弱視者のための英語読みスキルアップ指導― リーディングサポートソフトreadKONの開発とその活用 ― 筑波技術短期大学視覚部一般教育等1 ) 同情報処理学科2 ) 埼玉県立盲学校3 ) 青木 和子1) 加藤 宏1) 小林 真2) 近藤 邦夫3) 要旨:弱視者は読みの入力部分に様々な制約をもつ。英語学習においてもその制約がどの程度,読みのスキルに影響を与えているかを判断するのは難しい。一般には、slow readers=poor readersとみなされることが多いが、弱視者の英語単語読み行動を分析すると二つのタイプのslow readersがあり、単語認知レベルが高いグループと低いグループがあることがわかった。ここでは単語認知レベルの特に低い弱視者2名に対して行ったPCの英語合成音声を活用した徹底した単語認知訓練が、読み全体のスキルアップにどのように貢献したかを分析し、効果的な読みのスキルアップのための指導プログラムを提案する。さらに、この指導過程において得られた知見をもとに我々が開発した視覚障害者用リーディングサポートのためのアプリケーションソフトreadKONとその活用法について紹介する。 キーワード:弱視者、英語学習、読みのスキルアップ、単語認知、リーディングサポートソフト 1.背景 1.1 英文読解のつまずき研究と問題  日本の大学生の英文読解過程におけるつまずきについての研究(高梨他、2002)によると、語彙と文法知識の低さが読解力不足の第一の問題としてあげられ、その結果として、より深い文理解に必要とされる推察力が低いことが指摘されている。これは、個々の単語認知といった言語処理の基礎過程をある程度自動的にできるようにならないと、読解のようなトップダウンからの処理を必要とするような言語処理はできないという読みに関する先行研究を追認する結果ともなっている。[4,5,7] 高梨他[8]は、さらに読解力の低い学習者は、語の音声化の過程でつまずき、次の文レベルの理解へと進むことができないと指摘する。優れた読み手はトップダウン処理を行うが、平行してボトムアップ処理を行っていることも、読みにおける眼球運動の研究でも明らかにされている。[4]このような研究を踏まえ、特に読解力の低い学習者に対する指導としてボトムアップ処理、すなわち語の認知の自動化をどう促進するかが重要な課題となっている。 1.2 視覚障害者と読み  視覚障害のために拡大文字や拡大読書器(CCTV)などの補助器具等を使って「読む」ことは、多くの場合物理的、精神的に大きな負担を伴う。その結果、遅読→読むことの経験不足→読解力の低い学習者、という経過をたどる視覚障害者は少なくない。英語学習においては、さらにその傾向が強い。筆者は視覚障害学生に対する英語指導と「読み」に着目した実践研究を通して、様々な視覚的サポート(拡大文字、CCTV、PC上でのハイライト方式、高速継時的視覚表示:Rapid Serial Visual Presentation:RSVP方式など)による読みのスキルの改善には限界があること、視覚的サポートと共に音声によるサポートを与えると一定の効果を上げることをいくつかのパイロットスタディで明らかにしてきた。[1]学生の状況に合わせて教師が音声サポート(読みのサポート)を与えることが、苦手意識をもち、読むことに臆病になっている読み手に精神的なサポートを与えるという意味も含めて最も効果的であるとうことを多くの教師は経験によって知っている。一方この方法では、常に教師が傍らに同席することが必要となり、読み手にとって十分な練習量を確保するという点と自立的な学習を促進するという点では問題があることは自明である。 1.3 単語認識自動化レベル  ある学習者の英語リーディング能力を知る上で、読速度は一つの重要な指標となる。しかし、読速度の測定は実際には容易ではない。適した読書材の選定、テキストの提示法、時間の測定法、黙読か音読か、理解度チェックの方法など、条件の違いで当然結果は異なる。視覚障害者の場合は、さらに視野障害やその他の見えにくさも加わるため、読みが遅いということ、即読みの能力が劣っていると捉えることはできない。そこで筆者のグループは、ボトムアップ処理過程の根幹にある単語認識速度を測定することにより、基本的な英語能力(単語認識の自動化の程度)と視覚障害による読みへの影響について考察することとした。 2.英単語読み実験と結果 2.1 単語認識テスト  単語認識テストは、3文字から7文字までの各50語の単語を音読させ、その音読速度を測定した。各50語の単語は、使用頻度別語彙リスト(JACET4000)の一番頻度の高い語彙群(レベル1)から選んだが、7文字については一部レベル2の語を使用した。