Webベースでの遠隔地間コミュニケーションに関する学内・学外技術支援 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター1) 筑波技術大学産業情報学科2) 三好 茂樹1) 河野 純大2) 西岡 知之2) 白澤 麻弓1) 皆川 洋喜2) 長南 浩人1) 加藤 伸子2) 村上 裕史2) 内藤 一郎2) 黒木 速人1) 石原 保志1) 小林 正幸1) 要旨:本学では遠隔地間を結んだ通信によって字幕提示や手話通訳を正確かつ円滑に実施するための様々な研究活動がなされてきている。これらの研究活動から得たノウハウから、遠隔地間での各種コミュニケーション・ツールを開発し、学内および学外に対する技術支援を実施した。 キーワード:遠隔,コミュニケーション,聴覚障害,テレビ会議,Flashプラグイン 1.はじめに  近年、インターネットの通信環境整備が進み、多くの教育機関でインターネットを介したコミュニケーションが可能になってきたのと同時に、そのようなコミュニケーション・ツールを開発する下地も揃いつつある。一方、本学では遠隔地間を結んだ通信によって字幕提示や手話通訳を正確かつ円滑に実施するための様々な研究活動がなされてきている[1][2][3][4][5][6]。これらの研究活動から得たノウハウを遠隔地間のコミュニケーションに活かし、遠隔地間での各種目的に適合したコミュニケーション・ツール(ビデオ会議システム等)を開発し、学内および学外に対する技術支援を実施した。 2.基本的な通信方法および音声・映像の授受に必要な機器について  図1に基本的なネットワーク接続図を示す。筑波技術大学等に設置されたサーバーを介して、各クライアントPC間が接続され、映像・音声・文字情報等の授受が実現される。サーバーに関しては、サーバー用途のPC(本学の場合)に(株)Adobe製のサーバープログラムであるFlash Communication Server 1.5またはFlash Media Server 2.0 がインストールされている。このサーバープログラムが、データの送受信の役割を受け持っている。このサーバーの機能は、ウェブサイト閲覧用のソフトウェア(例えば、インターネット・エクスプローラ等)から利用することができる。すなわち、特定のウェブサイトにアクセスすると、閲覧用ソフトウェアのウィンドゥ内が、そのままビデオ会議の画面として映し出され、互いの音声や映像を見ることができるようになる。  閲覧用ソフトウェアには、(株)AdobeのFlashプラグインをインストールされている必要があるが、これはOSの導入時にすでに組み込まれている。このために、通信のために特別なプログラムの購入やインストールは不要である。このプラグインは、Windows, Mac OS(Apple社製)およびLinuxといったOS用にもそれぞれ用意されており、利用の際、プラットホームを選ばないという特徴がある。また、各OSでの設定は必要であるが安価なサウンド・デバイスやPCカメラ、IEEE1394接続によるDVカメラ等を利用することもできる。 図1 インターネット対応コミュニケーション支援ツールの基本的な接続図 3.各通信システム開発およびその運用事例について 3.1 聴覚障害者のための教育機関に所属する教員間の支援や情報共有  国内の聾学校では地域毎に組織連携の形態が異なり、分教室や通級指導教室教員との連携が難しい面が多々ある。 基幹となる聾学校から専門的な知識や最新の情報、そして最新のスキル等を遠隔地にある各分室等に円滑に提供するために、各組織の整備されているインターネットを利用して通信を行う様々なシステムが求められている。このようなニーズに対応し、コミュニケーション指導等に関わる聾学校教員間のテレビ会議システム等に関する技術支援を実施した。  図2にしめしたのは、長野県松本ろう学校との通信風景である。また、図3は長野県松本ろう学校、鹿児島県立鹿児島聾学校間での通信風景である。各会議形態にあわせて通信手法やレイアウトを変更し、最適化を図っている。  前述のような教員間の情報共有だけではなく、本学障害者高等教育支援研究センター(聴覚障害系)では学外の聴覚障害児・者を含む障害児・者へのコミュニケーション指導も数多く実施されており、そのための技術的な支援も実施している。図4に示したのは美浦養護学校の生徒に対する遠隔による発音指導の様子である。  これらのプログラムでは、手話によるコミュニケーションや音声品質を考慮し、フレームレートは20〜30[fps]、音声サンプリングレートは22.05[kHz]モノラルとしている。また占有する通信帯域低減のための特殊な機能(無音とみなす閾値設定による音声送信停止等の機能)を稼動させないように設定した。 