次世代のCPUとOSに対する視覚障害補償 障害者高等教育研究支援センター 村上 佳久 要旨:Windows Vistaが登場して2年が経過し、Service pack 1(SP1)もリリースされ、盲学校や視力障害センターなどでもWindows Vistaの導入例が増えてきている。しかし、多くの視覚障害を有するユーザがWindows Xpを使い続けている現状もある。Windows Vistaに対して、視覚障害者が利用する環境を整えることは重要な問題である。ここでは、Windows Vistaの視覚障害補償と、新世代のCPUやマザーボード、新しいWindows OSなどへの対応などについて、その課題を検討する。 キーワード:視覚障害補償、Windows Xp、Windows Vista、Windows 7 1.はじめに  筑波技術大学(筑波技術短期大学時代を含む)では、公開講座として、「視覚障害者のための情報基礎」を15年以上行ってきている。平成20年度の公開講座でも、Windows Vistaに対する対応が講座内容の中心である。また、ここ数年は、「各学校の状況に合わせて出張して公開講座を開いてほしいという」要望が増加しており、出張公開講座も実施しており、Windows Vistaの設定が中心課題である。従来から慣れ親しんだWindows Xpと異なり、Windows Vistaをどのように設定して、使いこなすのか。また、どのように教育するのかといった、要望がよく寄せられる。  ここでは、Windows Vistaの視覚障害補償は、どのように行われるのか、また、全盲者の利用は可能なのかと言う課題とともに、新世代CPUやマザーボードに対する対応やデジタル時代のマルチメディア対応、例えばデジタル・ハイビジョン(Digital Hi-Vision)や地上デジタル放送などの利用についても検証する。さらに、次世代CPUやマザーボード、OSなどの対応に向けた取り組みについても調査・検討する。 2.学校現場でのコンピュータ機器の設定  平成11年から高等学校に登場した教科「情報」は、情報機器の操作習得と情報リテラシーの確立を目指して導入された。普通教科であるため、情報科の普通教員免許が必要である。  盲学校では、従来、専攻科において理療科や理学療法科の「理療情報処理」「理学療法情報処理」等と共に、養護訓練などでパソコン指導などが行われてきた。これらを担当するのは、長年盲学校に勤務する理療科の教員らであった。しかし、普通教科「情報」の登場と共に、盲学校などにも「情報」担当の教諭が配属されるようになってきた。一般に普通教科である「情報」担当の教員は数年で転勤することが多いため、視覚障害特有の設定が理解できない場合も多く、長年盲学校に勤務する理療科や保健理療科の視覚障害を有する教員と情報機器設定上の問題でトラブルとなることも少なくないことが、出張公開講座などで意見として寄せられている。  では、盲学校や視力障害センターなどの視覚障害者を対象とした教育機関で行われている、情報機器の設定で何が問題なのであろうか。  一般的に盲学校や視力障害センターの情報機器を設定する場合は、パソコンの納入設定業者が、視覚障害補償を理解しているわけではない。通常の事務や学校現場で行うところの一般的な設定を行い、サーバ類と接続し、インターネット接続やセキュリティ設定を行うところまでが業者の行う通常処理である。しかし、視覚障害を対象とした教育諸機関では視覚障害補償用のソフトウェアなのどの設定がある。さらに問題は、生徒・児童・入所生等が利用する各端末の設定である。様々な視覚障害補償ソフトウェアを導入する場合、視覚障害補償ソフトウェアと一般のソフトウェアとの相性問題や、視覚障害補償ソフトウェアとハードウェアの相性問題が発生することが知られている。  したがって、ソフトウェアを導入する順番やハードウェアとの相性から、視覚障害補償ソフトウェアが動作しなかったり、不安定になったりすることがあり、これが視覚障害者のパソコン設定を困難にしている。  視覚障害補償ソフトウェアとハードウェアとの相性問題は解決不可能な場合もあり、機器を変更するしか方法がない場合もある。したがって、パソコン機器導入前に様々な検証を行って問題を解決しておくことが重要となる。  しかし、ほとんどの場合、パソコンの機器などは都道府県単位で教育委員会が決定するため、学校側にパソコン機器の選択権はない。校長の強いイニシアティブで教育委員会と折衝して、ソフトウェアの交渉などを行わない限り、パソコンは導入されても、ほとんどの機能が使えない例も散見される。