.2 理学療法学科 4.2.1 一般入学試験合格者の入学試験成績と入学後の学業成績の関連性  一般入学試験合格者の入学試験における得点状況は表4.2.1に示すとおりであり、入学後の学業成績をカテゴリー毎に算術平均で示したものが表4.2.2である。 4.2.1.1 面接点と入学後の学業成績の関係  面接点と入学後の学業総合成績の関係を散布図とヒストグラムで示したものが図4.2.1である。Spearmanの順位相関係数(ρ)を求めて相関について検討した結果、面接点と学業成績(学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績)との間には有意な相関は認められなかった(表4.2.3)。 表4.2.1 一般入学試験における得点状況 表4.2.2 一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者の入学後の学業成績の状況 4.2.1.2 学力検査総得点と入学後の学業成績の関係  学力検査総得点と学業総合成績の関係を散布図とヒストグラムで示したものが図4.2.2である。Spearmanの順位相関係数(ρ)を求めて相関について検討した結果、学力検査総得点と入学後の学業成績(学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績)との関係では、学力検査総得点と学業総合成績との間、および学力検査総得点と専門教育科目成績との間に、それぞれρ=0.262、ρ=0.264と有意な弱い相関が認められたが(p<0.05)、臨床実習成績との間には有意な相関は認められなかった。(表4.2.3)。 4.2.1.3 総合得点と入学後の学業成績の関係総合得点と学業総合成績の関係を散布図とヒストグラムで示したものが図4.2.3である。総合得点と入学後の学業成績(学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績)との関係では、総合得点と学業総合成績との間、総合得点と専門教育科目成績との間、および総合得点と臨床実習成績との間に、それぞれρ=0.337、ρ=0.349、ρ=0.294と有意な弱い相関が認められた(p<0.05)(表4.2.3)。 表4.2.3 一般入学試験成績と入学後の学業成績の相関 4.2.2 推薦入学試験合格者の入学試験成績と入学後の学業成績の関連性  推薦入学試験合格者の入学試験における得点状況は表4.2.4に示すとおりであり、入学後の学業成績をカテゴリー毎に算術平均で示したものが表4.2.2である。 表4.2.4 推薦入学試験における得点状況 4.2.2.1 書類審査と入学後の学業成績の関係  書類審査と入学後の学業成績(学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績)との間に有意な相関は認められなかった(表4.2.5)。 4.2.2.2 面接点と入学後の学業成績の関係  面接点と学業総合成績の関係を散布図とヒストグラムで示したものが図4.2.4である。面接点と入学後の学業成績(学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績)との間に有意な相関は認められなかった(表4.2.5)。 4.2.2.3 小論文点と入学後の学業成績の関係  小論文点と学業総合成績の関係を散布図とヒストグラムで示したものが図4.2.5である。小論文点と入学後の学業成績(学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績)との間に有意な相関は認められなかった(表4.2.5) 4.2.2.4 総合得点と入学後の学業成績の関係  総合得点と学業総合成績の関係を散布図とヒストグラムで示したものが図4.2.6である。総合得点と入学後の学業成績(学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績)との間に有意な相関は認められなかった(表4.2.5)。 表4.2.5 推薦入学試験の成績と入学後の学業成績の相関 4.2.3 一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者の面接点および学業成績の比較 4.2.3.1 一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者の面接点の比較  一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者の間に面接点に差が認められるかどうかを調べるため、Mann-Whitney検定を用いて比較した結果、一般入学試験合格者の方が高い得点をしていることがわかった(p<0.05)。