卒後教育システム構築に対する基礎的調査及び卒業生の動向の把握その2 筑波技術短期大学 理学療法学科 吉田 次男 薄葉 眞理子 前島 徹 要旨:我々は、卒後教育システム構築に対する基礎的調査及び卒業生の動向の把握を目的として、平成6年から平成12年までの筑波技術短期大学理学療法学科卒業生66名を対象に、アンケート調査を行った。有効回答数は34名(回収率51.5%)。このアンケート調査を通じて、就職後の実態調査、特に今回は職場環境について結果と考察を述べる。 キーワード:理学療法、視覚障害、実態調査、職場環境 1.目的  本研究は、卒後教育システム構築に対する基礎的調査及び卒業生の動向の把握を目的として、筑波技術短期大学理学療法学科卒業生に対して行われたアンケート調査である。 2.はじめに  本研究は卒業生に対するアンケート調査を通じて、就職後の実態調査に加えて、臨床現場での仕事を通じてどのような卒後教育を希望するかを調査している。さらに同窓会支援や、卒後教育の一手段ともなり得るインターネット利用に関しても聞いている。アンケートは大まかに以下のような構成になっている。 Ⅰ 卒業後の進路について 1 理学療法学科としてのアンケ-ト 2 職場全般に関する質問 Ⅱ 教育について 1 卒後教育について 2 生涯教育について Ⅲ 同窓会について Ⅳ インターネット利用について  前回の薄葉等[1]は、本アンケートのうち、Ⅰ卒業後の進路について、1理学療法学科としてのアンケート部分について報告した。今回はこのアンケートのうち、紙幅の関係から、Ⅰ卒業後の進路について、2職場全般に関する質問部分について報告する。Ⅱ教育について(1卒後教育について、2生涯教育について)、Ⅲ同窓会について、Ⅳインターネット利用については、次回報告する。前回の報告はその1としなかったが、今回は同じアンケートの一部の報告であるので「その2」とした。 3.調査の対象と方法:  平成6年から平成12年までの筑波技術短期大学理学療法学科卒業生(卒業後1~7年目までの者)66名に対し、アンケート調査を行った。回答は記名式とし、平成12年3月にアンケートを郵送した。回答も郵送とした。 4.結果  回収は34名(回収率51.5%)で男20名、女14名、卒業後1年目4名、2年目4名、卒業後3年目3名、4年目5名、5年目11名、6年目4名、7年目3名であった。  以下アンケート項目の順に従って、結果と考察を述べる。カッコ内は、回答者34名に対する割合であり、無回答者がいる場合は合計100%にはなっていない。特に必要ある場合を除き無回答者数は記していない。また、複数回答項目では合計が100%を越えることもある。 1.職場全般に関する質問 1-1.職場でのあなた自身について (1)あなたの現在の雇用形態は何ですか。 ア、正社員・正規職員 30名(88.2%) イ、契約社員等(期限付き) 0名(0%) ウ、パートタイム・非常勤職員 0名(0%) エ、自営 0名(0%) オ、その他 1名(2.9%) 無回答者 3名(8.8%)  殆どの卒業生が正社員または正規職員として採用されている。その他の1名は主婦である。無回答者3名のうち1名は主婦、1名は学生であった。 (2)あなたの現在の役職名をお書き下さい。  役職名の調査では、教員、主婦、学生を除き、理学療法士として勤務している29名中2名が主任であった。 (3)あなたの作業場所はどこですか。 ア、オフィス・事務所 6名(17.6%) イ、生産現場・診療現場 24名(70.6%) ウ、外回り 2名(5.9%) エ、自宅 0名(0%) オ、その他 1名(2.9%)  生産現場・診療現場というのは実際は診療所、病院である。これは理学療法学科卒業生の特徴である。また、 オフィス・事務所と回答したものも実際は診療所や病院、老人保健施設であった。 (4)現在あなたが担当している仕事について簡単にお書き下さい。 ( 自由記述 )  回答したもののうち、殆どのものが、リハビリ、理学療法を挙げた。その他、理学療法士の指導者としての仕事を挙げたものが2名、育児が1名であった。無回答も多かったが、担当している仕事は、リハビリ、理学療法が自明であると思われた。 (5)就職する前に取得した技術・資格はありますか。 