点字・墨字を使用しない重度視覚障害者用音声学力試験の試行 1)筑波技術短期大学障害者高等教育センター,2)筑波技術短期大学情報処理学科,3)埼玉県立盲学校 加藤 宏1)・青木 和子1)・永井 伸幸2)・近藤 邦夫3) 要旨:重度視覚障害者に対する学力判定試験として音声による試験の可能性を検討するために英語と国語問題の試行試験を行った.点字触読技能を十分に習得していない重度視覚障害学生のためのリスニングによる試験方法を検討するためである.問題はコンピュータの合成音声,デジタル・ボイスレコーダで録音した肉声をパソコン再生,DAISYレコーダの3方式で提示された.科目は英語の語彙力テスト,英語読解問題と国語の読解問題であった.いずれの形式でも視覚障害者は音声のみで回答可能であり,試験における特別措置の方法としての可能性が示唆された.解答所要時間は問題録音時間の1.1倍から2.6倍要した.点字や墨字試験との比較を行い特別措置としての標準化研究が必要である. キーワード:重度視覚障害 入試 音声試験 DAISY readKON 1.はじめに  視覚障害を持つ大学受験生には中途失明等の理由により,墨字が読めないだけでなく点字習得が十分でない者も多い.近年はAO入試など学力によらない選抜方式を採用する大学も多くなってきているが,障害を持つひとたちへの教育の機会を拡大するという観点からも,点字の読めない受験生のための音声による学力試験の開発と標準化は急務といえよう.  従来,音声試験は人による対面朗読方式か受験生が録音テープを操作するカセット・テープ方式が行われてきた.DAISYという視覚障害者デジタル読書器を生み出したスウェーデンでは音声試験もカセットテープからDAISY方式への移行を検討している[1].一方,合成音声やデジタル録音器の発展は,音声による読書や情報機器の使用を可能にしてきた.視覚障害者の入学後の学習形態を考慮すると合成音声の聴取による文書の読解が肉声と同じようにできるか検討することも重要と考えられる.  本研究では音声による大学入試や期末試験の可能性を探るために重度視覚障害者に合成音声を含む3方式の音声試験を英語問題と国語問題を用いて実施し,その音声提示方式別の操作性や解答行動パタンの特徴を調べた.また音声試験をめぐる認知心理学的問題について考察した. 2.音声テストの開発が必要な理由  大学進学率の上昇や生涯教育の推進にともない多様な障害を持った学生が大学に進学してきている.視覚障害受験者に対しては,従来から点字問題や拡大文字テストによる特別措置が取られてきた.しかし,中途失明者や盲学校以外からの視覚障害者の進学が増えるにつれ,点字の習得が不十分であったり,全く読めない者も大学に進学してくるようになった.点字を習得していない受験生のためには,口頭試験という方法があるが,問題も多い. 3.従来の読み上げ試験の問題点  口頭試験では読み手による読みの恣意性など読み手要因を排除できないこと,また試験を受ける側にとっては,読みを自らコントロールできないということがあげられる.制限時間を気にしながら読み手に読み直しを要求できるのか.読みのスピードを変えてもらおうとしても,読み手に適格に意志の疎通ができるのかといった問題もある.公正を期さねばならない試験という場には,読み手の肉声による試験方法というのは問題が多いと言わざるをえない.試験とは全て制限時間が定められていることを考慮すると,合成音声による試験,あるいは肉声録音を使用する場合も,受験生側で自由にスピード等をコントロール可能な形式が望ましい.  また,合成音声による試験が標準化されれば,入試に限らず通常の試験なども教員側はテキスト・ファイルを作成するだけで点字を習熟していない視覚障害者のための試験や通常の授業における教材提供もできる.テキスト・ファイルとして一元化されたソースを使用することによって,点訳試験も含めた試験問題の一元化が可能となる. 4.音声による試行テスト 4.1 目的  重度の視覚障害を持つ学生に情報機器を介した音声のみによる英語・国語の試験問題を提示し,試験方法としての有効性と操作性を検討する. 4.2 実験 被験者:筑波技術短期大学の全盲学生4名. 試験問題:以下の1~3のテストを3セット作成した. テスト1.英語の語彙テスト:LONGMAN2000語レベルの単語リストからランダムに選択した英単語10個の語彙を音で聞き,その日本語訳を選択肢形式で選ぶ. テスト2.英語リスニングテスト:50 語程度の短い英文を2つ読み,内容について英語で各2問ずつ選択肢形式の質問に答える.質問と選択肢も英語で読み上げられる. テスト3.国語読解テスト:850から1000字程度の新聞社説等の文章を聞き,内容について3問の選択肢問題に答える. 問題提示方法:DAISY,ICレコーダに録音した肉声をパソコンで再生(以下ICと略す),日英の合成音声エンジンを使用した読み上げ自作ソフト[2](readKONと略す)の3方式を使用.