したがって、学校現場での教員の設定能力に学校間の格差が出ると言っても過言ではない。  また本来、盲学校では小・中・高等部と専攻科で少しずつ設定は異なるはずであるが、同一の設定で授業を行うことも少なくないと思われる。例えば、盲学校の小学部で、「ゆううつ」と入力して、「憂鬱」と変換することは、学習指導要領の漢字学習の面からも許されないであろう。  長年、盲学校に勤務する視覚障害補償ソフトに詳しい理療科の教員が、設定をしたりすると、普通教科の情報科教員との間で、視覚障害補償ソフトウェアについての理解がないことに起因する問題が起こる。このことが理療科の教員とパソコン設定上の問題となる最大の要因と思われる。 3.視覚障害補償とパソコン 3.1 Windowsの歴史  ここでは、現在もっとも利用頻度の高いパソコンとしてWindowsを取り上げる。はじめにWindows日本語版の歴史と出荷時期を下表に示す。 Windows 1.0 1989/06* Windows 2.1 1988/09* Windows 3.0 1991/01* Windows 3.1 1993/05* Windows NT3.1 1994/01 Windows NT3.5 1995/01 Windows 95 1995/11* Windows NT4.0 1996/12 Windows 98 1998/07* Windows 98 se 1999/09* Windows 2000 2000/02 Windows Me 2000/09* Windows Xp 2000/11 Windows Vista 2007/01 Windows 7 2009-2010予定 (*non-protect mode)  この中で視覚障害者の利用が爆発的に増えたのは1999年9月のWindows 98 2nd Editionからである。これは、画面読み合成音声ソフトウェアをはじめ、視覚障害補償ソフトウェアが多く発表されたためで利用者も非常に多い。  その後、Windows Xpがこれに代わるようになった。非常に安定なOSであるWindows Xpは、多くの視覚障害補償ソフトウェアが発表され、Windows Vistaが発売されているいまでも、視覚障害者の利用が最も多いOSである。Windows NT5として登場したWindows 2000の改良型OSであるWindows Xpは非常に安定であり、販売されてから、8年以上が経過したが、未だに健在である。これは、Windows 2000がWindowsNT4の改良版として、安定性に最大限の努力が払われたことがその要因の1つであろう。  一方、Windows Vistaは、Windows Xpの後継OSとして2006年に登場した。Windows Version 6.0でWindows Xpよりもメジャーバージョンアップ製品という位置づけである。基本的にはWindows Xpから次の点が変更となった。 1)GUIの変更:Luna(Xp)からAero(Vista)へ 2)セキュリティ向上:Administratorの権限強化 3)フォントの変更:メイリオの導入、Adobe-Japan 1-5採用 4)フォント字形変更:MS明朝、MSゴシック、メイリオにJIS2004字形 5)DirectX強化:GUIへの直接出力を強化 6)anyCore CPU対応:複数コアのCPUに対応し最適化可能 7)カーネル変更:カーネルを最適化しコンパクトに  1)のGUIである、Windows AeroはCPUをなるべく利用せずGPUに依存するものになった。Xpのカーネル改良により、複数のCPUコア(any Core)に対応し、負荷分散できるようになった。  しかし、一方でCPUやGPUの性能、メモリやハードディスクの容量など非常に多くのリソースを必要とする。そのため、企業などを中心に、Windows Vistaのサービスパック1(Service Pack 1)が出荷されても、Windows Xpを使い続けるユーザが続出し、マイクロソフトもこれを認めざるを得ないこととなった。  既に次期OSであるWindows 7は2009~2010年にリリースされるため、Windows XpからWindows Vistaへのバージョンアップや信頼性は、揺らいでいるのが一般企業の現状である。しかし、学校現場などでは、4年ごとのリース契約によって、既にWindows Vistaが導入されている例も多く、特に盲学校(視覚障害特別支援学校)でもその対応に苦労しているのは前述の通りである。  