2008 聾学生のためのリーダーシップ養成英国研修 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 佐藤 正幸 白澤 麻弓 磯田 恭子 要旨:8月10日から8月16日までの1週間、英国イングランド南東部イーストサセックス州で行われた2008聾学生リーダーシップ養成夏季研修に参加するために、本学学生3名及び他大学学生1名計4名をPEN-Internationalの日本代表として引率した。この研修会は米国ニューヨーク州ロチェスター市にある国立聾工科大学に本部をおく聾学生高等教育機関の国際的な連合組織であるPEN-Internationalが主催するものであり、2006年に引き続いて2回目の開催である。この研修には、日本の他に米国より6名、ロシアより4名、中国より4名の聾学生の参加があった。今回の研修では、聾者のリーダーとは、リーダーの条件とは何かについて実際に聾者として成功を収めたナショナル聾工科大学の教員の話を通じての学習、社会における交渉術、ボランティア、人間関係作り、聾文化などについて国を超えた学生同士の討論、体験学習、各国の学生による聾者のリーダー紹介、各国の文化の紹介が行われ、それぞれの活動を通じて18名の学生が友情を深めた。 キーワード:聾学生、リーダーシップ、PEN-International 1.はじめに  近年、聾(聴覚障害)学生のための高等教育機関が増加し、各国の聾学生間の交流が盛んになってきている。その交流活動の1つとして、聾学生高等教育機関の国際的な連合組織であるPEN-Internationalが主催する聾学生のためのリーダーシップ養成英国研修がある。本研修は日本財団の支援を受けて、英国イングランド南東部イーストサセックス州にあるハーストモンソー城を会場として1週間の日程で行われた。本稿では、研修の概要、参加までの準備、参加した学生による事後報告を紹介する。 2.参加するまでの準備 2.1 公募  学生の公募は、筑波技術大学より3名、Pep-Net Japanに加盟している大学より1名募集する形で2007年10月末から11月にかけての1ヶ月間とした。筑波技術大学では、最終的に10名の応募があり、申請時に提出された小論文(何を研修で学びたいのか)及び面接結果に基づいて3名を選抜した。 2.2 研修にあたっての準備  年明けて2008年4月より学内の参加予定者3人と引率教職員3名で、月2回の研修の準備のためのミーティングを行った。ミーティングの内容はPEN-Internationalの本部から送られてくる課題の準備が中心であった。愛媛大学より参加する学生1名についてはメーリングリストのやりとりで情報の共有を行い、課題の準備に参加してもらった。PEN-Internationalの本部から送られてきた課題は以下の通りであった。  8月10日の最初のプレゼンテーションでは次のことを発表して下さい。 1)あなたが自分の国でよいリーダーと思う聾の人を探してください。 2)その人のことを私たちに話して下さい。なぜあなたはその人を選んだのですか? 3)私たちにそのリーダーがどのような影響を与えたのか、その実例を話してください。 4)その人はどんなリーダーですか。 5)そのリーダーはどのようなビジョン(先見性)を持っていますか? 6)リーダーが影響をもたらしたことによってどのように変わりましたか。  この課題について、誰を紹介するかという議論になり、結果として日本で最初に聾者として薬剤師免許を獲得した早瀬久美さんを紹介することになった。そして、早瀬さん本人に直接会い、取材を行い、発表の準備を行った。  また、もう1つの事前の課題として日本文化の紹介があり、これに関しては日本の伝統的な遊び(福笑い・二人羽織)を紹介することとなり準備を進めた。 写真 会場となったハーストモンソー城を背景に 3.参加国と大学、参加者 アメリカ:ロチェスター工科大学のNTID(アメリカ聾工科大学、学部学生4名 ウイスコンシン大学、学部学生2名 中国:長春大学 学部学生2名 北京連合大学 学部学生2名 ロシア モスクワバウマン工科大学、学部学生4名 日本:筑波技術大学産業情報学科3年渡邉好行 (リーダー) 産業情報学科2年折橋正紀 総合デザイン学科2年山本侑季 愛媛大学教育学部4年越智英恵  なお、当初参加予定であったフィリピンは諸般の事情で参加中止となった。  