授業の一環としての「2005年度二科展デザイン部等受賞作品」の概略報告 筑波技術大学総合デザイン学科 安田 輝男 生田目 美紀 井上 征矢 要旨:筑波技術短期大学テクノレボートVol.9(1)「視覚伝達デザイン教育におけるコンペティション応募への取り組み」、筑波技術短期大学テクノレボートVol.10(1)「二科展デザイン部『入選作品&応募作品」の概略報告」及び筑波技術短期大学テクノレポートVol.12「授業の一環としての『2003-4年度二科デザイン部受賞作品』の概略報告」において、その主旨と成果について概略報告した。本稿では、2005年度の成果と新たな試みについての概略を報告する。 キーワード:視覚伝達デザイン、聴覚障害、アート広告、二科展デザイン部 1.はじめに 視覚伝達デザインは、聴覚に障害のある人にとって健常者との格差が生じにくい分野と考えられ、また視覚的造形発想力に関して優れた能力を発揮できれば、社会での活躍も期待できる領域である。 つまり、視覚伝達デザインは、聴覚に障害がありデザインを職業として社会自立を目指す学生にとって、期待できる領域である。こうした考えに基づき、その能力を実践の場で磨くため、3年次の授業「伝達デザイン論・演習」の一環として、2000年度より二科展デザイン部門へ毎年応募。昨年度から2年次の授業「伝達方法論・演習」、そして本年度からは1年次の授業「コンピュータグラフィックス基礎論・演習」の一環としても二科大阪展「ボストカードデザイン大賞」に応募した。また、本年度は、3年次生が二科茨城支部展デザインの部にも応募した。本年度の受賞実績は下記の通りである。 [二科展デザイン部]C部門(特別テーマ) 「『地球環境を考える』をテーマとしたポスター」8名応募 1名入選 7名準入選 二科大阪展「第3回ポストカードデザイン大賞」] テーマ自由:20名応募3名入選 [二科茨城支部展デザインの部]C部門(特別テーマ) 「『第56回全国植樹祭』をテーマとしたポスター」1名(2点)応募 茨城県知事賞および入選 2.各授業の構成 2.1「伝達デザイン特別論・演習」の授業の構成  3年次を対象とするこの授。業においては、講義では、広告デザインの基礎的なアート手法を実際の広告事例のデザインを参照しながら具体的に学習する。演習では、実際のデザインの仕事(グラフィック広告デザイン、エディトリアルデザイン等)をするうえで役にたつスキルを身につける。  そのスキルを習得するために次に掲げた①~⑭の主なアート手法を教授する(手法の詳細は前々稿に記戦)。 ①モノデカアート②幕の内アート③告知アート④ビッグリアート⑤喜怒哀楽アート⑥遊技アート⑦タイポアート⑧記号アート⑨スキャンダルアート⑩ブロマイドアート⑪アニマルアート⑫BABYアート⑬キャラケターアート⑭パロディアート  授業での成果物としては、二科展デザイン部等への応募ポスター作品等がある。[1]-[12] 22「伝達方法論・演習」の授業の構成  2年次を対象とするこの授業においては、コミュニケーションのための有効な表現をどのように発想するか、また情報伝達の方法(プレゼンテーション)を体験的に習得する。特に「デザインコンペや広告賞等への応募作品」制作では、鑑賞者をいかに意き付けるかの視覚伝達デザインの表現アイデア、技法の学習を行う。  授業での成果物としては、二科大阪展「ポストカードデザイン大賞」応募作品等がある。 2.3「コンピュータグラフィックス基礎論・演習」の授業の構成  1年次を対象とした必修授業である。デザイン業界における主流画像ソフトおよびパソコンの初歩的論・演習を学ぶ授業である。この授業では、基本的な知識と技術を関連づけながらコンピュータグラフィックスへの理解を深め、デザインにおける表現手段を拡張することを目的としている。初めてパソコンを経験する学生から豊富な経験を持つ学生まで、対象学生のスキルは幅がある。  授業で取組むアイテムは、ポストカードから始まり、最後はポスターヘと、徐々にサイズが大きくなるように計画している。 授業での成果物としては、二科大阪展「ポストカードデザイン大賞」応募作品、筑波技術大学学生募集ボスダー等がある。[13] 3.応募への取り組み 3.1[二科展デザイン部2005年度受賞作品] 2005年第90回二科展デザイン部募集作品テーマは、A部門(自由テーマ).B部門(イラストレーション)。C部門(特別テーマ「「地球環境を考える』をテーマとしたポスター」)であった。  3年次生8名がC部門(B1サイズのポスター)に応募し、1名が人選、7名が準入選した。 作品①松田 善機(入選) ・タイトル:「僕は絶滅種になりたくない」  地球12のすべての生物にとっても、地球環境問題は深刻である。時々刻々と絶滅の危機に瀕している生物たちがいる。そんな危機的状況を今は我が世の春と時めいている色鮮やかなインコが警告のメッセージを送っている。 作品②大澤 直子(準入選) ・タイトル:「美しい地球を咲かせよう」  瑞々しい地球を華やかな花びらがとりまくかたちで、大輪の花が描かれている。その花に、生きとし生けるものの象徴として一羽の蝶々が戯れている。明日の地球もまた美しく咲くことを願って…。 作品③神本 梨香(準入選) ・タイトル:「もう限界や!」  