授業評価(聴覚部・13年度)の統計解析 第2報 授業評価データの回帰分析が示唆するもの 筑波技術短期大学 聴覚部1), 同 機械工学科2), 同 一般教育等3), 同 デザイン学科4), 同 建築工学科5), 同 電子情報学科電子工学専攻6), 同 電子情報学科情報工学専攻7), 同 教育方法開発センター8) 聴覚部 教育活動に関する点検評価 ワーキンググループ1) 三牧 敏太郎2) 根本 匡文3) 生田目 美紀4) 萩田 秋雄5) 川島 光郎6) 渡辺 隆6) 皆川 洋喜7) 松藤 みどり3) 石原 保志8) 中瀬 浩一8) 要旨:授業評価アンケートの「評価」, 「理解」と「興味」の原データと回帰式の推定値とを用いて, 次の結果を報告する。 ①平成11,12の両年度に導いた「評価」, 「理解」と「興味」の回帰式は 外挿性も含めてほぼ十分な推定特性を有している。両年度の回帰式のうちから, 外挿性の良い回帰式を選定した。②前報1)で導いた「評価」の高低に関する仮説が回帰式の推定値を用いてほぼ確認できたので, 回帰式は妥当である。③原データと推定値とを用いて, 「理解」と「興味」の高低に関する仮説を導いた。その要因は「評価」と同じく,“数学をあまり使わない概論か, 数学を多用する理論か”である。 キーワード:授業評価, アンケート調査, 回帰分析 1. 緒言  授業評価アンケートの原データを用いた解析, 回帰式が報告されている1)~3)。本報では, 文献[3]の「評価」, 「理解」, 「興味」の平成11, 12 年度の回帰式の外挿における推定特性を検討し,回帰式の選定を行う。次いで, 前報1)で“平均値から大きく偏ったデータ(科目)”を参照し導いた, 「評価」の高低に対する授業内容に関する仮説に関して, 推定値を用いて可否を検討する。  また, 「理解」と「興味」の高低に関しても, 原データと推定値とを用いて同様な検討を行う。  以下で, H11年度の回帰式をH11年式, H12年度の回帰式をH12年式と呼ぶ。なお,データ数(科目数)Nは, N=76(H11年度), N=105(H12年度),N=110(H13年度)である。 2. 回帰式の概要と推定特性  両年度(H11,H12)に, 講義系授業と演習系授業の各々について, 「評価」, 「理解」, 「興味」の回帰式が導かれている。2,3章では, 両年度の回帰式の内外挿における推定特性を検討し, 外挿性の良い回帰式を選定する。  ここで, 授業形式は授業計画(シラバス)を参照し分類しているが, 演習系授業は 演習, 実験, 実習, 実技などの講義以外の授業であり, ①講義で学んだことを実際に体験することで,理解の定着や思考過程の育成を図る授業, ②作品の制作や保健体育などの実技能力の育成・向上を図る授業などである。 2.1 回帰式の概要2)  回帰分析に関連する一般的事項を付録-1に, 文献[2]における回帰分析(回帰式)の考え方を以下に示す。ここで,(1)~(3)は文献での考え方であり, その妥当性は回帰式の推定精度(相関係数Rの大きさ)で判定できる。なお,(4)は一般的な扱いである。 (1)特性値の階層構造の仮定  3つの特性値(①「評価」, ②「理解」, ③「興味」)は階層構造(下部→上部:「興味」→「理解」→「評価」)をなしていると仮定して, その回帰式を求める。すなわち,“授業に「興味」がもてれば「理解」でき, 「理解」が進めば満足し「評価」が高くなる”と想定する。  これより,「評価」の解析においては全要因を考慮するが,「理解」の解析では上部要因である「評価」を, 「興味」の解析では「評価」と「理解」を要因としない。 (2)線形の回帰モデル(モデル=関数形)の採用  y=Σ(aixi) (i=1, NV) なる定数項のない関数形の回帰式を用いる。ここで, ai:回帰係数,xi:要因(説明変数), y:特性値(目的変数), 下添字i:各要因(の番号), NV:式中の要因の数である。 (3)説明変数の選定  ①目的変数と極めて高い相関(R>0.8)のある説明変数は除く。除かないと, 他の説明変数の影響度が小さくなり全体像を得られない。付録–2に, 講義系の「評価」の回帰式における「目的」の扱いを例示する。  ②説明変数間に極めて高い相関のあるものは, どちらかを代表として採用する。(理由)両方を採用すると, 回帰係数の推定精度が低下する。