平成14年度筑波技術短期大学鍼灸学科におけるチューター制の試み 筑波技術短期大学鍼灸学科 一幡 良利 形井 秀一 柴崎 正修 森山 朝正 吉田 紀明 坂井 友実 野口 栄太郎 藤井 亮輔 森 英俊 和久田 哲司 大沢 秀雄 佐々木 健 上田 正一 木村 友昭 殿山 希 要旨:昨年度から、筑波技術短期大学鍼灸学科では教育の一貫としてチュ-タ-制を取り入れた。学科所属教官全員で個々の学生集団と関わり合いを持ち、視覚障害学生の教育支援と生活支援を充実させる目的である。昨年度に比べて、異なった点、改善された点を各学年で検討した。その結果、各学年進行ならびに個々よっても異なった見解が得られたが、能力差の違いが重要であった。この時、早期に鍼灸・手技療法への関心と理解を深めさせることも、モチベーションを高める上で有効であった。今後、学科独自の体系を確立すれば、「これからの鍼灸・手技療法学教育」に果たす役割は大であると考えられる。 キーワード:チューター制、視覚障害学生、鍼灸、手技療法、教育 1.はじめに  筑波技術短期大学鍼灸学科では平成13年4月からの入試制度の改革と同時に、多種多様な学生に対応するために、チューター制[1]を導入した。学生は教官との人間的なふれあいを通じて、人生の先輩の知見や経験を学んでもらい、教官はそれぞれの学生に目配りを十分にすることとしてはじめられた。また、医療系である本学科の特徴を生かすため医学教育[2]で行なわれている本制度の導入が教育、国家試験、卒後教育に反映することをも含めてのスタートであった。しかし、導入初年度より、幾多の困難な問題を抱え、特に本学科では教育支援にとどまらず生活支援に多くの時間を費やすことになっていることが判明[1]した。したがって、本制度を他大学にはない独自の体系に整えることが重要である。平成14年度も3~6名の学生を1名の教官に割り当て、学年進行とともに3年間に亘り交流をもつものであるが、学業、生活、個人的問題などの解決に果たした役割は少なくはない。 そこで各チューターの遭遇した問題を掲載し、学科独自の体系の確立に向けての試みとする。 2.1年次生のチューター制の指導内容 2.1 基本方針  年度当初のチューター会議(6人の教官で構成)においてクラスのグローバルな方針とローカルなスタンスを確認した。グローバルな方針としては、チューター制度を実施するに当たり、このクラスの教育的基本概念として、クラス全員に対し「喜」「怒」「哀」「楽」の四つの感情を「喜」「怒」「愛」「楽」の四つの教育的指導に対応させ、各チューターがそれぞれの役割を担いながら、チューター集団が1つの個性を持った有機体として機能することを目指し、学生から発する声ならぬ声を時には受けとめ、時には導く事で学生と教官との間に強い信頼関係を築くと共に、全体としての連帯感と個人としての個性を両立させる教育方針をもってクラスの運営および学生の指導に当たっていくことを確認した(表1)。  「喜」では、本学に入学したことを喜びと感じるような様々なイベントを企画立案し積極的に学生たちとの交流の機会を設ける事で、互いを知り、理解しながら、学習においても同様の喜びを感じるよう指導を行う。具体的には、クラス単位での野外活動や、食事会、パーティーなどを実施しそのふれあいを通して学生個人個人の長所や短所などの特徴を把握すると共に個性の把握と個人が抱えている様々な人間関係における問題とを自然な形で聴取し、将来の可能性予測のためのデータ収集に努める。  「怒」では、厳格な生活面や学習面での指導を行うことを通じて、遊びや怠慢に逃避しようとする甘えの感情を一括し、程よい緊張感を提供することで自らを律する習慣を身に付けさせるよう指導を行う。具体的には、呼び出しによる面談を行い、個人個人の不足している面や逸脱している点を指摘し厳しく指導すると共に保護者への成績の通知等を通じて問題点の自覚を促すと共に改善方向を明確に認識させ、積極的に努力を促す。  「愛」では、厳しい指導に対する怒りや自信喪失、人間関係での疲労や不満を受けとめ、これを哀しみ共感するとともに、傷ついた心に愛情をもって接することで、崩壊してしまいがちな自己意識をつなぎとめ修復し、問題解決をはかるための指導を行う。具体的には、廊下ですれ違うときや教室内での様子を観察し、普段と違う様子を感じ取り積極的な声かけを行い、悩みを引き出しそれに対して共感や同感意識を示すことで、孤独感から開放すると共に良き理解者としての存在を意識させるように努める。  