情報教育におけるe-Learningの試み 筑波技術短期大学視覚部一般教育等1 ) 同鍼灸学科2 ) 村上 佳久1) 上田 正一2) 要旨:視覚部では、入学試験の多様化に伴い、入学学生の学力差が拡大する傾向にある。現在、学生個々の学力を保障すると言う意味で、個別の自学自習に対応した様々な試みを行っているが、その1つとして、パソコンを利用したe-Learning を試行した。ここでは、視覚障害者のe-Learning についてその実践例を紹介する。 キーワード:e-Learning、学力保障、自学自習 1.はじめに  視覚部では、一般入試・推薦入試・社会人入試・相対話入試など入学試験の多様化に伴い、様々な学力を有する学生が入学するようになってきた。問題なのは、学力差が拡大し、一斉授業についていけない学生の対応である。例えば、鍼灸学科などでは卒業時に、厚生労働省所轄の「鍼師、灸師、あん摩・マッサージ・指圧師」の国家試験を受験するが、学力が国家試験の受験レベルに到達していなければ、合格できない。  近年、生物や化学を十分に履修しないで医学部など医療関連の学部・学科に入学する学生の学力問題が取りざたされているが、本学でも同様で、生物や化学を高等学校段階で履修しなかった学生の基礎学力が、鍼灸学科や理学療法学科での基礎医学の学習に支障をきたすという問題が課題となっている。  また、入学試験の多様化と生涯学習の潮流から、入学学生の年齢幅が拡大し、学齢でない学生数が増加しており、加齢による学習能力の低下も大学側で考慮せざるとえない状況も考えられる。  このような状況下で、国家試験合格に向けた、学力保障をどのように実施するかについて様々な試みが検討されているが、個々の学生の学力状況に合わせた、新しい学習システムを検討する時期に来ているものと思われる。そこで、本報告では、学生の学力保障を目指した個別学習システムの1つの方向として、パソコンを用いた、e-Learningについて幾つかの試行例をもとに紹介し、新しい学力保障の方向を検討する。 2.e-Learning とは  コンピュータを利用した学習システムは、パソコンが登場した時点から教育に応用されてきた。 2.1 CAI  初期のコンピュータ利用教育システムは、CAI(Computer Assisted Instruction, Computer Aided Instruction)コンピュータ支援授業)と呼ばれ、教師側が学生を指導する時の主要な機能をコンピュータに代行指せるシステムを言う。あらかじめ用意された教材(コースウェア)に従って学生の個々に応じた最適な学習指導を行う事が可能なシステムである。スモール・ステップの法則と呼ばれる、短い間隔で指導と評価を繰り返し行う事により、学習効果を向上させる。このため教材作成には工夫が必要となる。  特色として、個々の学習レベルに応じた学習指導が可能な事であるが、教材(コースウェア)作成のオーサリング・ツールの修得などには、多数の時間がかかり、1教材作成にかかる時間が問題となってきたが、昨今のインターネット技術やネットワーク化の推進により、教材がデータベース化されるに従って、一部分のみを変更し、各々の学校の学力に応じた教材に変更する事が容易になってきた。CAIでは、受講する学生が主体で、学習を進めるため、学習の評価などもCAIを通じて行われる事もあり、一方向性の学習システムとして、優れた学習システムである。 2.2 e-Learning  近年、ブロードバンド化が進み、家庭でも高速インターネット回線が普及しつつある現在、大学などでは、学校内のネットワークシステムを用いて、学習支援を積極的に行っている。一方は、休講や授業変更などの学校管理情報であり。もう一方が授業などのe-Learningである。これには幾つかの形態がある。  1つには、学力保障の問題がある。学生の学力差を学習システムにより積極的に保障するもので、基礎学力を中心に行われるものである。  2つには、学生の都合により授業を受ける事が出来なかった場合の学習保障である。欠席した場合、その日の授業をe-Learningで補う事により、学習保障を行う。放送大学での授業形態を積極的に取り入れたものである。  3つには、周辺分野の学習である。本来の授業とは異なる、周辺分野の知識を深め、本来の学習分野への波及効果を目指すもので、一般教養科目やゼミナール科目などで積極的に利用される事が多い。また、一部の大学では、他大学や放送大学の授業を受講して、卒業単位として認める場合も見られるほど、近年重要視されている。 2.3 背景  このe-Learning が登場してきた背景には、双方向性の学習メディアという問題がある。最も積極的なe-Learning展開を行っているのが、予備校である。大手予備校では、1988~89年頃より、衛星通信を利用したサテライト学習システムを構築した。  これは、大学間を結ぶ、SCS(衛星テレビ放送システム)よりも時期が早く、また、地方の予備校も積極的に、大手予備校の衛星授業を導入する事により、地域間格差が無くなり、また、有名講師などの授業を受けられるメリットも手伝って、多くの地方予備校が大手予備校の系列下に入るようになった。  