付録–3に,「評価」の回帰式における「理解」と「興味」および「機器」と「準備」の扱いを例示する。 (4)説明変数の採用・棄却の判定基準  ①回帰係数のt値:t(40,0.05)≒2であるが, ここでの目的変数は物理化学現象ではなく, 感性的な事象なので, (回帰係数のt値)>1.5であれば, その説明変数は採用, それより小ならば棄却(不採用)とする。  ②回帰係数の符号条件:回帰係数は「程度」を除き, 正値を符号条件とする。「程度」の符号条件を示す。 a) 「評価」では正値:高度なことを学べたので満足。 b) 「理解」と「興味」では負値:高度で難しく, 興味をもてず理解もできない。 2.2 回帰式の推定特性と外挿性の良否基準  本報における回帰式の推定特性, 推定精度, 内外挿推定と外挿性の良否基準を示す。 (1)推定特性と推定精度  データ値PDATと回帰式による計算値(推定値)PESTとの比(PDAT/PEST)およびその平均値μを以下で推定精度と呼ぶ また, (PDAT/PEST)の標準偏差はσであり,μとσを合わせて推定特性と言う。なお, 誤差率ERR[%]である。 推定精度の平均値μ=Σ{(PDAT/PEST)i}/N 誤差率ERR=(μ-1)×100 [%] (2)内挿と外挿  回帰式を求めたデータ群に対する推定を“内挿”,それ以外のデータ群に対する推定を“外挿”と呼ぶ(付録-4 参照)。 例えば, H11年式を他年度のデータに適用する場合は外挿である。 (3)外挿性の良否の判定基準  推定誤差の目安を以下に示すμERRとし, 外挿における推定精度の良否を判定する。 ①過大推定(μ≧1)の場合  μMAX=μ+σ,μERR=μMAX-1 ②過小推定(μ<1)の場合  μMIN=μ-σ,μERR=1-μMIN ③回帰式の外挿性の良否基準  μERRが0に近いと, 外挿推定値の最大誤差が小さいことになる。μERRの小さい回帰式を選定する。 3. 「評価」, 「理解」, 「興味」の回帰式の選定  本章では, 両年度の回帰式の推定特性を比較し, 外挿性の良い回帰式を選定する。 3.1 講義系の回帰式  本節で示す各目的変数の2つの回帰式は, 上段がH11年式,下段がH12年式である。 3.1.1 「評価」の回帰式 「評価」=0.171「興味」+0.377「疎通」+0.274「機器」+0.164「熱意」……R=0.85,R2=0.72 「評価」=0.500「興味」+0.181「読取」+0.171「機器」+0.161「熱意」……R=0.92,R2=0.86 <参考-1>上段の式(H11年式)の解釈と推定値PEST ①解釈: 学生に「興味」をもたせ, 「疎通」に配慮しながら, 最新の「機器」を駆使し, 「熱意」をもって授業を行えば, 学生の「評価」を高めることができる。 ②推定値PEST:右辺の説明変数のアンケート評点が全て3のとき, PEST=(0.171+0.377+0.274+0.164)×3=2.96となる。  これより, 目的変数と説明変数の範囲が同一(アンケート評点の1~5)で, 定数項のない回帰式の場合, その回帰係数は目的変数の全変動=1に対する近似的な構成比であることが解る。(理由)回帰係数の計=0.171+0.377+0.274+0.164=0.986≒1である。例えば,「興味」の回帰係数=0.171=構成比=17%とみなせる。 <参考-2>「興味」を「理解」に置き換えた回帰式 付録–3に示したように, 「理解」は「興味」で代表されている。説明変数を「理解」とした回帰式を示す。  「評価」=0.289「理解」+0.286「疎通」+0.229「機器」+0.189「熱意」……R=0.87, R2=0.75  「評価」=0.434「理解」+0.125「読取」+0.142「機器」+0.297「熱意」……R=0.91, R2=0.83  「興味」での回帰式と「理解」での回帰式を比べると, 相関係数Rはほぼ同じなので, 「評価」においては, 「理解」は「興味」で代表されているとして良い。なお, 回帰係数の値は構成比で10%程度の変化が見られる。 