被験者は自らボタン操作でPC画面に単語を表示し、その語をできるだけ早く音読するよう指示された。記録者は、音読の正確さと時間を記録した。30名ほどの被験者のデータを収集したが、約半数は文字数が多くなる(長い単語になるほど)読めない語が多くなり、読みの速度を比較するための有効なデータ収集は困難になった。しかし、80%以上の通過率を示した弱視者の読みと晴眼者の優れた読み手との比較において弱視者の読みの特色を分析したところ、読みの遅いグループに2種類あることが明らかになってきた。図1は、3グループの各典型例について単語長別1秒当たりの可読文字数(lps:letters per second)を表したものである。晴眼の優れた読み手(GR:good reader)は、一番短い3文字単語での可読文字数5.8lpsが単語が長くなるにつれ上昇し、最大の7文字単語では9lpsとなっている。グループLV1(Low Vision 1)は、GRと比較して、全体の速度は約3分の1であるが、単語が長くなるにつれlpsが上昇するカーブは、GRのそれと近似している。  これは、視覚からの情報入手のあとの単語認識過程での自動化が進んでいることを示唆し、かれらの読みの遅い原因は、視覚情報入力の際の視力や視野に起因する割合が高いことが推察される。一方グループLV2(Low Vision2)は、図1をみると、3文字単語から7文字単語までのlpsはほぼ一定している。ここからは、かれらが、一文字ずつをまず認識し、次に単語として頭の中で処理をして読んでいるという過程が推論される。すなわち、単語認識の自動化が低いレベルにとどまっていることを示している。この場合、単語の読時間は綴りの長さに比例して時間が長くなることになる。 2.2 単語認識訓練の重要性  LV2に属する被験者または表示された単語が「読めない」ためにデータ収集もできなかった被験者は本短期大学の学生である。彼らは少なくとも中学校、高等学校各3年ずつの英語学習経験を持つ。なぜ彼らは、これほどまでに読めないのか。高等学校、特に底辺校といわれる学校の英語教師から同じような報告を聞く。単語認識の自動化レベルの低さは、英語学習初期の単語認識訓練の不足からきていると考えるのが妥当であろう。何らかの理由(視覚障害も含まれる)により、彼らは与えられた時間では充分な学習ができなかったのである。一方、相当数の単語は「音読はできないけれど、発音してもらえばわかる。あるいは意味を教えてもらえば読み方を思い出せる。」のがこのグループの特徴でもある。英語運用能力は低いが、英語についての知識はある程度学習済みであると考えられる。  他の能力に比べて特に読みの能力の劣る子供を教える教師や親向けに書かれた “reading clinic - A New Way To Teach Reading”(2000)の著者、Dr. David L. Furrによると、読みのプロセスには次のステップが含まれる。 1.Perceptual processing 2.Word recognition 3.Syntactic processing 4.Semantic processing 5.Comprehension (p.28)  単語認識(Word recognition)は最も基本となるステップである。また、氏が示唆する指導法の根本は徹底的な音読訓練にある。この場合、学習言語は母国語であって、外国語ではない。学習者は日常的にその言語を使用する環境にある。従って、音読がスムースにできるようになれば、理解(comprehension)は困難な課題ではない、と考えられている。日本人が英語を学習するという状況において、この方式をそのまま導入することには無理があるが、長い学習経験にもかかわらず単語すら「読めない」学習者に対して、単語認識訓練及び音読訓練はどのような意味があるのか。二人の弱視学生を対象に行った約1年間の指導事例を次に紹介する。 図1 単語長別にみた1秒当たり読文字数 晴眼者(GR)、弱視者(LV1)、(LV2) 3.指導の事例報告 Part1 3.1 被験者 A 男子(20歳)普通高校卒業 眼疾(病名不明) 視力 右0.08 左 0.06 視野 50° 文字はほとんど右目で見る。拡大文字(18ポイント)。羞明。 B 女子(20歳)普通高校卒業 眼疾(病名不明) 視力 右0.03 左 0.01 視野 右が狭い ほとんど左で見る。拡大文字(18~24ポイント)夜盲 3.2 実験期間及び使用機器 期間:平成14年4月~平成15年2月。 