lnternational Camp on Communication and Computers参加報告 筑波技術大学情報システム学科1)筑波技術大学短期大学部情報処理学科2) 永井伸幸1)吉田有希2)吉永円2) 要旨:2005年7月31日から8月7日までチェコ共和国ブルノにあるMasaryk大学で開催された、International Camp on Communication and Computers(通称ICC)に、学生2名を引率して参加した。これは、欧州を中心とした国々の視覚障害学生が集まり、IT技術の習得や国際交流を行うイベントである。キャンプ期間中、日本人学生は様々なイベントに参加するとともに、他国の学生との交流を積極的に図り、貴重な体験を数多く得た。 キーワード:ICC コンピュータ教育 国際交流 1.はじめに  International Camp on Communication and Computers(以下ICC)とは,夏休みに欧州各国の視覚障害学生が集まり、IT技術や日常生活に関する様々なワークショップや様々なイベントに参加し、視覚障害学生同士の交流を図るキャンプである。以前は、International Computer Campという名称であったが、コンピュータの学習に限らず様々な交流を図るという意味合いを込めて現在の名称に変更になった。ICCの発足の経緯や活動については、本誌11巻1号で加藤ら(2004)[1]が述べているのでここでは省略し、本報告ではキャンプの実際の流れを中心に述べる。  本年度のICCは、チェコ共和国第二の都市ブルノにあるMasaryk大学にて、7月31日から8月7日まで開催された。本学からは、学生2名と教員1名が参加した。全体では、15カ国の60名を超える参加者(学生)とそれに近い数のスタッフが参加した。  今回の研修の主な目的は、コンピュータのキャンプに参加して情報処理技術の向上をはかるだけでなく、キャンプ参加を通して、欧州各国の視覚障害青年との交流を深め、英語によるコミュニケーション能力を高め、教養を深めることであった。なお、本学学生が参加するのは、これで2回目となる。 2.事前準備  キャンプ中用いられる言語は、日本人同士の会話を除いてすべて英語である。そこで、障害者高等教育研究支援センターの青木 和子教授の協力のもと、参加学生に対して英語の補修を中心とした事前準備を入念に行った。また、当時ドイツ留学中で、前回学生を引率してキャンプに参加した、小林 真情報システム学科助教授と連絡を取り様々な,情報を得た。 2.1英語の補習  主に自己紹介の練習と、後述のフェアウェルパーティーの余興で披露することにした折り紙の英語での説明の練習を行った。 2.2余興の決定と練習  前回学生を引率した小林 助教授から、フェアウェルパーティーの余興が重要である旨申し送りがあったので、今回は事前にきちんと準備しておくことにした。何を披露するか検討し、手軽で、日本を代表するようなパフォーマンスとして、折り紙を紹介することにした。折り紙といえばまず「鶴」を考えるが、工程が多く複雑で、説明が大変であると思われたので、説明が平易で、工程が短く、日本文化に詳しくない外国人でも分かる、見ても触っても分かるものという条件を勘案して、コップを教えることにした。そのため、自分たちで折れるよう練習し、当日参加者に配付する折り紙についても事前に一度コップを折って、折り目をつけておくことにした。 2.3ワークショップ選択  参加者は、様々なワークショップに参加して勉強することになる。事前に希望する10ワークショップを登録することになっていたので、英語で書かれたテキストを読みながら、各自でワークショップを選んだ。  今回用意されていたワークショップは、 ・Word for Windows ・Speech Recognition ・Movie-Making ・Stunning Presentations‐made easy 等の、コンピュータに関するものが約20プログラム、および、 ・Studying in Europe-being abroad ・Communication and Friendship ・Employability Skills ・Self-defbnce and combative activities 等の、日常生活やこれからの人生について考えるものが約10プログラム用意されていた。  