なお、面接点の算術平均は一般入学試験合格者が85.4±9.9点で、推薦入学試験合格者が80.7±9.0点であった。 4.2.3.2 一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者の学業成績の比較  表4.2.2は一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者の入学後の学業成績を算術平均で示したものである。 一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者の入学後の学業成績に差が認められるかどうかについてMann-Whitney検定を用いて比較した結果、学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績のすべてのカテゴリーにおいて両者間に統計的有意差は認められなかった。 4.2.4 入試区分毎の入学者の動向  平成3年度から平成11年度までの入学者は99名で、そのうち退学者が9名、留年者が28名(退学者で在学中に留年をした学生数を含む)、卒業者が81名であった。卒業者で理学療法士国家試験に一回目で合格した者は72名で、内訳は表4.2.6に示すとおりである。退学者および国家試験の合否について、一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者に関して比較すると、推薦入学試験合格者の退学者、留年者および国家試験不合格者の割合が大きい値を示している。しかし、2×2分割表によるカイ2乗検定を行った結果、退学者数、留年者数および国家試験不合格者数と入試区分との間に統計的に有意な関連性は認められなかった(p>0.05)。 表4.2.6 入試区分別の入学者の動向 図4.2.1 一般入学試験における面接点と学業総合成績との関係 図4.2.2 一般入学試験における学力検査総得点と学業総合成績との関係 図4.2.3 一般入学試験における総合得点と学業総合成績との関係 図4.2.4 推薦入学試験における面接点と学業総合成績との関係 図4.2.5 推薦入学試験における小論文点と学業総合成績との関係 図4.2.6 推薦入学試験における総合得点と学業総合成績との関係 4.3 情報処理学科 4.3.1 情報処理学科の対象者内訳  情報処理学科の平成3年度から平成11年度までに入学した79名の内、平成13年度末の時点で卒業している学生71名(入学試験区分別の内訳を表4.3.1に示す。)が対象であるが、社会人入試2名および2,3次入試5名については少数であるため今回の検討からは除外している。従って、今回は一般入試33名並びに推薦入試31名、計64名を対象として分析を行った。 表4.3.1 情報処理学科入学試験区分別卒業生数 4.3.2 情報処理学科の入学試験成績項目の特徴 4.3.2.1 入試成績項目の選定  一般入試の学科試験については、平成3年度から平成6年度までは国英数3科目(平成3年度のみ、理科を含めた4科目であったが、理科については少数(4件)であるため今回の分析からは除外している。)平成7年度以降は、国英数から2科目選択制に移行しているため、選択科目毎に学生数は異なっている。分析に使用した項目については、他学科と共通である。  情報処理学科入試成績項目の基礎統計量を、表4.3.4、表4.3.5に示す。すべて100点満点に換算後の値である。 4.3.3 情報処理学科の学業成績項目の特徴 4.3.3.1 情報処理学科で使用した学業成績項目  情報処理学科の分析に使用した入学後の学業成績項目を表4.3.2に示す。情報処理学科では、2年次から情報システムコースと経営情報コースおよび医療情報コースに別れ、それぞれの専門科目を選択することになるが、ここではコース選択によらず専門科目の学業成績を代表するよう、各コースに共通な必修科目にコース毎に基本的な専門教育科目の中から選んだ科目を加えた少数の専門科目のグループ(コア科目と呼ぶ。)を使用している。これにより、得点差の付きにくい演習実習科目や受講者の偏った選択科目を除外することになり、コースの別を考慮することなく各学生の学業成績の差をより明らかにすることができる。 表4.3.2 学業成績項目 一般教育科目等成績(一般平均点) 全専門教育科目成績(専門平均点) 学業総合成績(全平均点) 専門教育科目成績(コア科目平均点) 4.3.3.2 専門教育科目(コア科目)の選定  専門教育科目(コア科目)として選定した科目を、表4.3.3に示す。一般教育科目等成績、全専門教育科目成績、学業総合成績と比べて、より少ない科目数で学生の成績を代表する項目となるよう、実習演習科目や少数の学生しか選択しない選択科目を除外し、必修科目を中心として選定を行った。 