「楽」では、「喜」「怒」「愛」のような積極的働きかけではなく、ある程度距離をおいた形で学生に接し、全三者のアンチテーゼとして転換点を提供する。教官が意図的に指導する反対方向にも、全く別の価値観が存在することを自覚させ、時には他にも、より良い方法があることを気づかせることで、積極的な指導の累積が原因となって、切れる寸前にまで張り詰めてしまった精神状態に余裕を取り戻させ、気分転換をはかるとともに、強い思い込みからの開放をはかることで、ゆとりある楽しい大学生活をすごすための指導を行う。具体的には、教官からの積極的な働きかけから逃避したり、逸脱している学生や、引きこもりや授業放棄等の学生が生じた場合に備え、自然な形でその切迫感や緊張感を開放させ、突発的な事故を未然に防ぐと共に、本来あるべき位置に帰還させる働きかけを準備し待ち受け、学生から働きかけがあった場合には即座にこれを発動する。これら喜怒愛楽の四つの機能に6人の教官を割り振って担当を依頼した。  ローカルなスタンスとしては次の点を確認した。 ①クラス担当教官はクラスのチューターを代表しチューター間の連携を図る。 ②学生個人用のファイリングを用意し、担当学生のファイリングは担当教官が管理する。 ③緊急連絡網を作成し普段の連絡にも活用する。 ④グローバルな方針に基づく役割分担とは別に各教官毎に3~6名の学生を担当する。 ⑤様々な事象に対応して各教官毎の担当学生はチューター会議での協議の上、入れ替え等を行う可能性がある。 2.2 チューター制の問題点と利点  以下に各チューターからの実践例を示した。 ①チューターA  個々に多様な課題を抱えている学生20名程度を1人の教官が担当することは困難であるから、複数で分担しながら指導しようという「複数担任制」あるいは「担任補助」という考え方には賛成である。しかし、私のように、授業を担当しない、つまり日常、接触する機会がほとんどない学生の「チューター」になることは一般論としてはあり得ないし実効もあがりにくい。この点を改善することと、「チューター」の指導範囲や責任範囲を成文化するなどの整備が必要だと思われる。 ②チューターB  男子学生が、1学期半ばに女子学生とトラブルを起こし、学科の指導で休学後、自主退学している。この学生については問題発生直後から学科の学生委員が対応し問題解決に当たっており、当人以外にこの問題を知るものは学科主任と学生委員のみであった。従って、チューターとしてこの学生に係わったのは、退学手続きも済んでから当該学生の将来の方向についての相談だけである。この当たりは、問題を起こした学生がクラス担当や他の教官、同級生、チューターなどと、どの様に係わり話し合いを進めていくのか、事例事例によって決めていかなければならないが、少なくともチューターには細かい状況の説明が必要である。 ③チューターC  学生の自主性を重視し、学生それぞれの生き方を信じて、助けを求めて来たものに対して応えて援助するという本来のチューター制ではカバーしきれない問題がみられた。つまり、学生側に自己の問題への認識がない、あるいは問題解決を図ろうとしないという状況である。いくら尋ねても「私は困っていない」と答える学生が存在したのである。自らが学生生活を見直し変化したい、成績不振のふちから上がりたいという願望を持って、はじめて教育が成立すると考える。  学生が事の重大さに気付いていないとすればチューターはそれに気付かせる努力が必要であると考える。 しかし、それを言っても学生がこのままでいい、どうでもいいと考えているとしたらもう方法は思いつかない。この場合の学生は自分自身の問題に気付いていると思う。しかし、成育の過程の出来事や障害の未受容、家庭の問題等、根深いものがあると考える。多くの荷物を背負った中途障害者が本学で学び、資格取得に至るには、まず心の整理をするために多くの時間が必要となると考える。これは本来入学以前に必要だった時間でもある。 ④チューターD  入学当初、毎週1回の全員そろっての夕食会を持つことと、毎週1回の全員そろっての勉強会を持つことを提案し全員が快くこの提案を受け入れた。毎週1回の夕食会は、むしろ学生からの希望で実現したもので、1回も欠席無く進行した。初回の夕食会ではやや緊張した雰囲気はあったものの、それ以降はこちらの意図と雰囲気を掴んだためか、次第に丁寧語や尊敬語の使用が減ると同時に屈託のない会話となり、いつも明るく和やかで自然な雰囲気に満ちた夕食会となっていった。