平成14年度公開講座「パソコンを利用した点訳入門」アンケートから 筑波技術短期大学情報処理学科1 ) 同教務第二課2 ) 宮川 正弘1) 三宅 輝久1) 小林 真1) 遠藤 純子2) 要旨:表記公開講座6回目の概要を記し、応募者、受講者の希望、満足度、感想についてのアンケートを、昨年度のアンケートと対比しながら分析した。今回は昨年受講できなかった方からの希望者全員13名を受け入れることができた。受講者は「パソコンによる点訳はどのようにして行うものかを知ってみたい」人だと思われ、受講後は「点字エディタを使えばパソコンによる点訳が予想以上に簡単で、能率的である」ことを理解していただけた事がアンケートにより伺える。 キーワード:点字、点訳、公開講座、パソコン、地域交流 1.はじめに ― 目的 ― 点字関係の公開講座は6回目[1,2,3,4]である。 前回の結果を踏まえ講座の目的は、 1)点字について広く知っていただく、 2)学科で活用しているEbraWin[6,7]等を用いたパソコンによる点訳技術の入門、を目指した。併せて本学の活動についても理解を深めてもらうこととした。講座に満足してもらい、点訳ボランティア志望へのきっかけにもなることが講座開設の目標であった。 2002年1月の学科会議で、継続して点字に関する公開講座を開くことの意義について確認した。視覚障害者教育における点字と点字図書の果たす役割、当大学だけで使われている点字エディタEbraWin2の有用性を世間に認めてもらうこと、毎年、多くの希望者があること、などが講座開設の理由である。 平成13年度公開講座からの変更点 大筋と担当者を決める2002年1月の段階では、アンケートで評判の良かった前年度の講座内容を踏襲することにした。昨年に続いて点訳ソフト(仮名分かち書きへの変換)を、無償で使用可能な岐阜大学で公開されたソフトIbukiTen の評価版にした。また、点字エディターも、限られた時間のために、フリーソフトのBASE、TDCやIBM社が開発し、無償で提供しているWinBESを講座では使わないことにした。使用教室を536室としたので、OSがWindows2000に変わり、講座の直前にソフト(IbukiTen、 EbraWin2)のインストールとテキストの印刷製本を行った。 2.応募者 今年の公開講座受講希望の案内は昨年の応募者で受講できなかった方だけにお送りした。その結果14名の方が再び応募された(歴年の応募者数は平成10年37名、平成11年22名、平成12年度59名、平成13年度24名)。今年度の受講者としては、全員を受け入れることができた(内1名は欠席;女性10名)。受講者の居住地を表1にしめす。居住地域は近隣の広い範囲にある。 表1 受講者の居住地 地域 人数 1 土浦市 3 2 つくば市 2 3 守谷市 2 4 龍ヶ崎市 1 5 流山市 1  男性の応募者は3名で全員が60才以上である。職業は主婦が多く、応募者の年齢層は、例年通り40歳代以降が多い。 3.講座の内容  講座時間数は昨年を踏襲した。11月28日(木)~29日(金)10:00~12:00・13:00~16:00 2日間延べ10時間行った。表2にその内容を示す。主講師を一人として、残りの講師全員がパソコン操作や点訳実習に対応した。最終日には修了証書を手渡し、アンケートに記入していただいた。 一日目の専門点字の内容は次のとおりである。2級英語点字による英文の表し方、数学記号の表し方、プログラムの表し方である。二日目にはEbraWin2開発者の染田 貞道名誉教授により、EbraWin2を使って文章のドラッグ&ドロップや、文書の離れた部分を同時に開いたり、多くの文書を同時に編集したりする方法が紹介された。また、点字IME Bracon2を使って、一般の文書や触図の中に点字を書き込む方法が紹介された。 すなわち、Wordファイル等に墨字で入力された文章中に説明のための点字を入力したい場合、そのままIMEをMS IME等からBracon2に変更して入力することで、通常の文字と同様に文書作成することが出来る。 表2 講座の内容 1日目 はじめに 講師紹介 1時限 パソコンの仕組みとWindowsの操作 2時限 点字の仕組み 3時限 点字の入力と編集 4時限 記号や英字の入力と編集 5時限 専門点字 2日目 1時限 EbraWin 2の便利な使い方 2時限 点字 IME Bracon 2と触図への応用 3時限 自動点字 4時限 点字印刷 5時限 質疑応答、アンケート、修了書 4.受講者の感想 ― アンケートから ― 受講者に対し、 1)受講の目的と達成度 2)点字およびパソコンの経験程度 3)講座の期間 4)難易度およびテーマについての興味の度合い について答えていただいた。以下に、その集計結果を示し若干の考察を行う。 4.1 受講者の目的と満足度 受講の目的を次表に示す。 a.点字の習得 7 b.点字処理ソフトの習得 8 c.その他 3 昨年と同じく、点字の習得より、パソコンを点字処理に使ってみたいという立場であろう。 次の意見が書かれていた。 1)点字に興味があった。 2)点字が面白そうだった。 目的の達成度については、次の回答であった。 a.十分満足 6 b.まあ満足 5 c.不満が残った 2 c.の内容については対処しなければならない。 4.2 点字とパソコンの経験 a.点字に経験なし 8 b.点字学習経験有り 5 c.点字に熟達している 0 今回は、点字未経験者の割合が昨年より多い(昨年と逆)。b.