表4.3.3 専門教育科目(コア科目) コンピュータシステム概論(計算機概論) プログラム言語Ⅰ 情報数学Ⅰまたは一般数学 OS概論 データベース概論 情報通信概論 プログラミング言語Ⅲ 会計学 財務管理(平成9年度からは管理工学) 4.3.3.3 情報処理学科学業成績項目の基礎統計  情報処理学科の分析で使用した入学後の学業成績項目の基礎統計量を、表4.3.6、表4.3.7、表4.3.8に示す。 4.3.4 情報処理学科の分析結果  情報処理学科の卒業生について、入試区分別に各種の入試成績項目と入学後の成績項目間で、Spearmanの順位相関を求めた。その結果を表4.3.11、表4.3.12に示す。また、専門教育科目(コア科目)と入試成績項目との間の散布図、ヒストグラムを図4.3.1から図4.3.6に示す。一般入学試験では、数学得点と入学後の学業成績との間にかなり相関が5%水準で有意に存在し、学科試験合計点との間にもやや相関が見られる。  また、推薦入学試験では、面接点、総合得点と入学後の学業成績との間にかなりの相関が5%水準で有意に存在し、小論文得点との間にもやや相関が見られる。 4.3.5 情報処理学科の一般入試入学者と推薦入試  入学者の学業成績の差情報処理学科の一般入試入学者の入学後の学業成績と推薦入試入学者の入学後の学業成績に差があるか検証するために、Mann-WhitneyのU検定を行った。結果を表4.3.9に示す。  どの成績項目についても、一般入試入学者と推薦入試入学者の成績の間に5%水準で有意な差が有るとは言えない、という結果が得られた。 表4.3.9 情報処理学科の一般入試入学者と推薦入試入学者の学業成績差検定結果 4.3.6 情報処理学科の中途退学者、留年生  情報処理学科の平成3年度から平成11年度までの入学者79名について、中途退学者、留年生の数を調査した。 入試区分別の人数を、表4.3.10に示す。特徴として、推薦入学試験による入学者には中途退学者がいない、中途退学者のほとんどは一般入学試験による入学者であることがわかる。社会人特別選抜の中途退学者1名は、経済的事情による中途退学であるので除外すれば、情報処理学科における中途退学者に関しては一般入学試験による入学者から出ているということができる。 表4.3.10 情報処理学科入試区分別の入学後の動向 表4.3.5 入試成績項目の基礎統計量 表4.3.6 学業成績項目の基礎統計量 表4.3.7 学業成績項目の基礎統計量 表4.3.8 学業成績項目の基礎統計量 表4.3.11 情報処理学科卒業生の入試区分別の相関 表4.3.12 情報処理学科卒業生の入試区分別の相関 図4.3.1 一般入試:面接点とコア科目平均点の相関 図4.3.2 一般入試:学力試験合計点とコア科目平均点の相関 図4.3.3 一般入試:総合得点とコア科目平均点の相関 図4.3.4 推薦入試:面接点とコア科目平均点の相関 図4.3.5 推薦入試:小論文得点とコア科目平均点の相関 図4.3.6 推薦入試:総合得点とコア科目平均点の相関 5.考察とまとめ 5.1 鍼灸学科の分析結果のまとめ  平成3年から8年間の鍼灸学科入学者の、入学試験成績と入学後3年間の成績(留年、退学を含む)、及び「はり師国家試験」の合否について調査し統計学的な検討を行った。 5.1.1 一般入学試験成績と入学後の学業成績の関連性  入学試験時の学科試験の成績と在学中の学業成績との間には強い相関がある。学力試験の各科目毎の得点および面接点との相関は、前者に比べると弱い。しかし両者を総合することで最も強い相関が認められた。この結果は、学力試験と面接試験を組み合わせる選抜方法の妥当性を示していると考えられる。 5.1.2 推薦入学試験成績と入学後の学業成績の関連性  推薦入学試験科目と3年間の科目総合成績との相関は全般に弱く、特に面接点との相関が最も低かった。しかし各審査項目を総合することにより相関は強くなっている。 5.1.3 選抜方法ごとの学業成績の比較  一般入試と推薦入試の合格者の入学後の学業成績とを比較すると両者の間には統計学的な差が認められなかった。平均点では、推薦入試入学者の方が、一般入試入学者より高い数値を示すが統計学的には有意な差が認められなかった。 5.1.4 入学後の学生の動向  退学者については、推薦入試入学者が他の二つに比べて少なく、留年者については社会人入学者の割合が高いが、選抜方法との関係については不明である。 5.1.5 入試及び学業成績と国家試験合否との関係  国家試験の合・不合格者の比率については、当然予想される結果であったが入試成績および入学後の学業成績と密接な関係に有ることが客観的数値で明らかになった。  鍼灸学科の学生の場合、入試の方法に関わらず入試成績と入学後の学業成績との間にはかなり強い相関が認められるのであるから、充分な人数の受験生を確保することにより、入学後の学業達成の困難が予想できる学生を入学させなくとも良い状況の実現にも努力を払うべきであろう。 