視覚障害教育環境における拡大読書器のユーザビィリティデザイン基礎研究1― 基本デザインの提案 ― 筑波技術短期大学デザイン学科1 ) 同視覚部一般教育等2 ) 同教育方法開発センター(視覚障害系)3 ) 金田 博1) 伊藤 三千代1) 加藤 宏2) 本間 巌1) 岡本 明3) 要旨:本研究は、本学の視覚障害教育環境で使用している拡大読書器について、本学の教育環境に適した情報保障機器としての基礎的なデザイン調査を行い、使用環境や時代性への適応性、機器に対する使用性や操作性・認識性などのユーザビィリティを視点とした基本デザインの提案が目的である。拡大読書器は、基本性能として表示画面の鮮明性と障害特性に合わせた画質調整ができる事が前提となるが、本研究から機器の使用環境への適応性と操作性について、講義室や寄宿舎環境での機器の省スペース化、頻度の高い画質調整操作を最少限の動作でできること、などが必要であることが知見できた。 キーワード:視覚障害者 拡大読書器 ユーザビィリティデザイン 教育環境 1.研究の背景と目的  本学の視覚障害関係学科では弱視学生の情報保障支援機器として講義室や図書館、寄宿舎などの施設に拡大読書器を設置し活用している。現在わが国の拡大読書器市場は年間約2000台前後といわれ、国内に流通している機種は弱視者の多様な特性や用途適性からさまざまな形態があり、40種前後の機種が主に中小企業の手による多品種少量生産の製品となっている。そのため、情報機器のような量産による新技術や新しいデザインを導入した開発設計は反映されにくく、機器は標準部品の組み合わせや少量生産方法のために操作性に充分な配慮がされず無骨なイメージとなる場合が多い。また、使用環境における使用性の向上や周辺設備機器との調和などの対応が遅れている。本学の視覚障害教育環境で使用している拡大読書器はこれらの中から選択し活用しているが操作性やデザイン性の点で充分とはいえない。本研究は、本学の教育環境に適した情報保障機器として、使用環境や時代性に適応しユーザビリティを高める基礎的なデザイン調査と基本デザインの提案を目的としている。 2.研究の方法  研究の方法として下記のステップで進めた。 1step 現行機種調査 機種、機器構成の調査・分析 2step 使用環境調査 講義室および寄宿舎などの使用状況調査 3step 操作性調査 4人の視覚障害学生による代表機種4タイプの使用状況を観察記録する操作性調査 4step ヒアリング 使用環境、操作性調査に伴うヒアリング 5step タスク分析 調査およびヒアリング内容のタスク分析 6step デザイン目標設定 タスク分析による問題点を解決するためのデザイン目標設定 7step 基本デザイン制作 デザイン目標具体化のための基本デザイン制作とデザインモデル制作 3.現行の拡大読書器  拡大読書器は書籍などの資料をカメラで撮影し、画像をテレビモニターに拡大表示し、弱視者が読み書きなどに使用する機器である。基本構成は画像表示部・カメラ部・操作部(画質調整)・テーブル部(資料台)で構成されている。市販されているなかから代表的な拡大読書器の機器構成および本研究の調査対象機種として下記の4タイプをとりあげた。(図1) 1.据置型A  表示部・操作部・カメラ・テーブルが縦に構成された表示部分離型 2.据置型B  表示部・カメラ・テーブル・操作部が縦に構成された表示部一体、テーブル操作部一体型 3.配置移動型  表示部・カメラ操作部テーブルが横に構成された表示部分離横置型 4.ハンドスキャン型  表示部・操作部・カメラのそれぞれが分離構成された分離型、テーブル無  「据置型A」は最も機種が多く一般的なタイプで本体の上にモニターを載せるモニター分離型である。設置スペースは小さいが、モニターに近接して使用するため顎を突き出した体勢になり無理な姿勢となる。重量があり移動が困難。筆記作業の際に筆記用具の影ができる。  「据置型B」はモニター一体型でX-Yテーブルと操作部が一体となっている。手の上げ下げの動作なしでズームなど各調節の操作ができる。重量があり移動が困難。  「横配置移動型」は各要素が分離し、モニターはカメラ支持アームの横に分離配置されるため設置スペースを必要とする。操作部は2つに分かれ、操作部一体のカメラは小型軽量でアーム部分から取り外して使用できるが、スイッチや表示が極端に小さく操作がしにくい。  「ハンドスキャン型」は持運びを考慮し各要素が分離され手持ちで利用できるが、カメラ操作を手の移動にたよるため表示画像が安定しにくい。