ア、はい 15名(44.1%) → (5)-1へ イ、いいえ 13名(38.2%) → (6)へ  就職する前に取得した技術・資格は、15名(44.1%)がはいと答えその内容は、鍼灸師が3名、英検2名、ケアマネージャー、教員免許状、アマチュア無線従事者免許、危険物取り扱い主任(乙種)と答えたものが1名ずつであった。理学療法士の資格は全員就職前に取得しているが、「はい」と回答したものは4名である。ケアマネージャーについては卒後の臨床実績が必要なので、卒業後から現在の職場の就職までの間に取得したものと考えられる。 (5)-1それは役に立っていますか。 ア、かなり役に立っている 8名(23.5%) イ、たまに役に立つことがある 6名(17.6%) ウ、ほとんど役に立たない 3名(8.8%)  役に立っているのは14名(41.1%)であるが、理学療法士の免許は、理学療法という仕事上役に立っているのは当然のことと考えてそれ以外の資格について回答したものが多いと考えられる。 (6)就職後に取得した技術・資格はありますか。 ア、はい 3名(8.8%) → (6)-1へ イ、いいえ 23名(67.6%) → (7)へ  就職後に取得した資格は、ケアマネージャー1名、 レクレーションインストラクター、PNF(固有受容性神経筋促通手技)が1名ずつ、合計3名であった。この3名とも次の設問で、「たまに役に立つことがある。」と回答した。 (6)-1それは役に立っていますか。 ア、かなり役に立っている 0名(0%) イ、たまに役に立つことがある 3名(8.8%) ウ、ほとんど役に立たない 0名(0%) (7)今後取得したい技術・資格はありますか。 ア、はい 19名(55.9%) イ、いいえ 9名(26.5%)  具体的な資格については1人で複数回答したものを含めて、18人が回答した。内訳はのべで、学士が4名、ケアマネージャー、呼吸専門の理学療法学士、作業療法士が各2名、社会保険労務士、アスレチックトレーナー、心理カウンセラー、マニュアルセラピー、鍼灸師、言語療法士、琴名取り、英語、原付免許、インターネット、修士が各1名であった。 (8)現在の仕事は、自分にあっていると思いますか。 ア、自分のやりたいこと、自分の能力(知識・技術・ 資格など)に丁度あっていると思う。 9名(26.5%) イ、自分のやりたいことである。能力的には、今より以上のことを出来ると思う。 1名(2.9%) ウ、自分のやりたいことではあるが、周囲からの要求が高く、それに答えられていないと思う。 15名(44.1%) エ、自分のやりたいことではないが、能力的には問題ないと思う。 1名(2.9%) オ、自分のやりたいことではなく、能力的にも不十分だと思う。 1名(2.9%) (9)障害を有することが、仕事上でハンデになると思うことがありますか。 ア、知識や情報などの面で感じる 4名(11.8%) イ、機器操作や移動などの行動面で感じる 15名(44.1%) ウ、すべての面で感じる 4名(11.8%) エ、全く感じない 8名(23.5%)  視覚障害が何らかのハンデになると回答したものは67.6%に上り、卒後の視覚障害補償の面で不自由を感じているものが多い。 (10)自分の専門分野の新しい技術・知識を得る機会があれば参加したいですか。 ア、積極的に参加したい 20名(58.8%) イ、職場の理解があれば、参加したい 8名(23.5%) ウ、仕事の一環としての研修などで十分なので、特に 必要性を感じない 2名(5.9%) 職場の研修等含めて82.4%のものが参加あるいは参加希望している。 (11)職場以外での研修に参加する場合、職場にどのような配慮を望みますか。(複数回答可) ア、参加費・交通費などの金銭的な面 22名(64.7%) イ、仕事の軽減 11名(32.4%) ウ、労働時間の振り替え 10名(29.4%) エ、職場の理解 15名(44.1%) オ、 その他 2名(5.9%)  経済的負担の配慮、職場の理解、仕事の軽減や労働時間の振り替えといった時間的配慮を望むものが多い。 1-2 .職場環境について (1)職場には、あなたの障害を補償する機器・設備が整っていますか。 ア、十分整っている 3名(8.8%) イ、最低限である 8名(23.5%) ウ、いくつかあるのみで不十分である 2名(5.9%) エ、整っていない 17名(50%)  十分整っているとしたのは8.8%であり、障害を補償する機器・設備の整備ははなはだ不十分であると感じているようだ。 (2)職場の人は、あなたの障害の事を理解していると思いますか。 ア、十分に理解していると思う 9名(26.5%) イ、必要最低限な事は理解していると思う 13名(38.2%) ウ、あまり理解しているとは思わない 9名(26.5%) エ、全然理解していない 0名(0%) 障害についての理解も64.7%にとどまっている。 (3)職場には、あなたの他に視覚障害を持った人はいますか。 ア、はい 12名(35.3%) イ、いいえ 18名(52.9%) (4)職場には、視覚以外に障害を持った人はいますか。 ア、はい 6名(17.6%) イ、いいえ 23名(67.9%) (5)職場全体の雰囲気はどのような感じですか。(複数回答可) ア、明るい 24名(70.6%) イ、暗い 1名(2.9%) ウ、厳しい 4名(11.8%) エ、甘い 5名(14.7%) オ、協力的 14 名(41.2%) カ、個別的 7名(20.6%) キ、開放的 10名(29.4%) ク、閉鎖的 2名(5.9%) (6)職場に心身の健康を管理する担当はいますか。 ア、はい 6名(17.6%) イ、いいえ 23名(67.6%) (7)職場のことや私生活のことで、何でも相談できる人はいますか。 ア、はい 20名(58.8%) → (7)-1へ イ、いいえ 10名(29.4%) → (8)へ (7)-1実際に相談したことはありますか。 ア、はい 20名(58.8%) イ、いいえ 1名(2.9%) 何でも相談できる人がいる人は全員、実際に相談していることになる。 (8)職場を辞めようと思ったことがありますか。 ア、はい 17名(50%) → (8)-1へ イ、いいえ 8名(23.5%) → (9)へ  半数が辞めたいと思ったことがある。 (8)-1実際に職場を辞めたことがありますか。 ア、二度以上辞めた 4名(11.8%) イ、一度辞めた 7名(20.6%) ウ、辞めたことはない 10名(29.4%) (8)-2会社を辞めた、あるいは辞めようと思った主な原因は何ですか。 ア、仕事上の能力的な問題 6名(17.6%) イ、人間関係の問題 7名(20.6%) ウ、その他(通勤困難など) 8名(23.5%) (9)能力や人間関係の問題で、職場内であなたから希望して配置を替えてもらったことはありますか。 ア、二度以上配置替えをしてもらった 0名(0%) イ、一度配置替えをしてもらった 2名(5.9%) ウ、全くない 25名(73.5%) 1-3.通勤について (1)通勤に際しての交通手段は何ですか。(複数回答可) ア、電車 16名(47.1%) イ、バス 12名(35.3%) ウ、徒歩 13名(38.2%) エ、その他 11名(32.4%) 電車、バスといった公共輸送機関を利用するものが多い一方で、徒歩も少なくない。 (2)通勤時間はどのくらいですか。 ア、1時間未満 25名(73.5%) イ、1時間~2時間 6名(17.6%) ウ、2時間を越える 0名(0%) (3)通勤に際して、雇用者より配慮されていることはありますか。 ア、特にない 25名(73.5%) イ、通勤時間帯が込み合う時間と重ならないように配 慮されている 0名(0%) ウ、通勤の便の良い職場に配属されている 0名(0%) エ、通勤の便の良い場所に宿舎が確保されている 2名(5.9%) オ、その他 2名(5.9%)  病院等によっては宿舎が用意されている場合もあるが、それ以外は特別な配慮は特に見られない。 (4)通勤に際して、あなた自身が配慮していることはありますか。 ア、特にない 15名(44.1%) イ、早めに通勤している 6名(17.6%) ウ、通勤の便の良い場所に宿舎を確保している 10名(29.4%) エ、その他 0名(0%) (5)通勤に関して、希望や考えていることがあれば、お書き下さい。 回答者は3名のみであった。 ・常識程度(時間、態度) ・駅から近いところに宿舎を借りる。 ・冬はアパートに入りたい。 5.考察 5. 1 回収率について  平成5年から9年度までの視覚部3学科(鍼灸学科、理学療法学科、情報処理学科)卒業生158名に対する同様アンケート調査[2]の回答者32名(21.6%)に比べて非常に高かった。