3.1.2 「理解」の回帰式 「理解」=0.719「興味」+0.261「疎通」……R=0.89,R2=0.79「理解」=0.705「興味」+0.289「疎通」……R=0.91,R2=0.83 3.1.3 「興味」の回帰式 「興味」=0.492「疎通」+0.441「機器」……R=0.77,R2=0.60「興味」=0.469「疎通」+0.445「熱意」……R=0.78,R2=0.60 3.2 講義系の回帰式の推定特性  H13年度データに対する, 各回帰式の外挿における推定精度の比較を,図1-1~図1-3に示す。各図で, 横軸:H12年式の推定精度, 縦軸:H11年式の推定精度, 破線枠:データ基準の誤差率±10%である。なお, 枠内データの推定精度は良好とみなすことにする。各図より, (1)H11年式とH12年式はほぼ同等な外挿性である。 (理由)多くのデータは対角線(H11年式の推定値=H12年式の推定値)の近傍に分布しており, 破線枠の上下・左右(両式の推定値に差がある)にあるデータは少ない。 (2)「評価」と「理解」に比べて, 「興味」の推定精度は低い。 (理由)「興味」は破線枠外のデータが多い。 「興味」の推定精度が低い理由は, 学科・専攻の授業内容に対応した「興味」の多様性により, 決定係数R2(変動の説明力)が小(0.6程度)のためである。 図1-1 「評価」の回帰式の外挿推定精度(H13の講義系) 図1-2 「理解」の回帰式の外挿推定精度(H13の講義系) 図1-3 「興味」の回帰式の外挿推定精度(H13の講義系) 図2-1 「評価」の回帰式の外挿推定精度(H13の演習系) 図2-2 「理解」の回帰式の外挿推定精度(H13の演習系) 図2-3 「興味」の回帰式の外挿推定精度(H13の演習系) 3.3 講義系の回帰式の外挿性  内外挿における推定特性を表1に示す。表中で, 外挿平均値は外挿の推定精度の単純平均である。同表より, (1)内挿(回帰分析)の推定精度回帰分析における誤差率は小さく, 両式の差は1%以下なので, 内挿の推定精度には差はない。 (2)外挿の推定精度 外挿平均値の差は2%程度と小さいので, 両式はほぼ同等とみなせる。しかし, 標準偏差(≒ばらつきの目安)はH11年式の方がいくぶん小さいので, H11年式が良い。 (3)回帰式の選定 2.2節(3)の外挿性の良否基準より, 「評価」=H11年式,「理解」=H12年式, 「興味」=H11年式を選定する。なお, この結果は内外挿を含めた推定精度の単純平均値を基準とした場合とも一致する。 3.4 演習系の回帰式 上段がH11年式,下段がH12年式である。 3.4.1 「評価」の回帰式 「評価」=0.303「興味」+0.333「疎通」+0.209「熱意」+0.164「程度」……R=0.90,R2=0.82 「評価」=0.327「興味」+0.239「疎通」+0.429「目的」……R=0.89, R2=0.80 <参考>「興味」を「理解」に置き換えた回帰式「評価」=0.319「理解」+0.333「疎通」+0.168「熱意」+0.209「程度」 ……R=0.91, R2=0.83「評価」=0.245「理解」+0.257「疎通」+0.493「目的」……R=0.87, R2=0.76 3.4.2 「理解」の回帰式 「理解」=0.372「目的」+0.606「興味」+0.167「熱意」-0.232「程度」 ……R=0.89, R2=0.79「理解」=0.721「興味」+0.256「疎通」……R=0.87, R2=0.76 3.4.3 「興味」の回帰式 「興味」=0.702「目的」+0.222「疎通」+0.239「機器」-0.204「程度」 ……R=0.84, R2=0.70「興味」=0.568「目的」+0.401「疎通」……R=0.77, R2=0.59 3.5 演習系の回帰式の推定特性  H13年度データに対する, 両回帰式の推定精度の比較を, 図2-1~図2-3に示す。各図の横軸, 縦軸と破線枠は図1と同様である。各図より, (1)H11年式の「評価」と「理解」には, いくぶんのバイアス(対角線の片側に偏在)が見られるので, H12年式の方が推定精度は良い。 (2)推定精度は, 「評価」, 「理解」≒「興味」の順に高い。(理由) 「評価」, 「理解」≒「興味」の順に, 破線枠外のデータが少ない。なお, 推定精度の良否は,Rの大小に対応しているので,Rが推定精度の目安になることが解る。 3.6 演習系の回帰式の外挿性  内外挿における推定特性を表2に示す。