研修中は、各学生の情報保障を確実なものにするため、日英通訳及び手話通訳が同行した。今回は日英通訳を広島大学講師川合紀宗先生、全日本ろうあ連盟高木真知子氏、手話通訳を本学障害者高等教育研究支援センター白澤麻弓准教授、磯田恭子特任研究員が担当した。 4.研修スケジュール  期間は、8月10日から8月16日までの1週間で英国イングランド南東部イーストサセックス州ポールゲート近郊のハーストモンソー城で行われた。 第1日目(8/10)  午後:会場となった城の見学、自己紹介ゲーム:各国の聾リーダーの紹介 第2日目(8/11)  午前:「聾者リーダーを育てる」 ハーウィッツNTID学長夫妻  午後:「効果的なコミュニケーション能力と交渉技術」 ジェームズ デカロ博士 「文化の多様性」 パット デカロ氏、チャンダニ氏 第3日目(8/12)  午前:「聴者が聾者に対するイメージと実態」 パット デカロ氏  午後:「成功した指導者の特色」 ハーウィッツNTID学長夫妻 「プログラムの発展とリーダーシップ」 白澤麻弓准教授 「日本財団について」 石井靖乃氏 第4日目(8/13) ロンドン日帰り旅行 第5日目(8/14)  午前:「目標決定と達成に向けて」 アトキンス氏、パット デカロ氏  午後:「役割モデル化とボランティア活動」 チャンダニ氏、ヴィッキー ハーウィッツ氏 「ろう文化」 パット デカロ氏、チャンダニ氏 第6日目(8/15)  午前:「大学からの移行」 フランクリン氏  午後:「人間関係作りから職を得るまで」 ケヴィン博士、アトキンス氏  夜:「聾のリーダーシップ」について発表会 司会進行:ケヴィン博士 閉会式 第7日目(8/16) 帰国 5.学生プレゼンテーション  第1日目の夜に、30分の持ち時間で各国の「聾のリーダー」を紹介した。 ・アメリカ:ADA(障害のあるアメリカ人)法の制定に関わった聾者リチャードさんの紹介 ・ロシア:旧ソ連時代に宇宙開発に関わったカルチンコさんの紹介 ・中国:聾者で構成されている舞踏団「千手観音」とそのリーダー邰麗華さんの紹介 ・日本:日本初めて薬剤師免許を獲得した聾の薬剤師、早瀬久美さんの紹介 6.文化交流  日本は、日本の簡単な紹介と伝統的な遊び、福笑いと二人羽織の実演、中国は書の実演と京劇に出てくる舞踊、アメリカは映像とウエスタンダンス、ロシアは映像で国の文化を紹介した。 7.参加学生の事後報告(日誌、感想)  ここで、参加した4人の学生の報告を紹介する。紙面の都合でここでは一部省略しているが、全文についてはPEN-InternationalのWebで紹介されている。http://www.pen.ntid.rit.edu/events/exchanges/2008/summer-institute/journals.php 8月9日 1日目  北京オリンピックの開会式の翌日、日本の空の窓の一つである、「成田空港」から、筑波技術大学の学生、先生、通訳の方、計9名で日本を発った。香港で乗り継ぎ、目的地のロンドンのヒースロー空港への空の大移動は約18時間かかり、無事に到着した。 8月10日 2日目  各国グループによる、ろうリーダーの紹介  私達日本チームは薬剤師の早瀬久美氏を選び、署名運動から法律を変え、それには彼女の夢を諦めない気持ちがあったことなどを紹介した。  中国は中国民族舞踊「千手観音」の先頭に立った人物、邰麗華(タイリーファ)さんであった。アメリカは障害者の生活を保障するための法律『ADA法』に関わった人物、リチャード、ロシアは旧ソ連時代に宇宙開発に関わっていた人物、カルチンコだった。 8月11日 3日目 ①聴覚障害者リーダーを育てる  アラン・ヴィッキー夫婦による講話であった。アラン先生はろう両親、ヴィッキー先生は聴両親の元に生まれ、育ち・環境・教育の全てが違っていた。ヴィッキー先生はアラン先生と出会ってから、手話を覚え、活動にも参加していくようになったようである。また、ヴィッキー先生の家にアラン先生が来たとき、デフファミリーの中で育ったアラン先生は聴者ばかりの中で一緒に会話することもない状態に怒りを押さえられず、怒鳴ったというエピソードもあった。 ②コミュニケーション  デカロ夫婦の熱演がとても分かりやすかった。5つのタイプのそれぞれの立場のうち、各国で1タイプずつ考えて発表した。