こちらもあえて説教となるような発現は一切せず、主として聞き役に徹しながら、発現の少ない学生の発言を多く引き出すよう配慮して、自由な意見交換の場として機能するよう努めた。仕切りたがる学生には仕切らせ、不平を並べたい学生には気が済むまで不平を吐き出させ、不安や恐れを持つ学生には泣き言を自由にさらけ出すよう場の雰囲気作りを行い、その解決も学生たちに任せて、意見を求められたときのみこちらの主張を控えめに提示する程度におさえ、最後に忘れず必ず秘密は守る確約を行った。回が進むにつれ学生おのおのが自己で抱えている秘密を吐き出すようになり、それを知りうるものだけの連帯感が生まれ、互いの信頼関係は自然と強まり、長所を生かして欠点を補い合い、庇いあう関係へと発展していった。これが学習面でも良い影響を生み出して行く事につながっていった。毎週1回の勉強会では、その運営方式や時間、科目などの組み立てまで、学生の協議により決定してもらい、こちらもそれに従う形で参加した。学生の協議の結果、学生一人が固定で司会を勤める事となり、1回毎に1科目で、時間は約2時間となった。また、次回の科目や範囲も最後に学生の協議で決定し、その解説担当者を持ち回りで決定して、解説担当者は次週までに質問に耐えられるだけの学習をしてくることとなった。  第1回目から資料や模型などを持ち込んで細かい解説が行われ、楽しい雰囲気の中にも活発な質問が容赦なく飛びかい、あっという間に時間制限の2時間を過ぎていた。こちらとしては質問が飛んできたときに答えられるよう準備をしていたが、ほとんどは学生たちが自力で解決していったため、こちらがやることは「そろそろ終わりにしませんか」というくらいであった。  第2回目以降も同様な活発な勉強会となり、まれに全員が解答不能の問題に突き当たったときにこちらに質問が飛んでくるが、こちらとしてはその可能性を配慮して事前に人数分の資料を用意しており、これを即座に提示することでその解答に変えた。ここで長々と解説を加えたのでは授業と変わらなくなり、学生の主導権を奪いやる気をそぐデメリットが大きいと考え、あえて解説はせず「こんなものがあるが必要ですか」と提示した。無論、考えられる可能性全ての資料を事前に用意しておくのではあるが、それは出さず求められたものだけを出し、それしか用意していなかったように装うことで二重三重の教育効果を狙ってのことである。勉強会に呼応してか、成績も上々の結果を生み、他の学生に勉強会の効果を自慢するようになっていった。こうした勉強会も回が進むにつれ、うわさが広まり、他のチューターの学生も混ぜてほしいとの声が高まり、学生たちの協議により参加を認めることとなったため、1人2人と次第に人数が膨らみ、にぎやかになっていったが、声を荒げての論戦となることもしばしばとなるばかりでなく、聞き役に徹し、下調べをしてこない学生や知識の上前だけを取りにくる「お客さん」学生が現れてきて、元からの構成員から不満と怒りの声があがり、食事会でもそうした学生の悪口や愚痴が中心となり、次第に雰囲気は悪いものとなっていった。  この事は事前に予測できたことではあったが、初期に得られる教育効果の大きさや人道的見地から排他的な勉強会にはできないジレンマに陥ったことは反省すべき事態であったと考えている。 2.3 まとめ  全体的には喜怒哀楽の四つの機能はうまく働いていたと考えている。しかし、いくつかの問題点については検討して、さらなる進化が必要である。 表1 平成14年度のチューター制の方針 3.アドバンスコース1年次生のチューター制の指導内容 3.1 基本方針  アドバンスコースの学生に対しては次に上げる三つの課題について中心に援助した。 3.1.1 履修届  アドバンスコースの学生はあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師(あはき)の免許既取得者であることから、免許取得を目指したカリキュラムよりも比較的自由に組むことができる。学生は自主的に学習目標を設定してカリキュラムを立てることになる。しかし学生が設定した学習目標が「鍼灸治療技術の向上」などのように具体化していない場合、チューターが面談活動を通して援助している。 3.1.2 課外活動  カリキュラムに余裕のあるアドバンスコースの学生には、広い知識を多様な経験から学ぶ機会としてカリキュラム以外の活動が重要である。サークル活動や地域行事にともに参加して成果を上げた。  