なお、例年ワークショップリストは、「screen using」と「non-screen using」の2つが用意されている。どちらにも記載されているワークショップがある一方で、「screen using」すなわち、主に画面を見ながら情報を取得する参加者向けのワークショップには、「Flash for Beginners」等の、視覚的要素の強いプログラムが含まれており、「non-screen using」すなわち主に音声や点字で情報を取得する参加者向けのワークショップには、「Programming Windows with JAWS」等の、スクリーンリーダを用いることを前提としたプログラムが含まれていた。 2.4 日程の作製  キャンプの場所であるブルノは、チェコ共和国の首都プラハと、オーストリア共和国の首都ウィーンのほぼ中間地点にあったため、ルートは複数考えられた。学生と資料を持ち寄り検討し、行きは成田から直行便でウィーンへ行き、そこからブルノヘ向い、帰りはプラハからフランクフルトへ向かい、乗り継ぎ待ちの間にドイツ留学中の小林助教授にキャンプの報告を行い成田へ向かうという計画を立てた。ウィーンおよびプラハで、出国、帰国日以外に1日滞在した。7月29日(金)に出発し、8月9日(火)に現地を発ち翌10日(水)に到着する12泊13日の日程であった。 3.キャンプの実際 3.1キャンプスケジュール 7月31日(日)受付、ウェルカムパーティー 8月1日(月)~8月6日(士)ワークショップ等 8月6日(士)夕方からフェアウェルパーティー 8月7日(日)解散、移動 3.2ウェルカムパーティー  初日の夕方、バスで30分程度の場所にある湖へ移動し、遊覧船でウェルカムパーティーを開催した。日本チームにとって、周囲はすべて初対面の外国人であった。そのため、最初はぎこちなかったが、社交的な他国の参加者と同席していたため、徐々に交流の輪が拡がっていった。 3.3ワークショップ  翌日から土曜日まで、8月4日(木)を除く毎日、9時から12時および14時から17時の3時間のワークショップが開催された。初日の午前のワークショップは全体で行われ、開会式や参加者が交流するためのゲームなどを行った。  初日の午後からは通常のワークショップが始まった。ワークショップのスケジュールは事前には発表されておらず、各ワークショップ開始前に全員が集合している場でワークショップと受講者が発表された。希望者が多いワークショップについては、複数回開催され、参加者がなるべく希望のワークショップに行けるよう配慮されていた。  ワークショップのテーマは、各国の引率者が設定し、指導した。内容は、PCの基本的な操作やソフトウェアの使い方から、護身術や陶芸まで多岐に渡っていた。また、ワークショップ3コマ分(9時間)を使ってじっくり取り組む企画も実施された。筆者は触覚ディスプレイに関するワークショッブを実施した。 3.4 夕方の活動  17時から夕食となり、18時30分頃から、夕方の活動が行われた。活動内容は、乗馬、アウトドアセンター、劇場体験、史跡見学、ティールーム、タンデムバイク等であった。毎日、数台のバスが用意され、希望する活動ごとに分乗し、各地へ散っていった。どの活動も、終了するのは22時近くであった。 3.5オープンデイ  教室を離れ、外でイベントを行う日である。今回は8月4日(木)に、郊外にあるカルスト地へ向かい、オリエンテーリング風のゲームを行った。  ゲームを始めるに当たって、全員を約10人ずつの10チームに分けた。日本チームは、ドイツ、ブルガリアチームと組んだ。与えられたテーマは、Dr.Wankelという人物が残したと言われる日記を集め、そこに書かれてある謎を解く、というものであった。山道を歩きながら、Bull Rockと呼ばれる鍾乳洞の探検、ロバの乗馬、昔の溶鉱炉(鍛冶場)見学等を体験する中で、様々なクイズやチャレンジを行い、日記の破片を集めた。最後に集めた日記から謎を解いた。結果発表は、フェアウェルパーティーで行われた。  その後、チェコワインの産地であるパブロフという村へ移動し、ワインセラーで夕食をとった。 3.6フェアウェルパーティー  8月6日(土)は、午後のワークショップを早めに終了し、夕方からフェアウェルパーティーを行った。例年、このパーティーのメインは、各国の参加者による余興である。今回、日本チームは、折り紙を披露した。  折り紙を始めるにあたり、まず参加者全員に折り紙を配布した。