バーコードで識別された掲示内容の自動メール配信 筑波技術大学情報システム学科1)神奈川工科大学情報工学科2) 宮川 正弘1)巽 久行1)村井 保之2) 要旨:春日キャンパスの掲示板には,授業関係とその他に分けて学生に対する掲示が張り出されるが,視覚障害があれば読めるとは限らない。補う意味で,拡大文字と点字の掲示内容がファイルされて置かれているが,それを読むことは必ずしも容易ではない。掲示物にバーコードを印刷しておきそれをバーコードリーダでなぞることにより,サーバに置かれた掲示内容を手元に設置されたパソコンが音声で読み上げ,必要なら,さらにその内容をメールで自分に配信するシステムのプロトタイプ設計を検討したので概要を報告する。バーコードと掲示の見出しから,メールヘッダー(Subject)を自動的に作成することと,音声利用等を配慮して,携帯端末PDAの使用から汎用パソコンと汎用ソフトウエアの使用へと使う技術をシフトしたことが特徴となっている。 キーワード:バーコード,メール配信,視覚障害,障害補償 1.はじめに  掲示にバーコードを付けておき,それをバーコードリーダで読ませることにより,対応する掲示文を手元のパソコンに送り,視覚障害学生が掲示を音声ソフトで読むプロトタイプを先に開発した[2]・本プロジェクトでは,パソコンに送られてきたファイルを音声で確認した後,自分宛にメールで転送するプロトタイプを設計する。通常のやり方で上記をするには,1.システムにloginする,2.メーラを立ち上げる,3.アドレスを入力する,4.メールヘッダ(Subject文字列)を作成する,5.内容として掲示文の本体をセットする,6メールを発送する,という一連の手順を起動することになる。設計したシステムでは,個人認証(ID)だけを行えばサーバからメールアドレスを引き出し,バーコードをキーとして,データベースから必要な上記の項目,特に上の4と5を自動的にセットして配信するもので,手順を簡略化し,落ち着いて計算機入力の出来ない不安定な場面でアクセスしたデータを自分のところに転送確保しようとするものである。認証をカード(学生証の上のバーコード)ですれば視覚障害者も簡単にIDの入力が出来よう。 2.バーコード情報取得―携帯端末利用からパソコン利用へ  バーコードによる情報取得の場合,自身のタグ内に多くの情報を込めることは難しい。1次元バーコードでは,視覚障害者でもタグ位置さえ分かれば読み取りは簡単であるが,高々数十の数字情報しか取得できない。これに対して2次元バーコードは数百の文字情報を取得できるが,カメラでタグ形状を認識させるので,タグ位置が分かっても静止させて読み取るのに時間がかかり,視覚障害者には難しく認識精度も良くない。視覚障害者がバーコードというデータキャリア技術からモノの情報を取得する場合,1次元バーコード(以下,特に断らない限り,バーコードとは1次元バーコードを意味するものとする)を使って,モノに関連付けられた情報をデータベースから引き出すという方法が良い。そこで本研究では,モノ(例えば,掲示文書)にその文字情報が格納されている場所を示すバーコードを同時に印刷し,バーコードスキャナを装着したパソコンを使用して読み取り,モノの情報をネットワーク上のサーバから探し出してパソコンにダウンロードして,音声や拡大表示により視覚障害者に提示するというシステムを構築した。ここでは例として,視覚障害学生が掲示もしくは提示された文書内容を取得するというシステムを述べる。  システムはバーコード読み取りのためにペン型バーコード・レーザースキャナ(AIMEX,BR-530UK)を装着したパソコン(Sony VAIO VGN-U71P,Windows XPh5550 無線LAN内蔵),情報格納サーバー(Windows XP搭載パソコン),無線LANアクセスポイントからなる。なお,文書へのバーコード印刷は,パソコンにバーコードフォントをインストールして,通常の文書作成と同じ要領で作成した。本システムのプログラムは,文字情報の格納と提供のためのサーバプログラム,および,学生が掲示情報を読むためのパソコン用プログラムからなる。サーバプログラムと端末パソコン用プログラムはともにWindowsXP上にMicrosoft Visual Basic,NET 2003を用いて開発してある。サーバの文書情報格納で使用したデータベースはMicrosoft Accessであり,その文書情報は検索のための文書コード(バーコード),文書タイトルテキスト形式の本文で構成されており,あらかじめAccessに登録しておく。サーバとクライアント間の通信はTCP/IPで行っており,バーコードスキャナの操作はプログラム内でAPIを呼び出す方法をとった。  システムの動作はつぎのようになる。