さまざまな考えをもつ人がいる、相手の話を聞くことも必要ということとを考える時間だった。 ③異文化の理解  違えば、異文化と言われ、その異文化を理解することも人間関係を持つ以上必要だと思った。聴文化、ろう文化と言われているのもそうです。強制に一方的ではなく、伝える気持ち、互いが知りたい気持ちを持ちながら、歩み寄ることが必要だ。まずは、違うことに気づき、伝えようと考えることが大切ということを考えた。 8月12日 4日目 ①聴者が抱く聴覚障害者に対するイメージと実態  講師のパトリシア先生は両親がろうで、いわゆるコーダである。彼女は生まれたときから、ろう者と接してきている。彼女両親だけでなく、祖父と親戚の中にも数人がろう者で、博士号取得、教師などの仕事に就いて働いているのを見てきているので、「ろう者にできないことはなく、できることを見てきた」と述べた。  「ろう者が就くのは困難と思われる仕事は何か」という課題について各国グループで話し合った。発表にはパイロット、救急助命士、自衛隊などの仕事があった。 ②誰でもリーダーになれる  ゲームを通して、誰でも先頭に立って人をひっぱることができる、ということを教わり、私も言われて始めて誰でもできることを考えた。「人は見かけによらぬもの」という言葉があるように、1人1人が違った能力を持ち、その力を見出すことも必要であることに気づかされた。 ③白澤先生  筑波技術大学の学生3人は前に移動して、目を輝かして、真剣な眼差しを先生に注ぎながら聞いていた。そして、白澤先生も彼らに伝えたいというのが分かった。 8月13日 5日目  ロンドン観光の日。イギリス女王が住むバッキンガム宮殿、ビックベンなどの観光所を回った。電車に乗り、研修ばかりでなくミニ旅行をすることもできて良かった。 8月14日 6日目 ①目標設定と達成について  将来、自分はどんなことがしたいのか、また、したいことを達成させるためには、どのようなことが必要なのか、達成するまでの過程を考えてみようということで考えた。  周りのサポートも要ることもあり、必要なものがたくさん出てきた。パトシリア先生の講演にもあったように、周りの人の理解を求めることも必要である。このように、これまでの講演で考えたことと関連づけをしながら考えていくことができた。 ②ロールモデル、ボランティア精神  足は歩いたり走ったりするなど、身体はどんな働き(機能)をしているのかを各国グループで考えて模造紙に書いて発表した。そして、日本は映画監督の北野武、ロシアはプーチン大統領といった各国ごとに指名された世界で活躍している有名人を、なぜ世界で活躍できるようになったと思うかを含めて紹介した。リーダーに必要と思うものを考えるものだった。 ③ろう文化  2日目に出されていた、「ろう者と聴者との間に生じる誤解」を演じる、という課題を各国グループごとに披露した。呼びかけても聞こえないから気づかないことからトラブルになる、手話表現の1つである指差し(位置を示す)と知らず、何があるのか、と不思議がるなどが出てきた。「分かる、分かる」と共感の拍手もおこり、見ていて楽しかった。 8月14日 7日目 ①大学から「実社会」への移行  大学の外にある「実社会」と関わることについて、自分を見つめ直そう、という時間だった。自分は何者か、という“アイデンティティ”、価値観、権利などを考えました。会社に入社するには面接もあり、何が必要か、どのように挑むか(答えるか)なども考えた。社会に出てから、ろう者ということを意識することがあるかもしれない。自分に関わることで、見通しをもって行動をすることが求められてくるようになる。考えることが必要と教えられ、考えたつもりだったけれどもまだ考えが少ないことに気づくことができた。 ②人間関係づくり  人間関係づくりのために、どんなものが必要なのかを考え、話し合った。 ③研修を通して学んだことなどの発表  1週間の研修を通して、考えたことや学んだことを各国グループでパワ-ポイントを使いながら発表した。 ④卒業式(パーティ)  デカロ先生から1人ずつ参加証明書(卒業証)を与えられた。1人ずつ与えられているのを見て、こんなことがあったな、こんなに考えていたな、などを思い出した。4カ国約20名の学生達と出会って、共に過ごせて良かった。(越智英恵)  私はこの夏休み、貴重な経験をすることができた。