視覚障害教育環境における拡大読書器のユーザビリティデザイン基礎研究 2 ― 使用環境と操作性の調査 ― 筑波技術短期大学デザイン学科1 ) 同視覚部一般教育等2 ) 同教育方法開発センター(視覚障害系)3 ) 同教務第二課技術係4 ) 伊藤 三千代1) 金田 博1) 加藤 宏2) 本間 巌1) 岡本 明3) 小野瀬 正美4) 遠藤 純子4) 要旨:本研究は、本学の教育環境に適した情報支援機器として、学習用途や時代に適応した拡大読書器の具体的なデザイン提案するための基礎研究である。現行機種の利用実態の把握と使用上の不都合及び操作性と問題点を調査する事を目的としている。調査は1)大学内における使用環境調査として、設置場所と機種の分類、学生への使用状況のヒヤリング、2)4名の弱視学生による代表機種4タイプの操作性についてモニタリングとアンケートを実施した。  調査結果として学内の使用環境と学生ニーズの把握、一連の操作での問題と特徴の整理、コントローラ部の操作性評価をまとめた。高等教育では長時間使用や文献資料の専門的内容と表記、実験等での細かい作業があるため、高画質、障害特性に合わせた画質調整はいうまでもなく、軽量化(携帯)、遠近両用等の機能、作業スペース、画質調整動作の検討が必要であることが明らかとなった。 キーワード:拡大読書器 ユーザビリティ 操作性 視覚障害者 1.研究の背景と目的  人間は環境からの情報収集の90%以上を視覚に頼っていると言われる。本学視覚障害関係学科では全盲と弱視の授業中の情報支援の方法が異なるため、音声合成装置や点字ディスプレイ付きのパソコン、拡大読書器などを講義室、図書館などの施設に備え教育のための情報保障を行っている。また、教材の電子ファイル化管理により、全盲学生に関しては点訳(触覚化)の自動化、全盲、弱視共通して音声化やネットワーク利用を進めている。  弱視学生の残存視力を補強するのに有用な支援機器である拡大読書器は、障害の多様な特性や用途に合わせ40種前後の多品種少量生産されている。そのため、標準部品の組み合わせや、操作性が犠牲になり、無骨なイメージとなる場合が多い。本学の拡大読書器もこれらの中から選択し活用しているが、使用性やデザイン性の点で充分とはいえない。  本研究では、教育環境に適した情報支援機器として学習用途や使用環境や時代性に適応し、ユーザビリティを高めたデザインを提案するために、その利用の実態、使用上操作上の不都合や問題点を調査する事を目的とする。 2.調査方法 <調査1>はじめに、拡大読書器を普段使用している学生の使い方を記録し、その後学習と生活の両面で利用する際に生じる問題点や希望する機能、使い方の聞取りを行なった。次に、視覚部系教育開発センターのデータをもとに各学科の設置場所と機種を整理し、配置やスペース等の使用環境を調べた。 <調査2>2002年2月16日「東京都福祉器機センター」において、一般的な拡大読書器4タイプの機種を4名の弱視学生に実際に使用してもらい、[使用開始→画質(拡大文字)調整→読む書く→終了]の操作の観察・記録を行う。その後、各機種のコントローラ部の操作性についてアンケートとヒアリングを行なった。読む資料はA4用紙・カタログ・書籍・新聞、書く作業はA4用紙アンケートへの解答とした。被験者の視力は以下の通りである。 表1 拡大読書器の機種と設置場所 3 大学内における使用環境(調査1) 3.1 設置場所と機種  表1は視覚部おける拡大読書器の平成14年度の設置場所と機種である。鍼灸学科講義室、臨床医学実習室に5、6台(写真1.3)、一般講義室、情報処理学科の講議、実習・演習室に各2~3台(写真2.4)、図書館閲覧室・電子閲覧室に6台(写真6)常設されている。  寄宿舎には学生共用が3台、大学会館には3台とサークル用に1台が貸出されている。正面玄関横の学生掲示板には墨字と点字の掲示資料の他、平成14年5月に拡大読書器を設置し、63台が設置されている。携帯型Spec Wellは使いにくく重いことから6台中5台が使用されていない。据置型はTOP-01が主流であったが、カラー画面表示の要望から平成13年度にAV-100、SPECTRUM、アラジンの機種を購入した。学生は3年間同じ機器を使用するので年度始めに使用する教室への移動を行っている。  また、学科によっては学生の希望する機種の購入を進め機種選択ができるよう配慮している。教育開発センターでは、機器の貸出データ管理、新機種購入の検討、平成12年度から寄宿舎個室で3年間の貸出が開始され、調査時は据置型Aタイプ6台が貸出されている。横配置型で携帯もできるイージーアイポケット(写真8)は学生が個人で購入し使っている。 3.2 使用状況  視覚障害学生約130名の内、拡大読書器を使用する学生は年度によって多少異なるが約10~12%である。保健管理センターの調べによれば、平成14年度現在、在学生でコミュニケーション方法として拡大読書器を使用すると答えた学生は約20名、そのうち点字経験者は半数、視力は0.15~0.01、視野狭窄、中心暗点等、視野角は15°~60°等である。  