質の高い鍼灸医療を目指して筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター鍼灸部門 外来報告2008 保健科学部附属東西医学統合医療センター1) 保健科学部保健学科鍼灸学専攻2) 近藤 宏1) 津嘉山 洋2) 堀 紀子1) 平山 暁1) 青柳 一正1) 要旨:東西医学統合医療センター鍼灸部門の2008年における外来患者統計を報告する。診療日数は240日で、延べ来診患者総数は、8009名であった。内訳は、新患430名、再診7579名であった。男女比は女性58.8%、男性41.2%であった。年代別では、50歳代が最も多かった。主訴で最も多かったものは、腰痛249件で、次いで、肩こり148件、腰下肢痛75件と続いた。インシデントに関する報告は、69件あった。インシデントの分類では、「鍼の抜き忘れ」17件が最も多く、次いで「内出血」9件と続いた。 キーワード:鍼灸、患者、統計 1.はじめに  開設後16年を経過し、漢方・鍼灸・西洋医学を統合した新しい医療というコンセプトを模索している。平成17年度秋から、四年制の筑波技術大学保健科学部附属のセンターとして活動を継続している。  東西医学統合医療センター(以下センター)所属の常勤職員は、11名で、教員4名(医師2名、鍼灸師2名)、技術スタッフ5名(看護部2名、臨床検査部、薬剤部、放射線部各1名)、事務2名である。その他、非常勤職員が在籍している。  センターは診療部門と鍼灸施術部門に分かれている。  診療部門は内科、小児科、神経内科、整形外科、放射線科を持ち、センター所属の教員および鍼灸専攻、理学療法専攻の教員がローテーションで診療に当たっている。患者数は毎年おおよそ70,000~80,000人の来院がある。  当センターは、地域への医療サービスの提供とともに、鍼灸学専攻の学生の臨床実習の場として機能している。その他、日本東洋医学会の専門医のための研修施設として医師の研修を受け入れている。鍼灸施術部門は、センター所属の教員2名とともに鍼灸学専攻の教員9名が曜日別で2名~3名体制で外来をしている。  また、鍼灸師の卒後臨床研修を行う制度として、1993年から研修生の制度が発足している[1]。2008年度は7名の研修生を受け入れ、2年目以降の研修生をあわせると20名(2008年4月時点)が在籍している。  研修生は鍼灸師養成学校で資格を取得した後の卒後教育として、指導教員のもとで鍼灸臨床に必要な刺鍼技術や問診法や徒手検査の技術、鍼灸施術の安全性、また、鍼灸外来の環境維持業務を通じて治療室運用の実務までを学んでいる。  本センターは、より良い医療サービスの提供と充実した教育・研究活動のために、ソフト面を充実することが今後の課題となっている。 2.鍼灸部門外来実績  2008年(1月1日~12月31日)の年間の外来実績について報告する。2008年の延べ来診患者総数は、8009名であった。内訳は、新患430名、再診7579名であった。なお、診療日数は240日であった。 1)再診の患者数  月平均の再診患者数は631.6±46.2名であった。なお、診療日数の月平均は19.9±1.4日であった。  再診患者数を月別にみると、7月(731名)が最も多く、次いで、6月(684名)、10月(683名)と続く。最も少ない月は、11月(581名)であった(図1)が、診療日数で一日当たりの平均再診患者数をみると、7月および12月(33.2名)、が最も多く、次いで8月(33.0名)、6月(32.6名)と続く。最も少なかったのは3月(29.6名)で、次いで4月(29.8名)であった。研修生の入れ替わりの時期でもあり、鍼灸施術スタッフ数の減少も要因の一つとして考えられる。 2)新患の内訳  性別は、女性253名(58.8%)、男性177名(41.2%)であった(図2)。年代別でみると、50歳代が最も多く(21.9%)次いで、60歳代(18.6%)、30歳代(16.7%)と続く(図3)。  居住別にみると、つくば市外の茨城県内47.0%、つくば市内45.8%、茨城県外の関東6.0%、関東以外0.5%、不明0.7%であった。  紹介状の有無については、有り33名(7.7%)、無し393名(91.4%)、不明4名(0.9%)であった。紹介有りの内訳は、病医院の紹介25名(75.8%)、助産院8名(24.2%)であった。月平均の新患者数は、35.8±5.5名であった。新患数を月別にみてみると、4月(46名)が最も多く、次いで、6月(44名)、7月(40名)と続く。最も少ない月は、9月(26名)であった(図1)。これらは診療日数の影響を除くために月別の一日当たりの平均新患者数をみると、4月および8月(2.2名)が最も多く、次いで6月(2.1名)と続く。最も少なかったのは9月(1.3名)であった。  曜日別にみると月曜日43名、火曜日137名、水曜日32名、木曜日113名、金曜日105名であった。火曜日および木曜日は整形外科の診療日となっており、整形外科系疾患が患者の愁訴の上位を占めていることから他の曜日と比較して新患数が多くなっているものと考える。  主訴については、一人あたりの主訴数は3.0件であった。主訴上位10位は、腰痛249件、肩こり148件、腰下肢痛75件、頚部痛63件、頚肩部痛53件、膝痛46件、逆子40件、肩関節痛36件、下肢痛35件、下肢しびれ31件であった(表1)。 3)インシデントレポートについて  WHOが1999年に「鍼の基礎教育と安全性に関するガイドライン」を発行し、日本においてもこれまで以上に安全性に関する関心が高くなり、近年、新たな鍼灸治療における安全性ガイドラインの発行[2]や鍼灸に関連する有害事象の報報告[3]やインシデントに関する報告[4-7]が数多く報告されている。  センターでは、1992年の開設当初より有害事象を報告することを義務づけてきた[8]。2000年からより安全な鍼灸臨床を実施していくため、外来終了時のミーティングにおいてインシデント報告を実施している2)。  