それは、日本財団からの助成を受けて、2008 PEN-International Summer Leadership Instituteに参加してきたことだ。この研修は8月10日から16日までの1週間、イギリスのイングランド南東部イーストサセックス州にあるHesrtmonceux城を会場に、4カ国のろう学生が集って行われたものである。日本から4人、アメリカから6人、ロシアから4人、中国から4人、合わせて18人のろう学生が集まった。本来はフィリピンからも参加するという予定だったのだが、ビザの関係などで残念ながら不参加となってしまった。  この研修に参加するまで、私はいくつかの不安を抱えていた。その中でも一番大きかった不安がコミュニケーション面である。しかし、その不安は最初のIce Breaking Activityですぐに吹っ飛んだ。この時間では、お互いに自己紹介をすることで名前を覚えあったり趣味などについて知りあったりし、その上で自分が他の人を紹介するということを行った。そのおかげですぐ周囲の人と打ち解けることができ、これからの1週間が「不安...」から「楽しみ!」へと変わっていったのを覚えている。私は昨年1年間学んだアメリカ手話をたどたどしく使いながら脳をフル回転させて、ろう者がよく使うとされる身振りや指差し、筆談などを用いて自分の言いたいことが伝わるように努力した。また、相手の言いたいことを分かろうとした。  その後は、ろう者のリーダーやろう文化などについて、PEN-Internationalの本部であるアメリカの国立ろう工科大学の先生方の講話を中心に進められた。いくつもの講話があったが、ただ講師の話を聞いて学ぶだけでなく、グループで討論をし、そこでまとまった意見を発表することもあった。国ごとでの討論もあれば、他の国のろう学生と一緒にグループを作り、討論することもあった。様々な内容で国を超えて学生同士で討論することは私にとって新鮮で面白く、ここでも皆が「伝えたい!・分かりたい!」の気持ちを持ってコミュニケーションできたと思う。  それから自国のろう者のリーダーについて紹介したり、文化の紹介を行ったりもした。日本は、ろう者のリーダーとして2001年に欠格条項を撤廃し、薬剤師になることができた早瀨久美さんを取り上げた。発表を終えたときには、参加者の皆から絶大な拍手をもらった。また、この紹介を聞いた何人かの講師がその後の講話の中に彼女のことを持ち出して話された。そのことで彼女を取り上げ、紹介することができてよかったと思った。文化の紹介では福笑いと二人羽織を紹介した。  今回はLeadership Instituteのため、講話を聞いて学ぶことがメインであったが、私は休憩時間や食事の際の学生同士の交流が一番印象に残っている。お互いの国の手話を教えあうことで話の輪が広がったり、他国の簡単なゲームをしたりして楽しむことができた。相手の言いたいことがなかなか分からなくて困っているときには、その話の内容を理解した他の学生が「こういうことでしょ?」と期間中に学んだ手話を使ったりして一生懸命通訳してくれた。それが楽しく、ここで「通じる」ことの喜びを味わった。1週間を通して日本チームは積極的に学ぶことの大切さや、リーダーに必要なものを学ぶことができたと発表した。私個人としては「人」を大切にしていくことの重要さを学んだ。それは、他国のろう学生からはもちろんのこと、同じチームの学生・先生・通訳者1人1人からも学ぶことがあったからである。同じチームの人から学ぶことがあるとは思わなかったので、必ず一人の人から1つ以上のことを学ぶことがあるのだ、と思うようになった。(渡邉好行)  8月9日から17日の1週間、PENインターナショナルの研修でイギリスに行ってきた。  この研修で何を経験し、何を学んだのかをいくつかにまとめたい。  まず、伝えようという姿勢を学んだ。イギリスで研修が始まり、1日目から休憩中や食事中に他国の学生との交流が積極的に行われた。そこで感じたことが、他国の学生は日本の学生と比べて積極的であるということだった。そこは、私たちも見習うべきだと思い、私たちも積極的に関わろうとした。また、自己紹介のとき、私は自分の知ってる範囲でASLを使い、分からない部分は筆談やジェスチャーで一生懸命伝えようと努力した。それは、相手も同じでお互い伝えようという気持ちがあったので伝え合うことが出来た。