英単語,英文読解,国語読解問題は各3セット作成され,3テスト方式に指定された.つまりテスト方式ごとに問題セットは固定され,テスト方式と問題セットをランダムに組み合わせるような乱塊化は行わなかった.各被験者は3方式全てを1度は試験される.3方式の実施順序は被験者ごとにランダムにし,練習効果が相殺されるようにした(図1,2,3).  被験者は情報機器は日頃から音声により使用しており,パソコンの基本操作や画面読み上げ方法については習熟していた.しかし本試験に用いられたソフト等は基本的にはじめて経験するものであった.  各方式による実施にあたっては始めに操作方法の説明と練習を行った.  DAISYによる問題はプレクスター社PTR1で録音し,再生操作は被験者が行った.DAISYは録音ソースを階層化する機能と階層間をジャンプして移動する機能を持つが,今回は,被験者のうち3名がDAISY初心者であったため,操作法の説明でレベル機能(階層間の移動)の説明は行わなかった.ICレコーダを用いた問題はSONY ICD-S1で肉声録音し,附属ソフトDigital Voice Editor でパソコン上で編集.readKONは英語読書支援ソフトとして近藤が開発したものである.このソフトはスピーチエンジンとしてはMicrosoft社のフリーウェアのSpeech SDK を使用している.Speech SDKの選択はreadKONの視覚障害教育関係機関等への無償配布を開発当初より計画していたため,有償のスピーチエンジンは盲学校等では使用されにくいという事情からの選択である.日本語部分の読みに関しては盲学校で普及していると考えられるPC-Talker を併用して試験を実施した.  なお,今回の試験では回答時間に時間制限は設けなかった. 4.3 結果と考察  3方式とも音声による指示のみで問題の解答は可能であった.被験者も少なく,個人差も大きいためテスト方式間の回答時間等に関する統計的検定等は行わなかった. 4.3.1 解答時間  解答に要した時間では音声提示方式による顕著な差異はなかった.国語の問題(各方式の問題3)でDAISY方式のみ解答時間が長くなったが,これはこの問題の難易度が他の方式で提示された問題よりも高かったためと考えられる(図4).図ではテスト方式名のあとの数字は1(英単語),2(英文読解),3(国語読解)の各テストをあらわす.またグラフの各線は4人の被験者個人を示している.  音声提示別にみたテスト方式別の解答行動の定性的特徴としてはDAISYレコーダでは,最小セクションごとに前後にジャンプする機能が多く使用された.これはDAISYにはテンキーで文章中を指定された単位ごとに前後行き来できる機能があるが,これを活用した読み返し行動が頻出したということである.しかし,この機能を多用した被験者はDAISYを過去に使用した経験のある被験者に限られていた.試験や入学試験のような全くの初心者や限られた操作説明で階層構造を利用したストラテジイが採用されるかは不明である.初心者への階層構造の説明とその操作法、そして試験問題の音源ソースをいかに階層設計するかがDAISY版問題作成では重要であると示唆された.  IC形式は肉声なので聞き取りの評価は良かった.操作はパソコンで行ったため,入試のように情報機器に習熟していない者も使用することを考えるとパソコンの習熟度に依存する部分が多いことが、実際の入試利用などでは問題となるであろう.  readKONでは英語問題でPC-Talkerとの使い分けが見られた.英語の合成音声を聞き慣れていない学生は単語のスペルアウトや聞き取りにくい英文はPC-Talkerでの聞き直し行動が見られた.大学での使用を考慮するとより高品位のスピーチ・エンジンの選択と英語合成音声への習熟度が課題となろう. 4.3.2 正答率  次に音だけで、どれだけ問題に正解できたかを正答率でみる.これは問題の提示法やテスト方法の問題ではなく,受験者の学力と問題の難易度との交互作用に関わることではあるが,学生は3割から10割正解できた。図5にテスト方法ごとの個人別・問題別の正答率を示した. 4.3.3 語彙サイズと成績  今回の試行テストの被験者はあらかじめ英語の語彙サイズを測定されていた.語彙サイズとはいわば頭の中の辞書に何語の単語を知っているか、いわば単語知識の推定数である.ここでは望月テスト[3]が用いられた.これは日本人の英語学習者のための語彙サイズテストとして開発されたものである.4人の被験者の語彙サイズは1300語台から2100語と推定された.  図6には被験者4人の語彙サイズと英単語意味テストの成績の関係を示す.標本数は少ないが、参考までに相関係数を求めるとピアソンの相関係数でr=0.23(p>0.05)であった。サンプル数が少ないので意味のある統計的考察はできないが,今回のケースでは,語彙サイズが必ずしも単語知識テストの成績には結びついていないことが示唆された.これは,単語力こそが英語学力の基本であるという従来の考え方[3]には反する結果となった.  