小型の本を読むには不便であり長時間の読み書き作業には適さない。 図1 現行機種比較 4.使用環境調査  大学内における拡大読書器の使用状況調査を行った。本学の視覚障害関係学科は約130名の学生が在籍するが、拡大読書器を使用する学生は約10~12%である。使用場所は講義室、実験室、図書館、寄宿舎の個室などである。 設置状況は、据置型のタイプが講義室の使用特性に合わせ各々1~10台、図書館に4台常設されている。学内全体では約60台の据置型と2台の携帯型が使用され、寄宿舎の個室では学生が個人用に購入している場合もある。 拡大読書器は授業で教科書、書籍、資料を読んだり、写真や図表、地図を見ること、ノートやテストを書く事に使用されている。寄宿舎では学習目的の他、針に糸を通す、携帯電話や電子機器の表示、ビンや缶などの表示を見る、手紙や通知を読む事などに使われている。いずれの使用環境においても重い機器の移動は困難であり、設置場所と作業範囲の自由度が限定され、固定された使用空間を必要とし、使い勝手や姿勢にも制限を受ける。 5.操作性調査/ヒアリング  前述した4タイプの機種を4人の視覚障害学生に実際に使用してもらい操作性を調査した。使用開始→画質調整→読む書く→終了まで一連の操作を観察記録し、同時にヒアリングを行った。読む資料はA4用紙・カタログ・書籍・新聞を対象とし、筆記作業の観察も行った。  「白黒反転」「倍率」などの見やすさ、「調整操作」「機器の配置」などの使いやすさへのニーズがみられた。 6.タスク分析  タスク分析は操作手順に従い動作観察と問題点抽出、対応策検討を行う方法で、操作性調査/ヒアリングにもとづき機種毎にタスク分析を行った。タスク1は開始→調整→読む書く→終了の機種毎に共通のメインタスク、タスク2は機種や機器構成の違いによる操作動作の機種特性からなるサブタスクである。各々のタスクの動作に対して問題点を抽出し、その対応策をあげた。(表1) 表1 タスク分析 7.考察  拡大読書器は、基本性能として表示画質の鮮明性と障害特性に合わせた画質調整ができる事が前提となるが、本研究の調査・分析から使用環境への適応性と操作性の向上について以下の点があげられる。 使用環境に対して ・設置場所は手元スペースと資料置きスペースが必要 ・パソコン室や寄宿舎環境での機器の省スペース化 ・使用する際の身体姿勢に対応できる機器の融通性 ・設置環境での機器の可動性・可般性・収納性 ・上記に伴う機器の軽量化・小型化 ・基本機能は読み書きが主 ・複雑な構成・無骨イメージからの脱却 操作性に対して ・頻度の高い画質調整操作を最少限の動作でできること ・手探りで使用する操作部の設置場所の集約化と単純化 ・手探操作と安定操作のためのスイッチ形状 ・スイッチ・表示文字の色彩的な高コントラスト化 ・資料を見る行為には可動XY テーブルは必需品 ・XYテーブルの可動範囲の充分な確保 ・資料台への適切な照明 ・筆記のためのスペースの確保 8.デザイン目標の設定  調査結果および考察から、デザインの具体化に対して以下のデザイン目標および基本仕様を設定した。 デザイン目標 ・表示画面の高画質化 ・画質調整の操作性向上、ミニマム動作 ・省スペース、コンパクト、軽量、収納性 ・可動可般、設置の融通性 ・シンプルな情報機器イメージ 基本仕様 ・表示部は薄型1 4インチカラー液晶画面 ・XYテーブル設置(可動範囲 前後280左右350) ・画質調整の手元操作 ・白黒反転、コントラスト調整機能 ・ズーム(2~40倍)オートフォーカス機能 ・後方手元照明 ・折畳み構造、可般形式 9.デザイン案の制作  設定されたデザイン目標と基本使用を基にデザイン案を検討し、デザイン構想図、デザインレンダリング、デザインモデルの制作を行った。 ・デザイン構想図(図2)  デザイン目標および基本仕様を前提としてデザイン案の展開を行った。省スペース性、可動可般性、収納性、設置の融通性、必要な表示画面サイズを具体化するために表示部に軽量薄形の14インチ液晶モニターを計画し、カメラと制御部を内臓したコンパクトな折畳み構造とした。また、画質調整の手元操作を具体化するためにXYテーブルの手前に操作ボタン類を集約する構成とした。外形寸法は今後の詳細設計の検討を要するが、内部構造要素は現行機種を参考にし幅×奥行×高(340mm×500mm×95mm)とした。 ・デザインレンダリング(図3)  デザイン構想図を基にパソコンによる3Dレンダリングを制作した。時代性を反映させるとともに使用環境に調和する軽快で明るい情報機器イメージを意図した。