インシデントに関する報告は、69件であった。インシデント分類(複数回答あり)では、「鍼の抜き忘れ」17件が最も多く、次いで「内出血」9件、「血腫」8件、「刺鍼部の疼痛(刺鍼後)」4件、「火傷」3件、「主訴の悪化」3件、「出血」3件、「一過性の気分不良」2件、「疲労または倦怠感」2件、「刺鍼部の疼痛(刺鍼中)」1件、「感染」1件、「患者放置」1件、であった。「その他」15件であった(表2)。  インシデントの報告方法では、直接での報告が49件で最も多い。次いで電話での報告4件、未記入7件であった。情報源は患者33件、スタッフ12件、施術者本人4件、家族1件、その他1件、未記入9件であった。インシデント月別報告数については、7月12件が最も多く、4月10件、6月7件、1月および8月6件と続いた。  処置対処方法については、「鍼灸師以外の関与したか」については、なし33件、所内看護師が対処したものは0件、未記入27件であった。処置のために医療費のかかったものはなかった。  最も多かった「鍼の抜き忘れ」について具体的にみてみると、抜き忘れた鍼の本数は、平均1.7±1.0本で、最大で4本の抜き忘れがみられた。部位別にみてみると、大腿部5件、上腕部および頭部2件、肩部、肩上部、肘部、腹部、腰部、殿部、膝部、下腿部がそれぞれ1件であった。施術ブース内およびベッド上が10件で最も多く、施術ブース以外は、患者宅2件、帰りの車内1件、トイレ1件、未記入3件であった(図4)。  発見者は患者15件、施術者1件、家族1件であった。施術者と抜鍼者とは同一が9件、別が3件、未記入5件であった。忘れた理由では「衣服で隠れていた」7件が最も多く、次いで「タオルで隠れていた」4件、「髪で隠れていた」1件であった。その他1件、未記入4件であった。  今回得られた結果からインシデントが報告される率を上げる動機づけや最も効果的なフィードバックの方法等、問題点等を改善するための方策を検討し、臨床にフィードバックしていきたいと考える。 図1 月別患者数(新患および再診) 図2 男女別新患数 図3 年代別新患数 表1 新患における主訴 表2 インシデント分類 図4 鍼の抜き忘れ理由 参考文献 [1]山下 仁,津嘉山 洋,他:鍼灸師の卒後研修.筑波技術短期大学テクノレポート5:211-216,1998. [2]尾崎 明弘,坂本 歩,他:鍼灸医療安全ガイドライン.医歯薬出版株式会社,東京,2007 [3]山下 仁,江川 雅人,他:国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~2002年)および鍼治療における感染制御に関する議論.全日本鍼灸学会雑誌54(1):55-64,2004 [4]山下 仁,津嘉山 洋,他:視覚障害をもつ鍼灸師が特に注意すべき医療過誤-附属診療所における6年間の記録-.筑波技術短期大学テクノレポート6:207-209,1999 [5]Yamashita H,Tsukayama H:Safety of acupuncture: incident reporting and feedback may reduce risks. BMJ 324: 170-171, 2002. [6]江川 雅人,石崎 直人:より安全な鍼灸臨床のためのアイデア 鍼の抜き忘れ防止の工夫.全日本鍼灸学会雑誌57(1):3-6,2007. [7]山下 仁:より安全な鍼灸臨床のためのアイデア インシデント報告システムの効果.全日本鍼灸学会雑誌57(1):7-9,2007. [8]Yamashita H, Tsukayama H, Tanno Y, Nishijo K. Adverse events related to acupuncture. JAMA280: 1563-1564, 1998. The activity of an acupuncture clinic at the Center for Integrative Medicine in 2008. KONDO H., TSUKAYAMA H., HORI N., HIRAYAMA A., AOYAGI K. 1) Center for Integrative Medicine 2) Department of Health Course of Acupuncture and Moxibustion Abstract: This is a statistical report of the patients who visited the outpatient department for acupuncture and moxibustion at the Center for Integrated Medicine in 2008. The total number of outpatients in 2008 was 8009 first outpatients 430 revisit outpatients 7579.The sex ratio was 1:1.43(male:female). The most common age group was 50-59 years. The chief complaint was low back pain(n=249), stiff neck(n=148),or low back and leg pain(n=75). The total number of treatment-related complications/adverse reported during this preoid was 69. The most common incident classification was forgotten needles(n=17),followed by internal bleeding(n=9). Keyword: Acupuncture and moxibustion, Statistics in outpatient,Center for Integrated Medicine