3.1 聴覚障害関連学会(全日本聾教育研究大会情報教育分科会/2005年10月19日開催)に対する技術支援  情報分科会における技術支援のために、以下の4種類の通信プログラムを開発し、会場からの発表や全国各地での視聴や発表を実現するために以下のシステムを開発し、利 @インターネット放送用プログラム Aインターネット放送受信用プログラム B多地点間通信用プログラム(NTUTマルチカンファレンス) C文字通信用(チャット)プログラム  情報教育分科会における遠隔地からの研究発表に上記プログラムBおよび@を利用した。また、国内の希望視聴者に対してもネットワーク配信を行い、プログラムAを利用して実施した。各サイトの技術スタッフ間の通信手段としてはプログラムCを利用した。遠隔地からの発表は東京都内のろう学校2校各1件からの発表があった、また、視聴者は、京都、大分、東京の各ろう学校、および本学であった。各プログラムでの通信の様子を図5から図8に示す。また、分科会全体の様子を図9に示す。  システム運用の際、技術担当スタッフは分科会参加の教員で担当した。分科会は7時間10分の間実施され、その間、各プログラムは継続的に利用された(実質5時間弱)。準備段階も含め放送プログラム@およびAへの最大同時接続数は10、多地点テレビ会議プログラムBへの最大同時接続数は7であった。 3.2 遠隔地間における授業や聴覚障害児・者間交流に対する技術支援  図10に本学と長野松本ろう学校間の遠隔授業の様子を示す。本学の教員が講義を行い、本学の学生と遠隔地の松本ろう学校の講義室にいる学生が受講した。両方の学生からの発言も比較的円滑に行われた。講師側に配置されたプロジェクタに松本ろう学校側の学生が映し出され、また、本学学生の背後にも、松本ろう学校の様子を講師が確認しやすいように、プラズマディスプレイを配置した。音声の送受信には、NEC社製Voicepoint miniやSYNNEX社製VC-1M等を単独またはマイクロホンやスピーカーを外部接続し、利用した。  図11に本学と鹿児島県の難聴学級を有する名瀬小学校での交流授業の様子を示す。主に聴覚障害に関する啓蒙的な内容の交流を実施することができた。複数かい実施している通信は前述のシステムやSony社製テレビ会議システムPCS-1やG70そしてNTT社製フレッツホンを利用して実施した。  上記のような鹿児島県内や長野県内の聴覚障害関連の教育機関との連携による通信は遠隔授業のみならず、教員間のコミュニケーション指導等に関する情報共有等に利用されつつある。この様な試みは、本学と聴覚障害関連の教育機関との間で継続的に行われている。 3.3 ビデオ会議システムを利用したコミュニケーション手法に関する講義での利用  3.1から3.3で紹介したプログラム群は、一部の例外を除いて基本的に同一のプログラムコンポーネントを利用または改良して実現している。2点間の通信帯域が小さい場合には、限度はあるがそれに応じた通信プログラム構成とすることが可能である。逆に全く問題が無い場合には映像のフレームレートや画質、およびそれらのノイズ除去機能などを付加することもでき、円滑なコミュニケーションを保証できるような設定も実現できる。このような技術を活用し、意図的にフレームレートや画質を低下させたものなど数パターン用意し、手話、指文字そして口形がどのようなレベルで読み取りが困難になるのか、また、そのような状況ではどのような工夫によって正確なコミュニケーションを維持したら良いか等、実体験を通して論じさせる実習等も実施した(図12)。 3.4 システム運用時間数等について  本学に設置した通信用サーバーの運用時間は2005年4月から2006年3月の間においては、のべ運用時間は約554時間であった。尚、システムそのものを無償配布しており、現在、独自運用している2機関の運用時間は含んでいない。のべ運用時間は2名でシステムを1時間利用した場合、2時間として算出した。上記のようなインターネットを利用したサービスや字幕提示システムでのユーザー接続回数は、今年度の半年間で3000回を超えている。このような事からも、遠隔によるコミュニケーションの要望が非常に強いということが推察される。  尚、インターネットを利用したコミュニケーションに関する技術的な相談件数も72回と多かった。 図2 2者間通信用プログラム(NTUT カンファレンス2) 図3 4者間通信用プログラム(NTUT カンファレンス4) 図4 遠隔による発音指導の様子 図5 インターネット放送用プログラム 図6 インターネット放送受信用プログラム 図7 多地点間通信用プログラム(NTUTマルチカンファレンス) 図8 文字通信用(チャット)プログラム 図9 全日本聾教育研究大会 情報教育分科会会場の様子 図10 遠隔地間講義の様子(筑波技術大学 - 長野松本ろう学校) 図11 交流授業の様子(筑波技術大学−鹿児島県立名瀬小学校(聴者含)) 図12 TV会議システム上での手話や指文字等によるコミュニケーション実習 4.