5.2 理学療法学科の分析結果のまとめ 5.2.1 一般入学試験合格者の入学試験成績と入学後の学業成績の関連性  入学試験の成績と入学後の学業成績との間に相関が認められるかどうかについて検討した。その結果、一般入学試験合格者に関しては、面接点と入学後の学業成績との間には相関が認められなかったが、学力検査総得点と学業総合成績および専門教育科目成績との間に弱い相関が認められた。また、総合得点と学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績との間にも弱い相関があることが認められた。  面接点と学業成績との間に有意な相関が認められなかった理由は、受験者の大部分の面接点が80点~100点という狭い範囲に偏っていることと、面接自体が職業人としての適性を見るスクリーニングテストの性格を持つためではないかと思われる。  学力検査総得点と学業成績との間に弱い相関しか認められなかった第1の理由として、受験倍率が約3倍のうち、上位の成績をとった受験生を合格させていることにより、学力検査得点の差が少ないためと思われる。第2の理由として、学業成績のバラツキが少ない(平均で見ると59名中56名が評定「B」以上)ことによるものと思われる。これは入学試験の成績が低い者でも入学後、本学科のカリキュラムの下で学業に勤しむことにより着実に学力を身につけて成長していることを示しているものと考えられる。このように入学者の大部分が優秀な成績を修めている理由は、各学年毎に学外の病院で実施される臨床実習と、卒業直前に行われる国家試験がプラスの負荷となっていること、および卒業後の就職がほぼ確実であるという具体的な目標が見えていることが学習意欲を促す原動力になっているためと思われる。  学力検査総得点と臨床実習成績との間に相関が認められなかった理由は、学生全員がなるべくスムーズに臨床実習の単位を取得できるように配慮し、学生の学力や視覚障害の程度、臨床実習病院の要求水準などを考慮し、学生の実習病院への配置を決めているため、学力の高い学生が要求水準の高い病院に配置され、結果として厳しい評価を受け、相対的に低い成績をつけられるためと思われる。  入学試験の総合得点(学力検査総得点と面接点の合計)と学業総合成績との関係の方が学力検査総得点と学業総合成績との関係よりも高い相関を示していた。このことは学力検査と面接試験を併用することにより、入学者の能力をより的確に評価できることを示唆しているものと思われる。 5.2.2 推薦入学試験合格者の入学試験成績と入学後の学業成績の関連性  推薦入学試験合格者に関しては、入学試験の成績と入学後の学業成績との間に有意な相関は認められなかった。従って、推薦入学試験の成績から入学後の学業成績を予測することは難しいことを示唆していると思われる。  入学試験の成績と入学後の学業成績との間に相関が認められなかった第1の理由は受験者の大部分の面接点が一般入学試験同様、80点~100点という狭い範囲に偏っていることと、面接自体が職業人としての適性を見るスクリーニングテストの性格を持つためではないかと思われる。  第2の理由として、一般入学試験同様、学業成績のバラツキが少ない(平均で見ると19名中17名が評定「B」以上)ことによるものと思われる。これは入学試験の成績が低い者でも入学後、本学科のカリキュラムの下で学業に勤しむことにより着実に学力を身につけていることを示しているものと思われる。この原動力になっているものは、各学年毎の学外における臨床実習、国家試験がプラスの負荷となり、学習意欲を高めていることと、卒業後の就職がほぼ確実なことであると思われる。 5.2.3 一般入学試験と推薦入学試験における面接点の比較  一般入学試験と推薦入学試験における面接点の比較を行った結果、一般入学試験合格者の方が推薦入学試験合格者よりも統計的に有意に高い得点であった。その理由として、推薦入学試験合格者がすべて現役の高校生であるため、高等学校既卒者、大学卒業者や社会人に比べ社会経験が少ないことにより、一般入学試験合格者に比べ低い値を示したものと思われる。 5.2.4 一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者の学業成績の比較  一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者について入学後の学業成績の比較を行った。その結果、学業総合成績、専門教育科目成績および臨床実習成績のすべてにおいて両者間に統計的有意差は認められなかった。従って、現在実施されている入学試験選抜方法に関して言えば、その方法の違いが学生の学業成績に影響を及ぼすとは考えられないと言えよう。 5.2.5 入試区分毎の入学者の動向  今回、平成3年度から平成11年度までの入学者99名について入試区分毎に退学者数、留年者数、理学療法士国家試験の合否の数を集計した。