この、衛星授業の他に、CSなどの事業者と共同で、授業を配信するなど、放送大学の先を行く展開で、衛星を利用した学習システムが予備校の1つの大きな柱となっている。また、ネットワークを利用して、地方の小規模なサテライト教室を積極的に展開し、双方向性の学習塾的な展開も行っている。この場合はネットワークは主として、テレビ会議システムのような利用である。  しかし、教室での授業や衛星授業などの一斉授業に伴い、学力格差を補うために、CAIよりも双方向性の指向が強いe-Learningへ展開も積極的である。  従来、ビデオオンデマンド(Video on Demand)として、ビデオテープに収録された学習コンテンツを学習者の希望に合わせていつでも利用できるシステムが構築されたが、システム価格も高価で、実用的とは言えなかった。そこで、登場してきたのが、ネットワークを利用した、ストリーミング配信による、ビデオオンデマンドで、ビデオテープよりも、ブロードバンドを利用したストリーミング配信による授業は、学習者の学習進行状況に合わせて、難易度を選択でき、また、学習の繰り返しが可能なためCAI並みの反復学習が可能となる。  これらのシステムは、ブロードバンド時代と共に、コンピュータ機器の能力の飛躍的向上により、ビデオテープの画質を上回る画質をネットワークで配信するストリーミング技術によるものである。  予備校だけでなく、企業などでも、各々の部門での社員研修や語学研修に積極的にe-Learningを利用している。大学などでの実践は、これら予備校や企業の後追いではないかと思われるほど、普及し始めている。 2.4 教育現場での展開  大学での展開では、2つの方向性が見られる。学力保障と魅力ある授業という部分でe-Learningを積極的に展開する大学と、授業を公開する方向で展開する大学である。しかし、重要なのは、電子メールなどを利用し、出来るだけ教官との双方向性を保証しようとする態度である。これらは、高等教育の最も重要な指導の部分であり、e-Learningと言えども軽視すべき問題ではない。例えば、放送大学の修士課程では、論文指導は主としてメールなどを通じて行われるが、これも双方向性の指導である。  多くの大学で予備校のように、授業を全て収録し、シラバスとともに公開して、学生の多様化する学習形態に対応する方向に向かっているが、e-Learningの場合、双方向性の確保という問題は教育展開上、これからの課題となるであろう。  双方向性の教育を確保する場合は、学習人数は、少人数とならざるを得ず、英会話学校などで展開している、1対3などのテレビ学習などがその授業形態の最たるものであろう。また、小・中・高等学校の教育現場でも、分校と本校をテレビ会議システムで接続し、双方向で、分校の児童生徒が本校の児童生徒とともに学習するという、新しい教育形態も実験的に模索されている。多様化する。したがって、多数の教育メディアコンテンツを用意して、学生に選択させるのが今後のe-Learningの向かう方向だと思われる。 3. 視覚障害者のe-Learning  視覚障害者が利用可能なe-Learningとは、どのようなものであろうか。全盲が、操作可能なシステムである事は言うまでもない。しかし、視覚障害者の全てに対応する事は、非常に困難と言わざるを得ない。そこで、視覚障害者のe-Learningとして必要な用件を整理する。 1)全盲が利用できるシステムである事 2)視野の異なる弱視に対応できる事 3)反復再生が可能である事 4)多種類の教材が蓄積される事 等が挙げられる。  弱視では、動画や静止画像を提供し、その場面での説明などを付加することなどが考えられる。全盲では、システム操作を画面読み合成音声などで確認しながら選択・操作することが求められる。  現在、多くのe-Learningで利用されているのが、ストリーミングを中心とした再生ソフトの利用である。Microsoft社のWindowsMediaPlayer、Apple社のQuickTime、Realnetworks社のRealOneなどがそれらである。これ以外に幾つかのソフトウェアもあるが、視覚障害者の利用を考慮すると、この3つが主たるものであろう。 3.1 技術的問題  これらのソフトを画面読み合成音声ソフトと同時に利用する場合には、技術的注意が必要である。 1)音声出力の競合  画面読み合成音声ソフトの出力とストリーミングソフトの音声出力が競合し、音声が出なくなるか、音声出力が一方で極端に小さくなる場合がある。 2)画面拡大ソフトとの競合  画面拡大ソフトは、画面出力に割り込み、画面を拡大するが、ストリーミングソフトの画面出力に影響を与えて、画面出力が停止する場合がある。原因として、画面出力ボード(または、チップセット)のソフトウェアとの相性問題がある。 3)ネットワークの問題  ストリーミングソフトでは、比較的大きなネットワーク帯域を使用するため、ネットワークの回線には広帯域のものが要求される。