1回80分,週1回,計30回 使用機器及びソフト: LPC-P373SF2, outSPOKEN 3.0 English Version, Vortex Ⅳ 12月以降は、自作ソフトreadKON 3.3 実験開始時の状況  被験者二人とも、普通高校の出身者であるが、英語力は極めて低く、そのため苦手意識が強い。簡単な文章でも正確に音読し、内容を理解するということは困難な状況であった。大学英語教育学会(JACET)が作成した語彙リストから一番低いレベル500語についてサイズテスト(音読)を行った。また、100語の簡単な文章を音読させ読速度を測定した(読みの誤りや、読めないためのスキップあり)。結果は表1に示す。さらに、50語ずつの単語認知テストを実施した(表2)。両者とも読めない語が多くあり、正しく読めた語の割合を%で示した。 3.4 単語認識練習  訓練は単語認識練習から行った。練習用語彙リストは、単語認知テストの各50語を使用。PC画面に表示された単語を英語スクリーンリーダーoutSPOKENの音声で繰り返し聞き、音読をするという練習を学習自身が習得したと納得するまで行った。A,Bとも1グループ50語を平均して20~30分の練習でマスターし、実験者の前で音声を消して音読した。各回ごとに練習したものを、翌週の始めに再び音読測定した。各単語グループについて練習効果を見るために3回の測定を行った。図2は、A,Bそれぞれの各回ごとの単語長別1秒当読字数(lps=letters per second)の変化を表したものである(1回目は単語認知テストの結果)。  音声補助での練習後の2回目と翌週の3回目は両者とも読速度に著しい伸びを示したが、Aは比較的安定しているのに対し、Bは回ごとのばらつきも単語の長さによるばらつきも大きい。4,5文字単語で数値が上昇しているのはこの長さまでは練習により自動化が促進されやすいが、6、7文字では再び一文字認識に戻ってしまう傾向が読み取れる。  画面に表示される文字サイズおよび表示される位置はそれぞれ被験者が最も見やすいものを選択しているが、両者とも一度に視認できる文字数は、4から5文字であるという状況が推察される。4回目は1ヵ月後にテストとして行った。そのため2,3回目より数値が下がっているが(間違えないようにと、慎重になった)、Aは6文字までは上昇カーブを描き、数値も1回目に比べ大幅に上がって、読みの速度が上がった。一方Bは、数値的には依然として低いが、わずかながら上昇カーブを描き、さらに後述するが読みの正確さが大きく上がった。  図3は、各回の読みの正確さ(accuracy rate)を表す。 両者とも2回目以降は非常に安定し、測定の間隔が開き認識の速度は落ちても正確さの割合は変わらなかった。  学習者が納得するまで、すなわち、必要十分な学習量を確保するという点がこの練習のポイントである。PCを自ら操作し、音声サポートを受けながらの練習は、単純で受動的に見えるが、実際に「読める」ようになり、また、スピードも確実に上がることを実感できるところから、3回目くらいから彼らの学習態度が一変し、集中力、積極性がでてきた。また、できるまでやるという粘りが見られるようになった。これは2学期以降も持続した。 図2 単語読みの練習効果 図3 単語読みの正確さ 3.5 フレーズ認識練習  文章理解の最小単位は、単語ではなくフレーズ(句)である。できるだけ短い時間にフレーズを認識できれば、読速度は上がる。ワーキングメモリー理論[5]では、下位項目の単語認知およびフレーズ認識に時間がかかると、その時点でワーキングメモリーに大きな負荷がかかり、上位の文章理解に至る前にワーキングメモリーの容量が一杯になってしまうと考える。前述の2名については、引き続き9月から12月はoutSPOKENの音声補助を活用したフレーズ認識練習を中心に行った。3~5単語からなるフレーズを各回20組程度ずつ練習した。次に短文(10単語以内)をフレーズに分割し、各回10~15文の読みの練習を行った。練習で重視したのは正確に速く読むことである。毎回本人たちが「できた」と判断するまで練習させ、最終的に正確さとスピードを測定した。フレーズや文の内容理解については、はじめに解説を行う程度であった。英語合成音声による読み上げは、フレーズレベルでは英語のリズムをほぼナチュラルに表現し、読みのモデルとして十分機能した。しかし、スピードは通常より落とし、本人たちが聞き取れる段階で設定した(通常設定は、7のところを5)。当初は、1単語ずつを区切り、かつ日本語的に平板な発音であったが、次第にフレーズとしてのまとまりを捉えた読みに変化していった。