二科展デザイン部「入選作品&応募作品」の概略報告 筑波技術短期大学デザイン学科 安田 輝男 要旨:筑波技術短期大学テクノレポートVol.9(1)「視覚伝達デザイン教育におけるコンペティション応募への取り組み」において、その主旨と成果について概略報告した。本稿では、幸いにして三年目の本年度において3名の入選者(7名応募)を出したので、本年度の二科展応募作品についての概略を報告する。 キーワード:視覚伝達デザイン、聴覚障害、アート、広告、二科展デザイン部 1.はじめに  前稿でも言及したが、視覚伝達デザインは、聴覚に障害のある人にとって健常者との格差が生じにくい分野と考えられ、また視覚的造形発想力に関して優れた能力を発揮できれば、社会での活躍も期待できる領域である。 2.授業の構成について  「伝達デザイン特別論・演習」においては、広告デザインの基礎的なアート手法を実際の広告事例を参照しながら具体的に学習し、演習を通して実際のデザインの仕事(グラフィック広告デザイン、エディトリアルデザイン等)をするうえで役にたつスキルを身につける。 2.1 アート手法の教授  そのスキルを習得するための主なアート手法として次に掲げた①〜⑭の手法を教授する。 ①モノデカアート  商品を正々堂々と中心にすえて表現する手法で、広告表現としては最もオーソドックスな表現手法である。 ②幕の内アート  商品やサービスの情報量が多い時、あるいは多いとアピールしたい時に有効な手法。食欲をそそる美しい幕の内弁当のように、多くの要素を美しくレイアウトする。 ③告知アート  メッセージを、より明解に、より早く、より強く伝えたい時に用いる手法。広告コピーが主役となり、アートはあくまでその引き立て役となる。 ④ビッグリアート  テーマをビッグでリアルな世界に置き換えてビックリさせる手法。ビジュアルショック手法と呼ぶこともある。 ⑤喜怒哀楽アート  人間の喜怒哀楽を、商品の訴求ポイントにからませて表現する手法。体温の感じられるビジュアル、肉声が感じられる広告コピーが必要である ⑥遊技アート  行きずりの広告読者の目を、一瞬にして釘付けにしようとする手法である。この手法を成功させるには、ユーモアのセンスも欠かせない。 ⑦タイポアート  タイプフェイス、タイポグラフィの持ち味を広告表現につくりあげる手法。キャッチフレーズ等のコピーにビジュアル要素も加えながら魅力的に表現する。 ⑧記号アート  一目でメッセージが伝わる記号・シンボル等をメインビジュアルに使う手法である。一瞬にして視覚的理解を深める。 ⑨スキャンダルアート  人の本能に迫る手法。理性よりもむしろ感性に訴えるので、記憶の残像としてもインパクトがある。 ⑩ブロマイドアート  タレントの力を利用する手法。売れているタレントの顔を最大限に効果的に利用する。 ⑪アニマルアート  広告のビジュアル効果を考えた場合、注目度の高いものの一つが動物である。その動物をメインビジュアルに登場させる手法である。 ⑫BABYアート  BABY(赤ちゃん)も、上記の動物と同様に注目度の高いビジュアル素材。この赤ちゃんをメインビジュアルに登場させる手法である。 ⑬キャラクターアート  キャラクターをメインビジュアルにする手法。マス媒体の顔ともなり、また店頭での接客の顔ともなる。 ⑭パロディアート  広告読者が既知のビジュアル素材をひとひねりして見せる手法。パロディは、いわば、送り手と受け手の知的キャッチボールである。 2.2 効果的な予習としての広告事例観察  当授業では、講義の前に毎回学生に自分が関心を持った広告について発表することになっている。学生たちは新聞広告、雑誌広告、ポスター、インターネット上の広告など様々なメディアにわたる広告をとりあげ、関心を示す部分も、ビジュアルワークからコピーワークまで多岐にわたっている。  このように、現実の社会に流れている生きた広告をウォッチングすることは、まさに生きた教材を活用することであり、当授業全体にとっての効果的な予習ともなっている。学生たちが発表する表情も生き生きとしている。 2.3 演習ではアイデア出し&ラフスケッチの練習  前述2.1)で解説したアート手法を教授の後に、本年度はソフトドリンクや家電品の課題を与え、その表現のアイデア出しとラフスケッチの習作を行った。  このような助走的トレーニングの後に二科展デザイン部門課題へ取り組んでいった。 3.二科展デザイン部課題への取り組み  2002年 第87回二科展デザイン部募集作品のテーマは、A部門(自由テーマ)・B部門(イラストレーション)・C部門(特別テーマ「『2003年 日・ASEAN 交流年』をテーマとしたポスター」)であった。  今回は履修学生7名全員がC部門を選んだ。 [入選作品] 作品1寺井 亮宣 ・タイトル:「アジアのハートは熱くなる」  ブルーの空と海に浮かぶハートをモチーフにし、そのまわりに日本とASEANの国旗が描かれたリボンがからみ合うように描かれている。心あたたかい交流をイメージしている。制作段階で苦労したのは、ハートの形の立体感と透明感の表現であった。 作品2中島 ひとみ ・タイトル:「アジアの友情」  学校で社会科の授業を受けている情景を思い出しながら、教室の黒板にチョークでASEAN諸国と日本を描き、授業さながらの風景をモチーフにしている。アイデアと制作者が手描きで黒板に直接メインビジュアルを描いたことによる素朴さがアピールポイント。 作品3村田 幸謙 ・タイトル:「アジアの風を運びます」「アジアの熱を感じます」  二枚連作。日本とASEAN諸国の国旗がそれぞれペインティングされた手が、まさに握りあおうとしている緊張の瞬間がモチーフ。二枚連作のアイデアとマッチし、ダイナミックかつドラマティックに表現されている。  表現手法としては、マネキンの手、実際の人間の手にペインティングするなど試行錯誤した結果、最終的にはパソコンソフトを使っての表現でまとめあげた。 [応募作品] 作品4新井 有美子 ・タイトル:「ASEANへ行こう」  劇中劇ならぬ、広告中広告のアイデアである。ASEANへ旅行するというシチュエーションで、車両の中の中吊り広告にASEAN諸国の地図を描き、乗客たちの会話でASEANへの関心を訴えている。 作品5雪森 文晃 ・タイトル:「握手・SHAKE HANDS WITH ASEAN」  握手をモチーフにして、ASEAN の交流を表現している。表現手法としては、「握手」という文字の集合体として、握手しているビジュアルが浮き出てくるタイポグラフィ的手法をとっている。 作品6吉澤 直人 ・タイトル:「アセアン共和国」  日本列島が、突然、南シナ海へ大陸移動し「アセアン共和国」という仮想の地図が出現したことを表現アイデアとしている。「アセアン共和国」を照らす太陽が力強く描かれている。 作品7平野 恵美 ・タイトル:「熱烈友好」  あたたかな太陽の引力圏で回遊するようなイメージでASEANの友好を表現している。ASEAN諸国の国旗でASEANのアルファベットを形作り、加盟諸国をアピールしている。  学生たちが挑戦したテーマ「『2003年 日・ASEAN交流年』をテーマとしたポスター」は、かなり抽象度の高いものであった。このテーマをビジュアル表現に置き換えるためのアイデアやモチーフに関して概観してみると、ハート(1点)、海と空(1点)、地図(3点)、握手(2点)、国旗(4点)、太陽(2点)があげられる。  これらは、「ASEAN」および「交流年」というキーワードを考えた場合、順当であったといえよう。 4.おわりに  情報化社会のますますの深化と世界のグローバル化の進展にともない、視覚伝達デザインは、コミュニケーションを円滑にするために、今後ますますその重要性を増してくる。また、聴覚に障害がありデザインを学ぶ学生にとって、視覚伝達デザインのスキルを習得することは、社会で自立し、自己実現するために必須である。その意味で、二科展デザイン部門への作品応募を含めてのこの「伝達デザイン特別論・演習」は、今後とも継続し、さらに実績を積んでいきたい。  本年度の二科展応募に際しては、前島 健先生からご支援ご協力をいただきました。ここに感謝の意を表します。  本年度は二科展初入選を祝して、本学よりご支援いただき聴覚部と視覚部においてそれぞれ「二科展デザイン部入選記念特別展」を開かせていただきました。ご支援ご協力いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。  また、学園祭においても「二科展デザイン部門応募作品展」として三年間の全応募作品を展示させていただきました。 デザイン学科のこれまでの二科展応募状況 [2000年度 募集作品テーマ] A部門(自由テーマ):1名応募 準入選 B部門(イラストレーション):1名応募 C部門(特別テーマ):3名応募 1名準入選 「『2001ボランティア国際年』をテーマとした ポスター・キャラクター」 [2001年度 募集作品テーマ] C部門(特別テーマ):5名応募 全員準入選 「『愛知万博』をテーマとしたポスター」 [2002年度 募集作品テーマ] C部門(特別テーマ):7名応募 3名入選 [入選作品] 図1 作品1 図2 作品2 図3 作品3 [応募作品] 図4 作品4 図5 作品5 図6 作品6 図7 作品7 参考文献・資料 [1] 安田 輝男:パロディ広告大全集全一巻,第1版,誠文堂,新光社,東京,1984 [2] 博報堂アート手法研究プロジェクト:FIFTEEN ART EDGES,株式会社博報堂,東京,1989 [3] 大貫 卓也:大貫 卓也全仕事,第1版,マドラ出版,東京,1994 [4] 安田 輝男:あの広告はすごかった!,第1版,中経出版,東京,1997 [5] 安田 輝男:広告デザインにおけるパロディの研究,デザイン学研究第46回研究発表大会概要集,24-25,1999 [6] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集1999,二科展デザイン部,1999 [7] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2000,二科展デザイン部,2000 [8] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2001,二科展デザイン部,2001 The report of an outline of “The winning works & the works which are applied” for NIKA design part YASUDA Teruo Department of Design, Tsukuba College of Technology Abstract : I have reported on the object and results in “Applications Design Competition, ‘Visual communication design’ for Education” (Tsukuba College of Technology Techno Report, 2002 Vol. 9(1)). This time, fortunately, we have three winners (7students applied), I report on the works which are applied for the current year NIKA design part. Key Words:Visual Communication Design, The hearing impaired, Art, Advertisement, NIKA design part