前述のように、Windows Vistaは非常にハードウェアの能力を要求とする。Microsoft社の説明と異なり、視覚障害者が実際に使用する場合には、経験的に次のようなリソースを要求する。 CPU:Core 2 Duo 2.0GHz以上 GPU:Direct X 10.1をサポートするもの メモリ:2GB以上(合成音声を利用する場合) HDD:80GB以上  実際には、コストの面もあるが、視覚障害者が長期導入するなら、以下のスペックの方が望ましいものと思われる。 CPU:Core 2 Quad 2GHz以上 GPU:Direct X 10.1サポートDual Display対応 メモリ:2GB以上 HDD:250GB以上  Windows Vistaでは、Windows Experience Index(WEI)と呼ばれるスコアがあり、そのパソコンのWindows Vistaにおける性能を評価するようになっている。このスコアは、5.0が非常に優秀、1.0が非常に劣るとされている。しかも、この中で最低数値がそこ機種のスコアとなる。  例として電子図書閲覧室に2006年に導入された機種(DELL Optiplex GX620)は、次のようなWEIスコアとなった。 CPU:Pentium D 3.2GHz → 5.1 GPU:ビジネス用機能 → 3.0 GPU:Direct X 10サポート(Intel 945G)→ 3.0 メモリ:2GB → 5.0 HDD:160GB → 5.0  このスコアの数値によって、実はWindows VistaのGUI環境が決定される。GPU性能が3.0以上でないと、新しいGUIであるAeroは導入されない。Indexの最低数値が3.0なので、この機種はIndex 3.0となる。  ちなみに2005年に購入したパソコン(DELL Optiplex GX280)は以下のスペックであるが、WEIのスコアは以下のようになる。 CPU:Pentium 4 3.2GHz → 4.2 GPU:ビジネス用機能 → 1.9 GPU:Direct X 9サポート(Intel 915G)→ 1.0 メモリ:1GB → 4.5 HDD:80GB → 4.8 となり、Index 1.0となり、もはやAeroの導入は出来ない。  つまり、2年前の機種では機能不足と言うことになる。これは機器導入において新しい機器を導入するに等しく、ハードウェアの敷居が非常に高いことを示している。  しかし、WEIは、ただの目安であり、特にGPUに対して厳しい。したがって、ビジネス向けの機器では高性能なGPUは必要ないので、Windows Vista BusinessでGUIとしてAeroを導入しなければ、比較的軽快に動作する。この時のWEIのGPUは3.0程度である。また、GPUの搭載メモリが733MB以上で、ミドルレンジ以上のGPUであれば、WEIのGPUは、最高数値の5.9以上となるため神経質になる必要はない。あくまでも、軽快な動作の目安にすれば良いであろう。 4.Windows XpとWindows Vistaの比較  Windows XpとVistaの比較を行うため、電子図書閲覧室の機器を利用して、ハードディスクを取り替えて、Windows XpとVistaの実際の使用環境における速度を比較検証し、各種ソフトウェアの起動時間を比較した。但し、XpとVistaでソフトウェアのバージョンが異なるため同一の比較はできないが、実使用における体感速度の違いは比較できると思われる。さらに、最新のスペックを有するパソコン機器を秋葉原で調達して組み立て、Windows Vistaを導入して比較した。一方、最近市場に普及し始めた、超小型の5万円台のノートパソコンNetBookについても検証するため、このNetBookに内蔵されるCPUであるAtomと、デスクトップ用のAtomについて比較した。さらに最新のCPUであるIntel Core i7についても検証を行った。 4.1 起動時間  OSの比較を行うために起動する時間を指標として実験を行った。  その1~3では、同一容量のハードディスクを取り替えてWindows XpとWindows VistaのOSと様々なアプリケーション・ソフトの起動時間を比較した。  その4は、最新のchipsetであるIntel G45 Expressとの性能比較のためWindows Vistaのみ実施した。  その5と6は、超省電力CPUであるIntel Atomとの性能比較のためで、ノート用はSingle Core Atom、デスクトップ用はDual Core Atomである。  