例えば、サークル活動では手話サークルへの加入、つくば市の地域行事ではおひさまサンサンフェスティバル(障害者交流行事におけるマッサージサービス)やつくばマラソンボランティア(マッサージサービス)の積極的参加があげられる。 3.1.3 職場見学  アドバンスコース1年次生が授業で行った見学場所の決定と事前事後の指導を行った。場所は将来の進路希望から選定した。見学場所は医療保険を活用した訪問鍼灸治療院、企業経営の就労支援プログラムとしてのマッサージ治療院、本学非常勤講師の個人経営によるあはき治療院である。 4.2年次生のチュータ-制の指導内容 4.1 基本方針  2年次生のチュータ-は1年次と同じ学生でということで出発した。2年次の初めに学生と個人面接を行い、将来の進路などについて聴取した。2学期の末には理療の全国摸試を受けさせ、3学期の末には今年度の鍼灸あんまマッサージ師国家試験と同一の問題で試験を行った。  これは今年度の国家試験の合格率が低かったので学生の自覚を促すためのearly exposureのためであった(表1)。 その他、チューター会議は定期的に行わず、必要に応じて、会議を開いた。 4.2 チューター制の問題点と利点  以下に各チューターからの実践例を示した。 ①チューターE  受け持ち学生は1年次と同じ社会人入試や相対話入試で合格した学齢以上の学生であった。社会人経験のある学生や大学を卒業した学生は、知識や技術を習得しようという心構えを持っている。また勉強の仕方、速くいえば暗記の仕方や一夜漬けで何とかなるコツを知っている。しかし何となく進級させて貰って、学齢で卒業してきたような学生の中には、大学に来て今までとは勝手が違うので戸惑い、どうしていいか分からず、学校の面倒見が悪いと不平を漏らしたり、中にはパニック状態になってしまう者もいる。更に何をしに大学に来たのか自分でも分からない学生さえいる。しかもそういう学生を指導できないのは教官の教育能力が不足しているのだと自虐的言説を成す者もいるようだ。  私の担当した学生は皆学齢以上の学生であり、原則として勉強は出来るはずであったが、中にメンタルヘルスに問題があり、大変悩まされた学生がいた。この学生はてんかん性障害の学生であった。試験前になると頑固な頭痛、嘔吐を訴え、数日間静養室に寝たきりで、その間何度も教官が近隣の病院に搬送し、明け方まで点滴につきあった教官も数名に及んだ。ついには保護者を呼んで、病院に入院させ、小康状態が得られたので、自宅にて静養させた。その後元気に復学し、学業を継続している。  このように学生が勉強できない原因には、基礎学力の不足とメンタルヘルス上の問題とがある。何とか入学前にも最低の基礎学力を養うように指導する必要がある。  メンタルヘルスの問題は勉強に非常に影響を与える。寮における対人関係特に男女関係の問題やもともと持っていた神経的性格傾向が増悪して勉強ができなくなるケースが多い。これは今まではその都度対応していたが、何とか予防する方法はないものかと思われる。 ②チューターF  1年次生の時に色々な問題を抱えながらも2年次になった学生たちであるが、まだまだ、問題を解決できていない学生もいる。また、それらの問題の中には、本学入学以前からその学生が抱えている問題もないわけではなく、高校生時代の心身状態から脱却できずに、問題が再燃する場合もある。  担当した学生Aは、高校時代不登校で、保健室での学習でかろうじて高校は卒業したが、不登校になった心身の問題は解決しないまま本学に入学してきた。1年次生の時にも多少不安定な状態はあったが、2年次生の3学期になって精神的に落ち着かず、自分の気持ちをコントロールできなくなり、講義に出席できなくなってしまった。保健管理センターの指導や学科担当教官との話し合いをもったが問題解決に至らず、保護者を呼んで、問題解決の糸口を検索した。その結果、自宅に一旦帰省し、帰省先の大学病院での受診を義務とし、1ヶ月余りの療養生活を送り、復学できた。  学生Bは、1年次生の3学期に内科的疾患で入院したことがあったが、2年次生の1学期に心身不安を訴え、学期末の試験を受けられず、再試をして1学期の試験をクリアした。まだ、精神的に親からの自立が十分でなく、また、人間関係をスムースに築けないなどの問題を抱えていたため、身体的な愁訴の出現しやすい状態にあると思われる例があった。しかし、1、2年次生のそれらの経験を経て、友人関係も少しずつ改善し、身体的愁訴の出現も強くなく、3年次生に進級した。  