拡大読書器は授業で教科書、資料を読んだり、写真や図表、地図を見ること、実習での細かい手作業、携帯品の表示文字、スイッチの位置の確認、ノートやテストを書く時に単体で使用される。情報処理学科の授業ではコンピュータと拡大読書器を同時に使用するケースが多く、2台の画面を見る身体の横移動を少なくするため、拡大読書器の画像をPC 画面へ表示している(写真5)。  また、視覚と聴覚両方に障害を持つ学生の場合、講議中にノートテイカーの要約筆記を読むために使用している(写真4)。この学生の場合は、拡大読書器を講議中と寄宿舎自室で一日平均8時間使用していた。障害者職業総合センターの調査報告書によれば拡大読書器の1日の平均使用時間は職場4.2時間、学校4.6時間、自宅2.2時間で、児童・生徒・学生が最も長時間使用していることになる[1]。寄宿舎では学習目的の他、糸に針を通す、携帯電話や各種電子機器の表示、ビンや缶などの表示を見る、手紙や通知を読む事に使われている。用途に合せて小型のタイプや「読み」「書き」用と使い分けて据置型A、Bタイプを2台所有している学生もいる。 3.3 調査結果  学生が求める拡大読書器は「白黒反転が見やすい」「高い倍率」「操作パネルが使いやすい」「カラー表示と鮮明」「カメラと資料台の間隔が広い」「高倍率」、寄宿舎個室の限られたスペースで使うため学習と生活の両方で使用するために「小型」で「遠近両用」のニーズがあった。  学内での使用環境の問題点は、講義室で使用する際、窓や照明によるモニターの反射の見にくさ、また据置型Aの縦構成型や横配置移動型での使用者の姿勢の悪さ、作業スペースの狭さ、メンテナンスと機種の古さが伺える。姿勢や腕の位置を左右するモニターの高さ(机・椅子の高さ調節)と、机の広さ作業に必要なスペース、配置場所、高機能機種の購入等の見直しが必要である。特に高等教育課程では、学習のための長時間使用や文献資料の専門的な表記や内容、実験等での細かい作業による身体的負担と疲労が伴うため、表示画面の鮮明さと障害特性に合わせた画質調整ができる事が基本である。そのため、使いやすいさ、省スペース化、携帯、遠近両用等の機能の必要性、頻度の高いコントローラ部分の操作を最小限の調整動作でできる操作性の検討が重要となる。 図1 学内の使用環境 図1 拡大読書器のタイプ別コントローラ部  図2 タイプ別操作性の比較調査 4.操作性調査とヒアリング(調査2)  拡大読書器のコントローラ部操作は比較的簡単ではあるが、スイッチの位置が各機種様々で初めてでは分かりにくく、慣れないと使いにくい特徴がある。また標準部品の組み合わせであるため形状、大きさ、調整動作が使いにくいためピント合わせ、ズーム調節への不満が多い。「据置型A」「据置型B」「横配置移動型」「ハンドスキャン型」の代表機種の操作性について機毎にタスク分析を行った(詳細:共同研究者金田氏、「視覚障害教育環境における拡大読書器のユーザビリィティデザイン基礎研究1」参照)。  その後、対象となる4機種について、コントローラ部(図1)の電源、ズーム、ピント、コントラスト、白黒反転で、「位置」「大きさ」「調整動作」の『使いやすさ』と、操作部の「色」の『分かりやすさ』、「文字表示」の『見やすさ』の基準で3段階評価を行なった。 5.操作性評価結果  [使用開始→画質(拡大文字)調整→読む書く→終了]の一連の操作を観察・記録の結果、被験者は4タイプのうち始めて使う機種もあるが、画面表示の調整手順は各機種ほぼ同じであった。読み始める前の調整作業ではズーム操作の頻度が一番多く、ピント、コントラスト調節と合わせ、両手を使っての調節が繰返されかなりの時間を要する。読み始めてからも、片手でX-Yテーブルを動かしながら同時に他方の手でコントラスト、ズームとピントの微調節が行なわれる(図2)。  「据置型A」は、モニターに近い位置で使用するため身長が低い場合、顎を突き出した形になり姿勢に無理がある。操作部の大きさ、特にコントラストとズーム、動作ではピントと白黒反転操作の評価が高い。文字表示の読みやすさは他の3機種の評価に比べかなり良かった。  「据置型B」は、テーブル手前に操作部があり、両手をテーブル(資料)に置いたまま指で微調節が可能となり操作頻度が多い。アンケート結果から各操作部の位置、大きさ、動作、色別ともに評価が高かった。電源の位置が他の操作部から遠く独立しているため、位置と調整動作で評価が低い。また表示文字の大きさに問題がある。  「横配置移動型」は、本体操作部全てが極端に小さく、位置、大きさ、動作ともに評価が低い。操作部の表示文字は全く読めない。操作中は、身体の左右移動が多く、操作部を抱えながら覗き込む形となり、作業中の姿勢が悪く、また操作の際、表示された画面が揺れる。しかし、据置型に比べXYテーブルとカメラとの間隔の評価は高い。またカメラ部分を自由に回転したり、取外して持運びができるため、使い方の可能性が幅広い。  「ハンドスキャン型」は、スキャナ部を直接資料の上に置くためピント調整がない。ハンドスキャン型に対する一般的評価は低く[1]、今回の調査でも同様であった。 