その7は、最新のCPUであるCore i7である。各場合のスペックは以下の通りである。 その1 Single CPUでの比較 DELL Optiplex GX280 CPU:Intel Pentium4 3.2GHz, HDD 80GB, RAM 1GB, Chipset Intel 915G Express GPU:Intel Graphics Media Accelerator(GMA) 900(on board) その2 Dual CPUでの比較 DELL Optiplex GX620 CPU:Intel PentiumD 3.2GHz, HDD 160GB, RAM 2GB, Chipset Intel 945G Express GPU:Intel GMA 950(on board)+DVIアダプター(Dual対応) その3 Quad CPUでの比較 DELL Optiplex GX755 CPU:Intel Core 2 Quad 2.4GHz, HDD 160G0B, RAM 2GB, Chipset Intel Q35 Express GPU:Intel GMA 3100(on board)+DVIアダプター(Dual対応) その4 Quad CPU + G45 Chipset Intel DG45ID マザーボード(Akiba G45) CPU:Core 2 Quad 2.83GHz, HDD 1TB, RAM 3GB, Chipset Intel G45 Express GPU:Intel GMA 4500HD(on board)+DVIアダプター(Dual対応) その5 Intel Atok Note DELL Inspiron 1210 CPU:Intel Atom Z530 1.60GHz, HDD 60GB, RAM 1GB, Chipset Intel 945 GPU:Intel GMA500(on board) その6 Intel Atom Dual Core Intel D945GCLF2 マザーボード(Akiba Atom) CPU:Intel Atom 330 1.6GHz, HDD 160GB,RAM 2GB, Chipset Intel 945GC GPU:Intel GMA 950(on board) その7 Intel Core i7 Intel DX58SOマザーボード(Akiba Core i7) CPU:Intel i7-965 Extreme Edition 3.2GHz, HDD 1TB, RAM 3GB, Chipset Intel X58 Express GPU:ATI RADEON HD 4870  その1~3、5のDELL社製の機器と、その4、6、7の機器では、BIOSの起動時間が異なるため一概に比較できないが、ログイン画面からの時間やアプリケーション・ソフトの起動時間は比較可能である。注意しなければならないのは、ソフトウェアのバージョンである。画面読み合成音声ソフトウェアは、Windows Xp用がVDMW300 Ver3.0、Windows Vista用がVDMW500であるが、両者とも合成音声エンジンは、Pentax社製のVoice Textを採用している。XpReader(95Reader6.0)はOSによる差はない。  また、アプリケーション・ソフトでOfficeでは、Windows Xp用がOffice 2003、Windows Vista用がOffice 2007でバージョンが異なる。また、一太郎も2007と2008でバージョンが異なるため、厳密な意味での比較にはならないため、参考程度に見る必要がある。  それぞれのテストでの、結果は次の通りである。  その1、その2、その4の機器とWindowsの起動時間(秒) 【図表1】  WordやExcelは2003と2007で大幅にGUIが異なるためXpよりもVistaの方が遅くなっているが、他の項目では、ほとんどXpよりもVistaの方が早くなっている。  これはVistaの方がany Core CPU対応でPentium Dのような、1個のCPUの中に2つのコアをもつCPUの能力を引き出しているものと推察される。一方、秋葉原で調達した最新スペックマシンは、起動がやや遅い。これは、IntelのマザーボードのBIOS起動に時間がかかるため(約30秒)で、実際の速度は非常に高速である。画面読み合成音声ソフトが起動していてもワープロなどの各ソフトウェアの起動時間は、ほとんど変化がないという、すばらしい能力を示す。