学生Cは留学生で、日本語の能力が十分でなく、文化の違いなどにも戸惑っていた為、1年次生の時には、教官とのコミュニケーションがうまくいかず、授業の出席拒否などのトラブルもあった。2年次生になってからは順調に受講し、単位習得もできている。本人は2年次生の秋頃から、やっと授業の中身が理解できるようになったと言っているが、漢字による授業習得に重きがおかれる科目が、他の学科より多いので、本人の一層の努力が望まれる。しかし、3年次生では、卒業試験や国家試験が控えており、本人のやる気と試験結果にあまり大きな差がない成果が残せるかが今後の課題である。学習方法をも含めて、より細やかな指導が必要となる例である。 ③チューターG  学生Dは幼児から現在に至るまで消化器障害があって、授業を欠席しがちで友人や宿舎内の同じユニットの学生との交際も次第に途切れ、連絡のための電話にも出ない状態となり、次第に閉鎖傾向が強くなっていった。この学生への対応としては粘り強く友人、同じユニットの学生、メールボックスへの連絡事項の投函、電話(留守電の折には伝言メッセージ)などを通じて連絡をとるように努めた結果、ようやくコミュニケーションが取れるようになったが、単位未修得科目は4科目残っている。次年度は寄宿舎の収容人員の関係上、退舎してアパートからの通学となり、今後の学習継続に不安が残るが、人間関係の煩わしさからは逃れてよい方向に行けばとも考える。  学生EとFはともに学習に取り組む姿勢は誠実に努力しているが、Eは脳手術の後遺症によって記憶の継続に困難を来たし、Fは基礎的学力の不足で、何れも学力不足で苦慮している。Eには「反復学習と簡易教材の提供、Fにはノートの活用法など学習方法を工夫してはどうか」など話し合って個々の学習の弱点を自覚して補うよう努めてきた。次年度のあはき師国家試験への早めの準備対策が必要である。  学生Gは将来上級学校への進学を早くから目指していたが、学力に自信が持てず進路に不安を抱き迷って悩んでいる。温厚な心やさしい学生であるだけに何とか自信を持たせるように図っていこうかと思うところであるが、十分な時間が取れず対策に苦慮している。  本学に入学するまでに、様々な進路を経て在学している学生に対して、個々の目標を達成しうるようにチューターとして手を貸して行こうかと思うが、自身の力不足に加えて、一般学生の教育ならびに研究活動、更には附属診療所での診療活動等と忙しすぎて十分に時間を生み出せないのが現状である。効果的な時間配分を教官相互に検討して無駄な時間を整理していく必要を感じる。 ④チューターH  2年次生のチューターは年度初頭に担当学生数の調整があり、昨年度の担当学生が9名であったが、本年度は5名となった。その結果担当学生の個別対応は昨年度より行いやすい状況となった。また、チューターとして担当学生に対応を迫られる問題も少なかったが、これには新環境に適応することを迫られる1年次生、国家試験対策や就職活動に忙しい3年次生と比較して、2年次生においてはは生活面・学習面ともに安定しやすいという、全般的傾向が関与しているとも考えられた。  生活面上の問題では1年次生の時に担任・チューターの定期的なサポートが必要であり、今年度も継続して担当した学生の一人は自主的に研究室を訪問し、近況報告するまでになっていた。学生とのコミュニケーションを密にし、状況を理解する上でこのような関係を作れたことは有効であったと考えられる。その一方で、2年次生の担当授業がなかった1、2学期においては、数回の定期面談以外ではじっくり話をする機会がもてない担当学生がいたのも事実であり(幸いなことに“No news is a good news”であったが)、状況把握のためにどこまで積極的に学生に接していくべきなのかという点では年度を通じて悩んだ今後の課題の一つである。 5.3年次生のチューター制の指導内容 5.1 基本方針  2年次生までは、視覚障害の状況、基礎疾患の状況、学習の状況などから担当学生を決めていたが、3年次生は国家試験受験、進路の選択(表1)が重要な目標であることから、次のように担当学生を決めた。 5.2 チューター制の問題点と利点  以下に各チューターからの実践例を示した。 ①チューターI  視覚・聴覚の二重障害を持つ学生、留年している学生、学力が伸び悩んでいる学生を主に担当した。視覚・聴覚の二重障害を持つ学生に対しては補聴器などの障害補償や卒後の進路などについて対応した。