これは本アンケート調査前半部分に理学療法学科固有の設問を設けたことが回答者の関心を高めたと考えられる。 5. 2 卒業生自身に関するアンケート結果について  今後取得したい技術・資格については、専門に関連のあるものを挙げたものが多い。また学士が4名と第1位であり、比較的高い進学意欲がうかがわれた。  同様のアンケート調査で[2]は、何らかの技術・資格を取得したいものは74.8%となっており、理学療法学科単独の調査に比べて高い。これは、仕事上必要な理学療法士の資格を既に取得しているために新たにほかの既に技術・資格を取得する必要性はそれほど高くないことが考えられる。  現在の仕事が、自分にあっているかどうかについては、73.5%と、多くのものが希望の職種に就いているが、同様のアンケート調査[2]でも74.2%であり、職種が異なってもあまり変わりない。しかし、44.4%が理想と現実(自分の能力とのギャップ)を感じている。 5. 3 職場環境に関するアンケート結果について  調査からは、身の回り障害者の割合は一般企業と比べると多い。また、職場全体の雰囲気については、明るく、協力的、開放的な雰囲気が感じられる。理学療法がチームワークを必要とする職場だからであろうか。  職場に心身の健康を管理する担当がいるかとの問には、67.6%が「いない」と回答しているが、職場の殆どが医療機関であるので、特に健康管理者の存在を意識しなかったことも考えられる。  職場の辞職に関する調査では、一度以上辞めたことのあるものは32.4%ある。これは、いったん辞めても、理学療法士の場合、再就職に困らない現実があると考えられる。  配置換えについては、能力、人間関係の問題等を感じているものが多い割には、配置替えの希望は少ない。転職するものがいる一方で、現状に我慢しているものも比較的多いことがうかがわれる。 文献: [1] 薄葉 眞理子、前島 徹、吉田 次男:卒後教育システム構築に対する基礎的調査および卒業生の動向の把握..筑波技術短期大学テクノレポート9(1):127-132,2002. [2] 根本 匡文、石田 久之他:本学卒業生における職場適応の状況と生涯学習の必要性に関する調査研究.筑波技術短期大学平成10年度学長裁量経費プロジェクト報告書:1989. Trend in Physical Therapy Practice of Graduates with Low Vision Part 2 YOSHIDA Tsuguo USUBA Mariko & Maeshima Toru Department of Physical Therapy, Tsukuba College of Technology Abstract: An investigation of trends in the occupational environment and the needs for Postgraduate education in the professional field of the Physical Therapy for graduates with low vision was performed. Questionnaires were mailed to 66 graduates, who graduated between 1994 and 2000 from the Department of Physical Therapy at Tsukuba College of Technology. We collected 34 (51.5%) valid answers. About a part of this survey, the results and investigation was issued as a paper of Technoreport Vol. in 2002. Here, we show the results and investigation of another part of our survey, especially their professional environment. Key words: Physical Therapy, Low Vision, Questionnaire Survey, Professional Environment