高大連携インターンシップ用教材研究とその評価 筑波技術大学総合デザイン学科 本間 巌 要旨:高大連携プログラムの一環として東京都立葛飾ろう学校からの要請を受け、高等部生徒を対象とするインターンシップを実施した。本インターンシップでは本学短期大学部の教科を基に教材を作成・実施し、その結果、一定の教育効果が確認された。これを受け、同教材の主要部分を短期大学部の同類教科の授業計画に反映させて授業を行ったところ、本学学生においても相応に教育効果が向上し、教材のクォリティ向上に結び付けられた。 キーワード:インターンシップ,レンダリング,授業計画 1.はじめに  平成11年12月、中央教育審議会において「多様化する高等学校と大学との教育のスムーズな接続には、両者間の教育の連携(高大連携)が重要な課題である」との指針が示された。本インターンシップはこの指針を背景に、東京都立葛飾ろう学校からの要請を受け、本学デザイン学科(平成17年当時)との協議の下、試行という形で計画・実施された教育プログラムである。  本インターンシップに関する葛飾ろう学校からの具体的な依頼内容は次の通りである。 「基本的な造形力や感覚、発想力を伸ばす演習で生徒の理解を深めさせ、同時に、ろう学校デザイン系教員への教授法研修としたい。」  さらに以下の観点を加味し、生産デザインコース、1年の選択科目である「デザイン技法論・演習2(レンダリング)」を基に授業計画および教材を検討・作成した。 a)単なる高校の延長ではなく、大学らしい部分(専門性)が反映された科目であること。 b)伝達デザイン系科目は聾学校教育でも充実しており、生徒に対して専門性をアピールさせにくいので、できれば立体系(本学科での生産デザイン系)教科が望ましい。  インターンシップ実施日は平成17年8月29、30日の2日間で、両日とも午前10時から12時までと午後1時から3時までの2日間、合計8時間の時間枠で実施した。参加生徒は高等部普通科2年生2名、3年生3名、専攻科1年生1名、合計6名である。 2.生産デザイン論・演習2について  「デザイン技法論・演習2(レンダリング)」は、本学科生産デザイン関連科目の1年次選択科目として位置づけられている。  製品デザイン分野においては、製図、モデリングなど製品イメージ提示のために必要とされる種々の表現技法を修得しなければならない。レンダリングもそのような表現技法の一つで、想定される物体の形状的特徴と光源の位置関係から予測される見え方を、感覚ではなく理論に基づいて陰影に置き換え、表示する技法である。  本科目は、まず平面、円柱、球などの基本的な立体の表現法を覚え、次にそれらの集合体であるさまざまな立体形状に適用することで複雑な形状の表現を目指す講義・演習形式の科目である。1週3コマ、全10週の授業計画を表1に、各段階の主な成果物を図1〜3に示す。  単純な基本立体の表現から積上げ式に徐々に複雑化させながら、本専門分野特有の数種の表現を学習し、それぞれ一定の水準の成果に結びつけるという構成としている。本来であれば、授業時間外の自学自習による学習によって修得レベルの向上を期待するところであるが、学習意欲の個人差を考慮し、基本的には授業時間内での達成を目指す授業計画としている。そのため大半は定型化された課題内容で構成している。これは、全ての学生が同じ課題に取組むことで、学生同士見比べあい、達成度を自己診断できるという効果もあるが、発展的理解という点ではややマイナスである。また、ゆとりのないタイトな日程になってしまっている点も一考を要するところである。  そのような懸念材料を抱えながらも、本学学生の特質を踏まえ、総体としての均質な達成度を優先し、本授業スタイルを踏襲してきた。 3.インターンシップ用授業計画について  この度のインターンシップに向けての課題テーマとしては、対象が高校生ということで、本授業計画の初段階部分の内容を適用するのが自然な考え方である。しかしながら、一般的に初段階部分の内容はおもしろさに欠き、また、達成感も与えにくい。そこで以下のように考えた。 a)理屈を控えめにして、感覚的に理解できる性格の課題にする。 b)個別散発的な内容をある程度統合した具体的な題材に手直しする。 c)立体として最も一般的な立方体または直方体を中核とし、その部分的な変形の過程に円柱や球が反映された形状を題材にする。 d)明るい部分の表現法としては、「塗り残し」よりも「塗り重ね」の方が初心者には分かりやすいので、「塗り重ね」によって完成される表現技法を採用する(ハイライトレンダリング)。 e)テキストにおいて、各段階での表現技術の使用前・使用後を提示し、作業による効果を把握させる(作業方法だけでなくそれによってどのような効果が現れるかを伝える視覚提示を工夫する)。 f)より高次の技術はオプション設定とし、進度に応じて適宜対応する。 4.インターンシップの結果と評価  塗りの作業が馴染みのある色鉛筆によるものだったので、さほど抵抗無く行え、また、前述(d)に示すように、比較的に失敗の少ない無難な技法であった点も功を奏したように思われる。実際には、引率された先生方3名も、指導に当たってくださったこと、目新しい課題へのチャレンジということで受講生の緊張感が維持できたことなどに助けられた部分も見逃せない要素である。  インターンシップで採用した課題は、デザイン技法論・演習2の日程表の第1〜第3回の内容を総合した内容である(表2、図4)。理論で理解する部分は少々薄くして、実践的要素を厚くした構成となっている。  インターンシップでの結果から、以下の点が指摘される。 a)円柱の一部を利用する部分に関しては、円柱という認識よりも、角が広がったというとらえ方(Rの考え方)の方が受講生には受け入れられやすく、塗り幅の加減により変化する形状イメージを確認しながら希望の形状を探す様子が見られた。 b)球に関しても円柱と同様で、球の一部という認識よりも凹凸の考え方の方が受け入れられやすいようであった。 