この折り紙は一度コップを折ったもので、すでに必要な折り目がすべて入っていた。英語による簡単な折り紙の紹介の後、A3サイズの紙を正方形に切った紙で見本を示しつつ、英語で折り方を紹介した。折り目を付けていた効果もあってか、全員でコップを折ることができ、最後に大きな拍手を頂いた。その後、各国のスタッフから、「折り紙のパフォーマンスはよかった」という評価を得た。  その後、オープンデイの結果発表.表彰式や代表挨拶等を経て、ダンスパーティーとなり、日付が変わるころまで続いた。 3.7スタッフミーテイング  ワークショップの日には、昼休みに各国のスタッフが集まりミーティングを行った。議題は日によって異なり、事務連絡、夜間行動について、夕方の活動について、オープンデイの内容について、フェアウェルパーティーについて、帰路について等であった。夜間の学生の扱いについて、「“10to9”は自由だ(公的なイベントの無い午後10時から翌朝9時までは学生が好きに行動すればよい)」と、異論なくすんなり決まったことが印象に残っている。 図1参加者とスタッフ(背景は会場のMasaryk大学) 図2折り紙のプレゼンテーションをする学生 4.参加した学生の感想 情報処理学科2年 吉田 有希  私はこの夏、約1週間始めて英語環境の中で生活をした。日常会話から講義に至るまで何もかもが英語で行われた。ICCキャンプに参加したのだから当たり前のことだろうけど、私にとっては何もかもが初めての体験であり、とても充実した1週間であった。  今まで海外には1回だけ行ったことがあるが、こんなに他国の人と話す機会なんて今まで無かった。そして、私と同じくらいの年代の人達が皆すらすらと英語を話しているということに私は驚いた。ヨーロッパといっても英語圏であるのはイギリスだけで、それ以外の国の人達が母国語と同様に英語をすらすら話しているのである。これは、私の勉強不足で余計にそのように感じてしまったのかもしれない。でも、みんなが英語を話せるお陰で、私みたいに英語未熟者でもなんとか会話が成り立っていたように思う。今度海外に行くときには私もすらすらと英語を話せるようになりたいと強く思った。  ICCキャンプの中で一番長いと感じた時間はワークショップである。英語での講義なので講義内容をどれくらい理解できたかはわからない。しかし、ほとんどのワークショップが作業を伴うものだったので救われたように思う。  夕方のイベントでは毎日のようにいろいろなところへ行った。私の中で一番印象に残っているのは、ちょっと昔の劇場みたいなところへ行ったことである。中は通路も狭く溥暗かったのを覚えている。そこには操り人形がたくさん置かれていた。操り人形はチェコが発祥地だと係の人が言っていたように思う。私は小さいものしか見たことがなかったが、そこには私の身長の半分位もある人形や、一輪車に乗っている人形など様々な格好の人形が並べてあった。残念ながらすべてを見ることができなかったが、とても楽しかった。  今回ICCキャンプを通じてチェコの歴史やおいしい食べ物などいろいろなことを知ることができた。そして、何よりもメール友達ができたということが私にとって一番の収穫になったように思う。 情報処理学科2年 吉永 円  私は7月29日から8月10日までの13日間、ICCキャンプ参加のためにヨーロッパに行ってきました。そのときに感じたヨーロッパの印象やキャンプでの生活をまとめてみたいと思います。  私がうけたヨーロッパの印象は、町全体が「歴史的建造物の宝庫」ということでした。もちろん近代的な建物もありましたが、荘厳な教会や豪華絢燗なお城や宮殿に、目が回りました。  ICCキャンプでは、最初の何日かは、英語の大洪水に飲み込まれてあわや溺死か、と思うようなときもありましたが、だんだん耳に英語がなじんできて、友達もできてからはとても楽しかったです。  ヨーロッパ各国からたくさんの人が集まっていて、いろいろな人がいましたが、一番仲良くなったのはスウェーデンの女の子でした。ウェルカムパーティで知り合いましたが、私が日本人だと知ると、目を輝かせて、流暢な英語で日本のアニメやマンガについて矢継ぎ早に質問されて困りました。そのおかげで英語に耐性がついて、翌日からのワークショップもつつがなくこなすことができました。  ワークショップで印象に残っているものは、パワーポイントを使ってプレゼンテーションをするという9時間のワークショッブでした。