まとめ  遠隔地リアルタイム字幕提示システムや遠隔地情報保障システムでのノウハウを活かし、遠隔地間におけるコミュニケーションのためのシステムを複数試作し、各教育機関のニーズに合わせて運用した。遠隔地間の交流授業のみならず、離島や僻地等の教育機関と地域の中核となるろう学校や高等教育機関を通信システムで結ぶことによって、多くの社会的な貢献が見込めるであろう。本報告では、これまで実施してきた事項の一部について触れた。今後、継続的に実施していく遠隔地間のコミュニケーション関連の技術支援から遠隔地間の通信だからできる事項、そして遠隔地では困難であり不向きである事項を判別して行きたい。また、聴覚障害関連の知識や経験の共有のために最適な手法に関する研究開発を実施したい。 文献 [1] 三好 茂樹,河野 純大,西岡 知之,石原 保志,白沢 麻弓,西川 俊,小林 正幸,“Webベースで実現した新しいリアルタイム字幕提示システムの開発とその経緯”,ヒューマンインタフェースシンプジウム2004:661-664,2004. [2] 三好 茂樹, 河野 純大, 西岡 知之, 石原 保志, 白沢 麻弓,西川 俊,小林 正幸,“Webベースのリアルタイム字幕提示システムの開発”,第38回全日本聾教育研究大会(三重大会)研究集録: 167-168 ,2004. [3] 河野 純大,三好 茂樹,西岡 知之,加藤 伸子,村上 裕史,内藤 一郎, 皆川 洋喜, 白澤 麻弓, 石原 保志, 小林 正幸,“遠隔地リアルタイム字幕提示システムを用いた専門性の高い講義に関する基礎的検討”,電子情報通信学会技術研究報告. WIT-2004-83:57-60,2005. [4] 三好 茂樹,河野 純大,西岡 知之,石原 保志,白澤 麻弓,西川 俊,小林 正幸,“Webベースのリアルタイム字幕提示システムとその利用形態”, 聴覚障害教育工学, VOL.28, NO.1; 6-10, 2004. [5] 三好 茂樹,河野 純大, 西岡 知之, 加藤 伸子, 村上 裕史,内藤 一郎, 皆川 洋喜, 白澤 麻弓, 石原 保志, 小林 正幸,“遠隔地リアルタイム字幕提示システムにおける字幕作成者に対する補助情報提示について”,電子情報通信学会技術研究報告, WIT2005-5: 35-38, 2005. [6] 三好 茂樹, 西岡 知之, 河野 純大, 加藤 伸子,村上 裕史,内藤 一郎, 皆川 洋喜, 白澤 麻弓, 石原 保志,小林 正幸,”ゼミ形式授業の遠隔情報保障におけるWeb版リアルタイム字幕提示システム”, ヒューマンインタフェースシンポジウム2005 講演論文集,Vol.2: 661-664,2005. Developments of Web-based Communication Systems to for Deaf and Hard-of-hearing Shigeki MIYOSHI1) Sumihiro KAWANO2) Tomoyuki NISHIOKA2) Mayumi SHIRASAWA1) Hiroki MINAGAWA2) Haruhiko CHONAN1) Nobuko KATO2) Hiroshi MURAKAMI2) Ichiro NAITO2) Hayato KUROKI1) Yasushi ISHIHARA1) and Masayuki KOBAYASHI1) 1) Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, National University Corporation Tsukuba University of Technology 2) Department of Industrial Information, National University Corporation Tsukuba University of Technology Abstract: We developed some video conference systems which teachers could supported a specialized instruction skill mutually. Appropriate frame rate and sound quality are required so that deaf and hard-of-hearing communicates smoothly. Developed systems were used by many events, and had been improved while various events. Keyword:Internet, Video conference system, Flash plug-in, Deaf and Hard-of-hearing