市販描画ソフトによる触図作成時の心得と実例集 筑波技術大学保健科学部情報システム学科 福井 郁生 要旨:視覚障害をもつ学生にたいする授業4科目(エレクトロニクス基礎・情報機器論・情報構造論・情報科学概論)の補助教材として、図、および、触図(点字記入)を作成・使用した。これらの経験に基づき、図面や触図を作成する際に気のついた注意事項を列挙したものである。またこれらの実例として、PDF化したファイル110枚をCD-R化して添付資料とした。 キーワード:点字、触図、触図作成時の注意、図データベース 1.はじめに  本短期大学(2005年10月、4年制大学に昇格)に着任して以来9年間の担当4科目(エレクトロニクス基礎・情報機器論・情報構造論・情報科学概論)について、弱視および点字使用学生への授業中の補助教材として、市販ソフトを用いて図面を作成し、これから立体コピー現像機により触図(点字記入も)を作成し使用した。  描画作成の際に気をつけるべき「ちょっとした心使い」の記述が本稿の目的である。これらはそれぞれの現場では常識であっても、初めて触図等を作成する場合等の参考になることを念頭においた。実例として、上記110枚のグラフィカル図(ドロー系)をCD-R化(PDF:Portable Document Format形式、ペイント系)して、参考用の添付資料とした。 2.図形作成時の制約  原則として、弱視用の図と触図を対で作成している。まず弱視用に作成した図(墨字18ポイントA4版縦書あるいは横書)の部分はそのまま触図用として採用し、墨字は逐一点字18ポイントに置換・記入している。ということは点字の字数が増えることを予想して、墨字は極力少なくするか、図形要素間のスペースを広くとる等の工夫をして(弱視用の)図を作成しなければならない。スペースに余裕があるときは墨字と点字を併記している(79機墨点5c、pdf、110概墨点5c・pdf)。 「一つの図は一枚の用紙で」というのが大原則であるが、実際は機能的に関連している(図的に各要素が矢印等で結線されている)複数の図が含まれていることが多く、点字使用者が全体像を把握するには困難が伴う。 一方、点字教科書の触図は「点図」を基本単位とし、これらの集合として図が構成される[l]。この場合の心得も、ここで述べている注意事柄と重なる部分があるだろう。しかし点字と墨字の教科書は対応しているとはいえ、独立して作成することができるので、上記のような物理的制約は少ないだろう。 3.使用の機器、および、ソフトウェア ・ノートパソコンソニーPCG-XR7E/K ・OS Microsoft Windows 2000 Professional ・Microsoft Office 2000:WordおよびExcel ・カラープリンタエプソンPM-970C ・スキャナーエプソンGT-9800F ・点訳ソフトEXTRAVer、3およびBRAILLESTARm ・点字入力ソフト(IME)Bracon[2] ・立体コピー機(現像機)ミノルタ 4.心得の実際 (1)視覚障害学生に極力分かりやすい図や触図を作成しようという強くて持続的な(時間を惜しまない)意思を維持すること。これが実はむずかしい! (2)(ときには)学生に上記を聞いてみること(内容が理解できないのか、図/触図が分かりにくいのか)。 (3)点字と線分との距離は近くても1文字程度のスペースは必要。離れ過ぎると当該線分や当該図形との対応関係が暖昧になる。図や点字の密度が高くなるとどこで妥協するかが悩むところ。 (4)線の種類は、実践・破線・二重線・太線・細線、および、これらの組み合わせ。種類は少ないほうがよい。立体コピー現像機にかけると細線が現れなかったり、二重線が実践と区別がつかないことがある。 (5)矢印は、大きめで、矢じりの傘が開いた(内側が詰まっていない)もの。 (6)(弱視用)カラーは4色以内(赤・紺・緑・黒)。カラー原画から立体コピー用紙(黒白)に転写するが、細線の緑は現像機では現れない場合がある。 (7)用紙(A4版)の向きを判定しやすいように、最下行のすべてに「*(アステリスク)記号」を記入。 (8)テキストファイルから(EXTRA Ver.3→BRAILLESTAR III編集で)校正・作成した点字資料(本文)と触図とをホッチキスで綴じた紙資料を授業冒頭で配布。学生も多穴ファイルに綴じる。これにより最上行が読みにくくなることや、穴あけにより文字/点字が消えることを避けるために、最上行は空行とする。 4.1ソフト仕様の設定起因  作図の際、図の位置決めを整頓よくするために、すなわち、不本意なかすかな位置ズレを避けるために「グリッド表示」による座標系を採用。逆にこれにより生じる「不連続な位置決め」のため、所期の位置決めができないことが生じる。例えば円を描くときの中心点のズレや直線が円の中心を通らない等。また文字の座標系がこれとは独立である。例えば図で一覧表をつくったとき、「図による最上行近辺」の文字の行位置は上辺に寄り、「図の最下行近辺」の文字の行位置は下辺に寄る(EXCELではこの現象は生じない)。 4.2プリンタ仕様の設定起因  画面上では表示されているのにプリントすると印刷されないことが起こる(警告メッセージは出る)。特に用紙の右辺と下辺には要注意。印字されない幅が文字と図とで異なる場合がある。 