同表より, (1)内挿の推定精度 「興味」の標準偏差より, H11年式が良い。 (2)外挿の推定精度 「理解」と「興味」の平均値より, 逆にH12年式が良い。 (3)回帰式の選定 前述の良否基準より,各回帰式(「評価」,「理解」,「興味」)はH12年式を選定する。 表1 講義系の回帰式の推定精度(PDAT/PEST)の平均値と標準偏差 3.7 講義系と演習系の回帰式  選定した回帰式をまとめて再記する。これらの式を用いて, 4章の解析を行う。 (1)講義系の回帰式 「評価」=0.171「興味」+0.377「疎通」+0.274「機器」+0.164「熱意」(R=0.85) 「理解」=0.705「興味」+0.289「疎通」(R=0.91) 「興味」=0.492「疎通」+0.441「機器」(R=0.77) (2)演習系の回帰式 「評価」=0.327「興味」+0.239「疎通」+0.429「目的」(R=0.89) 「理解」=0.721「興味」+0.256「疎通」(R=0.87) 「興味」=0.568「目的」+0.401「疎通」(R=0.77) (3)内外挿を含む推定特性  H11~H13年度におけるデータ値と推定値との比較を,図3-1~図3-3(講義系), 図4-1~図4-3(演習系)に, 推定特性を表3に示す。図で,○,▲,□印:H13,H12,H11の各年度データ,破線:誤差率=±10%である。図表より, ①図3と図4で対応する図の比較:推定値のばらつきは,演習系の方が講義系より小さい。 ②講義系の図3:誤差率=±10%を越えるデータはかなりあるが, 「興味」も含めて外挿適用できるとする。(理由) 破線外のデータは, 授業内容などの何らかの特殊な要因があると想定される。 ③表3:推定精度μは0.996~1.005なので十分である。 標準偏差σの最大値は講義系の「興味」のσ=0.110であるが, 許容できる大きさとする。 (理由)解析的に導かれた関数形を用いても,σ=0.05程度の場合もある(付録-5参照)。ここでの回帰式は何らの理論的な背景がないのだから, その2倍程度はやむを得ない。 4. 「評価」, 「理解」, 「興味」のばらつきの原因に関する考察  本章で用いる授業内容の分類を示す。 1)基礎:教養教育など 2)概論:数学を使わない概論・概念や基礎的手法 3)理数:数学, 力学, プログラム教育 4)理論:数学を基にする専門理論, 設計・解析の手法 5)IT:コンピュータのハード・ソフト  なお,3)理数と4)理論は同一範疇である。 4.1 「評価」,「理解」のばらつきの原因に関する考察  前報で, 原データを用いて次の仮説を導いた。本節では, 推定値を用いて仮説を導いた前報の図6を再現することで, 回帰式と仮説の妥当性を示す。 <仮説1>数学をあまり使わない概論・概念に関する科目の「評価」,「理解」は格段に良い。 <仮説2>数学を基にする設計手法, 専門基礎に関する科目では, 「評価」, 「理解」の向上は難しい。 表3 選定した回帰式の推定精度の平均値と標準偏差 表2 演習系の回帰式の推定精度(PDAT/PEST)の平均値と標準偏差 図3-1 「評価」の推定値とデータの比較(講義系) 図3-2 「理解」の推定値とデータの比較(講義系) 図3-3 「興味」の推定値とデータの比較(講義系) 図4-1 「評価」の推定値とデータの比較(演習系) 図4-2 「理解」の推定値とデータの比較(演習系) 図4-3 「興味」の推定値とデータの比較(演習系) 4.2 「理解」,「興味」のばらつきの原因に関する考察  「理解」は学生の知識獲得の目安である。「理解」向上のためには, 「理解」の高低に対する要因を知ることが重要である。本節では, 「評価」と同様に“授業内容”を要因と仮定し検討する。 図5-1 「評価」と「理解」のばらつき(H13の講義系) 4.2.1 解析に用いる相関図とパラメータ  3.7節の回帰式に見るように, 「興味」は「理解」の構成比70%の要因なので, 「理解」と「興味」との相関を模した図(相関図)を用いることにする。また, 推定値を用いるメリットを活かすため, パラメータはデータ値/推定値(PDAT/PEST)とする。  ここで, PDAT/PESTはアンケート評点のPDAT(「理解」または「興味」)とその要因(「疎通」など)との整合性を表すパラメータである。