退学者についてみると一般入学試験合格者が4名(6.0%)、推薦入学試験合格者が5名(17.2%)であった。また留年者(退学者で在学中に留年をした学生数を含む)についてみると、一般入学試験合格者が15名(22.7%)、推薦入学試験合格者が11名(37.9%)であった。理学療法士国家試験不合格者数は一般入学試験合格者が5名(8.5%)、推薦入学試験合格者が4名(21.0%)であった。これらの数値からみると推薦入学試験合格者の方が一般入学試験合格者に比べ、より問題を抱えている割合が大きい様に思われる。  また実際、日常の教育活動の中でしばしばそう感じることがある。しかし、入試区分と退学者数、留年者数、理学療法士国家試験不合格者数との間に統計的に有意な関連性が認められるかどうかを確かめるために2×2分割表によるカイ2乗検定を行った。入試区分と退学者数、留年者数、理学療法士国家試験不合格者数の関連性の有無についてみると、Yates補正後の有意確率はそれぞれ、p=0.111、p=0.156、p=0.280となり、有意水準5%レベルでは入試区分と退学者数、留年者数、理学療法士国家試験不合格者数との間に統計的に有意な関連性は認められなかった。その理由は対象数が少ないことによるものではないかと思われる。  本学科卒業者の進路についてみると、平成13年度までの卒業者で国家試験不合格者3名を除く78名(社会人特別選抜を含む)は理学療法士の免許を取得し、すべて病院、リハビリテーションセンター、老人保健施設、行政機関等に就職している。 5.2.6 まとめ  今回、入学試験の成績と入学後の学業成績との関連性について調べるために相関分析を行った。その結果、一般入学試験については、ある程度相関が認められたが相関係数は低い値しか示さず、推薦入学試験については有意な相関が認められなかった。また、一般入学試験合格者と推薦入学試験合格者の入学後の学業成績の比較を行ったが、両者間に統計的有意差は認められず、大多数の学生は平均点で評定「B」以上という優秀な成績を修めていた。このことより、入学試験選抜方法が一般入学試験か推薦入学試験かに関わらず、ある程度以上の基礎学力と職業的適性を備えていれば、入学後の本人の努力と、体系だった教育の提供があれば、充分理学療法士になるための能力を獲得できることを示すものと考えられる。  今後の課題としては、「ある程度以上の基礎学力」をどの様に見極めるかについて、その客観的方法を選抜方法毎に検討していく必要があると思われる。 5.3 情報処理学科の考察とまとめ 5.3.1 一般入学試験による入学者の入学試験成績と学業成績の関連性 ・数学の得点と入学後の学業成績の間には、かなり相関があり、入学後の学業成績は数学の学力試験成績により、ある程度予想することができる。この点で、現在の情報処理学科の一般入試における学科試験2科目自由選択制よりも、数学を必須とし、国語、英語から1科目を選択する2科目選択制とする方が、学生を選抜する上で望ましいと言える。また、入学後の学習指導においても、数学的な能力の高い学生の方が成績が向上すると言うこともできる。 ・総合得点および学科試験総合点と入学後の学業成績の間にも、やや相関が認められるが、これは、数学の相関の影響ではないかと思われる。 ・面接点、国語、英語の得点と入学後の成績の間には、相関が認められない。面接における採点方法、国語、英語における学力差の検出方法についての検討が必要ではないかと考えられる。 5.3.2 推薦入学試験による入学者の入学試験成績と学業成績の関連性 ・面接点、総合得点と入学後の学業成績について、かなり相関があり、小論文得点と入学後の成績との間にも多少の相関が認められる。 ・総体的に、現在の推薦入学試験の判定方法には問題がないと考えられる。ただし、他学科、特に理学療法学科の結果と比較すれば、推薦入試における各入学試験成績項目と入学後の学業成績にかなりの関連があるということは、問題がないとは言えない。別の見方をすれば、過去において情報処理学科における推薦入学者の数が定員枠に満たず、学力差のある学生をそのまま入学させてきたことの結果が、今回の分析に現れていると言うことができる。これは、入学試験の判定方法などとは次元の異なる事項であるが、受験者の多くを入学させた結果、入学者の学力差が大きく、入学後の学習指導にもかかわらず入学時の成績の良いものと悪いものの学力の差を埋めることができなかったと言うことである。これについては、今回の分析の範囲を超えているため、これ以上の検討は行わないことにする。 5.3.3 その他 ・入学後の学業成績項目の中では、専門教育科目(コア科目)成績が他の成績項目よりも一般入学試験、推薦入学試験共に高い相関の値を示している。これは、入試成績項目の検討に際して専門教育科目(コア科目)成績を入学後の学業成績の指標として用いることが適している(検出力が高い)ことを示している。 ・中途退学者の集計結果については、一般入学試験における入学者の学習意欲や学習継続能力等の判定を加味することの必要性について示唆していると考えられる。 ここでは特に検討していないが、中途退学者の中に一般入学試験において、情報処理学科を第一希望としない学生が目立つように思われる。一般入学試験の面接点として、「情報処理学科への進学意欲」を、より高い比重で加味することが必要であろう。 6.おわりに 6.1 分析対象について  本学視覚部の1学年の学生数は3学科あわせて40名という小さな集団である上に、平成13年度からは推薦入試、一般入試、そして社会人特別選抜と相対話特別選抜という多様な選抜方法で入学者選抜を行っている。そのために、集団としての傾向をどのように分析すれば意味のある結果が得られるかを種々検討した結果、平成13年度の卒業生までは推薦入試と一般入試で大多数の入学生が選抜されていることもあり、一つの区切りとして平成13年度までに卒業した学生を主な分析の対象とすることとした。  平成13年度以降は別表6から明らかなように、鍼灸学科と情報処理学科では、それ以前の入学者とは各選抜方法による入学者の人数が大きく変化してきている。相対話特別選抜による入学者が多くなった平成13年度以降の入学生については、卒業前であり、該当する学生数もまだ少ないので、今回は分析対象に入れないこととした。 6.2 入試の成績について  最初に入試の総合成績と入学後の成績の相関をみたが、鍼灸学科を除き、明瞭な相関が見られなかったため、各試験科目別に分けたり、学科試験総合点と面接点に分けるなどいろいろの組合せで分析してみた。この報告はそうした検討の一部である。  面接点については学科によって評点の付け方に違いがあるものを一括してよいものかどうか、検討した結果、その意味づけについては学科ごとに行うこととして全体をまとめた分析はこの報告からは省略した。  推薦入試の選抜において内申書や志望の動機などの書類審査も点数化して総合得点に加えているが、はっきりした相関は認められず、入試の成績のなかに占める割合も小さいので今回の検討の内容には項立てしなかった。 6.3 入学後の学業成績  学習成績として何を用いるかを検討した結果、成績証明書の原本のABCを成績の順位づけとみなして評価することとした。しかし総取得科目の評価を対象とすると、有意に相関があるという結果は、一部でしか得られなかった。そのために各学科の各科目の特徴を考慮して科目をグループ分けすることにより、第4章で各学科毎に示したように、一般教育等の科目、専門科目などに分けて分析してみることにした。情報処理学科の場合は専門科目すべてではなく2つの選択コースに共通のコア科目について分析することとした。この結果、有意に相関の有る組み合わせがいくつか明らかになった。  だだし、一度不合格になった科目を再履修した場合も成績証明書では再履修したときの成績しかないので、このような学生の評価が現実より高くなる場合が多い。 6.4 分析結果の意味づけ 6.4.1 入学試験の成績と学業成績の相関  3学科に共通して言えることは、一般入試で入学した学生については、学力試験の成績と入学後の成績に相関があるという、ある程度予想される結果が出た。ただし、個々の学生が点で示される分散図をみると、人数は少ないが、入学時には低い点数でも、優秀な成績をあげる学生もいるし、その逆の学生もいることが明かである。全体としてそういう傾向があるということである。  一方、面接試験の成績は理学療法学科では一般入試、推薦入試とも入学後の学業成績と相関は認められなかった。これに対して鍼灸学科では一般入試で、情報処理学科では推薦入試で学業成績との相関があるとみてよい結果が出た。この学科による差違が何を意味しているかは断定しがたいが、理学療法学科では毎年、志願者の倍率が2倍近くあるのに対し、他の2学科では倍率が低く、定員確保のために入学させざるを得なかった学生が含まれることを反映している可能性が高い。 6.4.2 学科間の相違  理学療法学科で入試の成績と入学後の成績との相関が他の2学科ほど強くないことが明らかになったが、これは同学科の考察にふれられているように、同学科の受験倍率が高いために得点上位のものしか入学していないのに対し、他の2学科ではかなり得点の低い受験生まで入学してきていることを反映しているのであろう。 6.4.3 成績不振者と入試成績との関係  入試の成績と入学後の学業成績の相関分析は、平成13年度までに卒業した学生を対象に行った。したがって、中退、留年、卒業時の国家試験の不合格など成績不振者が入学者選抜方法の区分毎に差違があるか否かを比較してみた。  入学後の学業成績全般を比較すると卒業生を対象とする限り、一般入試と推薦入試を比較した場合、選抜方法の違いによる成績の違いは出ていないが、中途退学した学生の人数の割合を比較すると鍼灸学科と情報処理学科では明らかに一般入試の入学者の方が多い。  