したがって、多数の端末で利用する際には、ネットワーク回線にも、それなりの対応が必要である。端末の機器は、通常100BASE-TXと呼ばれるネットワークボードが利用されているが、端末にデータを送るHUBなどに低速のものが利用されていると、その部分がボトルネットとなって、複数の端末でストリーミング再生が利用できない事態となる。したがって、e-Learningを導入する、機器や部屋には、広帯域のネットワークが要求される。  一般的な、ネットワーク配線は、Cat-5eと呼ばれる100BASE-TX用の配線で、100Mbpsの帯域幅を有するが、輻輳などの要因を考慮すると、実際利用では30Mbps程度となる。視覚障害者に対応するため、配信画質が重要で、様々な、オーバーヘッドを考慮し、1Mbps程度の画質(VHSテープ並みの画質)を確保すると仮定すると、10台程度の端末が利用するとネットワークの帯域は飽和し、他のサービスで利用不可能となる。したがって、このようなネットワークの問題は十分に検討される必要がある。 3.2 コンテンツ  技術的問題はさておき、どのような教材が、e-Learningのコンテンツになりうるのかについて検討する。 1)授業 2)実習 3)実験 4)知識・教養 等が考えられる。  授業は、学生の欠席などに対応でき、また、知識の反復練習などに有効とされる。放送大学などでVTRで見るのと同じで繰り返し視聴する事により、知識の固定が容易である。  実習は、実技を伴う場合、全体の流れや一部分の細かい説明など、1対多での実習で、よりきめ細かい実技知識を身につけさせるのに有効とされる。特に、盲学校に比べて人数の多い、鍼灸学科や理学療法学科で有効と思われる。  実験は、その手順や周辺知識、また、測定機器類の説明などに有効とされる。実際に大学での実験のチュートリアルとして有効である報告をよく耳にする。  知識や教養は、学習全体の底上げの意味で有効で、授業そのものには影響を与えないが長い目で見て、必要な内容である。例えば、科学史やノーベル賞受賞者などの研究など教養的要素が強い。 3.3 実証実験  初めに、様々なデータを収集する目的で、授業を録画し、その内容をストリーミング配信する方法で、授業用のe-Learningの実証実験を行った。 実験1 コンテンツ:授業 化学80分 3コマ分 メディア:WindowsMedia 配信サーバ:Windows 2000 Server ネットワーク速度:100Mbps HUB:100Mbps Switching HUB 配信場所:電子図書閲覧室 エンコーダ:WindowsMediaEncoder 7 配信速度:250kbps、500kbps 編集の関係から、80分の授業は、20分×4に分割して配信し、端末の台数により、ネットワークの状況を調査した。 ストリーミング・ダウンロード負荷テスト その1 端末数 最大値 平均値 1台 1.5Mbps 250kbps 4台 1.2Mbps 220kbps 8台 0.9Mbps 140kbps 16台 0.8Mbps 90kbps (File:250kbps 280MB、WindowsMediaPlayer7.1) この状態で、16台への配信の場合、最大で約13MBの帯域を利用している。ネットワークの占有率は、約80%で、サーバ負荷は74%であった。 この結果は、前に「Voice on Demand」システムで測定した結果よりも悪く、画像データを含むストリーミングでは、ファイルサイズが280MBと大きく、ネットワークに対する負荷が大きいためと思われる。 実験2 エンコーダ:WindowsMediaEncoder 8 配信速度:500kbps この実験では、80分の授業をそのままエンコードして配信し、端末の台数により、ネットワークの状況を調査した。 ストリーミング・ダウンロード負荷テスト その2 端末数 最大値 平均値 1台 2.6Mbps 510kbps 4台 2.0Mbps 420kbps 8台 1.5Mbps 310kbps 16台 1.2Mbps 310kbps (File:500kbps 590MB、WindowsMediaPlayer7.1) エンコーダを変えて、再度同一実験を試みた。ネットワーク占有率は100%で、サーバ負荷は68%であった。 これは、ネットワークに配信するシステムが新しいエンコーダのため配信速度が2倍になったにもかかわらず、サーバ負荷が下がったのは、ストリーミングの送り出しがスムーズになっているためと推察される。したがって、端末の受信平均速度は、1.5倍の310kbps(16台)となっている。  この配信実験から、代表的なe-Learningシステムの1つである、ストリーミング配信のネットワークに対する負荷が、ある程度推察できる。事実、ネットワーク占有率が100%では、ネットワークを通じた印刷やインターネットサービスは全く利用できない。このことから、配信するネットワークの性能を向上させないとe-Learningシステムが運用できないと言った問題が発生する。