地球温暖化は、ますます拍車がかかって、地球規模で自然災害も各地で頻発。もう限界に達している。そんな状況をアイスクリームと地球をモチーフにして激写している。強烈なインパクトでメッセージを送っている。 作品④梶原 慶順(準入選) ・タイトル:「2005年『地球は赤かった」地球環境を守りましよう」  1961年、ガガーリン少佐の有名な言巣「地球は青かった」を下敷きにした言葉「2005年『地球は赤かった』」とビジュアルのモチーフ赤信号、地球とによる構成が際立った表現である。 作品⑤北村 麻衣(準入選) ・タイトル:「地球のお掃除中」  日本の高度経済成長は遥か昔。いまや地球規模での高度絲済成廷が続き、地球のあちらこちらで膨大な廃棄物の山また山が築かれている。まさに「掃除しないと地球がゴミだらけになっちゃうよ」である。 作品⑥田村 友恵(準入選) ・タイトル:「もう手遅れです…と、ならないように」  地球規模での森林等の自然破壊を禿げ山、禿頭のイメージにオーバーラップさせたイラストレーションによる哀しくもコミカルな表現である。天空からは、お月様もその禿ぶりを観察している。 作品⑦森下 佳代 ・タイトル:「地球環境を大切に。もっと、人力エネルギーを」  夜空に輝く星座「自転車座」が人力エネルギーをファンタジックに表現している。環境問題をテーマとした場合、ビジュアル表現はネガティブアプローチが普通となるが、当表現は夢のあるポジティブアプローチである。 作品⑧山下 祥生(準入選) ・タイトル:「絞ると、地球はこんなに汚れている…」  水の惑星と言われる地球が汚れていて、それを絞ったとしたら、きっとこんなイメージになるのではないか。その汚れた水を目のあたりにしたら、もっと地球をきれいに大切にしなければという気持ちが湧いて来る。 3.2[二科茨城支部展デザインの部2005年度受賞作品]  2005年第43回二科茨城支部展デザインの部募集作品テーマは、A部門(自由テーマ)・B部門(イラストレーション)・C部門(特別テーマ「『第56回全国植樹祭」」をテーマとしたポスター)であった。  3年次生1名がC部門(B1サイズのポスター)に2作品を応募し、1点は茨城県知事賞を受賞し、もう1点(は入選を果たした。 作品⑨松田 善機(茨城県知事賞) ・タイトル:「楽しいな森と人とのハーモニー」  木の形をした人間や鳥やカエル等を登場させ、森の中で人と生物が共生して行く世界を描いている。グリーン、ブルー、イエローをふんだんに使って植樹祭のイメージも演出している。 作品⑩松田 善機(入選) ・タイトル:「楽しいな森と人とのハーモニー」  緑の地球と鍵盤と音符をモチーフにして、タイトル「楽しいな森と人とのハーモニー」をグラフィカルに表現している。両面全体に白いスペースを活かし、鮮やかで楽しいイメージを醸し出している。 3.3[二科大阪展「第3回ポストカードデザイン大賞」入選作品]  テーマは自由である。2年次生9名、1年次生10名が応募し、3名が入選した。 作品⑪高野 真有(入選) ・テーマ:「地球はいつも心の中に」 「地球環境を守ろう」というテーマで、写真撮影から、ペイント系ソフトを使用した画像合成までを行った。 作品⑫鄭 峰守(入選) ・テーマ:「NO IMAGING…」  天才アインシュタインの頭脳をして「?」「NO IMAGING…」と言わしめる世界とは?まさに大胆な切口である。 作品⑬硲 愛子(入選) ・テーマ:「香り」  嗅覚の世界に漂う「香り」を、花と手をモチーフにして視覚の世界に清楚に表現している。 4.おわりに  聴覚に障害がありデザインを学ぶ学生にとって、視覚伝達デザインのスキルを習得することは、社会で自立し、自己実現するために必須である。そうしたスキルを社会のデザイン現場との関わりの中で習得するために、3年次授業「伝達デザイン特別論・演習」の一環として、2000年度より二科展デザイン部門へ継続して応募し、受賞実績を重ねて来た。  本年度からは、1年次の「コンピュータグラフィックス基礎論・演習」も授業の一環としてその成果物を「二科大阪展第3回ポストカードデザイン大賞」へ応募し入賞を果たすなど、いまや3授業がその成果物をコンベティションへ応募し実績を重ねている。  今後とも、授業の一環としてのコンペティションヘの応募は継続し、さらに実績を重ねていきたい。  本年度の二科茨城展デザイン部への応募に際しては、本間 巌先生にご支援ご協力をいただきました。ここに感謝の意を表します。 デザイン学科のこれまでの二科展等受賞実績 [2000年度二科展デザイン部] A部門(自由テーマ):1名応募準入選 B部門(イラストレーション):1名応募 C部門(特別テーマ):3名応募1名準入選 「『2001ボランティア国際年」をテーマとしたポスター・キャラクター」 [2001年度二科展デザイン部] C部門(特別テーマ):5名応募全員準入選 「『愛知万博」をテーマとしたポスター」 [2002年度二科展デザイン部] C部門(特別テーマ):7名応募3名入選 「『2003年日・ASEAN交流年」をテーマとしたポスター」 [2003年度二科展デザイン部] C部門(特別テーマ):7名応募2名準入選 「『愛・地球博』をテーマとしたポスター」 [2004年度二科展デザイン部] C部門(特別テーマ):5名応募2名準入選 「『愛・地球博』をテーマとしたポスター」 [2004年度二科大阪展「第2回ポストカードデザイン大賞」] テーマ自由:12名応募4名入選 [2005年度二科茨城支部展デザインの部] C部門(特別テーマ)1名(2点)応募 茨城県知事賞および入選 「『第56回全国植樹祭」をテーマとしたボスター」 [2005年度二科展デザイン部] C部門(特別テーマ)8名応募1名入選7名準人選 「『地球環境を考える』をテーマとしたポスター」 [2005年度二科大阪展「第3回ポストカードデザイン大賞]テーマ自由:20名応募3名人選 参考文献・資料 [l]二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集1999.