サーバプログラムの起動中は,クライアントのパソコンで読み込まれたバーコード(文書コード)の受信待ち状態となり,バーコードを受信したらデータベースを検索して,該当するテキスト形式の文書を読み出してパソコンに送信する。パソコン用プログラムは,読み取りボタンを押すと,バーコード読み取りレーザー(クラス2の赤色半導体レーザー)を発射してバーコードを読み取る。読み取られたバーコードは,その文書コードをサーバに送信して,サーバからの文書情報受信待ちとなる。サーバから文書情報を受信すると,画面中央のテキストボックスに表示を行い,利用者は,読み上げソフト(スクリーンリーダー)を用いてその文書内容を取得する。 3.掲示物と見出し情報  教務・学生係りの厚意により掲示物の例を収集することが出来,種類別に5つに大分類し,各掲示にどのような見出しが使われるかを調べた。以下に見出しの例を示す。見出しは,掲示板データベースにおいて,「文書タイトル」欄に収められる文字列となり,バーコードから展開される情報と合わせて,配信メールのヘッダー(subject文字列)となり,利用者が同時に掲示物を転送すべきかどうかについての判断材料となる。  以下に見るように授業関係については,対象学科(情報,鍼灸,理学,3学科合同)と対象学年が明記されている。「集中講義」であるか,「時間割変更」であるか,その他の細目(「再試験」,「レポート課題」,「試験解答」)が見出しとして適当であることがわかる。一方,生活情報については,全学生が対象のものが多く,奨学金関係が多いので,奨学金については,見出しをただ奨学金とせず,「学生支援機構奨学金」などと,一段詳く付けることが望ましい。  収集した掲示と見出しの例を以下に示す。 1.授業関係25件(H17.3.14-H17.8.12)集中講義(13件),時間割変更(9件),再試験(1件),レポート課題(1件),試験解答(1件),など。 2.生活情報17件(H16.4.1--H17.7.20)お知らせ,拾得物,など。 3.奨学金23件(H16.4.1--H17.7.20)学生支援機構,理学療法学生奨学金,など。 4.その他:有効期間の特に長い掲示3件 学年暦,学年暦カレンダー,など。 4.掲示物の10桁バーコード符号 バーコードは掲示物に対して,容易に一意に決まることが望ましい。ここでは 1.対象学科(s),2.対象学年(g),3.掲示の日時(yymmdd),4.通し番号(nn)より定まる10桁の英数字列[sgyymmddnn]をCode-39でバーコード符号化する[1]. ここに,sとgは次のように決める英字あるいは数字1文字を示す。 例えば,鍼灸,理学,情報の3学科の1年生を対象とした平成17(2005)年12月9日の1号掲示は,10桁の英数字列”H105120901”のバーコードを付けて掲示される。このバーコードはLANに蓄えられる掲示データベースの本文に対する「文書コード」欄に収められ,探索においてキーとして使用される。 表1:対象学科専攻と対象学年をあらわす符号 5.メールによる掲示内容の配信  全盲の学生は,例えば,掲示物の日付,タイトルを点字で読んで本文を読むかどうか決めている。従って,日付,タイトルをまず出力し,次に選択肢として掲示文を出力するかどうか決めるのが適当であろう。ここに述べるメール配信では,個人認証(ID)だけを行えば,サーバからメールアドレスを引き出して掲示内容を自動配信する。有効な情報を含むsubject文字列を自動的に作成するので,入力する手間ががいらず,簡略化された掲示板メール配信システムである。 5.1.プログラムの概要 1.サーバにlogin(個人認証)する。 学生証のバーコードを読み取ることで,自動的にloginすることもできる。 2.送付先アドレス(自動取得) 学生証のバーコード内容から,サーバのデータベースをアクセスして,自動修得する。 3.subjectヘッダーの作成。 バーコードを展開した情報とデータベースの「文書タイトル」を結合して自動作成する。 例えば,バーコード”HOO5120901”で見出しが「時間割変更」の掲示を転送したメールは,「保健学部1234年生宛て2005年12月9日掲示-時間割変更」が見出しとなる。 4.掲示内容を挿入 5.メールで発送する。 5.2.プログラムの動作モデル 1.以下の「ここまで」を任意回数繰り返す。 (a)掲示のバーコードをなぞる。 i.音声読み上げが開始 ⅱ.読み上げ中止信号がくればここまでへ ⅲ.掲示内容kiの一時保存 (b)ここまで 2.サーバにlogin(個人認証)する。学生証のバーコードを読み取ることで,自動的にloginすることにする。 3.上の繰り返しにより蓄積された掲示文ki…knを順次発信する。 最も単純なモデルでは, 1.掲示のバーコードをなぞる。 (a)音声読み上げが開始 (b)読み上げ中止命令がくればここまでへ (c)掲示内容にkiの一時保存 2.ここまで 3.学生証のバーコードをなぞる。 4.読み上げた掲示kiをメールで転送する。 の繰り返しによる配信である。 5.3.必要なデータベース 1.掲示データベース  表2に掲示データベースの例を示す。この表のレコードは次々と作成され,次々と消去されるのが特徴である。文書コード=バーコード,タイトル,本文,からなり,バーコードをキーとして,タイトルと本文を検索する。 2.メールアドレスデータベース  表3にメールアドレスデータベースの例を示す。このデータベースは一度作れば長く使えるのが特徴である。氏名,暗証番号,あるいはバーコードIDからメールアドレスを供給する。 5.4.プログラミング  プログラムは次の3つのモジュールからなる: 1.端末モジュール(バーコードを読んでそれをサーバに渡し,戻ってきた掲示文を音声表示する)。 2.サーバモジュール(バーコードをキーとして,データベースから,掲示文を持ってくる)。 3.メイルモジュール(認証とメイルの発信)。  それぞれは個別にVisual Basic.NETによりプログラムしたが,これらを統合して働かせるモジュールの開発は未だである。前発表で1.と2.に該当するプログラムは作成してある。今回のメール送信サービスは,3.に該当する。 メールモジュールはまず,以下を行う: 1.身分証明書のバーコードの読み取り,あるいはユーザIDとパスワード入力を行う。 2.パスワードによりユーザIDの認証を行う。 3.メールアドレスデータベースから,対応する電子メールアドレスを取得する。  次に端末モジュールから,バーコードIDを受け取り,文書タイトルと合わせてメールのSubject文字列を作成する。同様に掲示文本体を受け取る。  以上で,smtpメールを構成するのに必要な,発信者,受信者,サブジェクト名,通信文本体が用意できたので,プログラムはVisual Basic.NETのSmtpMailクラスのSendメソッド(下記)を実行する: System,Web,MaiL,SmtpMailSend_ (TextBoxFrom.Text,_ TextBoxTo,Text,_ TextBoxSubject.Text,_ TextBoxBody.Text) 表2:掲示データベースの例 表3:メールアドレスデータベースの例 6.おわりに  掲示文を掲示の現場からメールで自分のところへ配信するプログラムの概要を述べた。プログラムの完成には,多大な労力を要する。さらに音声による確認や,全盲者によるバーコードの読み取り,掲示板の現場における端末パソコンの操作など,実用に耐えるソフトの完成には,プロ(ソフトハウス)の熟練したプログラミングの技術が必要であろう。  我々は,かつてバーコードを読むためにPDA(Personal Digital Assistance:携帯情報端末)を使用していた(HP製iPAC)。このため,OSはPocketPC用のWindows Mobile 2003で多大なプログラミングの困難と,音声化ソフトが事実上ないという困難に遭遇した。携帯用に便利なPDAから,正規のWindowsベースのPCに移行したのは,例えば,現在使用中のVAIO VGN-U71Pに見られるように将来,PCはさらに小型化されるので現在の携帯性よりも(1)(PC-Talkerのような)市販の音声ソフトに対応している,(2).NETのソフトウェア財産が利用出来る,(3)その他,今後の多様なプログラミングのサービス提供を重視した方が,将来にとって重要だと考えたからである。 謝辞 本研究は「平成17年度競争的教育研究プロジェクト事業(部長裁量経費)」の配分を受けた。記して感謝申し上げます。 参考文献 [1] 木林 徹。”バーコードとRFIDによる情報獲得支援--データキャリア技術の視覚障害補償への利用法(1)--,筑波技術短期大学情報処理学科卒業研究,2005年3月。 [2]巽 久行,村井 保之,永井 伸幸,宮川 正弘,”視覚障害教育におけるデータキャリア利用の試み(その2)-情報獲得手段の提供-1',筑波技術短期大学テクノレポートVol.12,pp、1-5, Nov., 2005. [3]巽 久行,宮川 正弘,小高 泰陸,村井 保之,”視覚障害教育におけるバーコード利用の試み(その1)-基本プロトタイプの提案-”,筑波技術短期大学テクノレポートVol.10,No.2,pp27-31,Nov,2003. [4]浅岡 卓,村井 保之,巽 久行,宮川 正弘,徳増 眞司,”教育環境における視覚障害学生のためのバーコードの使用”,FIT(情報科学技術フォーラム)2004論文集,pp537-538,Sept.,2004. [5]椎尾 一郎,早坂 