言い換えれば、e-Learningシステムはネットワーク性能に依存するといってもよい。 実験3 エンコーダ:WindowsMediaEncoder 9 β 配信速度:1Mbps この実験では、80分の授業をそのままエンコードして配信し、端末の台数により、ネットワークの状況を調査した。 ストリーミング・ダウンロード負荷テスト その3 端末数 最大値 平均値 1台 3.4Mbps 1.4Mbps 4台 2.6Mbps 910kbps 8台 2.1Mbps 690kbps 16台 1.8 Mbps 540kbps (File:1Mbps 1.1GB、WindowsMediaPlayer9 β)  エンコーダを最も新しいものに変更し、更に端末ソフトもエンコーダにあわせて変更し、実験を試みた。 ネットワーク占有率は100%で、サーバ負荷は最大94%であった。配信速度が2倍になり、16台接続時の最大ネットワーク帯域は、28.8Mbpsにもおよび、サーバとHUB間の通信は飽和しているものと思われる。しかし、新しい配信技術のため、サーバ負荷が100%にも関わらす、ストリーミングの送り出しは、大変スムーズであり、画質も1Mbpsの高画質(実験1に対して4倍の高画質)になっているため、視覚障害者にとって大変利用しやすい画面となっている。既に、ネットワークが飽和しているのでこれ以上の実験は意味がないため実験を中止した。 3.4 ネットワーク性能  前述の実験から、e-Learningを本格導入するためには、ネットワーク性能に依存する事が判明した。そこで、必要な性能を実験結果と理論的計算から求め、設計を行う。 ア)帯域設計  最も新しい、ストリーミングメディアである、WindowsMediaやRealOne、QuickTime6は、広帯域対応のメディアで、配信速度は、1~6Mbpsに達する。この6Mbpsと言う数字は、光ファイバーなどで家庭に接続された(FTTH)などで、利用するオンデマンド映画配信の速度であり、DVD並の画質と言われる。もし、この6Mbps程度の画質で配信できれば、視覚障害者の利用に最適な画質となる。  端末で受け取るストリーミング速度が6Mbpsでは、最大値ではこの2倍以上となるので12Mbps以上となり、計算上15Mbpsと設計する。輻輳などを考慮すると端末は100BASE-TXの実運用上の通信限界である30Mbpsとなり、端末のネットワーク性能は、限界となる。したがって、100BASE-TXよりも高速な、1000BASE-Tの導入が要求される。しかし、端末では、32bitのPCIバスの転送限界値から逆算して、32bitPCIバスでは、1000BASE-Tの性能が発揮できない。そこで、64bitバスの66MHzのPCIバスかPCI-Xの高速バスを有する端末が必要となる。  また、HUBでは、15Mbps×20で、300Mbpsの配信性能が要求される。この場合、100BASE-TX用のHUBでは、10台程度の接続でHUBが飽和する。そこで、HUBも1000BASE-T用の超高速Switching HUBを導入せざるを得ない。  さらに、サーバ側の設計は、最も厳しく、HUBに転送する速度の2倍以上の配信速度がネットワークボードに求められる。送り出しは、当然1000BASE-Tで、64bitバスの66MHz、PCIバスかPCI-Xの高速バスに、超高速なハードディスクが要求されるため、ミドルレンジ以上のサーバ専用機が必須となる。  1000BASE-Tの配信を行うには、配線ケーブルも高速なものが必要で、300Mbps以上の速度に適応するのは、カテゴリー6以上のUTPケーブルであり、現在の新しい100BASE-TX対応の全学ネットワークでは対応できない。(カテゴリー5eのため) イ)接続維持  一方、ストリーミング配信の特性として、通信速度よりも接続性に重点が置かれるという問題がある。したがって、イントラネットなどでサーバからHUBを介して配信する場合でも、キャッシュ機能を十分に機能させないと、サーバからHUBへのデータ配信が飽和し、最悪送信不能となる。この場合、端末側では、サーバからデータが送られてくるまでの間、バッファ時間となり、再生は出来ない。このため、サーバと端末の通信は、常に接続維持を確保しなければ、ストリーミング配信に支障をきたす事となる。  通常は、キャッシュ機能の強化のため、サーバとHUBの中間にキャッシュサーバを置いて代理応答させるか、サーバそのもののメモリなどを増設し、キャッシュ機能を増強する。また、HUBに大容量のバッファを搭載したものを選択するなどの対策を検討する必要が考えられる。  以上、ア)イ)を考慮すると、このシステムを本格導入するためには、サーバ・端末・HUB・配線材と全てに関して変更する必要がある。 4.試験的e-Learning  e-Learningでは、様々なコンテンツが考えられるが、試験的に幾つかのコンテンツを作成し、実際に授業などで応用したので報告する。 