二科展デザイン部,1999 [2]二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2000.二科腔デザイン部,2000 [3]二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2001,二科展デザイン部.2001 [4]二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2002,二朴展デザイン部,2002 [5]二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2003,二科展デザイン部,2003 [6]二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2004,二科展デザイン部。2004 [7]安田 輝男:パロディ広告大全集全一巻。第1版。誠文堂,新光社,東京,1984 [8]博報堂アート手法研究プロジェクト:FIFTEEN ARTEDGES,株式会社博報堂東京,1989 [9]大貫 卓也:大貫 卓也全仕事,第1版,マドラ出版東京,1994 [10] 安田 輝男:あの広告はすごかった!,第1版,中経出版・東京,1997 [11] 安田 輝男:広告デザインにおけるパロディの研究,デザイン学研究第46回研究発表大会概要集。24-25,1999 [12] 安田 輝男・鈴木 昭男:広告表現評価の尺度開発(上)-「おっ!」「なるほど!」と思われる広告-研究所報207号,27,2003 [13]生田目 美紀:“筑波技術短期大学学生募集ポスターとデザイン教育",筑波技術短期大学テクノレポートVol9(2),p.1-5,2002. 図1 作品① 松田 善機さんの作品 図2 作品② 大澤 直子さんの作品 図3 作品③ 神本 梨香さんの作品 図4 作品④ 梶原 慶順さんの作品 図5 作品⑤ 北村 麻衣さんの作品 図6 作品⑥ 田村 友恵さんの作品 図7 作品⑦ 森下 佳代さんの作品 図8 作品⑧ 山下 祥牛さんの作品 図9 作品⑨ 松田 善機さんの作品 図10 作品⑩ 松田 善機さんの作品 図11 作品⑪ 高野 具有さんの作品 図12 作品⑫ 鄭 峰守さんの作品 図13 作品⑬ 硲 愛子さんの作品 Report of Outline of "Winning School Works which are Applied" for NIKA Design Part, 2005 YASUDA Teruo NAMATAME Miki INOUE Seiya Department of Synthetic Design, National University Corporation Tsukuba University of Technology Abstract : I have reported on the object and result in "Applications Design Competition, 'Visual communication design' for Education" (Tsukuba College of Technology Techno Report, 2002 Vol.9(1)) and "The report of an outline of 'The winning works & the works which are applied' for NIKA design part" (Tsukuba College of Technology Techno Report, 2003 Vol10(1)) and 'Report of Outline of 'Wining School Works which are Applied' for NIKA Design part,2003—4" (Tsukuba College of Technology Techno Report, 20035 Vol.l2).In this report , I have reported on an outline of results the 2005 and trials. Key Words • Visual Communication Design, The hearing impaired, Art, Advertisement, NIKA design part