学生募集ポスターの教育的・社会的利用と横断型教育支援への試み(障害に配慮したヴィジュアル・コミュニケーション活動の教育的展開) 筑波技術短期大学デザイン学科1 ) 電子情報学科情報工学専攻2 ) 生田目 美紀1) 皆川 洋喜2) 北川 博2) 要旨:本教育研究活動は、学生主体の社会参加型プロジェクト教育として筑波技術短期大学学生募集ポスターの制作を位置付け、新しいデザイン教育の理論構築と教育方法の開発を行った「障害に配慮したヴィジュアル・コミュニケーション活動の支援」を発展させたものである。今年度は全学科専攻学生の制作参加を可能にし、アンケートにおいても学科専攻を越えた横断型活動を行った。本学のアイデンティティに関わる活動に対し、全学生に平等の機会と協調的活動の場を提供した。 キーワード:横断型教育、社会プロジェクト、学生募集ポスター、コミュニケーションデザイン、聴覚障害学生 1.はじめに  本編は「障害に配慮したヴィジュアル・コミュニケーション活動の支援」*1を発展させた教育研究プロジェクトの活動報告である。具体的には「筑波技術短期大学学生募集ポスター」の制作を全学生に呼びかけ参加を募り、アンケート集計活動も教育活動の一環として実施することで学科専攻の枠を越えることを試みた。 2.教育研究プロジェクトの目的  学科専攻を越えた横断型教育の方法を模索する。 3.教育研究プロジェクトの背景  現代社会は教育現場に対し、学生が社会の一員であるという意識と広がりを持たせる工夫を求めている。本プロジェクトは上記のような要望に答えるべく立ち上げたものである。学生が社会に働きかけるだけでなく、社会からの評価も得ることができる社会参加型プロジェクト教育である。  さらに高等教育機関に対しては横断型教育の可能性が期待されている時代でもあるため、本年度は学科専攻の枠を越える教育活動へと発展させた。  課題として取り上げた学生募集ポスターは、教育成果や大学アイデンティティの社会周知活動として有意義であると同時に、大学が社会へ発信するテーマとして重要だと考える。なぜならばこの課題は大学に対するオーナーシップ(Ownership)*2とアイデンティティ(Identity)というテーマを含み、大学と学生の共通理解がなければできないからである。文部科学省が提唱する特色ある大学づくりに対して基礎固めとなる活動といえる。 4.教育研究プロジェクト経過  本教育研究活動は、1999年からデザイン学科において生田目が行っている新しいデザイン高等教育の理論構築への試みに端を発している。プロジェクトとしては、2001年はデザイン学科全学生、2002年は本学全学生へと対象を拡げて活動した。  2001年までの研究では以下のことが明らかになった。 ・本学におけるデザイン教育の特徴:「1:少人数制による教育環境の特色を生かす教育方法として、協調による全体的な目的意識の共有を条件とする相互啓発を基盤とすること。2:学習者が作品評価に関するフィードバックを広く社会的に体感できるような配慮と支援を行うこと。」1)2) ・具体的な教育方法:「表現力や発想力を向上させるためには、然るべき段階で知識の創造的利用を促すような課題が必要である。」「コミュニケーションをとりながら本人が表現したい事を明確にしていくような指導が大切である。」3) 5.2002年の教育的支援報告  ホームページ等で全学生に制作への参加を呼びかけた。デザイン学科以外の学生からも問合せがあったが、学園祭の準備期間と重なったため実際の参加者はデザイン学科学生12名であった。残念なことにこの時点でデザインの横断型教育を行うことができなくなった。そこでアンケート集計に関わる部分に対して横断型教育を行うことにした。デザイン学科、情報工学専攻から各一名の学生参加を得ることができた。  横断型教育活動の内容はEXCEL*3を使ったデータ入力、集計、作表等であった。 6.プロジェクトの概要と内容  ポスター制作と第三者評価アンケートの2つで構成し横断型教育はアンケートのデータ入力・集計作業で実施した。 図1 プロジェクトの実施内容 7.学生作品紹介  これら12作品を公表し調査にかけた。 図2 平成16年度版筑波技術短期大学学生募集ポスターデザイン案 8.「第三者評価」アンケート 8.1 目的  学生が作成したポスターを第三者により評価してもらい、本学学生募集ポスターの候補を絞る。  また、評価を各学生にフィードバックし、学生の表現意図がどのくらい伝達されたかを体感させる。 8.2 アンケートデータ  平成15年10月12日~13日に行なわれた聴覚部学園祭、および聴覚部、視覚部キャンパス内でポスターを掲示し、学内外の方々(計132名)にアンケートにより評価をいただいた。  アンケートの評価項目は以下の通りである。 Q1:好きなポスターは? Q2:大学名がわかりやすいポスターは? Q3:文字情報が読みやすいポスターは? Q4:筑波技術短期大学のイメージに合ったポスターは? Q5:総合して一番良いと思われるポスターは?  Q1からQ4は3つまで選択、Q5は1つだけ選択とした。 8.3 集計結果  総合評価(評価項目Q5)では、ポスターFが最も高い評価(29%)を得た。次いでポスターJ(17%)、ポスターC(16%)となっている。(図3参照)  項目別に見てみると(図4参照)、好きなポスター(評価項目Q1)については、ポスターF(61%)とポスターJ(54%)の評価が高かった。  大学名がわかりやすいポスター(評価項目Q2)については、ポスターJ(64%)の評価が高かった。  文字情報が読みやすいポスター(評価項目Q3)については、ポスターF(51%)の評価が高かった。  筑波技術短期大学のイメージに合ったポスター(評価項目Q4)については、ポスターC(46%)とポスターF(43%)の評価が高かった。 図3 総合評価(Q5) 図4 項目別評価(Q1~Q4) 8.4 年齢別集計  総合評価(評価項目Q5)について、年齢別に見てみると、ポスターJは60歳以上(50%)と18歳未満(31%)の年齢層から高い評価を得ていることが分かる。  また、ポスターFは25歳から60歳以上までの幅広い年齢層から高い評価を得ていることが分かる(25~39歳(33%)、40代(39%)、50代(39%)、60歳以上(25%))。