また、留年者についても鍼灸学科と理学療法学科で、一般入試による入学者の方が多い。この結果をどのように評価するかについては、現在のところ不明である。 6.4.4 国家試験不合格者と入試成績の関係  鍼灸学科と理学療法学科は卒業時にそれぞれの国家試験受験資格を得るために全員が国家試験を受験する。当然のことであるが、卒業時の受験で不合格となるものの大多数は、学業成績が悪い。そして、鍼灸学科では入試の成績と学業成績の間にはかなり強い相関があるので、現在の入試の状況では入試の際にすでに国家試験の合格レベルに到達させるのに、かなり強力な指導が必要な学生がいるということを意味している。その点、理学療法学科の場合は、一般入試の総合得点と学力検査合計点との間に弱い相関があるのみであるから、入試の成績とは無関係に学業不振に陥る学生がいるという認識で教育的な指導が必要であると言えよう。  両学科とも入試の種類による差異は認められなかった。 6.5 今後の課題と提言 6.5.1 入学前歴と学習成績との相関  今回の分析では比較的大きな集団となる対象にグループ分けして行った。しかし、例えば学科を越えて学齢ないし一浪で入学する学生と他大学卒の経歴を持つ学生など学生の前歴の違いが、入試の成績と在学中の成績にどのように反映するかとか、人数はそれほど多くないが、年齢の高い(30歳以上)学生について同様な調査が、今後の入学者選抜や入学後の学習指導に参考になる情報を提供する可能性が高い。また、他の高等教育機関を卒業してから本学に入学する中途障害者も毎年、数名おり、近年増加傾向にある。概してこのような学生は、学力もあり、学習意欲も高い者が多いため、成績優秀者が多い傾向が窺われるが、今回は、出身校や前歴による区分と入試の成績および入学後の成績の関連については分析対象とはしなかった。 6.5.2 障害の状況と入試および学習成績  本学の場合、感覚障害を有する学生を対象とする教育機関である以上、個々の学生の障害の状況と入学時の成績そして入学後の学習到達度の評価においても考慮されなければならない。しかし、現在のところ特定の眼疾の種類や障害の程度の軽重よりも、学生本人が、どれだけその障害を受容し、補償する知識・技能を備えているか、あるいは、入学後どれだけ早期に障害補償手段を身につけるかが、学習到達度の向上にとって大きな意義を持つことが多数の学生の例から経験的に知られている。これを入学者選抜の際に数値化して選抜の基準にすべきであるという意見もあるが、現在のところ、この評価は面接試験の成績に組み込まれている。客観的に誰が評価しても同じ数字になるというような評価ではないところに問題がある。これも今後の検討しなければならない重要な課題である。 6.5.3 受験生確保のための広報活動強化鍼灸学科と情報処理学科では、入学者選抜方法の検討  以前に選抜の対象となる受験生を十分な人数集めることが、第1期生以来の課題である。過去13回の入試で定員確保のためにできれば受け入れたくないレベルの学生まで受け入れてきた。もっとも、このような学生でも指導次第でなんとかあん摩マッサージ指圧師の国家試験合格レベルまで教育できたという経験は、今後ユニバーサル化するといわれる大学教育のための貴重な経験と見ることもできよう。入学した学生がどれだけ付加価値を高めることができたかを客観的に評価し、その成果によって大学の教育力が評価されるようになるのであれば、入学時に一定レベル以上の学生、すなわち、大学教育を受ける基礎学力のある学生を選抜すればよいことになる。このためにもいまだに認知度の低い本学視覚部の世界的にもユニークな存在とその内実を広く一般社会へ広報する工夫と努力が必要である。 6.5.4 面接および面談による選抜方法の検証  鍼灸学科と情報処理学科は平成13年度より小論文テストも課さない面談のみで選抜を行ういわゆるアドミッションオフィス方式の選抜方法を導入した。それぞれの学科により相応しい学生の選抜のために種々の工夫をして選抜を実施してきた。その結果入学した学生が平成15年度には卒業することになっている。相対話特別選抜の基本的な選抜方法である面談の内容や、受験生に課す課題などについての検証を始める必要があろう。 6.5.5 入試成績と学習成績のデータベース化の提言  今後、入学した学生がどのように学業を達成したかということが、その大学の外部評価の対象になる時代を迎えて、個々の学生の入学時の学習準備状況および入学後の経時的な学習達成状況を把握し、それを如何に学習指導に活かすかが重要になると思われる。必要に応じてそのような基礎データが指導教員に閲覧できるシステムの構築が望まれる。  このような調査を行う基礎資料としては、卒業証明書の原本だけでなく、在学中に取りこぼしをした(Dの評価のついた)科目の記録のある個人別成績表も保存し、データベース化することが望ましい。