鍼実習における教授方法の改善の試み−鍼教習手帳− 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻1) 障害者高等教育研究支援センター2) 上田 正一1) 森 英俊1) 村上 佳久2) 要旨:自動車教習を参考に、鍼実習における達成目標を段階毎に明示した「鍼教習手帳」を作成し、実習での導入を試みた。「鍼教習手帳」は、鍼基礎実習において、初めて鍼を扱う学生を想定し、「安全に正しく刺鍼できる」ことを教育目標とし、「管鍼法による単刺直刺で銀鍼1寸6分・3番鍼を1分間に10mmから15mm刺鍼できる」ことを最終到達目標とした。最終到達目標までを大きく5段階に分け、さらに、最終到達目標よりも次の段階として「管鍼法による単刺直刺で銀鍼1寸6分・1番鍼を30秒以内に10mmから15mm刺鍼できる」を到達目標とする段階を設けた。各段階には細かいチェック項目があり、それらすべてをクリアした場合、当該段階の修了が認定され、次の段階に進むことができる仕組みとなっている。「鍼教習手帳」の導入により、個々の学生の進捗状況を一目で確認することができ、大人数の学生を同時に教育する際に発生する「到達進度のばらつき」にも対応しやすくなった。また、評価が客観的に明示されているので、学生側も自分の課題を把握しやすくなった。ただし今回は試作であり、拡大文字、点字などの視覚障害への配慮をしていないため、今後そのような配慮が必要であろう。また、各チェック項目についても、随時見直しが必要となると思われる。 キーワード:鍼,実習,教授方法,教習手帳,到達目標 1.はじめに  筑波技術大学は、視覚障害者と聴覚障害者を対象とした4年制の大学で、視覚障害者を対象とした保健科学部には、保健学科鍼灸学専攻・理学療法学専攻および情報システム学科の2学科2専攻がある[1]。  鍼灸学専攻では、盲学校や視力障害センターと同様に、卒業時に「はり師」「きゆう師」「あん摩マツサージ指圧師」の国家試験を受験する資格が得られる。  鍼灸学専攻の学生定員は20名で、実習や実技などは20名単位で実施される。これは、視覚障害者の教育機関では比較的大人数であり教育上様々な問題を抱えている。  今回は、鍼基礎実習における教授方法の改善について新たな試みを行ったので報告する。 2.鍼灸教育機関における鍼実習 2.1 盲学校  各都道府県に1校以上ある盲学校[2][3]では、生徒数がおおむね5人程度であるため、鍼実習は教員や実習助手を含めて複数名(2名以上)で対応する。全盲の教員が実習を担当する場合は、視力のある実習助手などが配備され実習を行うことが多く、この場合は教員1名当たりの生徒数は3名程度である。 2.2 視力障害センター  全国に5カ所ある視力障害センターは、主として中途失明者を対象としている。定員が最大の埼玉県所沢市にある国立身体障害者リハビリテーションセンター[4]更生訓練所 理療教育課程では、1学年45名(専門課程3年間)、15名(高等課程5年間)の合計60名であるが、実習などはクラス単位で実施される。1クラスは15〜7名で構成されており、鍼実習には2〜3名の教官で対応する。このため教官1名当たりの入所生数はほぼ3〜5名程度である。 2.3 筑波技術大学  学生定員が20名の鍼灸学専攻では、鍼実習は、ほぼ教員1〜2名で対応する。このため教員1名当たりの学生数は約10〜20名となる。 2.4 他の大学・専門学校  視覚障害者を対象としない一般の晴眼者が「はり師」「きゆう師」「あん摩マツサージ指圧師」の国家資格を得るためには、大学や専門学校などの教育機関がある。  鍼灸学科を有する大学[5][6][7]では、定員が60〜100名で実習はおおむね2〜4クラスに分けて行われるが、教員1名当たりの学生数は約12名以上となる。  専門学校では、定員が30名で、教員1名当たりの学生数は、15名以上となる。  このように視覚障害を有する教育機関では、従来は教員1名当たり3名程度の生徒数であったが、晴眼者を対象とする場合は、教員1名当たり12名以上である。その意味で筑波技術大学は、やや中間的な教員1名当たり10〜20名という人数となる。 3.教授方法の改善 3.1 伝統的な徒弟制度教育  伝統的な盲教育では、徒弟制度的な観点から教員1名当たりの人数が3名程度で手厚い。  手法としては、教員が生徒相手に施術見本を実際に行い、生徒がその施術を教員に行うことによって、教員が評価し改善を指導する。その他生徒同士で施術することにより、改善指導を行ったりすることもある。  この手法は徒弟制度で培われた少人数教育故に実施できるものである。