授業の一環としての「2007年度 二科展デザイン部等受賞作品」の概略報告 筑波技術大学 総合デザイン学科 安田 輝男 生田目 美紀 井上 征矢 要旨:本報告は、2007年度における、本学デザイン学科の授業の一環として制作した学生作品を二科展デザイン部等へ応募した成果、およびその背景となった授業内容、学生作品についての概略を報告するものである。 キーワード:視覚伝達デザイン,聴覚障害,アート,広告,二科展デザイン部 1.はじめに  視覚伝達デザインは、聴覚に障害がありデザインを職業として社会自立を目指す学生にとって、期待できる領域である。こうした考えに基づき、その能力を実践の場で磨くため、3年次の授業「伝達デザイン特別論・演習」の一環として、2000年度より二科展デザイン部門へ毎年応募。以後順次、2年次の授業「伝達方法論・演習」、1年次の授業「コンピュータグラフィックス基礎論・演習」等の一環としても、二科大阪展「ポストカードデザイン大賞」、二科茨城支部展デザインの部等にも授業の成果物としての作品を応募し続けている。  本年度の受賞実績は下記の通りで、2000年度より8年間連続受賞となる。 [二科茨城支部展デザインの部] A部門(自由テーマ)1名応募 茨城県知事賞 B部門(イラストレーション) 2名応募 1名 茨城新聞社賞 1名 新人賞 [二科展デザイン部 ] A部門(自由テーマ・ポスター)1名応募 準入選 C部門(特別テーマ・ポスター) 「JAPANブランド」をテーマとしたポスター」 6名応募 1名入選 1名準入選 (教員1名応募・入選) [二科大阪展「第5回ポストカードデザイン大賞」] テーマ自由:4名応募 2名入選 2.各授業の構成 2.1 「伝達デザイン特別論・演習」の授業の構成  3年次を対象とするこの授業においては、講義では、広告デザインの基礎的なアート手法を実際の広告事例のデザインを参照しながら具体的に学習する。演習では、実際のデザインの仕事(グラフィック広告デザイン、エディトリアルデザイン等)をするうえで役にたつスキルを身につける。  そのスキルを習得するために次に掲げた①~⑭の主なアート手法を教授する(手法の詳細は「テクノレポートVol.9(1)の『視覚伝達デザイン教育におけるコンペティション応募への取り組み』」に記載)。  ①モノデカアート②幕の内アート③告知アート④ビッグリアート⑤喜怒哀楽アート⑥遊技アート⑦タイポアート⑧記号アート⑨スキャンダルアート⑩ブロマイドアート⑪アニマルアート⑫BABYアート⑬キャラクターアート⑭パロディアート  授業での成果物としては、二科展デザイン部等への応募ポスター作品等がある。[1]~[14],[16]~[20] 2.2 「伝達方法論・演習」の授業の構成  2年次を対象とするこの授業においては、コミュニケーションのための有効な表現をどのように発想するか、また情報伝達の方法(プレゼンテーション)を体験的に習得する。特に「デザインコンペや広告賞等への応募作品」制作では、鑑賞者をいかに惹き付けるかの視覚伝達デザインの表現アイデア、技法の学習を行う。授業での成果物としては、二科大阪展「ポストカードデザイン大賞」「朝日広告賞」「毎日広告デザイン賞」応募作品等がある。 2.3 「コンピュータグラフィックス基礎論・演習」の授業の構成  1年次を対象とした必修授業である。デザイン業界における主流画像ソフトおよびパソコンの初歩的論・演習を学ぶ授業である。この授業では、基本的な知識と技術を関連づけながらコンピュータグラフィックスへの理解を深め、デザインにおける表現手段を拡張することを目的としている。初めてパソコンを経験する学生から豊富な経験を持つ学生まで、対象学生のスキルは幅がある。  授業で取組むアイテムは,ポストカードから始まり、最後はポスターへと、徐々にサイズが大きくなるように計画している。授業での成果物としては、二科茨城支部展デザインの部応募作品、二科大阪展「ポストカードデザイン大賞」応募作品、筑波技術大学学生募集ポスター等がある。[15],[19]~[20] 3.応募への取り組み 3.1 [二科茨城支部展デザインの部 2007年度 受賞作品]  2007年 第45回二科茨城支部デザインの部募集作品テーマは、A部門(自由テーマ)・B部門(イラストレーション)であった。2年次生が応募し、A部門で茨城県知事、B部門で茨城新聞社賞、新人賞を受賞した。 作品①望月悠加(A部門 茨城県知事賞) ・タイトル:「ミツ造りの職人達」  手作りのペーパークラフト作品による300匹余りの蜜蜂で構成されている。虫マニアの作者ならではのリアル感あふれる力作である。 作品②植田祐加(B部門 茨城新聞社賞) ・タイトル:「Elephant is now in danger of total destruction」  パターン的なイラストレーション手法で作成。シンプルな構成が力強さを醸し出している。 