(理由)PEST=要因による期待値とみなせるので, PESTによる規準化は回帰式の表す“全科目の平均挙動の期待値”との一致度となる。  これより, PDAT/PESTが“μ±1.5σ”を越える科目は, 偏る要因を示唆している可能性がある。すなわち, PDAT/PEST>μ+1.5σまたはPDAT/PEST<μ-1.5σのとき, PDATと要因はかなり不整合な科目とみなせる。 4.2.2 「理解」と「興味」の相関図  「理解」と「興味」のPDAT/PESTを, それぞれ縦軸, 横軸にとり,両パラメータの相関関係を模した図6-1~図6-3(講義系のH13~H11)と図7-1~図7-3(演習系)を示す。図中の破線枠は“μ±1.5σ”である。  図6と図7の各図に示すように,図の破線枠外を4象限に分割し, 各象限に含まれる枠外の科目数を参照し,「理解」と「興味」の大小に関する考察を行う。各象限における科目数を表4に示す。  なお, 象限は右上の1/4領域が第Ⅰ,時計回りに,第Ⅱ,第Ⅲ, 左上が第Ⅳであり, 各象限は次のような意味合いをもっている。 第Ⅰ象限:大いに「興味」があり, 十分「理解」できる。 第Ⅱ象限:「興味」はあるが, あまり「理解」できない。 第Ⅲ象限:「興味」はないし, 「理解」できない。 第Ⅳ象限:「興味」はもてないが, 「理解」できる。 図5-2 「評価」と「理解」のばらつき(H13の演習系) 図6-1 「理解」と「興味」のデータ/推定値のばらつき(H13の講義系) 図6-2 「理解」と「興味」のデータ/推定値のばらつき(H12の講義系) 図6-3 「理解」と「興味」のデータ/推定値のばらつき(H11の講義系) 図7-1 「理解」と「興味」のデータ/推定値のばらつき(H13の演習系) 図7-2 「理解」と「興味」のデータ/推定値のばらつき(H12の演習系) 図7-3 「理解」と「興味」のデータ/推定値のばらつき(H11の演習系) 4.2.3 「理解」に関する考察  第(Ⅰ+Ⅳ)象限と第(Ⅱ+Ⅲ)象限の上下に2分割すると, 各半分の領域は「興味」の大小が消し合い, 「理解」の大小を表すことになる。  表4の「理解」の(Ⅰ+Ⅳ)と(Ⅱ+Ⅲ)の欄より, (1)講義系「理解」が大(=Ⅰ+Ⅳ)の科目数が; ①多数=基礎:教養的な理数, 語学は「理解」できる。 ②拮抗=IT:授業内容によっては「理解」できる。 ③少数=理論:数学を基にする専門理論などの「理解」は困難である。 (2)演習系「理解」が大(=Ⅰ+Ⅳ)の科目数が; ④多数=概論:数学の要らない概念は「理解」できる。 ⑤拮抗=該当なし。 ⑥少数=理数,理論:講義が「理解」できていないので, 演習問題への応用は無理。 4.2.4 「興味」に関する考察  第(Ⅰ+Ⅱ)象限と第(Ⅲ+Ⅳ)象限の左右に2分割すると, 各半分の領域は「理解」の大小が消し合い, 「興味」の大小を表すことになる。  表4の「興味」の(Ⅰ+Ⅱ)と(Ⅲ+Ⅳ)の欄より, (1)講義系「興味」が大(=Ⅰ+Ⅱ)の科目数が; ①多数=(強いて)概論:「理解」できる技術史などは, 相対的に「興味」を感ずる。 ②拮抗=理論とIT 理論:大学において修得すべき専門理論であり, その「理解」は学ぶ目的なので, 「興味」はもっている(しかし, 「理解」はできない)。 IT:現在, 最も求められている電算機技術なので, 授業内容によっては「興味」がもてる。 ③少数=基礎と理数 基礎:学ぶ目的と将来における必要性が解らないので,「興味」を感じない。 理数:抽象的な内容なので, 将来における有用性(応用途)が解らないため, 「興味」を感じない。 (2)演習系「興味」が大(=Ⅰ+Ⅱ)の科目数が; ④多数=該当なし。 ⑤拮抗=(強いて)概論と理論 概論:課題提出に苦労するので, 講義系ほど「興味」をもてない。 理論:学ぶ目的なので, 「興味」はもっている。 ⑥少数=理数:講義でも「興味」がないのに, 「理解」できない課題を課せられ, ますます「興味」は冷めてしまう。 4.2.5 「理解」と「興味」に対する要因のまとめ  前述した「理解」, 「興味」に関する考察より明らかなように,「理解」と「興味」の大小に対する要因は, 授業内容であり, 「評価」における仮説と同じ表現となる。すなわち,“数学を必要とするか否か”である。  加えるべきことは, 「興味」向上のため, “学ぶべきことの目的と将来における有用性を明確に教える”必要があるということである。 