達,”モノに情報を貼りつける:RFIDタグとその応用”,情報処理,Vol40,No.8,pp846-850,Aug., 1999. [6]Ichiro Satoh, ”Bridging Physicaland Virtual Worlds with Mobile Agents”,IPSJ Journal,Vol44, No.8,pp.2218-2229,Aug.,2003. [7]村井 保之,浅岡 卓,巽 久行,宮川 正弘,徳増 眞司,”教育環境における視覚障害学生のためのRFIDの使用”FIT(情報科学技術フォーラム)2004論文集,pp535-536,Sept.,2004. [8]Hisayuki Tatsum, Yasuyuki Murai,Masahiro Miyakawa, Shinji Tokumasu, ”Use of Bar Code and RFID for the Visually lmpaired in Educational Environment”,Proc、9th lnt. Conf. Computers Helping People with Special Needs (ICCHP“2004),Springer LNCS 3118, pp583-588, July 2004. [9]村上 満佳子,黒田 知宏,眞鍋 佳嗣,千原 國宏,”バーコードを利用した視覚障害者用商品案内音声ガイド”,HIS(ヒューマンインタフェースシンポジウム)2001論文集,pp97-98,Sept.,2001 Automatic Mail Delivery of Announcements on the Bulletin Board by Barcode Tagging MIYAKAWA Masahiro1) TATSUMI Hisayuki1) MURAI Yasuyuki2> l) Department of Computer Science, Tsukuba University of Technology 2) Department of Information Technology, Kanagawa Institute of Technology Announcements for the students are exhibited on the bulletin board at Kasuga Campus, however, visually impaired students are not able to read them. To compensate for this, large print and braille sheets are placed by the bulletin board. However, neither of them are easy to read, as the studensts are usually hasting under the bulletin board. Providing a barcode on an announcement and by scanning it by barcode reader, one can "read" the announcement if the screen-reader software at the on-site PC reads the content of the announcement which is sent back to the PC terminal via LAN; the announcement is retrieved in the database using the barcode as a key. Sometimes one may be happier if the announcement is sent to his email address at the same time. In this report we describe a rough design of this delivery system. It uses our previous programs, but in the new design we have made a shift from PDA (Personal Data Assistant)*based technology to personal computer technology equipped with a much mightier programming environment. Keywords:Barcode, Mail System, Delivery System, Visual Impairedness