(図6参照) 図5 回収アンケートの年齢構成 図6 総合評価(Q5)の年齢別集計 8.5 所属別集計  総合評価(評価項目Q5)について、所属別に見てみると、ポスターFは本学関係者(42%)とその他(学外者)(28%)から高い評価を得ていることが分かる。  また、ポスターJは本学卒業生(38%)から高い評価を得ていることが分かる。  ポスターCは本学学生(29%)から高い評価を得ていることが分かる。(図8参照) 図7 回収アンケートの所属構成 図8 総合評価(Q5)の所属別集計 8.6 筑波技術短期大学学生募集ポスターの選定  以上の結果より、各評価項目で評価の高いポスターFとポスターJを候補に絞り、学長による最終決定により、平成16年度筑波技術短期大学学生募集ポスターをポスターJに決定した。 9.学科専攻の枠を越えた横断型教育への展開  前節のデータ処理(データ入力、集計、作表)は、情報工学専攻の学生1名とデザイン学科の学生1名との共同作業により行なった。情報工学専攻の学生は表計算ソフトの使用に精通しており、表計算ソフトの使用経験がないデザイン学科の学生に使い方を教えながら作業を進めた。  学生募集ポスターの作成という一つの目標に向かって、それぞれの学科の専門性を活かし、かつ互いに影響を受けながら様々な技術と知識を身に付ける横断型の教育は、多様化した現代社会で活躍する学生を育てるために有効であると考える。特に、筑波技術短期大学聴覚部は、聴覚に障害を持つ学生のみが集う、少人数クラス編成で教育を行なう日本で唯一の高等教育機関であり、本学がこのような横断型教育のモデルケースとして、先進的な教育を推し進めていく必要があると考える。  このような横断型教育の可能性として、ホームページ作成(デザインとプログラミング)、都市計画(設計とコンピュータシミュレーション)などが考えられる。 図9 横断型教育と共同作業風景 10.おわりに  この教育研究プロジェクトは2年間で十分なノウハウが構築でき、全体の作業内容もシステム化できた。今後は教官の教育研究活動としてではなく筑波技術短期大学のプロジェクトとして「学生がつくる学生募集ポスター」活動が継続されることを切に願っている。この企画が特色ある大学づくりにつながることを信じ、学生と共に制作活動を継続していきたい。  本プロジェクトは、筑波技術短期大学平成14年度教育改善推進プロジェクトとして実施した教育研究活動の一部である。 引用文献 [1] 生田目 美紀,永井 由佳里:聴覚障害学生がコミュニケーションデザインを体感できる教育実践と展開.筑波技術短期大学テクノレポート8(2):27-33,2001. [2] 生田目 美紀,永井 由佳里,北川 博:障害に配慮したヴィジュアル・コミュニケーション活動の支援1.筑波技術短期大学テクノレポート9(1):93-97,2002. [3] 生田目 美紀:筑波技術短期大学学生募集ポスターとデザイン教育― 聴覚障害学生による視覚障害に配慮したポスター制作 ―.筑波技術短期大学テクノレポート:9(2):1-5,2002. 注釈 *1 筑波技術短期大学平成13年度教育改善推進プロジェクト *2 “持ち主だという気持ち”という意味で使用 *3 Microsoft表計算ソフト Trial of Disciplinary Education for Trans using Recruitment Posters NAMATAME Miki1) MINAGAWA Hiroki2) KITAGAWA Hiroshi2) 1)Department of Design, Tsukuba College of Technology 2)Information Science Course, Department of Information Science and Electronics, Tsukuba College of Technology Abstract:This is a practical report of disciplinary education for trans in which we tried a teaching method by using the recruitment posters for attracting new students. We supported communication activities in the visual design and the data processing, while our college cooperated with the students, resulting in the college identity being established together. Also hearing-impaired students had the opportunity to think about a visual handicap, and we could present students' education results to society. The student of department of information science and electronics and the student of department of design learned each other. The points to make "Disciplinary Education for Trans" successful are to have same purpose, to take advantage of each speciality and to be influenced mutually. These are effective in order to bring up the student who plays an active part in the diversified modern society. Key Words:Disciplinary Education for Trans, Society Project, Recruitment Poster, Communication Design, Hearing-impairment