さらに興味深いことに英語単語語彙サイズは英文読解(r=-0.30,図7)とも国語読解(r=-0.28)とも相関どころか負の相関を示す傾向が見られたことである.単語の力がリスニング形式による英文を読む力に般化せず,国語の読解とも関係ないとしたら,リスニングによるテストを支えている学力や能力をどのように考えればよいのであろうか.今後、リスニング試験の成績の解釈には、基礎学力や知識だけでなく,聞いた内容を一定期間記憶しておくことに関連していると考えられるワーキング・メモリ・スパンような認知心理学的観点からの分析が必要になるであろう[5-7]. 4.3.4 解答時間と録音時間の関係  センター試験をはじめ,一般に点字受験では通常の試験時間に対して1.5倍から2倍の時間延長が特別措置として認められる場合が多い.しかし,この時間は試験の総時間であり,問題文を読むために要する時間と解答のために要した時間が分けられてはいない.問題文の部分だけを読むのに,視覚障害者は晴眼者の何倍の時間延長を保障するべきかは検討されてこなかった.さらに通常の問題には,点字以外に触図や表も含まれている.シリアルにたどっていく以外にない触図の読みとりと一見で全体を見渡せる視覚図の読みとり時間の比較データもない.ここでは,点字問題ではなく,音声問題について問題の録音時間に対して,解答までに要した時間との関係をみてみることした.  実験に用いられた方式では,録音された実時間以上のスピードで再生する速聴機能もあり,実際に問題文を読んでいた時間と解答のために思考していた時間は分離できなかった.そこで,録音時と同じ通常スピードで再生した場合,合成音声の場合は標準設定スピードと比較で,問題文読み上げ時間と解答までに所要した時間の比率を調べた.  図8は英単語の意味を選択肢から選ぶ問題の解答時間である.いずれのテスト形式でも問題の単語と選択肢の読み上げ時間の2倍以上の解答時間を要していることがわかる.英単語の意味を問う問題は単純で易しい問題と思えるが,一面,その1語を確実に正確に聞き取り,かつ意味も正確に知っていなければならない課題でもある.文脈から答えを推論するということもできず,知識からの正確な検索を必要とする.小問が次々と提示される形式であり,解答中も小問間にパソコン操作や解答筆記などの作業が頻繁に挿入される課題であったことも,問題として単純ではあるが時間を節約できず時間を消費する課題となった原因と考えられる.  事前に測定した今回の被験者の推定語彙数は,我々が独自に開発した英語語彙診断ソフト(kobaTEST)では,700語から1800語レベル,また英語教育関係者に広く使用されている望月語彙サイズテスト(望月,1998)の推定では1300から2100語を示した.kobaTESTも望月テストも日本人学生のために語彙集をベースに開発されており, 今回のテスト1がLongmanというネイティブのための基本語彙集をもとにしているのとは異なる.被験者の語彙力は大学生としては十分なレベルに達していなかった点も2倍の解答時間を要した一因と考えられる.音声合成の使い方として,単語の綴りを一字ずつ読み上げるスペル・アウトや英語音素の合成音声エンジン(speechSDK)と日本語音素の英語読み(PC-Talker)を併用して聞き直しをする方略が頻繁に出現した.  図9は英語短文を聴いて,内容についての質問に答えるテスト2の解答時間の結果である.問題の録音時間の1.5倍から2.6倍ほどの時間で解答していた.このテストは著者のひとり(非ネイティブ)が英語の問題文を読んだ.テスト2での解答行動の特徴は聞き直しが頻繁に出現したことである.被験者にとって聞き慣れない英語を聞き取るために何度もプレイバック操作が見られた.今回使用された3方式とも試験を受ける者が何度でも同じ場所を聞き直すことができた.口頭試問や人による読み上げでは,心理的対人的要因もあり,読み直して欲しい場所があっても,試験官に頻繁に読み直しを要求することは難しいと考えられる.さらに,指定箇所を口頭で正確に試験官や監督者に意思伝達できるかという問題もあると考えられる.今回のテストでは晴眼者の墨字問題や点字使用者が点字問題の文中を前後しながら意味を読解する際の行動に近いものが音声問題も解答中にも現れたと考えられる.  次は日本語の読解問題である(図10).日本語文の読解問題での解答行動では,速聴機能の多用が特徴であった.DAISYでは最大速度に加速再生して問題を聞いた者もあった.  速聴は肉声を音源としたIC テストとDAISYテストだけでなく,合成音声のreadKONテストでも見られた.国語問題は外国である英語問題に比べ,人工音声である合成音声でも十分な聴取ができるためと考えられる.  次に解答方法であるが,本実験では被験者が解答を口頭で実験者に伝えた者と点字で筆記した者がいた.点字使用者の方が解答に時間を要し,点字用紙の交換や点字タイプライタの操作に手間取る者も多かった.