1回の練習で、100語程度がマスターできるようになった時点で、ストーリーのあるより長い文章読みに挑戦した。 3.6 100語テキスト読みの変化  練習用テキスト(100語3種類)は、フレーズに分割し、今までと同様に音声補助を使った音読練習から行ったが、基本的に正確に読めるようになった時点で、より認識速度を上げるために音声の入らないRSVP(rapid serial visual presentation)方式のソフトVORTEXを使い一単語ずつ提示される語をすばやく音読する練習を加えた。これは最初に読速度設定が可能であり、両者とも目標値を定め、それに近づけるよう練習した(Aは90wpm,Bは70wpm)。この練習は約1ヶ月行った。表3は4月からの音読速度の変化をあらわしたものである(測定はすべて同じ条件、ペーパーで音読)。  4月~6月の間は、単語認知訓練のみを行い、文章読みの練習は一度も行っていない。Aは4月の段階で約80%の正確さで読むことができていたが、6月にはその倍以上の速さで音読ができている。目からの情報入手が加速されたことに加えて単語認知訓練で繰り返し発音練習を行ってきたことがこの背景にあると考えられる。興味深いことには、その後のフレーズ練習等は音読速度を上げることにはつながらなかった。しかし、11月の黙読測定では120wpmを示し、読速度が全般的には向上していることがうかがえる。一方、Bは4月の音読では、読めない語が数多くあり、この数値は参考程度にすぎなかったが、6月にはまだ不安定ながら、ほぼ正確に読むことができた。9月以降のフレーズ読み、RSVP法による読みでは、着実な効果を上げ11月の測定では、BははじめてAのスピードを抜いた。 3.7 既成ソフト利用の問題点  一方、フレーズ読みから文を単位とする読みに移行する段階でoutSPOKENの読みのサポートソフトとしての問題が明らかになってきた。視覚障害者用に開発されたこのソフトは、句読点、1文字、単語、行読みなどの様々な設定が可能であるが、文ごとの読みの設定ができない。従って1文ずつ行代えしたテキストを用意する必要がある。さらに今回の被験者のように拡大文字を使用する場合には、必然的に1行に表示できる文字数が減少し、長い文は途中で分割せざるを得ない。RSVP方式は、設定したスピードで次々と単語が表示され視線を動かす必要が無いが、この方式の欠点は読み手がコントロールしにくいことにある。さらに、1単語のみの表示のため内容理解が初心者には難しい。読みのスキルアップ指導の上で、内容理解を含む次の段階に進むにあたって指導者及び学習者にとってさらに使いやすい独自ソフトの開発が必要となった。 表3 100語テキスト音読速度の変化 4.ソフトreadKONの開発 4.1 ねらい  ミネソタ大学のGordon E. Leggeが中心となって行われてきた「読書の心理物理学」の一連の研究(1985-1998)は、弱視者に対する読書材の提示法について多くの示唆を与えてくれる。PC画面中央に1単語のみを一定のスピードで表示する高速継時表示法(RSVP:Rapid Serial Visual Presentation)は、文章を読む際の眼球運動を最小限に抑えることができることから、晴眼者の場合、通常の読速度の2倍から5倍(又はそれ以上)を示すのに対し、弱視者は中心視野欠損がないグループでも、晴眼者ほどの読速度の伸びはみられなかった。さらに、RSVP法では、速く読むことができるものの、晴眼者、中心視野欠損のない弱視グループ共に受動的に読書材を読まされるという点が嫌われる傾向にあること、特に弱視者の中には自ら補助具を操作しながら好みのスピードで読書を行いたいという希望があることなどが確認された。こういった先行研究による所見と、既存のリーディングサポートソフトを活用した研究[1]及び実際の指導事例から得た情報を統合し、独自のソフトの開発に取り組むこととした。主なねらいは、弱視学習者にとってできるだけストレスの少ない学習環境を構築することにあった。 4.2 readKONの概要  ソフトreadKON開発の過程において、上記事例報告の2名を含め、約30名の弱視学生の協力を得た。その内、障害の程度が最も重度で、拡大読書機または単眼鏡を日常的に使用しつつ、なお、読みに大きな困難を持つ学生をターゲットユーザーとして基本画面構成を設計した。 しかし、弱視者の特徴として文字の見やすさの条件は一様ではないことを考慮し、画面、文字の色、フォント、文字サイズを自由に変更できること、一方的に語や文章を読まされるのではなく、自分のペースで読めるようキー操作で進行・繰り返し・戻りが可能であること、様々な教材及び練習法に対応できるよう、学習のための素材としてテキストファイルを読み上げる、という3点を重点要件とした。