5. 結 論  授業評価のアンケート項目である「評価」, 「理解」と「興味」の原データと回帰式の推定値とを用いて, 次の知見を得た。 (1)平成11,12の両年度に導いた「評価」, 「理解」と「興味」の回帰式は, 外挿性も含めてほぼ同等な推定特性を有している。両年度の式のうち, 外挿性の良い回帰式を選定した。 (2)前報で仮説を導く基とした「評価」と「理解」の相関図は,回帰式の推定値を用いてほぼ再現できた。これにより, 回帰式と仮説の妥当性を確認した。 (3)原データと推定値とを用いて,「理解」と「興味」の高低に関する仮説を導いた。その要因は「評価」と同じく,“数学をあまり使わない概論か, 数学を多用する専門理論か”である。これより, 工学科においては, 数学教育に一層の力を入れる必要がある。 (4)教養, 数学, 力学やプログラム教育などにおいては,“学ぶことの目的と将来における有用性を明確に教える”必要がある。 表4 「理解」と「興味」の相関図における各象限の授業内容 付録–1 回帰分析の一般的事項 (1)回帰分析:因果関係のある数値データ群が与えられた場合, 特性値(目的変数)と要因(説明変数)との関数関係を推定する統計手法である。  回帰分析は物理化学法則(因果関係)が解明されていなくても, 解析者が想定する関数形を用いて適用でき, 求められた回帰式により, 特性値に対する要因の影響度を知ることができる。なお, 説明変数が1つの場合を単回帰分析,複数の場合を重回帰分析と言う。 (2)回帰式:目的変数yと説明変数x1,x2との関数関係を, 例えばy=a1x1+a2x2なる線形の回帰式(関数形)とし, 回帰係数a1,a2を最小二乗法により求める。 (3)回帰係数ai:有意な説明変数はai≠0であり, 目的変数に影響を及ぼす。有意でない説明変数はai≒0であり,目的変数への影響は無視できるので棄却する。なお,ai>0(目的変数と説明変数の増減が一致)を正の相関,ai<0(増減が逆)を負の相関と言う。 (4)相関係数R(|R|≦1):目的変数と説明変数との関数関係の良否の尺度である。|R|=1(良い:直線関係なら, 全てのデータが直線上にある), |R|=0(悪い:全く関係がない)であり, |R|が大を“相関が高い”と言う。 (5)決定係数R2:目的変数の変動に対する説明変数の寄与率である。R2=1(変動を100%説明できる), R2=0.8(80%説明できる)などである。 (6)回帰係数aiのt値:危険率αで,ai=0(説明変数は影響しない)とみなすか否かの判定基準を与える統計分布の値である。データ数N=40,危険率α=0.05(5%)の場合,t(40,0.05)≒2である。 (7)符号条件:回帰係数の正負のことであり,想定する関数関係の“常識的な符号=常識的な増減”をもつ説明変数は採用し, もたない変数は棄却する。 付録–2 講義系の「評価」の回帰式における「目的」  講義系の回帰式では, 「目的」を説明変数としていない。なお,「目的」=“授業の目的と内容とがよく合っていた”である。  目的変数=「評価」, 説明変数=「目的」とした単回帰分析結果は, R=0.88,R2=0.77と高い相関があり,「目的」は77%の変動を説明できる要因である。この単回帰式によれば,“授業計画に沿って淡々と授業すれば, 学生の評価が高くなる”と言うことになる。しかし,実際はそんなに簡単なことではないし,次の理由から「目的」は「評価」の説明変数とはしないことにする。 ①個々の授業においては幾分か内容が逸れることはあっても,通期では授業計画と一致するはずである。 ②学生の「理解」が十分でないと,“授業の目的と内容”を客観的に判定することが難しい。 付録–3 「評価」の回帰式における「理解」と「興味」  目的変数=「理解」, 説明変数=「興味」とした単回帰分析結果は, R=0.86, R2=0.74と高い相関がある。「評価」の説明変数は「理解」と「興味」のどちらかであるが, 「興味」で代表する。「興味」が有意であれば「理解」も有意と考える。  また, 「機器」と「準備」の場合, R=0.84, R2=0.70と高い相関があるので, 「機器」で代表する。「機器」が有意であれば, 「準備」も有意とする。 