4つのCPUコアに負荷分散されて動作していることを実感する。逆にここまでの能力が必要であるようかと疑いたくなるような素晴らしさである。秋葉原での購入価格は、ディスプレイを入れて15万円程度なので、電子図書閲覧室で利用している機種DELL GX620よりも安価である。 4.2 実動作での印象  それぞれの機種の場合について、実際に合成音声ソフトウェアなどを動作させて、その印象を短観した。  その1~4では、CPUの性能が素直に反映された感がある。Single CoreのPentium4とDual CoreのPentium Dとの比較では、若干動作が速いことが実感できるが、Core 2 Quadのその3やその4では、動作は非常に高速に感じる。特に画面読み合成音声ソフトは、その1に比べて非常になめらかで自然である。CPUが高速で高機能であることは、このなめらかさに現れる。特にWindows Vistaでは、Windows Xpに比べてその感が強く感じる。これは、Windows Vistaの方が多数のCoreに機能分散が出来るからであろう。現状では、このCore 2 QuadのCPUが最もコストパフォーマンスに優れているものと思われる。  その5とその6の最新の省電力CPUであるAtomは、実際の運用となると、非常に厳しい。CPUの速度が遅く、高速な動作は望めない。特にSingle CoreであるAtom Z530は、非常に低速である。合成音声の読みもゆっくりとして、決して滑らかと言えるレベルではない。Dual CoreのAtom 330でさえ、低速と感じてしまう。このAtomは、あくまでも省電力の超小型化であるメリットのみを享受すべきであろう。CPUと組み合わせるChipset共々グラフィック性能も低いため、Windows Xp、Windows Vistaともに非常に低速な動作に終始する。長時間の利用では、画面読み合成音声ソフトや画面拡大ソフトも低速で、動作はするが、その遅さに我慢できなくなる。  その7のIntel Core i7は、桁違いの性能を発揮する。本来は64bit用のCPUであるが、32bitのWindows Xp、Windows Vistaとも画面読み合成音声ソフトや画面拡大ソフトともに非常に高速に動作する。画面拡大ソフトは、グラフィックアダプタ(GPU)の高性能にもその一因があるが、画面読み合成音声ソフトの非常になめらかで、自然音に近い動作は高速で高機能なCPUのたまものである。Core 2 QuadのCPUよりも滑らかで自然な合成音声は感動すら覚える。但し、ここまで、高価なCPUが必要かどうかは別問題である。 4.3 デジタルマルチメディア対応  ここで言う、デジタルマルチメディアとは、地上デジタル放送やBlu-ray等に対する対応を指す。  地上デジタル放送の場合は、専用の地上デジタル放送チューナーボードが必要で、デジタル放送に対応したデコード処理が必要なため、ある程度のCPU能力が必要である。また、著作権保護技術であるHDCPに対応したデジタル出力を有するGPUとHDCPに対応したディスプレイが必要である。もちろんHDMIでも対応可能である。このHDCP対応はBlu-rayでも同様で、Blu-ray対応の映画ディスクを再生する場合も、HDCP対応のディスプレイが必要で、HDMIでも対応可能である。  しかし、デジタル処理が必要でCPUやGPUに負荷が多くかかるため、それなりのCPUやGPU、Chipsetを有するパソコンに限られる。その意味で、Core 2 QuadやCore i7などの高機能CPU以外では対応が困難となる。実際に試したところ、Atomプロセッサでは対応困難で、最低でもCore 2 Duo以上のDual Core CPUが必要不可欠であり、GPUも高機能が求められた。したがって、地上デジタル放送やBlu-ray対応のパソコンの敷居は決して低くないので注意が必要であろう。 5.Windows 7  新しいOSであるWindows 7は、2009年1月公開の日本語版のベータ版で検証をおこなった。その1、その3、その4、その7の機器でハードディスクを交換して評価する限り、Windows Vistaよりも快適であり、メインメモリを減らしても動作する。これは、Windows Vistaが、非常に肥大化した事に対する反省であり、従来のWindows Xpが動作していた旧式の機器でも、ある程度動作する。このため、販売が予定されている2009~2010年にかけてWindows Xpからの移行が進むと思われる。