留年している学生に関しては単位の取得状況について厳重にチェックし、取りこぼしの無いよう指導した。学力が伸び悩んでいる学生については講義の空き時間や夜間、休日などに個別指導を行った。また、クラス担当であることから、国家試験の受験対策を中心になって実施した。 ②チューターJ  1年次生の時から副担任として、このクラスの運営に参画しており、特に、進学希望者の対応を1年次生より継続的に担当している。筑波大学理療科教員養成施設の進学希望者には毎週勉強会を実施した。その結果、希望者2名とも現役合格した。現役2名合格は開学以来初めてで、後進の志気を高めることにもつながっている。また、他大学の編入希望学生1名も希望大学に編入合格した。 ③チューターK  医師であることから、視覚障害に加え基礎疾患(糖尿病など)を合併している学生を中心に担当した。また臨床医学を担当されていることから、臨床医学の国家試験対策の補習を頻繁に行った。 ④チューターL  特に、学力が伸び悩んでいる学生を中心に担当し、それぞれ個別に対応し、学習に関する相談や国家試験の受験対策のための課題学習などを行った。 6.考察  チューター制を本学科に取り入れて2年目であるが、本学の背景となる基盤的因子を把握し、教育のあり方を討議し、多様化した学生の対処におわれる1年間であった。このとき、困難な要素は多々あるが、チューター制が、生活面での支援のみとなるようでは教育的向上が乏しくなる。少なくとも、健康上の問題は保健管理センターからの指導と助言で学生自身が解決し、できない部分のみをチューターが補うようになれば最適と考えられる。  1年次生は先回[1]までは緩やかな連合体で、学習・環境に適応し、学生の自発性を目標に、年齢・出身校・社会経験に基づいて構成されていた。今年は新たに4本柱の教育指針を立て、学生との信頼関係とチューター間での連携を図り、ことにあたっては即座に活動するものであった。昨年度の揺るやかな連携より一歩踏み出した例である。しかしながら、環境適応における十分な時間の必要性が示唆される学生が最も多い学年であることは否定できない事実である。また、教官サイドとしては情報伝達の必要性を感じた学年でもあり、担任、チューター、学科構成員のネットワークの構築と役割分担が事にあたって重要であることを再認識させられた。特に、個別指導より逸脱した問題が生じた場合は、大学専門委員会に委ね、早期に解決できる体制を検討する必要があるように考えられる。  2年次生は入学時からチューター制を経験し、進級した学年であり個別指導体制には抵抗感が見えないが、学力面での不安を抱えたままの学生や病気を抱えた学生にとっては精神的な重圧のかかる学年であったようである。昨年度は学生間での協力体制を強化する学年としての機能が組まれたが、協力体制は今年も見られていたように思う。しかし、2年目で生活面ではかなり安定したかにみえても、病気の発病予測までは困難である事例が多く見られた。更に、本学年は学問体系の確立した学生と何を学ぼうか未だ理解できない学生集団に分かれている。  そのために、early exposureとして2、3学期に国試類似問題をすることを取り入れたことは問題意識の少なかった学生にも鍼灸・手技療法への関心と知識を深め、その努力の結果はやる気が表れ、進級に繋がった例もある。このように2年次生の段階から鍼灸・手技療法学への関心を高めることは、チューター制の効果が顕著に見られた一つと考えられる。  3年次生は国家試験、就職を控えているので、個別指導を定期的でなく、問題解決型に置き換えたのが昨年であった。この問題解決型[1]は学生が問題を提示した場合に初めてチューターがかかわり、自己形成と確立の手助けをする本学独自のもので、後述するPBL型(問題解決型)チューター制[3]とは若干異なる。本年度のチューターの分担方法は昨年度の経験を踏まえ受験体制、他大学進学指導、基礎疾患を有するグループに編制している。  そのために、勉学意欲のある学生にとっては、チューター制での導入のモデルケースになった例もあるが、国家試験の結果から総合評価すると不合格者にとっては何が足りなかったかを考えさせられる問題点がでてきた。チューター制のありかたをよく吟味し、個々の学生教育に対して、問題点を取り上げ、指導する強化策を見出さなければならない。  