点字問題では,受験者が試験時間全体を使って読みと解答を筆記する時間に配分できる.読み時間も個人の点字読みの能力に依存する.しかし,リスニング試験では,速聴機能を使用しない限り,読みに配分する時間を短縮できない.しかも,現在一般の大学入試などで用いられるリスニング試験は,マークシート等に解答を書く時間も監督者側がコントロールする場合が多い.点字回答者等には解答を記述するための時間を補償する必要があろう. 4.4 音声提示方式別の解答ストラテジとテスト方式としての有効性  DAISYでは,録音セクションごとに前後にジャンプする機能と数秒逆戻しする機能が多く使用された.テンキーで文章中を指定された単位ごとに前後行き来できるので,この機能を活用した読み返し行動が頻出したのである.初心者への階層構造の説明と試験問題の音ソースをいかに階層化するかがDAISY版問題作成では重要であることが示唆された.速聴機能も使いやすくを受験生の能力に合わせた試験時間活用が容易である.問題作成時の階層付け操作等がやや難しく,問題作成者に習熟が必要である.肉声であるため音声はききやすい.  IC形式は肉声なので音声聞き取りの評価は良かった.操作はパソコンで行ったため,入試のように情報機器に習熟していない者も使用することを考えるとパソコンの習熟度に依存する部分が多いことが問題となる.問題作成は一番簡便であった.  readKONでは英語問題でPC-Talkerとの使い分けが見られた.英語の合成音声を聞き慣れていない学生は単語のスペルアウトや聞き取りにくい英文ではPC-Talkerでの日本語風英語読みによる聞き直し行動が見られた.テストでの使用を考慮するとテキストファイルのみで問題が作れ,録音の労がいらないという利点がある.テキストファイルだけで問題が作れることは,問題作成に特別な知識も必要とせず,通常の学期試験などには最も使いやすい形式であると考えられる.合成音声をテストに用いることには音の質の点からは問題が多いが,ネットからの情報を教材や試験に活用するなど,より多くの生きた教材に容易に触れるという観点からは合成音声形式の活用は可能性があると考えられる.  最後にテスト方式の順序はカウンター・バランスしたが,問題の難易度にはばらつきがあったことは考慮されねばならない.DAISY方式のテストで使用された国語問題は他の問題に比べ内容が高度で難しかったという被験者からの評価があった. 図1 DAISYでテストを受ける 図2 ICレコーダ録音問題をパソコンで再生しながらテストを受ける 図3 readKONと合成音声でテストを受ける 図4 各被験者の提示方法別,課題別解答時間 1.英語語彙,2.英文読解,3.国語読解 図5 各被験者の提示方法別,課題別正答率 図6 語彙サイズと単語意味テストの成績 図7 英語語彙サイズと英文読解の成績 図8 英単語テストの相対解答時間 図9 英文読解問題の相対解答時間 図10 国語読解問題と相対解答時間 5.まとめと今後の課題  音声試験は可能であることが確認された.諸外国などの例を考えても,重度視覚障害者が必ずしも点字の読み書きスキルを持たないという事態は今後加速されていくものと考えられる.一方,各種資格試験や大学入試などは障害者に対応したものでなければならなくなってきている.視覚障害者のための音声テスト実施法の標準化のための研究が必要とされるわけである.  本試行テストでは,通常の入試で用いられるような英語読解問題や国語読解問題に音声のみによる試験が十分可能であることが示唆された.ここで使用された音声による試験は,従来から行われているリスニング試験とは異なる側面がある.通常の英語のリスニング試験などではテープ音声はスタートすると一切受験生の側からは音声を止めることはできない[8-9].いわば試験官統制型である.問題が録音されたカセット・テープが受験生に渡され,操作も受験生に任される形式の試験もあるが,カセットは操作が簡便である反面,セクション間の瞬時移動等のジャンプ機能などは使用できない.これに対し,今回用いられた3方式はいずれも受験者に聞き直しや停止など全ての操作が任されている.いわば受験生統制型である.受験者は自由に問題間のジャンプや反復聴取等が可能になる替わりに,試験時間の配分を自身でコントロールしなければならない.これは,問題ごとに時間配分のウェートを変えられる一方で,制限時間内でいかに問題読み時間や解答思考のための時間,そして解答を書く時間などをいかに配分するかといった課題を,問題を解きながら同時進行的に自己管理していかなければならない.いわば,その自己管理の力こそが試験されている能力であるともいえるのである.学校場面を考えた場合,試験に音声を用いることは,試験問題を試験材料としてのみ利用するのか,通常の自学自習用の資料としても活用するのかという問題にもつながる.