今回はWG委員が手分けしてすべての卒業生についてデータを整理し直し、ABCの個数を数えるという原始的な方法を取らざるを得なかった。表計算ソフトなどにデータベース化されていれば、もっと容易に今回のような分析を行うことができるし、在学中にも教育効果の分析や指導方法の評価などにも使えるようになるであろう。 資料 平成3~11年度視覚部入学者選抜結果 Report by Study Group of Entrance Examination Methods for The Division for the Visually Impaired , Tsukuba College of Technology - Research on Relation between scores of entrance examinations and academic performance in the college courses - ITO Ryuzo1) SUDA Masaru2) NOGUCHI Eitaro3) MIYAKE Teruhisa4) 1 )Health Science University (Former Professor of Department of Acupuncture & Moxibusion, Tsukuba College of Technology) 2 )Department of Physical Therapy, Tsukuba College of Technology 3 )Department of Acupuncture & Moxibusion, Tsukuba College of Technology 4 )Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology Abstract:The aim of our group is to find appropriate methods of entrance examination for screening applicants to our division. Several methods have been introduced since the establishment. This study is focused on relation of students’ scores of different types of entrance examination and the academic performance in their courses. Subjects were students who enrolled between 1991 to 1999, and the total number of students was 337(308 graduated from the college) including 169 of Acupuncture Course, 89 of Physical Therapy Course and 79 of Information Science Course. The results showed that there was high correlation between the scores of written tests (Japanese, mathematics and English) and the academic performance of the students in their courses as we had expected. However, we did not find any correlation between the scores of the interview tests and academic performance for the students of Physical Therapy Course. On the other hand, there were some correlation between them for the students of Acupuncture and Information Science Courses. In conclusion, we have to check the contents and the procedures of interview tests to improve the whole system. Key Words:Entrance Examination, Academic Performance, Written Test, Interview Test, Statistical Analysis, Nonparametric Test