付録–4 回帰式による内挿推定と外挿推定  回帰式はそれを求めたデータ群(例えばH11年度のデータ)に対して, 内挿推定するものである。内挿の場合は, 相関係数Rが推定精度の目安となる。しかし, 同様なデータ群(例えばH12年度のデータ)に対して, その回帰式を適用する外挿の場合は,回帰式の推定精度は保証されない。その大きな理由は, 回帰モデル(回帰式の関数形)が同一か否かが解らないからである。 付録–5 理論のある回帰式の内挿の推定特性  鋼管強度の規格計算式の推定特性例を示す。同式は弾塑性応力解析による関数形とN=148のデータを用いた回帰式であり,推定精度μ=1.005,標準偏差σ=0.051である。  データ値と推定値との比較を付図-1に示す。破線で示す誤差率±10%近傍のデータもいくつかある。 付図-1 理論的関数形を用いた内挿推定の例 謝 辞  本学聴覚部 機械工学科 谷 貴幸 助手には,平成11年度~13年度にわたり, 図表作成のご指導・ご協力を頂きました。記して謝意を表します。 参考文献 [1] 聴覚部 教育活動に関する点検評価 ワーキンググループ(三牧 敏太郎, 根本 匡文, 生田目 美紀, 萩田 秋雄, 川島 光郎, 渡辺 隆, 皆川 洋喜, 松藤 みどり, 石原 保志, 中瀬 浩一):授業評価(聴覚部・13年度)の統計解析 第1報 授業評価データの原データの平均値とばらつきが語るもの. 筑波技術短期大学テクノレポートVol. 10(2):pp.85-95, 2003. [2] (私信) 学生による授業評価ワーキンググループ:平成11年度 聴覚部の教育活動についての点検評価―学生による授業評価-概要報告. 平成12年度第11回聴覚部教官会議資料: March 2001. [3] (私信) 学生による授業評価ワーキンググループ:平成11年度・平成12年度 聴覚部の教育活動についての点検評価―学生による授業評価-概要報告:Sept. 2001. Statistical Analysis for the Instructional Evaluation Questionnaire by Students of Division for the Hearing Impaired (2nd Report, Hypnoses suggested by regression equations) MIMAKI Toshitaro NEMOTO Masafumi NAMATAME Miki HAGITA Akio KAWASHIMA Mitsuo WATANABE Takashi MINAGAWA Hiroki MATSUFUJI Midori ISHIHARA Yasushi and NAKASE Koichi Abstract:Regression equations for evaluation, understanding and interest have been derived in 2001 and 2002. Using original data and estimates of regression equation, followings are reported. (1) For evaluation, understanding and interest, better fitting equations are selected, based on estimate accuracy. (2) The selected equations are valid, since they can also conduct the hypnoses for evaluation of 1st report that evaluation is higher for lecture and exercise, which requires little mathematical acknowledgement. (3) For understanding and interest, hypnoses which is the same as evaluation, is conducted using data and estimate. Key Words:Instructional evaluation questionnaire, Regression analysis