特に良質で安価な英語の合成音声が利用できるようになれば,試験者は墨字問題と同じテキスト文のソースを用意し,視覚障害者用に試験の指示や同音異義語の注釈などを加えるという若干の補足説明のスクリプトを書き加えるだけで,視覚障害者用試験を作成することができるであろう.これは通常の大学等では、学ぶ学生にとっても教員にとっても利用しやすいテスト方式であり情報保障方式となろう.  しかし,問題も多い.ここでは文科系の科目だけを対象としたが,図表や式等をどのように言語表現するか.数式ひとつをとっても,スタンダードな読み下し方式のコンセンサスは得られているのであろうか.今後音声問題の標準化を進めるにあたっては,音声合成エンジンといったソフトウェアの開発などももちろん重要であるが,読み下し方式の統一や時間延長率の推定といった試験方式の標準化のための研究が必要となると考えられる. 参考文献 [1] 加藤 宏,スウェーデンの大学入学者選抜における視覚障害者対応,筑波技術短期大学テクノレポート,9(2),65-69.(2002) [2] 青木 和子ら, 弱視者のための英語読みスキルアップ指導-リーディングサポートソフトreadKONの開発とその活用-, 筑波技術短期大学テクノレポート, 10(2), 1-8,(2003) [3] 望月 正道,相澤 一美,投野 由紀夫, 英語語彙の指導マニュアル,大修館書店,(2003) [4] 門田 修平,野呂 忠司 編著,英語リーディングの認知メカニズム,くろしお出版,(2001) [5] 太田 洋,金谷 憲,小菅 敦子,日台 慈之 英語力はどのように伸びてゆくか,大修館書店,(2003) [6] 苧阪 直行, 読み-脳と心の情報処理, 朝倉書店(1998) [7] 苧阪 満里子,ワーキングメモリ-脳のメモ帳,新曜社,(2002) [8] 旺文社編,大学入試リスニング対策-差がつく編,旺文社,(2004) [9] 旺文社編,大学入試リスニング対策-押さえ編,旺文社,(2004) Voice Academic Aptitude Test for the Blind Who Lack Braille Competence Hiroshi KATOH1, Kazuko AOKI1, Nobuyuki NAGAI2, & Kunio KONDO3 1.Research Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, Tsukuba College of Technology 2.Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology 3.Saitama Prefectural School for the Blind Abstract: We conducted a trial study to develop a scholastic test by voice for two academic subjects, i.e., Japanese and English, for the visually impaired who lack the skill of Braille reading. Voice tests were given in three versions; synthesized voice which was automatically transformed from text, narrated digital recording operated by the testees themselves with computer, and DAISY. Subjects took all three types of the test and answered the questions. Listening strategies, e.g., spelling-out of words, repeat listening, jumping between chapters, multi-language voice synthesis listening, and speed listening were observed. Time required to answer was about 1.1x to 2.6x of the source recording time. The evaluations by the experimentees, regarding the sound quality, was higher for human voice. Operational performance and the evaluation for the user-friendlin ess of the tests depended on the skill and experience of the testees. Keywords: Blind, Examination Test, Voice Test, DAISY, ReadKON