平成17年度公開講座「パソコンを利用した点訳入門」アンケートから 筑波技術大学情報システム学科1)同視覚障害系支援課2) 三宅 輝久1)小林 真1)宮川 正弘1)冨澤 邦子2) 要旨:標記公開講座9回目の概要を記し,応募者,受講者の希望,満足度,感想についてのアンケートを,平成15-17年度の3年分の受講者の回答をまとめながら分析した。受講者は「パソコンによる点訳はどのようにして行うものかを知ってみたい」人だと思われ,受講後は「点字エディタを使えばパソコンによる点訳が予想以上に簡単で,能率的である」ことを理解していただけた事がアンケート結果によりうかがえる。 キーワード:点字,点訳,公開講座,パソコン,地域交流 1.はじめに-目的-  本公開講座は平成17年度で9回目[1-7]である。前回の結果を踏まえ講座の目的は, 1.点字について広く知っていただく, 2.学科で活用しているEbraWin2[8,9,10]等を用いたパソコンによる点訳の入門, を目指した。併せて本学の活動についても理解を深めてもらうこととした。講座が本学の活動の地域への認知と点訳ボランティア志望へのきっかけにもなることが講座開設の目標であった。  2005年1月の情報処理学科の会議で,点字に関する公開講座を,点字の専門家あるいは日常的使用者ではない筆者らが開催することの意義について議論があった。視覚障害者教育における点字と点字図書の果たす役割,当大学だけで使われている点字エディタEbraWin2や点字IME Braconの有用性を世間に認めてもらうこと,毎年多くの希望者があること,などで講座開設を継続しようという結論となった。 平成16年度公開講座からの変更点など  大筋と担当者を決める2005年1月の段階では,アンケートで評判の良かった昨年度の講座内容を踏襲することにした。昨年に続いて自動点訳ソフト(仮名分かち書きへの変換)を,無償で使用可能な岐阜大学で公開されたソフトIbukiTenにした。また,点字エディター等のソフトも,時間が限られていることもあり,本学関係者が開発し,我々が日頃使用しているEbraWin2とBraconだけとした。講座の直前にソフト(IbukiTen,EbraWin2)を収納したインストール用のハードデイスク(WindowsXP)を人数分製作し,前日使用教室(411室)のパソコン上にセットした。  テキストは,第1章を昨年の「パソコンの仕組み」から,新たに「視覚障害者のためのテクノロジー」とし,「視覚障害者用機器」と「視覚障害用ソフトウェア」と一変し,残りの章は昨年とほぼ同じ内容で印刷製本を行った。改定は受け入れられ,特に実物を教室に持参しての説明は好評であった。  今年度初めての試みとして,説明に大型のプラズマディスプレイ(電子白板)を使用し,テキストの内容(pdfファイル)と,パソコンの操作を交互に表示した。 2.応募者  今年の公開講座受講希望の案内には,昨年の応募者で受講できなかった方を含めた。その結果4名の方が再び応募され,全部で18名の応募があった(昨年の応募者数は27名である)。今年度の受講者としては,12名を受け入れることができたが積み残し6名がいる(女4名男性2名)。受講者の居住地を表1にしめす。居住地域は近隣の広い範囲にある。  男性の応募者は3名で全員が60才以上である。女性の応募者の職業は大学・研究所非常勤職員と主婦が半分ずつである。年齢層は,30,40,50,60代がそれぞれ5,4,5,1人で,若年の方にシフトしている。このうち作業療法士,看護師の資格をお持ちの方がそれぞれ1名づつ参加されている。 表1:受講者の居住地 3.講座の内容  講座時間数は昨年を踏襲し,H17年11月24日(木)-25日(金)10:00-12:OO 13:00-16:00 2日間,述べ10時間行った(H15年以前は8月に行っていた)。表4にその内容を示す。主講師を一人として,残りの講師全員がパソコン操作や点訳実習に対応した。最終日には修了証書を手交し,アンケートに記入していただいた。  専門点字の内容は次のとおりである。2級英語点字による英文の表し方,数学単純記号および添え字付き記号の表し方である(プログラムの表し方は省略した)。昨年行った点字の上級者のためのキーボードからの6点入力法を今年は紹介しなかった。Ebrawin2を使って文章の切り貼りやドラッグ&ドロップ,文書の離れた部分を同時に開いたり,多くの文書を同時に編集したりする方法を紹介した。また,点字IME Bracon2を使って,一般の文書や触図の中に点字を書き込む方法を紹介した。例えば,Wordファイル等に墨字で入力された文章中に説明のための点字を入力したい場合,そのままIMEをMS IME等からBracon2に変更して入力することで,墨字の中に点字が混じった文書を通常の文書と同様に作成することが出来る。 表2:講座の内容 4.受講者の感想--アンケートから--  受講者に対し,1.受講の目的と達成度,2.点字およびパソコンの経験程度,3.講座の期間,4.難易度およびテーマについての興味の度合い,について答えていただいた。以下に,その集計結果を示し若干の考察を行う。 4.1受講者の目的と満足度受講の目的を次表に示す。 【表3:受講の目的】  今年度は,点字の習得とパソコンを利用して点字処理をしてみたいという立場の人が半々である。点字知識の利用場面としては点訳仕奉とボランティアが挙げられている。  H15年度は点字自身への興味として,「点字の成り立ちや,文章をどのように点字にするかに興味があった」という意見が書かれていた。  目的の達成度については,次の回答であった。 【表4:目的の達成度】 4.2点字とパソコンの経験 【表5:点字とパソコンの経験】  点字未経験者の割合が増加する傾向にある。平成16年度は,4年ほど手打ちの点字の学習経験のある方がおられたが,平成17年度も通信講座で勉強中の方がおられて,点字をほぼ読解しておられた。 