c)分割線に関しては、従前の課題よりも今回の方がはっきり立体を2分割しているので、表現方法と実際のイメージとのギャップが少なかったようであった。  総じて、ポジティブな要素が多く確認され、躊躇して手が止まるという様子はあまり見られなかった。インターンシップ授業の様子および成果物を図5、図6に示す。  なお図7は後述する短大の授業に適用した、本学短期大学部デザイン学科1年生の同内容による成果物である。両者(図6、図7)を比較すれば、専門科目を幾つか習得している本学学生作品に一日の長があるものの、基本的な要素に関してはほぼ同等のクォリティが達成されていると思われる。 表1 従来の授業計画 図1 ハイライトレンダリング 図2 パースペクティブレンダリング 図3 オリジナルデザイン 表2 インターンシップの日程表 図4 インターンシップ用教材の考え方(単純形態からその集合体としての具体的形状へ) 表3 インターンシップ後の授業計画 図5 インターンシップの様子 図6 インターンシップ受講生の作品 図7 デザイン学科(短大)1 年生作品 5.インターンシップの短大授業への適用と評価  上記の結果を踏まえ、この内容を旧授業計画の3回目の内容として入れ替え(表3)、平成17年度3学期の授業で試行した。受講生にとっては、既に1、2回目の授業を消化しているので、3回目の内容では結果的に1、2回目のエッセンスを重複して学習することになる。その成果物を図7に示す。インターンシップ受講生の作品と比較すると基本的な部分に関しては微妙な「加減」が成されたことによるリアリティーの向上が見られる。さらに表現上の「あそび」も見られ、総じて余裕の感じられる作品に仕上がっている。  このように重複した内容を、総合的あるいは複合的な課題テーマとして学習することで、復習効果や発展的応用力の養成などを期待したわけであるが、以下にその効果ついて評価・考察する。  まず、変更を施した部分に関しては、インターンシップ同様の効果に加え、大幅な作業時間の短縮が見られた。その時短部分は課題B(オリジナルデザイン)のアイデアスケッチ制作に充てられた。種々のアイデアを試しながら陰影検討を行う学生も多く、本番制作のクォリティ向上に結びついた。  次に変更部分以降についてであるが、全般的にハイスピードで作業が進行できた。その結果、各課題制作において40分〜60分程度のマージンが確保され、それを次の課題への実質的な予習に充てられた結果、その後の成果物のクォリティを概ね向上させることができた。半数以上の学生において、基本部分終了後、ディテールを追加する様子が見られ、応用力の向上が感じられた。  最終課題に関しては、上記のように各局面で時間の短縮ができたため、新しい課題の始まりを最初の時限に揃えることができた。旧授業計画では3コマの授業の途中からの新課題への移行を余儀なくされていたが、これによって各週完結型に整えられた。その結果、最終課題は授業一回分のマージンを持たせて終了できた。そこで、残った3コマ分の時間を利用して、もう一課題の制作に充てることができた。 6.おわりに  かねがね、同一テーマによる課題を複数回経験できることが確実な技術修得への理想型と考えているが、限られた時間の中では難しいのが現状である。しかし、今回、授業計画前半の基礎的学習の部分で、応用問題を消化することにより、その後の学習において際だった教育効果をもたらすこととなった。その結果、最終の総合課題を2回行えたことは画期的であったと考える。  ただし、技術修得の度合いは学生の資質によるところも無視できない要素である。たまたま今回は学生の資質に恵まれたということかもしれない。この点は精査を要するところである。いずれにしても今後しばらく同様の授業計画を基に、適宜改良を加えながら授業を継続することで明らかにしていきたい。 謝辞  この度、東京都立葛飾ろう学校からの要請により新たな授業計画を作成・実施し、その成果を本学の授業に反映させることができた。ここに、このような貴重な機会を与えてくださった同校の先生方および関係各位に感謝の意を表します。 A Study and Evaluation of Teaching Material for Internship of the Cooperation between High School and University HONMA Iwao Department of Synthetic Design, National University Corporation Tsukuba University of Technology Abstract: Internship for the high school students was done by the request from the Tokyo metropolitan Katsushika school for the deaf as the part of the cooperation program between the high school and the university. Some learning effects were confirmed after creating teaching materials based on the subject in the college department and implementing them. After attempting to incorporate these in the subject in the college department, learning effects also improved about the students in the college department, and were tied to the quality improvement in teaching materials. KeyWords: Internship, Teaching Materials, Learning Effect, The Syllabus Planning