4.3原因不明の行間の狭陰  各行の先頭に「ピリオド」を記入するようにしている。「点字の3点目」と紛らわしい。が、当該行が改行のみ、あるいは、空白のみであると、これ以外の文字(墨字/点字に拘わらず)が記入されている場合とでは行間がわずかに狭くなり、点字と線分との上下間隔にも影響を与える。どうしても紛れやすいときは白丸でピリオドを覆い隠した。 4.4フォントについて  MSゴシックのB(太字)を指定しているが細めに印字され、特に点字のドットが小さくなるのが不満。以前使用していたソフト一太郎でははっきりと出ていた。ワードに切り替えDOP体系では太く出ていたが、バージョンアップすると当該フォントがなくなった。太めに出るフォント(HGP系等)もあるが一般的ではないので上記フォントとした。 中途半端な太字よりMSゴシックの方が読みやすいという学生がいた。 5.実例集としてCD-Rへのファイル作成(添付資料)  ワード、あるいは、エクセルでドロー図(カラー、点字記入)を作成し、ファイル(*.doc)としてセーブする。これからカラープリント(A4用紙)として打ち出したものを、スキャナーでPDFファイル(*.pdf)形式で読み込んだ。続いて、CD-R化した(110枚)。このうち4枚分(38工墨5c.pdf、40工点5c・pdf、62機墨5c.pdf、64機点5c.pdf)はカラープリント4頁として、ファイルリストは図表1として綴じた。 6.あとがき (1)4.は細かい事項で、設定の不具合かもしれなく、また、使用ソフトに起因して一般性がないかもしれないが、筆者は日常的に念頭に置きながら作図してきた。 (2)本来はドロー系で描かれた原図(ワード)も添付したかったのであるが、筆者の全くの不注意により完全に抹消してしまった! 幸いなことにプリントは残していたのでPDF化することはできた。 (3)実際の図を見ると、4.で述べた事柄は必ずしもまっとうはされていない。どうしても多くの情報や説明を盛込みたいという誘惑にかられ、スペースや間隔を詰めてしまう。これが点字使用者には分かりにくくなる要因となるのだが..。 (4)簡単な図でも記入文字/点字が多いと半日仕事となる。間隔と全体のレイアウトを考慮するからである。煩雑な図の場合は1日以上、例えば「100構墨5c.pdf」「101構点5c.pdf」の2枚は1週間かかった。構想を練るのに要したからで、新しく図を起草する場合が特にそうである。更新は毎年行うがそれでも半日弱はかかる。 (5)添付のCD-R資料等は直接役立つことはないだろうが、現場の方々に少しでも参考になれば望外の喜びである。 引用文献 [1]金子 健、大内 進:Ⅱ触図の作成方法と作成される触図の特性について(インターネットを活用した視覚障害教育用触覚図形教材の盲学校間相互利用に関する研究)、国立特殊教育総合研究所、2004. http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pubf/F-125.html [2]染田 貞道、点字入力ソフト(IME:Input Method ditor):Bracon,2004.本短期大学(部)のHP http://www.cs.k.tsukuba-tech.ac.jp/download/ebra.htmlからダウンロードが可能. (CD-Rが不良の場合は取換えます) 図表1CD-Rに収録されているファイル・リスト Proper Techniques for Making Tactile Graphics with Drawing Software Commonly Sold, Including Examples HUKUI Ikuo, Dept. of Computer Science, Faculty of Health Sciences National University Corporation Tsukuba University of Technology, Tsukuba-city, 305-0821 Japan Summary : For visually-impaired students, we have made many graphics and its tactile ones in braille as teaching-materials, in such lessons as Electronics Basics, Computer-hardware, Compiler-language Theory and Information-science Introduction. On the basis of this experience, notice items in drawing graphics, especially tactile ones, furthermore, attached CD-R including 110 graphical files of the above as PDFs are described. Key Words : Braille, Tactile graphics, Comments in drawing graphics, Database of tactile graphics