また、視覚障害故に視覚から得られる多くの情報がないため、手取足取りの細かな指導が要求されることも一因と言える。  特に鍼実習のような手先で鍼を扱い、片手挿管や刺入・切皮など様々な細かな作業が必要な場合、視力のない学生に対しての実習教育や、視力のない教員による実習教育を行う場合にはそれなりの配慮と指導方法が必要不可欠のため、伝統的な教育方法が受け継がれてきた可能性が高い。 3.2 マスプロダクト教育[8][9]  それに対して晴眼者の教育では、教員1名当たりの人数は15名程度となり、細かな指導方法では行き届いた教育が困難な可能性がある。教員が学生の前で見本を行い、教科書等を参考としながら見た目の模倣を中心とした教育がなされている。その中で、教員が巡回して、指導を行うことになるが、人数が非常に多数であるため、ある程度限定された評価や指導とならざるをえない。そこで、何回かに分けて小実技テストを行い、学生の進捗状況を評価するが、小実技テストについても数回しか実施できないため、細かな指導には至らないことが多いと言われている。  このあたりが少人数による徒弟制度的な教育手法とマスプロダクト的な大人数教育手法との違いであろう。  そこで、重要となってくるのが徒弟制度的な教育手法とマスプロダクト的な教育手法との差を考慮しつつ、両者の良い面を導入した新しい教授方法の改善と開発が必要となってくる。 3.3 新しい教授方法の目指すもの  新しい教授方法では、次のような幾つかの目標を設定した。 1)学生の進捗状況の把握 2)教員1 名当たりの教育効率の向上 3)教授内容の明確化 4)評価基準の明確化 5)習熟度別教育効果の向上 6)目標を達成する道程の単純化  これらの目標を元に様々な教授方法の改善について検討した。 4.教習手帳の導入 4.1 自動車教習  新しい教授方法を検討するに当たり、他の教育方法で優れた教授方法を示している様々な教授方法を検討した。  その中で前述した幾つかの目標設定に対して比較的近い教授内容を有するものがマスプロダクト教育の1 つとして存在する。  全国に約1500カ所ある「指定自動車教習所」における自動車教習がそれである。  自動車教習に於いては、道路交通法に定められた資格を有する「教習指導員」が、「教習手順」に従って指導し、道路交通法に定められた資格を有する「技能検定員」が、運転免許に関する技能検定を行う。最終的に各地の公安委員会で学科試験を実施して運転免許が交付される仕組みとなっている。  これらの仕組みを図式化すると次のようになる[10]。  ここで重要なのは技能教習において、数段階に分けて技能教習を行い、その技能教習では、各項目毎の評価があり、定められた評価基準に従って技能を評価し、合否をその都度判定する。その段階の最終評価基準に達しないと次の段階に進めない。また、最終の技能検定は「技能検定員」によって正確な基準により検定されるため、全国的に評価基準が異なることはない。  このような優れたシステムを鍼実習に応用できないかについて検討した。 4.2 鍼実習への応用  自動車教習同様に「はり師」「きゆう師」「あん摩マツサージ指圧師」に関する資格取得には、厚生労働省が定める基準があり、自動車教習における「教習指導員」に対応するものとして、主として理療科教員免許を有する者が担当する。そして一定の評価基準に従って評価するがその方法については、教育担当者の幅広い裁量を認めているのが現状である。  しかし、徒弟制度のような少人数による教育手法ではない場合、自動車教習のような細かな段階を定めて評価することは有効と考える。そこで、「自動車教習手帳」と同じような観点から「鍼教習手帳」なるものを構築できないか検討した。 図1 自動車運転免許取得の仕組み 5.鍼教習手帳 5.1 教育目標  今回の教習手帳では、最終段階としての教育目標を次のように設定した。  教育目標:安全に正しく刺鍼できる。  到達目標:管鍼法による単刺直刺で銀鍼1寸6分(長さ50mm)・3番鍼(直径0.20mm)を1分間に10mmから15mm刺鍼できる(進捗状況によって次の到達目標2を別途設定する。到達目標2:管鍼法による単刺直刺で銀鍼1寸6分・1番鍼(直径0.16mm) を30秒間に10mmから15mm刺鍼できる。)。  鍼治療を行う実習に入る前段階としての基本的な鍼実習において、一番基本的な教育目標は、安全でかつ正しく刺鍼が出来ることである。  教習手帳では銀鍼を用いることを前提としている。なぜなら、鍼基礎実習では銀鍼を用いた方が学習効果が高いためである。それは、以下の理由による。現在、衛生面を考慮すると鍼治療で実際に使用されるのはディスポーザブルのステンレス鍼が主流である。