に示された点字の学習場面は以下の通りであった。 1)点訳サークルに参加している。 2)社会福祉協議会の点字学習会。 パソコンの利用経験については、 a.ほとんどない 0 b.ワープロ使用 9 c.日常的に使用 2 パソコンを自宅に持つ人12人である。日常的に使用する人は2人であるが、大部分の人が日常的にパソコンに接していると考えてよいと思われる(職場では毎日使う2、使わない8)。パソコン使用は浸透したと考えられる。 パソコン使用の場面は、文書処理4、印刷3、メール3、図表作成3、インターネット2、家計簿1、住所管理1、であった。昨年から回答に挙がり始めたインターネット利用が増加してきている。 自宅にあるパソコンの機種については昨年同様メーカーがさまざまである(NEC6、 富士通4、Mac1)。配布したEbraWin2はWindowsでは使用可能であるが、残念ながらMacでは使えない。 4.3 期間 a.適切である 5 b.その他 7 その他と答えた人の意見は、以下の通りである。 1)連続だと集中できるが予習復習しにくいので、連続でないほうが良い。 2)期間が短いが、時間帯は適切。 3)午前午後の2時間程度が適切。 4)内容が豊富なので3日間位ほしい(2人)。 5)わかりやすくする為にもっと時間が必要。 6)進度が速かったので、もう少しゆっくりならばよい。 この感想からみる限り、講座の内容を心持ち易しくすべきであろう。 4.4 テーマについての回答 講座の難易度に対する反応は a.やさしい 0 b.適度 7 c.難しい 6 である。b.は以下の通り:1.少し早く進んでしまうところがあったが易しかったと思う。 テーマ毎についての反応は次の通りである。 テーマ 良い a.パソコンの仕組み、パソコンの操作(1日目 1~2限) 8 b.点字の仕組み、入力と編集(1日目 3限、2日目 1限) 10 c.記号や英字の入力、専門点字(1日目 4~6限) 9 d.点字エディタEbraWin(2日目 1限) 11 e.点字IME Bracon(2日目 2限) 9 f.自動点訳ソフトIbukiTen、点字印刷(2日目 3限) 11 g.講座でやらなかった他の点字編集ソフトWinb、Win BES必要 3 g.について不要とした一人の感想として次がある:1.どういうものかわからないが教えることが増えるとそれだけ大変。これは、昨年と同じ感想であり、講座の内容を増やすこと不可の人がいるという事である。 その他の回答 パソコンの操作にもっと時間を割いた方が良いかについては可とした人が多い(10:3)であった。可とした人の感想としては次がある: 1)点字ファイルの構造など。 2)よく知らない部分もあるので教えてもらえるとありがたい。 不可とした人の感想としては次がある: 1)パソコンのスキルで席を工夫し、パソコンに自信のない人を通路側などに配置する。 2)操作についての基本がわからないとついていくのが大変なのではないか。 3)パソコン操作に興味があるが点訳の講座なので仕方がない。 4)ゆっくりやってほしい。 この回答から、受講者はパソコンの仕組み、および、点字処理全体についての関心があることがわかる。 これまでに使ったことのある点字ソフトとしては、WinBesが挙げられた(ついに、点訳でMS-DOSのBASEをあげた人がいなくなった)。 5.おわりに パソコン点訳入門を行う啓蒙的公開講座についての受講者の評価・感想をアンケートからまとめた。毎年、多くの方に応募していただき、さらに公開講座がおおむね好意的に受け取られている事は主催者にとり、何より力づけられることである。この成功は、ひとえに、染田 貞道本学名誉教授が日夜開発を続けておられる混在点字エディターEbraWin2のおかげである。 一方、短期間の講座を受けるだけでは、パソコンを実際に点訳に使うところまでは、なかなか行かないようである。講座がきっかけで、回答者の一人は、点訳ボランティア活動をされていた。昨年、一昨年と開講日を2日にしたことは受講者にも密度の高い緊張感を与え良かったと思う反面、毎回数人の方が、もう少し長い時間の開講を希望される。講座でEbraWin2の使い勝手のよさに驚かれる点訳ボランティアに接するにつけて、点訳ソフトを使いこなすことができるボランティアを各地に育成することに役立ちたいと思う。 謝辞 本講座を受講しアンケートにご協力いただいた受講者13名の方にお礼を申し上げます。染田 貞道本学情報処理学科名誉教授には開発されたEbraWin2を日頃より提供していただくとともに、公開講座で使用配布を快諾していただき、講師を勤めていただきました。河原講師にはソフトウエアのインストールにご協力をいただきました。栗原 亨助教授には資料を提供していただきました。以上につきお礼を申し上げます。 