しかし、視覚障害者が利用するためには、Windows 7用の画面読み合成音声ソフトウェアや画面拡大ソフトウェアが市場に流通し始めてからであろう。したがって、日本では盲学校などにWindows 7が導入され始めるのは、2011年以降の事になると思われる。  比較では、高速なCPUでも低速なCPUでもグラフィック性能はさほど大きな違いを感じない。逆に高速なCPUでもあえて能力を落として使っているのではないかと感じるくらいであり、CPUの違いによる速度差はあまり感じない。また、Core i7とともに利用した高速GPUでもその高性能をあえて落として、安定性に振り分けているような印象を受ける。Windows Vistaでは、素直にCPUやGPUの違いを表現したが、Windows 7では、その違いが表現されないのが、このOSの特徴といえるであろう。  画面読み合成音声ソフトは、新規インストールでは難しいが、バージョンアップ版では、Windows Vistaの画面読み合成音声ソフトが評価できた。印象は高速ではあるがWindows Vistaよりも少し遅く感じた。しかし、ベータ版の段階でこれだけスムーズに合成音声が喋るのは初めてである。Windows 7は、Windows Vistaに比べて、それだけ安定性を重要視しているのであろう。  Single CoreのPentium4でも、それなりに安定に動くのには驚かされる。しかし、実際の使用ではCore 2 QuadクラスのCPUを想定しているものと思われる。 6.Windows Vistaの視覚障害補償ソフトウェア  現時点でWindows Vistaで稼働する視覚障害補償ソフトウェアと安定に動作することが確認した、視覚障害者が利用可能なソフトウェアを列挙する。 6.1 画面読み合成音声ソフトウェア  Windows Vista対応の画面読み合成音声ソフトウェアと搭載されている合成音声エンジンは次の通りである。 1)PC-Taker Vista(Pentax VoiceText) 2)VDMW500(Pentax VoiceText) 3)FocusTalk 2.0(ANIMO FineSpeech) 4)JAWS 8.0(クリエートシステムD-Talker) 5)95Reader Ver6.0(Ricoh 合成音声エンジン)  これらの合成音声は、Office2007にも対応しており操作が可能である。但し、5)は操作機能が他のものに比べて劣る。最低機能が使えるといった程度。 6.2 画面拡大ソフトウェア  ZoomText Magnifier 9.1(NEC, Ai Squared)がDual Display対応で販売されている。  以下は、視覚障害補償ソフトウェアと同時に利用する一般のソフトウェアである。 6.3 エディタなど Wzエディタ Ver.6.0(Villege Center) 6.4 点字関係 T・エディタ(FreeWare) 点字編集システム4(テクノツール) 6.5 辞書 Promedica Ver.3(南山堂) 6.6 OCR e-Typist Ver.12(メディアドライブ)  画面読み合成音声ソフトウェアと共に利用可能な一般のソフトウェアなどでは上記のものが検証済みである。他にも多数のものが動作するが、ここでは割愛する。  現在、Windows Xpで動作しているバージョンのほとんどは動作せず、バージョンアップが求められる場合がほとんどである。したがって、Windows Vista導入に関しては、他のソフトのバージョンアップと言うコスト高を別途見積もる必要がある。 7.Windows Vista導入の利点・欠点  Windows Vistaを導入することによって得られる利点と欠点を精査した。 7.1 フォント 文字コード:JIS X 0213:2004 文字字形:JIS2004 搭載フォント:MSゴシック・MS明朝・メイリオ 文字数:20,680 となっている。これは、JIS X 0213:2004では、11,233文字であり、さらにUnicode対応であることから、Adobe-Japan 1-5に準拠しているため、Adobe-Japan 1-5の20,317文字を超えている。また、メイリオはClearType対応のフォントであるため視認性が向上しており、細部での小さなフォントの表現力に威力を発揮すると思われる。  XpとVistaで比べると、 Vista用MSゴシック・MS明朝 20,680文字 Xp用MSゴシック・MS明朝 15,039文字 となり、文字数が増加しているため、視覚障害者が従事することが多い、あん摩・マッサージ・指圧・鍼・灸などの三療で必要な東洋医学関連の文字について画面表示と印刷は簡単に行えるようになった。 