はり師とは、そもそも「はり」が打てるだけの高度な技術を有し、技能者であるからこそ「はり師」である。先にディスポーザブルのステンレス鍼で練習を始めるよりも、先に銀鍼から練習した方が有効である。それは、ディスポーザブルのステンレス鍼で練習すると、銀鍼が打てるようにはならないが、銀鍼を先に練習しておくと、後でディスポーザブルのステンレス鍼を扱うときに容易に打つことが出来るからである。それは、ステンレス鍼よりも銀鍼の方が、刺入に技術を必要とするためである。また、10〜15mmの刺鍼を設定したのはきちんとした刺鍼が行える評価基準をこの幅に設定したからである。 5.2 各段階の設定  次の5つの段階と実習以前の段階の6つの段階を設定した(図2)。 1)第0段階(はり施術前準備)  自動車教習における適性検査的な段階として、実習前の準備段階を設定した。  鍼施術者としての心構えと態度、服装、手洗い、消毒が正しくできる。  補足 鍼施術前の常識的な基本事項を会得する。  第0段階には以下の5つの中項目がある。  各中項目の下には、すべての中項目が認可されたことをチェックする「総合」という項目が設けてあり、その「総合」が認可されているということは中項目内に含まれる細項目すべてが認可されていることを示す。この「総合」と段階での目標および補足がある場合は補足を、また補足の中に重要目標がある場合は重要目標を総合的に判断し、最終的なその段階での総合認定を行う。この総合認定を行った日付とその認定にあたった指導者の署名または捺印をもって、その段階を修了したことを認定する。以下の各段階においても同様の構造となっている。 1.心構え(3項目) 2.態度(3項目) 3.服装(13項目) 4.手洗い(9項目) 5.消毒(8項目) 2)第1 段階(刺鍼前準備)  前消毒、器具の配置、姿勢、前揉捏、押手が正しくできる。  補足 刺鍼前の基本事項を会得する。  補足の中で重要目標を掲げている。これは、この段階において必ず満たさなければならないと定めた目標である。 この第1段階での重要目標は、「基本事項を確実に身につける」である。  第1段階には以下の5つの項目がある。  以下、第0段階に準ずる。 1.消毒(8項目) 2.器具(3項目) 3.姿勢(9項目) 4.前揉捏(4項目) 5.押手(5項目) 3)第2 段階(片手挿管)  正しい、片手挿管が素早く円滑に、かつ手際よくできる。  補足 銀鍼寸6分・3番鍼と1寸6分用鍼管を用いて片手挿管を行う。  利き手で舟皿から鍼管をとり、さらに舟皿から鍼を1本とり、鍼管に鍼を挿管し切皮直前の鍼の状態を作り、舟皿に鍼を戻すまでの一連の動作ができる。 第2段階での重要事項は「片手のみで挿管が出来る」ことと、「鍼を落とさない」ことである。  第2 段階には以下の5つの項目がある。  以下、第0段階に準ずる。 1.姿勢(3項目) 2.正確性(10項目) 3.迅速性(4項目) 4.円滑性(3項目) 5.巧緻性(4項目) 4)第3段階(切皮)  安全で正しく、無痛の切皮が円滑に出来る。  補足 銀鍼1寸6分・3番鍼と1寸6分用鍼管を用いて切皮を行う。  施術者と被施術者(患者)との位置と姿勢を作り、消毒後、前揉捏、押手を作り、鍼管を立て、鍼管下部をたたいて鍼先を確実に皮膚面に落とし、竜頭頭(鍼柄の頭)を示指でたたいて切皮する。  その後鍼管を抜き、抜鍼、消毒、後揉捏までの一連の動作ができる。  第3段階には以下の6つの項目がある。  以下、第0 段階に準ずる。 1.姿勢(3項目) 2.消毒(3項目) 3.押手(4項目) 4.鍼管(3項目) 5.切皮(9項目) 6.抜鍼(7項目) 5)第4段階(刺入)  安全で正しく、無痛の刺入が円滑に出来る。  補足 銀鍼1寸6分・3番鍼と1寸6分用鍼管を用いて刺入を行う。  施術者と被施術者(患者)との位置と姿勢を作り、消毒後、前揉捏、押手を作り、鍼管を立て、鍼管下部をたたいて鍼先を確実に皮膚面に落とし、竜頭頭(鍼柄の頭)を示指でたたいて切皮し鍼管を抜く。  皮膚面に対して垂直に1分以内で深さ10〜15mm刺入(押手を離して深度と角度を計測)、抜鍼、消毒、後揉捏までの一連の動作ができる。 第4段階での重要事項は「10〜15mm刺入出来る」こと、「垂直に刺入出来る」こと、「無痛である」ことである。  第4 段階には以下の7 つの項目がある。  以下、第0段階に準ずる。 1.姿勢(3項目) 2.消毒(2項目) 3.押手(5項目) 4.切皮(3項目) 5.刺入(7項目) 6.計測(2項目) 7.抜鍼(4項目)  ここで最終段階に至り、新たに到達目標を立てる。その到達目標とは以下の通りである。  