今後の目標としては個々の全ての面での能力差を考慮して、①1年次生では環境適応と社会への関心、②2年次生では鍼灸・手技療法などの医療分野への関心、③3年次生では鍼灸・手技療法などの医療分野の理解と向上、と段階を追って3年間の教育を積み上げねばならない。  因みに、鍼灸・手技療法分野の理解度を深める手段として、臨床実習とは異なった症例(ないしはテ-マ)に対しての、小グループでのディスカッション[3]のできるPBL型(問題解決型)チューター制の導入を試みることも、学科教育のための明るい材料となるものと考えられる。  本制度が学科独自のものに確立してくれば、チューターによる学生評価、学生による評価を組み入れ、ゆとりを持ったカリキュラム作りの実施、教育方法の改善(詰めこみ型から問題解決型へ)などへの足がかりとなることが期待できる。 引用文献 [1] 森山 朝正,一幡 良利他:平成13年度筑波技術短期大学視覚部鍼灸学科におけるチューター制について.筑波技術短期大学テクノレポート9(2)25-29,2002. [2] 神津 忠彦:テュートリアルシステムの現在.医学界新聞 11(5)9-11,1996. [3] 武田 裕子:抄読会をEBM教育に活用する.EBMジャーナル2(1)74-75,2001. Tutorial System in the Department of Acupuncture and Moxibustion, Tsukuba College of Technology - 2002 ICHIMAN Yoshitoshi KATAI Shuichi SHIBASAKI Masanao MORIYAMA Tomomasa YOSHIDA Motoaki SAKAI Tomomi NOGUCHI Eitaro FUJII Ryosuke MORI Hidetoshi WAKUDA Tetsuji OHSAWA Hideo SASAKI Ken UEDA Syouichi KIMURA Tomoaki DONOYAMA Nozomi Department of Acupuncture and Moxibustion, Tsukuba College of Technology Abstract:We adopted the tutorial system in the Department of Acupuncture and Moxibustion, Tsukuba College of Technology in 2001. All teachers of the Department tried to have a connection with students for making an appropriate system of providing this support. It is concerned with educational and social problems from caused by various diseases and difficulties of visually impaired students. This study investigated a change for the better, one different from that of 2001. We found that there are significant differences of individual abilities of students in each of the three academic years. Early exposure to motivational influences seem to have a particularly strong impact on training gains for acupuncturists and therapists of moxibustion and tactile manipulation. These results suggest the importance of Acupuncture education for the development of a tutorial system in our department. Key Words:tutorial, visually impaired students, acupuncture/moxibustion, tactile manipulation, education