パソコンの利用経験については,次の通りである。 【表6:パソコン利用経験】  日常的にパソコンを使用する方の割合が増加する傾向にある。以下,H15,H16,H17年度の該当者数を括弧内の3個組み(l,m,n)で表わす。  パソコンを自宅に持つ人は(10,11,11)人である。大部分の人が日常的にパソコンに接している。職場では毎日使う(4,3,5)人,使わない(4,2,0)人である。  パソコン使用の場面は,文書処理,印刷,メール,図表作成,インターネット,家計簿,住所管理,調査資料まとめ,ホームページ作成,在庫管理などがある。自宅にあるパソコンの機種についてはメーカーがさまざまである。  配布したEbraWinはWindowsでは使用可能であるが,Macでは使えない。 4.3期間 【表7:期間】  この感想からみる限り、講座の日数は,ほぼ適切ではないかと思われる。日数を1日程度増して,内容に時間を使うべきという意見もあるが,点字ソフトに触れていただくという趣旨からは,習熟の手立ては別の方法で実現したい。 4.4難易度についての回答  講座の難易度に対する反応は以下のとおりである。 【表8:難易度】 現状が適当であると思われる。  テーマ毎に良いと評価した受講生の人数は次の通りである(カッコ内は,不適切とした人数である、H17年はアンケート項目に含めていない)。 【表9:テーマ毎の受講生の評価】  項目aの内容は,H15-H16年については「パソコンの仕組み,パソコンの操作」,H17年は「視覚障害者のためのテクノロジー」である。hについて不要とした人は,講座の内容を増やすことが不可であるという意見であろう。 その他の回答  パソコンの操作にもっと時間を割いた方が良いかについては可とした人,不可の人の割合はH15-H17年の順に(2:6,6:5,5:6)であった。この回答から,受講者はパソコンの仕組みにも,また点字処理全体についても共に関心があることがわかる。これまでに使ったことのある点字ソフトとしては,平成17年度はIBUKI-TENエディタが挙げられている。 5.おわりに  パソコン点訳入門を行う啓蒙的公開講座についての受講者の評価と感想を平成17年のアンケートからまとめた(比較のため一部のデータはH15-16年を含め3年分を提示した)。毎年,多くの方に応募していただき,さらに公開講座がおおむね好意的に受け取られている事は主催者にとり,何より力づけられることである。これは,ひとえに,染田 貞道名誉教授が日夜開発を続けておられる混在点字エディターEbraWin2と点字IMEBraconの賜物である。講座でEbraWin2の使い勝手のよさに驚かれる点訳ボランティアに接するにつけて,点字ソフトの進歩に本学が貢献してきたことをうれしく思う。今年度は,視覚障害者むけITサポートボランティアをしておられる65才の受講者の方から,講座後にメールで講座のテキスト(pdf版)を使ってEbraWin2に習熟し,点訳に使いたいという,追加要望があり大いに力づけられた。  一方,短期間の入門講座を受けるだけでは,パソコンを実際に点訳に使うところまではなかなか行かないようである。大多数の方が点訳ボランティアを受講の動機と挙げているが,これについても,講座の終了時に講師の一人から,本学で行われるボランティアの要請につながる適切なアドバイスがあった。講座を受講された方は,パソコンを使うことにより,点訳文書が簡単に出来ることに驚かれる。点字の知識が広まり,点訳がより簡単に出来るようになれば,多くの方がボランティアとして本学に協力していただきやすくなると思われる。 謝辞:本講座を受講しアンケートにご協力いただいた受講者12名の方にお礼を申し上げます。染田 貞道名誉教授には,開発されたEbraWin2,Braconを日頃より提供していただくとともに,公開講座での使用配布を快諾していただきました。栗原 亨助教授には資料を提供していただきました。河原 正治助教授,永井 伸幸助手には,会場で受講者の指導とディスプレイの表示を担当していただきました。以上,お礼を申し上げます。 参考文献 l)伊奈論:公開講座「パソコンを利用した点訳入門」の概要と結果,筑波技術短期大学テクノレポート,4:205-209,1998. 2)宮川 正弘,栗原 亨,他:公開講座「パソコンを利用した点訳入門アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,6:183-185,1999. 3)宮川 正弘,三宅 輝久,他:公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,7:101-103,2000. 4)宮川 正弘,三宅 輝久,他:平成12年度公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,7:187-191,2001. 5)宮川 正弘,三宅 輝久,他:平成13年度公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,7:187-191,2002. 6)三宅 輝久,宮川 正弘,他:平成14年度公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,10(1):75-79,2003. 7)三宅 輝久,宮川 正弘,他:平成15-16年度公開講座「点訳ソフトの使い方入門」アンケートから。筑波技術短期大学テクノレポート,11(1):75-79,2004. 8)染田 貞道:情報処理・数学記号および英語混在文章用点字エディタ,筑波技術短期大学テクノレポート,4:103-105,1997. 9)染田 貞道,宮川 正弘,他:専門点字混在文章用エディタの開発と活用,筑波技術短期大学テクノレポート,7:101-103,2000. 