到達目標2:管鍼法による単刺直刺で銀鍼1寸6分・1番鍼を30秒以内に10mmから15mm刺鍼できる。 6)第5段階(刺入)  安全で正しく、無痛の刺入が迅速にかつ円滑に出来る。  補足 銀鍼1寸6分・1番鍼と1寸6分用鍼管を用いて刺入を行う。  皮膚面に対して垂直に30秒以内で深さ10〜15mm刺入(押手を離して深度と角度を計測)、抜鍼、消毒、後揉捏までの一連の動作ができる。 第5 段階での重要事項は、「1番鍼で刺入出来ること」である。  第5段階には以下の7つの項目がある。  以下、第0 段階に準ずる。 1.姿勢(3項目) 2.消毒(2項目) 3.押手(5項目) 4.切皮(3項目) 5.刺入(7項目) 6.計測(2項目) 7.抜鍼(4項目)  以上で段階別の認定事項はすべて完了とする。この時点ですべての段階が認定されていれば最終合格である。  また、指導や指摘事項を別途設け個人的な細かい指導を行うと共に、学生からのフィードバックとして指導・指摘事項に対して意見や感想を述べる部分を設定した。 5.3 認定取り消しについて  各段階での技術習熟度合いをその時点で認定したとしても、その判断が一時的あるいは偶然によるものである可能性が否めない。そこで、先の段階に進んでいたとしても、それより前の段階で習熟しているはずである細項目が一つでも未習熟であると判明した場合には、その段階に立ち戻ってその細項目のみについて認定を取り消す。それにより、該当する中項目が認可の条件を満たさなくなるため、該当する中項目が取り消しとなる。中項目の認可が一つ欠けるので段階認定の条件を満たさなくなり、結果的に段階認定が無効となる。その際、取り消した日付と理由を明記し、その取り消し指導者の捺印をもって、認定取り消しとする。  その後、その細項目について試験を行う。 5.4 実際の評価  本教習手帳に則り、細かな教育目標の設定と評価内容の確認は、基準がハッキリしているため評価内容が明確で学生も納得しやすいものである。  教員が個人別の進捗状況を確実に把握できるため、学生の能力評価に非常に役立つことが判った。また、評価基準が明確なだけに教員個々の差違が出来にくいことも特徴の一つである。  それぞれの段階の最終評価は、2名の教員の両方を合格することを求めた。これは教員の差違を最小限に圧縮する効果と共に異なった個体に対する施術を行うことにより、より幅広い個体に対応した施術が可能となることへの配慮でもある。 6.学生の感想  今回の鍼教習手帳に対する学生の感想は以下の通りであった。(順不同)。  注)この教習手帳は学生側の教材として配布したものではなく、あくまで教員側の確認のために用いる教員側の資料である旨を、実習開始の年度初めに学生に説明し、周知徹底した。教材ではないため点字および拡大版は、あえて作成しない旨学生に周知徹底した。ただし、項目について学生がその内容を見たり確認したりすることを禁止するものではない旨、補足した。  実習の最終回に、この鍼教習手帳に対する学生の感想を求めた。その際、実習開始の年度初めに説明したことと同様、この教習手帳は教材として配布したものではなく、あくまで教員側の確認のために存在することを告げ、ゆえに、拡大版や点字版を作成しなかった旨を学生に告知した上で感想を求めたものである。しかしながら、感想の中には拡大版や点字版を求める声が書かれてあった。なお、拡大版や点字版に関して誤解あるいはあえて書いた学生の感想については割愛した。 1) ひとつひとつに項目があり、分かりやすい。 2) 鍼教習手帳に関して特に指摘する事はありませんが、チェックを受けるのは、授業中に出来れば、忘れずにチェック出来、もっと鍼教習手帳が活用されるのではないかと思います。 3) 目標が具体的に示されているので自分の問題点が分かり易い。 4) 技術の到達目標ごとにくわしく段階があるので学習し易かった。 5) 手帳がある事により再確認が出来るので良いと思う。実技の面では指摘されている様にムラがあるのは自分でも気付いているので今後の課題である。 6) 鍼の実技について各段階に分けその段階の到達目標やチェックポイントを細かく明記されていることは良いと思う。 7) 各項目に「こうしたら、こういう方法なら更に良い」、「これだけは絶対してはいけない」といったアドバイスのようなものを記載してほしい。 8)大変だと思うのですが、毎回授業終了後に手帳を回収し、その日の授業での良くなった点・改善点等書いてもらえると幸いです。 9) いくつかの項目に分けられて細かく書かれていたので自分が出来ていない部分や課題が分かりやすかった。 しかし、項目がありすぎて見る時に分かりづらい部分もあった。 10) 細かく段階に分けたチェックポイントは鍼の技術向上に役立ちました。 