また、可動性や視覚障害者の触るという特性に配慮し凹凸の少ないシンプルな形態とした。 ・デザインモデル(図4)  デザイン構想図、デザインレンダリングを基にデザインモデルの制作を行った。デザインモデルは使用上の機能を持たない外形モデルである。本デザインモデルにより操作性のシュミレーション、講義室での使用者の姿勢、可動性と可搬性の使用状況、設置空間での適応状況、などの確認を行った。 図2 デザイン構想図 図3 デザインレンダリング 図4 デザインモデル 10.今後の課題  今後の課題は、基本デザイン案を基に生産技術的な検討と実用機能をもったプロトタイプモデルの制作を行い、プロトタイプモデルを用いた操作性と使用性の検証とユーザビリティの研究を進め、これらの結果を反映させた製品化への展開である。この中で視覚障害者の機器に対するユーザビリティ特性を明らかにしたい。  現在、主に認定視覚障害者に使用されている拡大読書器は、今後、高齢化が進むなかで老人性視覚障害の増加に対しても活用範囲が広がることが想定される。  ノーマライゼーション社会の対応に貢献することをめざしたい。 謝辞  調査にご協力いただいた学生諸氏と視覚障害関係学科の授業担当教官の皆様に本紙をかりて感謝申し上げます。 本研究は平成13年度教育改善推進費によるものである。 参考文献 [1] 日本障害者雇用促進協会:弱視者用拡大読書器の利用状況と改良ニーズ,調査研究報告書No.40,2000.10 [2] 山岡 俊樹:ユーザ優先のデザイン・設計,共立出版,2000.10 [3] 森田 茂樹:拡大読書器であなたも読める!書ける!情報バリアフリー叢書,(株)大活字、2000.9 Fundamental Research of Usability Design of CCTV in Education for the Visually Impaired (Study No.1) ― Proposal of Design Prototype ― KANEDA Hiroshi1 ) ITO Michiyo1 ) KATO Hiroshi2 ) HONMA Iwao1 ) Akira OKAMOTO3 ) 1 )Department of Design, Division for the Hearing Impaired, Tsukuba College of Technology 2 )General Education, Division for the Visually Impaired, Tsukuba College of Technology 3 )Research Center on Educational Media, Division for the Visually Impaired, Tsukuba College of Technology Abstract:The purpose of this research is the proposal of a basic design from the point of view of the usability. We did a survey about design production of the CCTV(video magnifier) in education for the visually impaired persons. Survey is about the using condition and the actual operation. Design production is a prototype based on this survey as the equipment for security information that is suitable in educational environment of this learning. For us, necessary knowledge for this research included what could be done by the minimum motion of operation adjustment, monitor image quality, and saving space on desk, and carrying the equipment. Key Words:Video magnifier, Usability design, Visually impaired, Educational environment