自己紹介だけでなく、グループによるディベートでも同じような方法でみんな伝え合っていたので、これは国内でも同じだと感じた。同じ聴覚障害者同士、聴覚障害者と健聴者の間でのコミュニケーションで伝わらなかったら諦めることがしばしば見られるので、伝えようという姿勢が大事なのだということを周りに伝えていきたいと思った。  次に、文化の違いを学んだ。レクチャーの1つに文化に関する内容があり、とても面白かった。文化に関しては、高校などである程度学んでいたが、イギリスでは全く知らなかったことばかりで思わず「へぇ~」と思ってしまうほどであった。また、同じ国でも地方によって微妙に文化に違いがあることも知った。これは、国単位だけでなく、健聴者とろう者の間でも言えることである。ろう者には独自に発展してきた文化がある。そのように異なる文化に出会ったときにどうするか。今回の研修では、異なる文化を受け入れることの必要性を学んだ。  最後に、これは学んだこととは別だが、とても良い思い出を作ることができた。  イギリスでの1週間は、一生忘れられない思い出になった。今後も他国のメンバーと連絡を取り合い、数年後に同窓会みたいなもので再会できる日がくるのを楽しみにしている。(折橋正紀)  様々な国々から集まったろう学生とともに学ぶプログラムであり、実際に訪れる国の文化はもちろん、異国の文化も同時に知ることが出来る。日本と、どれくらい異なるかを実際に感じることが出来る。なかなか経験出来ることではないと思う。(経験)  手話や身振り、ASLを使って自分の気持ちを伝えたい。伝えたいという気持ちはろう者も聴者もすべての人誰もが持っている。通じ合えない悔しさ、通じ合える喜びを感じたい。(コミュニケーション)  日本文化および日本のろう社会に関する発表を行い、他国の発表を聞くことで日本と異国におけるろう者の立場を比較し改めて見直すことが出来るかもしれないと思った。(再発見)  とにかく若いうちにいろいろな経験をし、今の自分を変えたいと思った。(成長) ①滞在中(印象に残ったこと)  紹介ゲーム」でロシア人の男子学生に声を掛けられ、お互い自己紹介をした。しかし、その人は文字もロシア語、手話もロシア手話。ひとつもわからないことでわたしは泣きたくなった。そしてアメリカ人の学生たちと今まで学んだASLを使って話した。伝わるって素晴らしい。とても感動した。しかし、困ったことがあった。向こうの言っていることがわからない。筆談するが、崩した英語や数字だらけで読みにくい。また泣きたくなった。(8月10日・1日目)  白澤先生の講演を聞いた。リアルタイムでわかるって嬉しい。(8月12日・3日目)  バスに揺られてロンドンへ。日本では考えられないイギリス人の行動に何度もびっくりさせられた。わたしの落し物を拾ったイギリス人はわたしを呼び掛けた。でも気付かないわたしをさらに近くの通行人が教えてくれた。とても感激した。 障害手帳もない。となれば当然電車割引もない。イギリスでは健常者障害者だろうがみんな平等に扱っているそうだ。歴史あふれる美しいロンドンの街、またいつか訪れたい。(8月13日・4日目)  最後の日。仲良くなったアメリカ人の男子学生に案内され森の奥へ。絵本に出てくるような、日本にはない変わったしわくちゃな木がたくさん立っていた。(8月15日・6日目)  お別れの日、ひとりひとり握手を交わし、しっかり抱きしめた。最初は全くわからなかったASLが半分も読み取れるようになったことでとても喜びを感じた。たくさんのことを学び、とても濃い一週間だった。参加してよかった、と心から思う。(8月16日・7日目) ②帰国後(目標・これから)  たくさんの人たちと交流し、自分の中の考えがはっきりしてきた。目標を決めることは大事だが、もっと大事なのは目標を達成するために今、やるべきことをこなすことだ。日本は情報を音で聞いて知ることが多すぎることを知った。でも、わたしはなぜ補聴器を外すか外さないかで悩んでいたのだろう。聞きたいときは聞けばいい。うるさかったら切ればいい。わたしはわたしでいい。音の無い世界にこだわるのではなく自分の世界を作ればいいのだと思った。ろう者としての誇りを持ち、そしてろう者の中のろう者になりたい。(自分自身)  参加する前は「わたしを支えてくれる人」がいいな、としか思っていなかったけど、研修に参加した何人かの夫婦のやり取りや講演を聞き、「互いに刺激を与え、互いに尊敬し、互いに成長し合えるパートナー」が欲しいと思った。