特に小型の本を読むのに不便、コードが邪魔、読みのスピードが遅くなるという問題がある。調節部では、スキャナ部にあるズームの調整動作の評価が低く、反面、その他の操作部は自由に位置できる事と、各スイッチやノブが大きく、白黒反転の位置、電源の動作に関しては4機種の中で一番評価が高かった(図3)。 6.まとめと今後の課題  2つの調査から教育環境での使用に対して、モニターの反射、使用者の姿勢や腕の位置を左右するモニターの高さと作業に必要なスペースの改善、教室の黒板文字や遠くの対象物を見る事が出来る機種の活用等、用途にあった機種選択が必要であることが明らかになった。  コントローラ部の操作性では、各操作部の位置、形状、調整動作が機種によって異なり非常に分かりにくい結果となった。作業前の使い方の説明や、操作に慣れるまでの時間が必要である。調整ノブや表示が小さく、弱視だけでなく晴眼者にとっても調整しにくく問題点が多い。  そのため、分りやすく、使いやすい配置と調整、つまみやすい大きさ、形、素材の十分な見直しが必要である。また頻度の高いズーム、コントラスト、ピントの調整を最小限の動作でできること等、操作性の向上に関して今後、他機種のモニター調査と操作性の調査を進め、拡大読書器全体のデザイン提案とともに、操作部のデザイン提案とプロトタイプによる検証による、さらなる検討およびその製品化への実現が課題となる。 参考文献 [1] 日本障害者雇用促進会:弱視者用拡大読書器の利用状況と改善ニーズ,2000.10 図3 操作性の評価 Fundamental Research of Usability Design of Closed Circuit Television in Education for the Visually Impaired (Study No.2)- Survey of Actual Operation ― Ito Michiyo1) 1)Kaneda Hiroshi1) Kato Hiroshi2) Honma Iwao1) Okamoto Akira3) Onose Masami4) Endo Junko4) 1 )Department of Design, Tsukuba College of Technology 2 )Department of General Education for the Visually Impaired, Tsukuba College of Technology 3 )Research Center on Education Media, Division for the Visually Impaired, Tsukuba College of Technology 4 )Academic Affairs Second Section, Tsukuba College of Technology Abstract:The purpose of this fundamental research is to investigate the usability Design of CCTV (Closed Circuit Television) in Education for Visually Impaired students. In Survey 1, we investigated some use situations of the video magnifier in our university. Division for the Visually Impaired has about 130 students, and 10%~12% of them are using it. It is used in the lecture rooms, the library, and the student dormitories. In Survey 2, we investigated the procedure of operation and the usability of four types by four students. This method is observed and recorded from-start of use, adjustment of quality of image, reading and writing, to the end of use. Moreover, we performed the hearing. Based on Research 2, we analyzed the Actual Operation for every model of CCTV. We report here the results, and we will also present proposal of Design Prototype. Key Words:CCTV, Usability Design, Actual Operation, Visually Impaired