ソフト製作者の名前(近藤)から名づけられたソフトreadKONの概要を次にまとめる。(なお、これは次に述べる既存のソフトを活用しているため正確にはアプリケーションソフトである) 1)Microsoft 社Speech SDK(フリーソフトウェアー)のU.S. English Speech Engines を活用し、英語部分をネイティブの発音で読み上げる。 2)画面は弱視学生の多くが読みやすいとする黒の背景、黄色文字を標準とする。文字の大きさは自由に変更できる。 3)表示させる文字列はテキストファイルで作成。改行までを1グループとするので、1単語のみから文章まで、様々な表示が可能。最後の文字列が終了すると所要時間が表示される。 4)操作方法は、基本的にマウスを使わずにキー操作だけで行う。開始・進行、繰り返し、戻りを左右どちらか片手での操作が可能(F,D,S/J, K, L)。RまたはUでリセット。次の図4は、readKONの画面表示例(実際の背景は黒)。 4.3 授業での活用と評価  開発のターゲットユーザーであった重度な弱視学生数名にreadKONを実際の授業の中で使用させたところ、表示は今までのどの方法よりも見やすいという評価を得た。  また、音声サポートについては、当初英語合成音声の発音とスピードに対する戸惑いが見られたが、簡単な単語レベルでは、慣れるのに時間はかからなかった。新語の導入の際に発音練習を繰り返し行い、さらに日本語を表示させることで意味の確認もできる点は多くの学生にも好評であった。一方、文レベルの読みの練習―音読から内容理解へと発展させるためこのソフトをいかに活用するかを課題として行ったA,Bの後半の事例報告に戻る。 図4 5.事例報告 Part2  音読を中心としたA,Bの個別指導も12月に入り、英文を理解しながら読む段階へと進んだ。readKONを読解指導の上でどう使うか、使えるかが新たな課題であった。  物語教材として日本人初心者向けに書き下ろされたBig Fat Cat(903語)[9]をテキストとして使うこととし、一回分を120から170語、6パートに分割した。さらに3から4語のフレーズ分割し、readKON画面にはフレーズごとに表示させるようにした。学習者は音声サポートを使い、まず充分音読練習をする。音声サポートなしで読めるようになった段階で、フレーズごとの意味を言わせる。 始めは、指導者がほとんどの部分を解説する必要があったが、次第に二人とも意味の取り方をつかめるようになり、物語の展開を楽しむ様子が見られるようになった。 一回の指導時間内に、音読と日本語訳(画面に表示されたフレーズを英語の読みは行わずに即座に訳すーサイトトランスレーション)をほぼこなし、1週間後に復習として同じ課題を行わせた。6回で全ストーリーを読み終わり、2月にはフレーズ分割したものではなく、一文ずつ表示されるテキストに変更し、全体をできるだけ速く、正確に読む練習を行った。この時点では、二人ともreadKONを自在に使いこなし、音を入れる、消す、苦手な箇所を何度も繰り返すなど、受身ではない積極的な学習態度と、1時間余りも集中力を維持する持続力を身につけていた。以下に2月末に行ったストーリ全体の音読および黙読の最終測定結果を示す。  900語の英文をよどみなく読めるようになったということは、二人にとって大きな自信になったと思われる。 サポート音源として合成音声を使うことに異論を唱える見解もあるが、筆者の経験ではその特徴を捉えた使い方をすれば十分機能する。readKONでは、あらかじめ録音するなどの手間がかからず、様々なテキストファイルの英語を読み上げることから、指導者側の工夫次第で応用範囲は広い。日本語のスクリーンリーダーと組み合わせて使うことで日本語を読ませることも可能である。 表4 最終測定結果 Big Fat Cat(903語) 6.結び  視覚障害者用リーディングサポートソフトreadKONの開発は、青木の個人研究「コンピュータを利用した視覚障害者の英語読解力向上のための指導法の開発に関する研究」(平成13-15年科学研究費補助金基盤研究(C)(2)課題番号13680337)をベースとし、筑波技術短期大学平成14年度教育改善推進経費研究「視覚障害学生の英語学習支援のための認知言語学的基礎研究」プロジェクトに、心理学の加藤、情報処理の小林、さらに埼玉盲学校の近藤(英語教師)が参加することで実現した。1年に及ぶA,Bの事例研究を通し、readKONを活用した単語認知訓練、フレーズ音読練習、サイトトランスレーション、文章音読練習といった基本的な指導プログラムの枠組みを作成した。