例:瘀血・璇璣・譩譆  逆に、XpのJIS90字形からVistaではJIS2004字形を採用したため、「辻」などの「しんにゅう」が2点となり文字字形が約130文字変更されている。そのため字形の変化により混乱が起きる場合がある。 7.2 GUI  極めて高いグラフィック性能を要求するVistaは、GUIに最新のAeroを導入して3D視覚効果を最大限に活用している。そのため操作性は高いと言えるが、視覚障害者にとって、果たして必要なものかどうかは別問題である。合成音声を利用する場合は、クラシック画面(Windows 2000相当画面)を利用する。 7.3 セキュリティ  Xpに比べてセキュリティ対策は向上しており、ウィルス等に対する対応は優れている。しかし、UAP(ユーザー・アカウント・プロテクション)と呼ばれる、セキュリティの確認チェックは、非常に煩わしく、不必要と思われる。 8.バージョンアップすべきか  盲学校などからよく質問される内容に「Windows XpからWindows Vistaにバージョンアップすべきでしょうか?」と言うものがある。 これに対して、「Windows Vistaはサービスパックが出てから買いましょう」と答えていた。これは「2008年にも予定されているWindows Vista Service Pack 1が発表されるまで、購入しない方がよいですよ」と言うものである。しかし、「既に購入してしまった」とか、「県の意向で導入される」と言う悲鳴も聞かれる。また、既にサービスパックは公開された。しかし、2009年1月現在でもWindows Xpは購入可能である。また、「ダウングレード」と言う方法もあり、Microsoft社もWindows Vistaのバージョンによっては、ダウングレード権も認められている。[1]  Windows VistaのBusinessかUltimateバージョンではWindows Xp Professionalへのダウングレードが可能である。したがって、県単位で導入されたWindows Vistaはダウングレード権でWindows Xp Professionalに変更して、利用するのが賢明な方法と思われる。  現在利用している機種が、Windows Xp Professionalならば、あと数年利用した方がよいと思われる。現実にWindows Xpは非常に安定なシステムで、視覚障害補償ソフトウェアも充実してきており、視覚障害者にとって使い勝手の良いシステムである。  Windows 7の開発状況を見据えつつ、Windows XpからWindows 7へアップデートした方がよいかもしれない。  旧式のパソコンを視覚障害者が利用することを想定した、OSと、CPUの種類、メモリ量、ハードディスクサイズなどの関係は経験的に次のようになる。 【図表2】 例として、Pentium III 600MHz程度のCPUが搭載されている中古のパソコンでは、RAMを384MB以上搭載し、HDDも10GB程度あれば視覚障害者の利用は可能である。[2] 少し速度は遅くなるが、出来れば512MB以上のメモリを搭載すると視覚障害補償ソフトウェアも含めて安定に動作する。逆に、これ以下のスペックの機種では該当するOSは利用しない方がよい。  例えば、Pentium 4 1.5GHzのCPUにRAM 1GB、HDD 60GBではWindows Vistaは選択しない方がよい。例え、Pentium III 500MHz程度でも、上記条件を満たせばWindows 2000やXpでは安定に動作する。旧式のパソコンなどは2台から1台を再生するつもりで利用すると比較的安定に動作させることが可能となる。[3] 9.長期的な計画  通常、コンピュータ機器の利用サイクルは4年とされている。4年もたつと機器やOS、ソフトウェアなどが陳腐化するためである。しかし、視覚障害者の利用では別の視点で検討した方がよい。  視覚障害補償用ソフトウェアの機能と安定度が十分である場合には、無理に新しいOSやソフトウェアを導入する必要はない。新しいOSを導入すると初期段階では相当の不具合が生じる事が多く、それに対応する時間的余裕が学校現場にあるとは思えないからである。  また、Windows XpやWindows Vistaでは学校で利用する設定と、個人で利用する設定は異なる。例えばWindows Xpの場合、Windows Xp HomeとWindows Xp Professionalでは利用するユーザ権限が異なるからである。