参考文献 [1] 伊奈 諭:公開講座「パソコンを利用した点訳入門」の概要と結果,筑波技術短期大学テクノレポート,4,205-209,1998 [2] 宮川 正弘,栗原 亨,他:公開講座「パソコンを利用した点訳入門アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,6,183-185,1999 [3] 宮川 正弘,三宅 輝久,他:公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,7,101-103,2000 [4] 宮川 正弘,三宅 輝久,他:平成12年度公開講座「点訳ソフト筑波技術短期大学テクノレポート,8,187-191,2001 [5] 宮川 正弘,三宅 輝久,他:平成13年度公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,9(1),139-144,2002 [6] 染田 貞道:情報処理・数学記号および英語混在文章用点字エディタ,筑波技術短期大学テクノレポート,4,103-105,1997 [7] 染田 貞道,宮川 正弘,他:専門点字混在文章用エディタの開発と活用,筑波技術短期大学テクノレポート,7,101-103,2000 [8] 染田 貞道,宮川 正弘,他:専門点字混在文章用エディタの開発と活用(その2),筑波技術短期大学テクノレポート,9(1),59-61,2002 [9] 染田 貞道:EbraWin2操作(資料),6.16,2000 [10]染田 貞道:EbraWin2 Ver2.42 トピック(資料),7.05,2001 付録:受講者の感想 最も役立ったこと ・パソコンでの点字というものがわかった。 2人 ・点字・点訳の世界や仕組 4人 ・パソコン点訳 2人 ・初めて点字に触れたので、これから必ず役立てたい。 ・WinBESにない簡単な操作・編集方法などを覚えられた。 ・記号や英字の入力、専門点字、Bracon ・IbukiTenからEbraWinに送る部分 ・点字の印刷 ・全盲の方の苦労が少しでもわかったこと。 ・パソコンの仕組み。 ・点訳ソフトの素晴らしさ 最もおもしろかったこと ・普通の入力でかな分かち書きや点訳ができることが見れた。 ・自動点訳ソフト 3人 ・点字印刷 4人 ・EbraWinの使い方。 ・IbukiTenなどの読み間違いを少なくするためにはどうすべきか。 ・画面拡大、マウス拡大ソフト ・パソコンの仕組み 3人 ・専門点字 その他 ・もっと長文を点訳したい。 ・先生が丁寧に教えてくれたこと。 2人 ・パソコンを練習し、点訳ボランティアをしたい。 ・スペルチェック機能がほしい。 ・事前に資料を送って頂ければ受講まで勉強できた。自分なりに勉強不足だった。 ・点訳希望者のニーズを知りたい。 ・パソコン操作を熟知していればもっとよく理解できたと思う。 全体についての感想 ・もっとゆっくり教えて欲しい。 ・初級・中級講座を開いて欲しい。 ・点字の奥深さに驚いた。パソコンと文章が好きなので点訳に生かしたい。 ・点訳ソフトの学校外で民間団体やサークルなどへの活用を知りたい。 ・数式文字が世界共通になればよい。 ・講習以外でも疑問点などを教えてほしい。 ・点訳練習の時間が少なかった。 ・点字に出会えてよかった。 ・丁寧に教えていただけたこと。 Report on Open University Course: 6-th “Braille Transcription”― An Analysis from Questionnaire ― Masahiro MIYAKAWA1) Teruhisa MIYAKE1) Makoto KOBAYASHI1) Junko ENDOH2) 1 )Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology 2 )Academic Affairs Second Section, Adminisntrative Division, Tsukuba College of Technology Abstract:This report summarizes a regular Open University course (6th time since 1998) of braille transcription taught by the Department of Computer Science. The subscribed people (13) were accepted from the applicants who had applied but could not be taken last year. An analysis is made of the applicants habitation areas, occupations and ages. Based on their own questionnaire, another analysis is made, especially as to intention of the subscribed people toward braille learning, and the degree of their satisfaction after the course. They seem to enjoy learning braille and welcome this course, because by learning the Braille editor they are convinced that Braille transcription is much simpler than what they had thought before. Continuing the annual course may be very useful for spreading braille in society. Key Words:Braille transcription, Open University course, Spread of braille