作品③佐藤季司(B部門 新人賞) ・タイトル:「Music Life」  ブルー主体の色づかい。そよ風に乗って爽やかな音色が聞こえてきそうなイラストレーションである。 3.2 [二科展デザイン部 2007年度 受賞作品]  2007年 第92回二科展デザイン部募集作品テーマは、A部門(自由テーマ・ポスター)・B部門(自由テーマ・イラスト)・C部門(特別テーマ「『JAPANブランド』をテーマとしたポスター」)・D部門(マルチグラフィック)であった。2年次生1名がA部門に、3年次生6名がC部門に応募し、1名が入選、2名が準入選した。 作品④森 千明(C部門 入選) ・タイトル:「日本もね、世界に自慢できる物が色々あってね、結構面白いもんですよ」  デザイン的に洗練された日本の家紋をモチーフに、日本の得意とする伝統技術から先端技術をユニークに表現。 作品⑤小野智美(C部門 準入選) ・タイトル:「JAPAN IS DELICIOUS!!」  世界にも通じる日本食・寿司(握り寿司)をモチーフに、日本の伝統からハイテク技術を楽しく表現。 作品⑥望月悠加(A部門 準入選) ・タイトル:「ミツ造りの職人たち」  上記作品1に対する諸々のアドバイスのもとに、リメイクした作品。女王蜂の強調表現、タイトル文字の表現に工夫が見られる。 作品7安田輝男(C部門 *教員 入選) ・タイトル:「暖簾に腕あり」 暖簾の一枚を日の丸に見立てて、伝統から最先端まで世界へ羽ばたく日本を表現。「暖簾に腕押し」を下敷きにしたキャッチフレーズも愉快。 3.3 [二科大阪展「第5回ポストカードデザイン大賞」入選作品]  テーマは自由である。2年次生4名が応募し、2名が入選した。 作品⑧佐藤季司(入選) ・テーマ:「Juwel」  白地にブルーを基調としたシンプルなイラストレーション。清楚な魅力が漂う。 作品⑨望月悠加(入選) ・テーマ:「猛虫」  戦う甲虫の表面を、猛獣の表皮の模様に変換したユニークでコミカルなイラスト表現である。 4.おわりに  聴覚に障害がありデザインを学ぶ学生にとって、視覚伝達デザインのスキルを習得することは、社会で自立し、自己実現するために必須である。そうしたスキルを社会のデザイン現場との関わりの中で習得するために、本年度も、授業の一環として、二科展関連部門へ応募し上記のような実績に結びついた。  今後とも、授業の一環としてのコンペティションへの応募を積極的に継続し、さらに実績を重ねていきたい。 デザイン学科のこれまでの二科展等受賞実績 [2000年度 二科展デザイン部] A部門(自由テーマ):1名応募 準入選 B部門(イラストレーション):1名応募 C部門(特別テーマ):3名応募 1名準入選 「『2001ボランティア国際年』をテーマとしたポスター・キャラクター」 [2001年度 二科展デザイン部] C部門(特別テーマ):5名応募 全員準入選 「『愛知万博』をテーマとしたポスター」 [2002年度 二科展デザイン部] C部門(特別テーマ):7名応募 3名入選 「『2003年 日・ASEAN交流年』をテーマとしたポスター」 [2003年度 二科展デザイン部] C部門(特別テーマ):7名応募 2名準入選 「『愛・地球博』をテーマとしたポスター」 [2004年度 二科展デザイン部] C部門(特別テーマ):5名応募 2名準入選 「『愛・地球博』をテーマとしたポスター」 [2004年度 二科大阪展 「第2回ポストカードデザイン大賞」] テーマ自由:12名応募 4名入選 [2005年度二科茨城支部展デザインの部] C部門(特別テーマ)1名(2点)応募  茨城県知事賞および入選 「『第56回全国植樹祭』をテーマとしたポスター」 [2005年度 二科展デザイン部 ] C部門(特別テーマ)8名応募 1名入選 7名準入選 「『地球環境を考える』をテーマとしたポスター」 [2005年度二科大阪展 「第3回ポストカードデザイン大賞」] テーマ自由:20名応募 3名入選 [2006年度二科茨城支部展デザインの部] B部門(イラストレーション)1名応募 1名入選 C部門(特別テーマ)「『第23回国民文化祭・いばらき2008』をテーマとしたポスター」 1名応募 茨城県知事賞 [2006年度 二科展デザイン部 ] C部門(特別テーマ)6名応募1名入選2名準入選 「『地球環境とエネルギー』をテーマとしたポスター」 *教員1名応募・入選 [2006年度二科大阪展 「第4回ポストカードデザイン大賞」] テーマ自由:11名応募 3名入選 [2007年度二科茨城支部展デザインの部] A部門(自由テーマ)1名応募 茨城県知事賞 B部門(イラストレーション)2名応募 1名 茨城新聞社賞 1名 新人賞 [2007年度 二科展デザイン部 ] A部門(自由テーマ)1名応募 準入選 C部門(特別テーマ)6名応募 1名入選 1名準入選 「『JAPANブランド』をテーマとしたポスター」 *教員1名応募・入選 [2007年度二科大阪展 