このため六点入力用のKTOSが利用できないとか、点字編集システム3が利用できないとか様々な問題が発生した。これらの問題に対応するためには、それなりの知識と情報が必要である。しかし、視覚障害補償ソフトウェアの設定に関わるユーザ権限の問題などは、学校現場の教員の能力を超える場合が多い。したがって、新しいOS等を利用するよりも安定な環境を保持する方が望ましいことも考慮する必要がある  その意味で、Microsoft社のOSやOffice製品はライセンスで購入するのが望ましい。特にSA(Software Assurance)で購入できれば、長期間でOSとOffice製品の選択が可能となる。つまり、もう少しWindows XpとOffice 2003を利用して、視覚障害補償ソフトウェアが充実してくれば、Windows Vista、Windows 7やOffice 2007、Office 14に変更する事が可能である。[4]  その意味で情報機器の検討は、 1)十分な知識を有する人の助言 2)教員や学校などの事情 3)都道府県教育委員会や厚生労働省などと折衝 4)児童・生徒・入所生の実態 を踏まえて4年ではなく6年ぐらいに渡る長期的展望を見据えた方がよいと思われる。 10.おわりに  新しいOSに飛びつく人は結構多い。購入してから視覚障害者が利用できないと騒ぐ人もいる。また、十分な検証もしないで、視覚障害者が利用できる環境が整っていないにもかかわらず新しいOSに変更してしまう例も多く見かける。  本来は利用者である、視覚障害者が本当に利用しやすいのかどうか検証してから新しいOSなどに変更すべきである。その意味でWindows Vistaを導入する場合には、かなり高度な設定の知識が要求されることを留意すべきである。なによりも視覚障害を有する利用者にとって使いやすいシステムを構築することが、教育の使命だと信じてやまない。 文献 [1] Windows Vistaのダウングレード権(旧バージョンソフトウェアの使用)について,http://www.microsoft.com/japan/windows/products/windowsvista/buyorupgrade/downgrade/default.mspx [2] 村上 佳久:新しいOSに対する視覚障害補償.筑波技術短期大学テクノレポート,Vol.9(1), 7-11, March.2002. [3] 村上 佳久:ボランティアのための安価な教材作成システムの検討.筑波技術大学テクノレポート,Vol.13, 51-56, March.2006. [4] 村上 佳久:学習支援システムにおけるコストダウンの試み.筑波技術大学テクノレポート,Vol.14, 269-274, March.2007. [2] Visually impaired compensation technique to next generation's CPU and Windows OS MURAKAMI Yoshihisa Research and Support Center on Higher Education Abstract:Windows Vista was released two years ago. Service pack 1(SP1) was also released. School for the blind where Windows Vista had been installed have increased. However, Windows Xp is still used by a lot of visually impaired people. Visually impaired people find the supporting method for using Windows Vista to be problematic. In this paper, the problem with the compensation technique of the visual disturbance of Windows Vista is examined. Moreover, next-generation CPUs, mother board, and Windows OS, etc. are introduced. Keyword: Visually impaired compensation, Windows Xp, Windows Vista, and Windows 7