二科「触って観る」ポスター・アートの概略報告 筑波技術大学 安田 輝男 生田目 美紀 岡本 明 長岡 英司 井上 征矢 要旨:視覚に障害のある人も、作品に手で触れて鑑賞できる「触って観る」ポスター・アートの展示を、本学と二科会との共同企画で実施した。その実施状況と成果についての概略を報告する。 キーワード:視覚障害,触覚,触覚伝達デザイン,ユニバーサルデザイン,アート 1.はじめに  視覚に障害のある人にもポスター等の作品を鑑賞してもらうために立体ポスターを試作・制作してきた本学研究チームと二科会との連携により、平成19年9月5日から17日まで、六本木の国立新美術館において二科「触って観る」ポスター・アートの特別コーナーが開設された(図1)。  この特別企画は、視覚に障害のある人も美術館へ足を運んでもらうことを促進するための社会的にも大きな意義のあることであり、二科会という日本を代表する美術団体と連携して行うことは、さらに意義のあることとの認識のもとに実現されたものである。  展示された立体ポスターは、いずれも本年度の二科展デザイン部の受賞作品で合計24点が展示された。  尚、本学デザイン学科3年生の森千明の入選作品も、その一つとして立体化され展示された。 2.「触って観る」ポスター・アートについて  今回展示された「触って観る」ポスター・アートは、1原作の縮小カラーコピー、2B4サイズの立体ポスター・アート、3画像説明の点字及び墨字の3要素から構成されている(図2参照)。このように構成されたパネル24セットが平台に2列に並べられ、鑑賞者に供せられた。  さらに、当特別企画の意義を理解してもらうため、当特別企画の趣旨説明の点字版、英語版も準備した。 3,視覚障害者、青眼者で賑わう特別コーナー(図3)  本特別コーナーは、二科展オープン初日から視覚に障害のある方々、ボランティアの方々をはじめとして、一般の方々まで実に多くの鑑賞者が訪れ、これまでの美術館での鑑賞の常識を覆す「触って観る」体験に予想を遙かに上回る大きな反響があった。  メインの対象者である視覚に障害のある方々には立体ポスターや点字に実際に触っていただき、貴重なアドバイス等をいただくことができた。視覚障害関係のボランティアの方々も多数来場され、その方々が本展示を口コミで伝えていただいた結果、新たな来場者にも体験していただくことができた。また、一般の鑑賞者の方々にも、大変関心を持っていただき、本企画の社会的意義についても理解していただき、温かい応援のメッセージもたくさんいただいた。  本特設コーナーを訪れた方の中には、「親戚に視覚障害の人がいるけれど、筑波技術大学の名前は今日初めて知りました。伝えたいと思います」との発言もあり、本学を理解し、知っていただくための誠にいい機会であった。 図1 特別コーナー 図2 「触って観る」ポスター・アートのパネル構成 図3 賑わう特別コーナー 4.アンケートの実施について  今回の展示に関して、一般対象向けアンケート及び視覚障害者対象のアンケートの2種類を行った。アンケートの分析結果等は、本研究プロジェクトメンバーの専門領域を踏まえて各種学会、研究会等で発表される予定である。 5.本企画の反響と今後の展望  このユニークな取り組みに、テレビ、新聞、視覚障害関係機関誌などから多くの取材が入り、マスコミにより全国にも紹介された(図4)。上野の森から六本木に移った初めての二科展へ訪れた観客数は10万人を超え、なんと前回の2倍強に達したとのことである。  前述4のように、本企画において行われたアンケート調査の分析を踏まえて、「触って観る」立体ポスターの精度をさらに高め、今回は点字で画像の情報支援をしたが、さらに音声情報を加えた鑑賞システムについても検討してみたい。また、われわれの研究チームでは既に視野に入れていることではあるが、画像の色に関しても何らかの方法で鑑賞できないかとの要望もあがっていたので、この分野でも速やかに研究を進めていきたい。  こうした研究を踏まえて、次回の「触って観る」ポスター・アートにのぞみたい。  この試みは、ユニバーサルアート、ユニバーサルデザインとも言える新しい価値観による新しいアート領域や鑑賞領域の普及・拡大を視野に入れたものである。この分野での展開も視野に入れて進めていきたい。  また、「触って観て」伝わるデザインという観点から、「触覚伝達デザイン」という新しい概念をここに提示しておきたい(「視覚伝達デザイン」の対極概念として)。 図4 取材風景(写真左:二科会デザイン部代表今村 昭秀氏) 謝辞  二科「触って観る」ポスター・アート展示に際しては、二科会の皆様方から多大なるご支援・ご協力をいただきました。また、日本を代表する美術団体「二科会」主催の二科展にて、「触るポスター・アート」を展示できたことは、われわれの研究にとって大変意義があり、価値のあることです。ここに、感謝の意を表する次第です。 尚、本研究は、平成18年度筑波技術大学学長裁量経費、及び平成19年度科学研究費(課題番号19653119)による研究である。 Report of the Outline of “See by Touching” Poster and Art in NIKA Exhibition YASUDA Teruo, NAMATAME Miki, OKAMOTO Akira, NAGAOKA Hideji and INOUE Seiya National University Corporation, Tsukuba University of Technology Abstract: We have practiced the “See by Touching” Poster and Art exhibition, which can be appreciated by a visually impaired user, with the NIKA Association. We report an outline of the work and the results. Keyword: Low vision, The sense of touch, Touch communication design, Universal design, Art