11) 具体的なポイントを携載して欲しい。例えば、刺手の型や押手の型のうち気を付けるポイントを載せると自習しやすいと思った。 12) 細かく確認して段階ごとに進めていくやり方は良いと思う。 13) 段階ごとに分けられていたので自分のレベルが分かりやすかった。 14) 文字が小さくて困りましたが項目が細かく分けられていたのでしっかりと基本を身につける事ができるのでありがたいです。 15) 項目が細かく分かれているので、自分なりに判断しやすく、一つ一つ解決していけるのでとても良かった。また、段階があることで目的を明瞭にしやすかった。  教習手帳が学生のための教材でない旨をくどく説明し、周知させたにも関わらず、それに反して、学生からの最も強い意見は、拡大版や点字版などの教材としての教習手帳がほしいという意見であった。このように、学生自身の声として教材としての教習手帳を学生自身が求めたという事実は、この教習手帳が学生のための教材としても利用価値があることを示唆している。 7.教師の反省  これほどまでに、この教習手帳が学生から渇望されるということが事前に想定されていたならば、当初から教習手帳を教材として吟味し作成に関して入念な検討を行い、教材として提供していればよかったのではないかと強く反省するものである。今後、教材としての教習手帳の研究開発に、尽力を注ぐ必要があると考える。 8.おわりに  鍼実習において、自動車教習手帳の教授方法の効果的な面を取り入れ「鍼教習手帳」なるものを作成し、それに基づいて、鍼実習の教授方法の改善を試みた。  盲学校などで従来実施されてきた徒弟制度的な少人数の教育と異なりマスプロダクト的な教育手法の要素を取り込み、少ない教員で大人数の学生に対応できる可能性を示すことが、ある程度出来た。  各段階を設定し各段階毎に細部項目を立て評価内容を明確にしたことは、教員個々の教育評価内容について、評価基準を明確化することにより教員間の評価の差違を少なくすることに貢献できたと思われる。  学生側にとっても到達目標に対する自分の達成部分が具体的で明確であるため、弱点を把握しやすいと言う特徴が得られることはこの教習手帳の最大の教育効果と思われる。  欠点としては、今回この教習手帳を教材としては配布していないために、個々の視覚障害の程度に合わせたものになっていないため、学生側が内容を把握するのに困難を生じることとなったが、これは当初の目的とは異なるため、やむを得ないことであると考える。本質的なこの教習手帳の欠点は、この教習手帳の項目から漏れてしまった重要事項が一切教育されないという危険性を孕む点にあり、この教習手帳方式の教授法の最大の欠点であると考える。この問題を解決するためには、教習手帳作成前に、綿密な議論と詳細なすりあわせを行うことによって、本来教育すべき内容がこの教習手帳から漏れ落ちていないかを慎重にチェックしなければならないと考える。 引用・参考文献 [1] 筑波技術大学ホームページ(http://www.tsukuba-tech.ac.jp/) [2] 徳島県立盲学校ホームページ(http://www.tokumou.tokushima-ec.ed.jp/) [3] 鳥取県立鳥取盲学校ホームページ(http://www.torikyo.ed.jp/torimo-s/) [4] 国立身体障害者リハビリテーションセンターホームページ(http://www.rehab.go.jp/) [5] 明治鍼灸大学ホームページ(http://www.meiji-u.ac.jp/) [6] 関西鍼灸大学ホームページ(http://www.kansai.ac.jp/daigaku/) [7] 鈴鹿医療科学大学ホームページ(http://www.suzuka-u.ac.jp/index.shtml) [8] 海後宗臣:学校論,第1 版,東京書籍, 東京,1980 [9] 尾形 憲編著:学びへの旅立ち マスプロ授業を越えて,第1 版,時事通信社,東京,1981 [10] 社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会ホームページ(http://www.zensiren.or.jp/process.html) [11] 森 英俊、上田 正一、村上 佳久: 鍼基礎実習における効率的な教育手法 −技術能力向上のための試み−,筑波技術大学テクノレポート,13:19-23.2006. [12] 村上 佳久,上田 正一:情報教育におけるe-Learningの試み,筑波技術短期大学テクノレポート,10(1):41-45.2003. 