「第5回ポストカードデザイン大賞」] テーマ自由:4名応募 2名入選 文献 [1] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集1999,二科展デザイン部,1999 [2] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2000,二科展デザイン部,2000 [3] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2001,二科展デザイン部,2001 [4] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2002,二科展デザイン部,2002 [5] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2003,二科展デザイン部,2003 [6] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2004,二科展デザイン部,2004 [7] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2005,二科展デザイン部,2005 [8] 二科展デザイン部:二科展デザイン部作品集2006,二科展デザイン部,2006 [9] 安田 輝男:パロディ広告大全集全一巻,第1版,誠文堂新光社,東京,1984 [10] 博報堂アート手法研究プロジェクト:FIFTEEN ART EDGES,株式会社博報堂,東京,1989 [11] 大貫 卓也:大貫 卓也全仕事,第1版,マドラ出版,東京,1994 [12] 安田 輝男:あの広告はすごかった!,第1版,中経出版,東京,1997 [13]安田 輝男:広告デザインにおけるパロディの研究,デザイン学研究第46回研究発表大会概要集,24- 25,1999 [14] 安田 輝男・鈴木 昭男:広告表現評価の尺度開発(上)-「おっ!」「なるほど!」と思われる広告-日経広告研究所報207号,2-7,2003 [15]生田目 美紀:“筑波技術短期大学学生募集ポスターとデザイン教育”,筑波技術短期大学テクノレポート,Vol.9(2),p.1-5,2002. [16] 安田 輝男:「視覚伝達デザイン教育におけるコンペティション応募への取り組み」, 筑波技術短期大学テクノレポート,Vol.9(1),p.87-92,2002 [17] 安田 輝男:「二科展デザイン部『入選作品&応募作品』の概略報告」,筑波技術短期大学テクノレポート,Vol.10(1),p.15-19,2003 [18] 安田 輝男:「授業の一環としての『2003~4年度二科デザイン部受賞作品』の概略報告」,筑波技術短期大学テクノレポート,Vol.12,p.15-20,2004 [19] 安田 輝男・生田目美紀・井上征矢:「授業の一環としての『2005年度二科デザイン部等受賞作品』の概略報告」,筑波技術大学テクノレポート,Vol.13,p.25-30,2006 [20] 安田 輝男・生田目 美紀・井上 征矢:「授業の一環としての『2006年度二科デザイン部等受賞作品』の概略報告」,筑波技術大学テクノレポート,Vol.14,p.99-104,2007 図1 作品① 望月 悠加さんの作品 図2 作品② 植田 祐加さんの作品 図3 作品③ 佐藤 季司さんの作品 図4 作品④ 千明さんの作品 図5 作品⑤ 小野 智美さんの作品 図6 作品⑥ 望月 悠加さんの作品 図7 作品⑦ 教員 安田 輝男の作品 図8 作品⑧ 佐藤 季司さんの作品 図9 作品⑨ 望月 悠加さんの作品 Report of Outline of “Winning School Works which are Applied” for NIKA Design Part, 2007 YASUDA Teruo, NAMATAME Miki and INOUE Seiya Department of Synthetic Design, National University Corporation Tsukuba University of Technology Abstract: We have reported on and outlined the results of the School works which are applied for NIKA Design Part, 2007, and the Class contents which are the background of the results, and the Winning School Works. Keyword: Visual communication Design, The hearing impaired, Art, Advertisement, NIKA design part