(パートナー)  聴者から見たろう者。聴者の立場に立って考えることも必要だと思った。ろう、聴者など多くの人と交流することで視野を広げ、異国の手話に刺激を受けたわたしはASLをさらに覚え、国を超えた交流をしたい。  そして手話が聴覚障害者の第一言語に留まらず、手話が公用語のひとつとなり、聴覚障害者と健聴者が共に共存の出来る社会になればいいな、と思う。(山本侑季) 8.終わりに  2006年に行われた第1回目の研修(須藤・長南・白澤、2007)[1]に引き続き、2008年8月10日より8月16日、英国イングランド南東部イーストサセックス州で行われた「聾学生のためのリーダーシップ研修2008」に日本より学生4名が参加し、通訳担当、引率担当として教職員等5名が同行した。学生たちは、PEN-Internationalから送られてくる多くの資料について辞書を片手に夜遅くまでミーティングを重ねるなど学業との両立にかなりの負担であったと思われるが、その苦労を感じさせることなく真摯に取り組み、また4人のチームワークの良さも感じられた。特に研修の最後に行われた研修を通して学んだことについての発表では、「日本チームの発表は、一番すばらしく彼らの伝えたいことがはっきりとわかった。」とNTIDのデカロ博士より賞賛の言葉を頂いた。海外研修への参加は初めてで要領を得ない筆者を支えてくれたリーダーの渡邉君をはじめ4人の学生に感謝したい。同時に報告にも見られるように、今回の研修のみではなく、今後にどう活かしていくかについても決意を述べており、彼らにとって充実した内容の1週間であったと窺える。  さらに、大変忙しい中、学生たちの指導、通訳を担当して頂いた広島大学講師川合紀宗先生、全日本ろうあ連盟高木真知子氏、学生の発表に際し快くご了解頂きご協力頂いた早瀬久美氏、当研修の準備段階より様々な点でご高配頂いた本学産業技術学部荒木勉教授(国際交流委員会副委員長)にこの場を借りて深謝したい。なお、当研修はPEN-International及び日本財団の支援を受けて行われた。 文献 [1] 須藤 正彦・長南 浩人・白澤 麻弓:2006聾学生のためのリーダーシップ養成英国研修.筑波技術大学テクノレポート,14, 237-243, 2007. 2008 Summer Leadership Institute for the Deaf students in United Kingdom SATO Masayuki SHIRASAWA Mayumi and ISODA Kyoko Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired Abstract:2008 Summer Leadership Institute for the Deaf students had been carried out at the Herstmonceux Castle, East Sussex in Southeast England United Kingdom. Eighteen students, fourteen sign language interpreters and voice language translators, four faculty members, and lecturers from the National Institute for the Deaf participated in the Leadership Institute program. This program was included lectures and activities on Effective communication and negotiation skills, Characteristics of successful deaf leaders, Setting Goals and Achieving Them, Role modeling and Volunteerism and so on. These students had deepened their friendship through each activity. Keyword: deaf student, leadership, PEN –International