10)染田 貞道,宮川 正弘,他:専門点字混在文章用エディタの開発と活用(その2),筑波技術短期大学テクノレポート9:59-61,2002. 11)染田 貞道:EbraWin2操作(資料),2000.6.16. 12)染田 貞道:EbraWin2Ver242トピック(資料),2001.7.05. 付録.(受講者の感想) 最も役立ったこと 1.点訳に触れたこと。 2.Ebraの使い方がわかった,EbraWinの操作。(2名) 3.ソフトを使うと比較的簡単に点字が出来上がることを知ったこと。 4.点字をイメージでしか知りませんでしたが,読むのも打つのも大変だと分かりました。 5.パソコンで割合に簡単に入力できることが判ったこと。 6.点訳ソフトの使用方法。 7.パソコンを使用した点字入力を経験できたこと。 8.点字の仕組み,入力するための規則などが分かり,大変ためになった。 9.今まで点字や点訳法についての知識がほとんど無かったのでいろいろ学ぶことができて良かったです。 最もおもしろかったこと 1.入力した文字が点字に交換されていく様子。 2.Latexによる入力。 3.盲人用の色別の機械や音声合成エンジンを体験したこと。 4.自分が打った文字が点字表示に変わった時。 5.入力して点字に変換できたこと。 6.墨字から点字に変換するところ。 7.画面上に文字と点字が表示される機能。 8.入力すれば,点字に訳せたこと。 9.視覚障害者用の機器が進歩していることが驚きました。思ったより高価でした。 全体についての感想 1.周辺機器等の実物を見ることができて良かった。その値段の高さには驚いた。点字の知識が無ければ難しいのかもしれないが,もう少し入力等についての説明時間・実習時間があれば嬉しかった。 2.実際に使用している学生さんの意見なども聞くことができれば良いと思う。できない所など,速やかに講師の方々が教えてくださったので良かった。 3.大いに役に立ちました。ありがとうございました。 4.操作ができない時,声をかけて(又はこちらから)すぐ手助けをしていただいて,出来ないながらも楽しく為になる時間を過ごさせていただきました。ありがとう。 5.初めてで未経験でしたが,何となく点字の入力もできそうだと感じることができた。 6.講師の指導法方をもっと工夫された方が良いと思います。全体像や重点となるべきポイントなどはもっと強調しても良いと思います。ですが,今回の参加はとても勉強になりました。マニュアルはとても分かりやすくて良かったです。ありがとうございました。 7.講座の説明が回りくどく感じられた部分もあり,もう少し効率的な説明方法を考えてほしい。 8.説明する時,前の画面に出して同時に進めてほしかった。(1日目) 9.今回参加して,ますます点字に興味が持てたので参加して良かった。 10.実際に点字を使用している方のお話など聞いてみたいと思いました。 Report on Open University Courses: 9th "Introduction to Braille Transcription Using Personal Computers" - An Analysis from its Questionnaire - MIYAKE Teruhisa1) KOBAYASHI Makoto1) MIYAKAWA Masahiro1) TOMIZAWAKuniko2) 1)Department of Computer Science, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology 2) Academic Affairs Section for Students with Visual Impairment, Administrative Division, Tsukuba University of Technology Abstract:This report summarizes a regular Open University course (9 times since 1998) of braille transcription taught by the Department of Computer Science. An analysis is made of the applicants' habitation areas, occupations and ages. Based on their own completed questionnaire for the three years, another analysis was made in 2005 especially as to the intentions of the subscribed people toward braille learning, and the degree of their satisfaction after the course. They seem to enjoy learning braille and welcome this course, because by learning the braille editor they are convinced that braille transcription is much simpler than what they thought before. Continuing the annual course may be very useful for spreading braille throughout society. Keywords • Braille, Braille transcription, Open University course, Spread of braille, Personal Computer