実際の教材は学習者のレベルや二―ズに応じたものを選択するべきである。今後の展開としては、事例研究を重ね、さらに効果的な学習プログラムを作成していく予定である。 参考文献 [1] 青木 和子:視覚障害者のためのリーディングサポートソフトの活用。外国語メディア学会第41回全国大会発表論文集,286-289,2001 [2] Furr, David:Reading Clinic, Truman House Publishing, 2000 [3] JACET 教材研究委員会:JACET 基本語4000,大学英語教育学会,1993 [4] Just, M. A. and P. A. Carpenter:The psychology ofreading and language comprehension, Allyn & Bacon, 1987 [5] 門田 修平,野呂 忠司:英語リーディングの認知メカニズム,くろしお出版,2001 [6] Legge, G.E., et al.:Psychophysics of Reading Ⅰ~ⅩⅧ,Vision Research,1985~1998 [7] Stanovich, K .E:The psychology of reading. Annual Review of Applied Linguistics 12:3-30,1992 [8] 高梨 康雄,緑川 日出子,他:リーディングを見直す1,2,3,英語教育,大修館,2002 [9] 向山 淳子,向山 貴彦:ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本,幻冬社,2001 Reading Skill-up Training of English for Low Vision Students― Development of Reading Support Software readKON ― AOKI Kazuko1) KATO Hiroshi1) KOBAYASHI Makoto2) KONDO Kunio3) 1)General Education, Division for the Visually Impaired, Tsukuba College of Technology 2)Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology 3)Saitama Prefectural School for the Blind Abstract:Reading inevitably depends on perception or visual efficiencies of readers. We investigated the word recognition speed of visually impaired college students who studied English as a foreign language. Compared with good readers we found two types of slow readers in our subjects. One type of low vision group can read words in almost the same time period independent of their length. The reading time of individual words by the other type increases according to the length of words. Reading is stressful and painful work especially for the latter type of low vision students. The case study showed us that our original reading support software‘readKON' equipped with a speech synthesis device was useful for them to improve their reading skill. Key Words:low vision, English learning, reading skill, automatic word recognition, reading support software