ひとり1台ずつMP3プレイヤーとデジカメを渡され、写真や動画をとり、編集してパワーポイントでプレゼンテーション用に美しく加工して発表する、というものでした。私はパワーポイントをろくに使ったことがなく、マニュアルと格闘しながら5枚のスライドを時間ぎりぎりまでかかって何とか仕上げ、発表することができました。ほかにもフラッシュアニメーションを作るワークショップやオーディオゲームを体験するワークショップなど、今まで触れる機会がなかったものを勉強することができて非常に勉強になりました。  このICCキャンプに参加して、自分の英語力のなさと格闘しながら、友達を作り、ワークショップに参加することは大変ではありましたが、毎日新しい発見があって、あの1週間はいろいろな意味で、刺激的で充実したものでした。この経験を無駄にすることなく、これからの人生の中て生かしていきたいと思います。 5.おわりに  学生の感想にあるように、今回参加した学生達は、英語漬けの世界に放り込まれ、悪戦苦闘しながらも、楽しく有意義な時間を過ごしていた。あるワークショップのチューターに日本の学生の様子を聞いてみたところ、「彼女達はとても頑張っていた。何よりenjoyしていた。これはとても大切なことだ。」との評価だった。さらに、最後のフェアウェルパーティーでは、100人近い外国人の前で、英語でパフォーマンスを行い、見事に成し遂げるという貴重な体験をした。  また、キャンプの前後にウィーンとプラハを1日散策する機会を得た。触れる博物館や体験型の「音の博物館」を訪れるとともに、街のバリアフリーの様子を観察した。交差点の歩行者用信号が、「カタカタカタ…」と「カタ、力夕、カタ…」という音の違いで信号の青と赤を伝えていたり、触図で横断歩道の向きや車線の数等を表していたこと、エスカレーターのスピードが速く、段の境目に黄色い線が無く、非常に危険であったこと等を発見した。このような出来事も彼女達にとって貴重な体験で、日本と世界の違いや日本でのバリアフリーの在り方を考えるいい機会となったと思われる。  出発前、キャンプ中、帰国後の学生の様子を見ていると、帰国して非常に成長したように見える。単なる訪問のような海外研修と比べると教育効果は非常に高いと実感した。今後も定期的にICCに参加できるよう制度化されることを希望する。 付記  この研修は、平成17年度教育命研究等高度化推進辮業B国際交流活動に関する事業(代表者:形井 秀一)の一環として実施された。 謝辞  学生に対して、財団法人筑波技術短期大学教育研究助成財団から助成を受けました。ここに感謝申し上げます。 文献 [1]加藤 宏・小林 真・原 俊介・塩谷 純:ヨーロッパの視覚障害昔コンピュータ・キャンプに参加して.筑波技術短期大学テクノレボート11(1)85-91.2004. Participation Report on International Camp on Communication and Computers NAGAI Nobuyuki1), Y0SHIDA Yuki2), YOSHINAGA Madoka2) 1} Department of Computer Science, Tsukuba University of Technology 2) Department of Computer Science, Tsukuba College of Technology Abstract:We participated in the International Camp on Communication and Computers (ICC) which was held in the Czech Republic from July 31st to August 7th. During the camp, Japanese students experienced various activities and had a chance to communicate with foreign students. It seems that it was a very important and valuable event for the students. Keywords:ICC, Education for visual impairment, Computer education, International exchange