1)授業のe-Learning  病院に行くためや体調不良などによる欠席を補うための手段として、化学の授業の一部を録画・デジタル化して、電子図書閲覧室で公開した。 2)プレゼンの評価用e-Learning  プレゼンテーションは、発表技法と資料作成・情報収集の3つの大きな柱からなる。そこで、発表技法の練習として、各自に課題を与え、人前で発表し、その状況を録画してデジタル化し、相手の長所短所や感想文を書く事により、発表に対するフィードバックを行う事とした。対象となった鍼灸学科1年生の各自の発表(発表8分、質問4分)を電子図書閲覧室で公開し、そのデジタルデータを空き時間に再生し、各自の感想文を提出させた。 3)鍼実習のe-Learning  鍼実習の流れを学習させるために、鍼の持ち方、置鍼の方法、施術の仕方など一連の流れを示す映像を作成し、実習前に弱視の学生に閲覧させた。全盲の学生には音声で流れを説明した。 4)電子カルテ学習用のe-Learning  2003年度から実施される新しい学習指導要領では、鍼灸や理学療法で、医療情報として電子カルテや地域医療情報システムなどが指導項目となったが、その電子カルテ説明用のe-Learning システムを作成した。これは、映像を利用せず、プレゼンテーションソフトで、画面説明と音声説明・音楽・効果音などを導入したものである。  これらの4つの試験的e-Learningは授業で利用され、特に反復再生などにより知識の固定化にある程度の効果があったものと思われる。利用後の学生へのアンケートでも多くの学生の支持を得たが、視力状況によっては、不満もあったことが記されていた。 5.おわりに  e-Learningの本格導入に向けて、試験的に実施したパイロットプランの学生の反応や希望は、本格的な導入と実施する教科を増やしてほしいとのことであった。  大手予備校に見られるように、全ての授業を録画し、受講生の反応と試験などとの相関をとり、講師の教育能力を査定するというやり方は、大学などの教育現場では教官などの反発もあって導入は不可能と思われるが、この方法は、講師側も緊張感を持って授業を担当するというプラスの側面もある事を理解すべきであろう。特に授業を公開することに違和感や問題がないと思われる教官は、授業をe-Learningで公開すべきであろう思われる。  また、e-Learningの本格実施で問題となる、幾つかの技術的問題は、ネットワーク性能に依存する場合が多く、ネットワークを熟知している本当のプロフェッショナルが、ネットワーク設計をしないと、実現できない部分が多い。シスコシステムズのCCNAやCCNP、CCDPなどネットワーク企業認定資格を有するSEが設計しないと実現できないであろう。しかし、「ちょっとやれば出来るだろう」「ネットワークの設計は業者に任せればいい」「業者が言うから間違いない」などの発言を耳にする事があるが、業者に任せる前に、システムの検証を行える程度のネットワークに対する知識や能力に実力がなければ、常に業者任せという事態に陥りかねない。  技術的な問題や人間的な問題が入り交じった、課題の多いe-Learningシステムであるが、多くの企業や大学で様々な実践が行われている最中でもあり、視覚障害者の新しい教育の一過程を創造する勇気も必要ではないだろうか。 Trial of e-Learning in Information Education MURAKAMI Yoshihisa1) UEDA Shoichi2) 1 )Department of General Education, Division for the Visually Impaired, Tsukuba College of Technology 2 )Department of Acupuncture / Moxibustion, Tsukuba College of Technology Abstract:In the Division for the Visually Impaired, the method of the entrance examination is diversified. Therefore, the difference of the ability of the student who enters a school shows the tendency to expand. Various attempts to secure student's scholastic attainments have been done. E-Learning using the personal computer was tried as one way. Here, practice examples about visually impaired e-Learning are introduced. Key Words:e-Learning, Scholastic attainments security, Self-study