図2 鍼教習手帳 An Attempt at an Improved Teaching Method in Needling Practice -Needling Training Handbook- UEDA Shouichi ,MORI Hidetoshi1) MURAKAMI Yoshihisa2) 1) Faculty of Health Science, Department of Health, Course of Acupuncture and Moxibustion 2) Research Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired Abstract: We created the“ Needling Training Handbook” that points out the performance goal at each level in needling practice, and tried to introduce it into practice. The“ Needling Training Handbook” teaches students who handle acupuncture needles for the first time“ safe and proper needle insertion” as an education goal, and“ 10 mm to 15 mm needle insertion within 1 min with simple and vertical insertion techniques by the guide-tube-needling method, using a silver acupuncture needle of 50 mm in length and 0.20 mm in diameter” as the final performance goal. The training for the final performance goal is largely divided into 5 levels. Further, the highest level is set at the next to the final performance goal,“ 10 mm to 15 mm needle insertion within 30 sec with simple and vertical insertion techniques by the guide-tube-needling method, using a silver acupuncture needle of 50 mm in length and 0.16 mm in diameter” as the performance goal. There are detailed check items at each level, and the students must clear them to be certified as completing each level and going to the next level. The“ Needling Training Handbook” has the result that teachers can see the progress of each student at a glance, and easily cope with "dispersion of achievement degree" occurring when teaching many students at the same time. Also, the students can easily view the lesson they have to learn because the grade is objectively indicated. However this is a trial, and does not take special care using enlarged characters or braille, etc. for visual impairment. Such care will be necessary. Each check item may be reviewed as required. Keywords: needling, practice, teaching method, training handbook, performance goal