障害者のためのスポーツイベント実施報告と今後の展望 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 香田泰子 及川 力 天野和彦 中村有紀 要旨:2007年11月から、地域の障害者のスポーツ活動振興を目的として、本学体育館等を使用してスポーツイベントを開催している。昨年から他大学(茨城県立医療大学、筑波大学)等と連携し、大学連携によるイベントとして規模が拡大してきた。2009年も大学連携で実施し、11月に本学においては3回目となるイベントを開催した。今回も約50名の参加があり、イベントを楽しんでもらった。イベント時のアンケート調査により、地域の障害者のスポーツ活動における様々な課題や展望が明らかになった。 キーワード:障害者、スポーツイベント、スポーツ振興、今後の課題 1.はじめに  本学は聴覚・視覚障害者を対象とした大学であり、地域貢献の一環として地域の障害者スポーツ振興を目指す活動は有意義と考えられる。そこで我々は2007年11月から、地域の障害者のスポーツ活動振興を図るために、本学体育館等を使用してスポーツイベントを開催している[1]。2008年には他大学(茨城県立医療大学、筑波大学)や障害者スポーツ振興に関わる団体と連携し、「三大学連携イベント」として実施し、参加者も増加した[2]。  このイベント開催の目的には、将来的には障害者や関係団体等の様々な情報ネットワークの構築、さらに本学を地域の障害者スポーツ活動の拠点にしていくことも視野に入れている。  2009年は第2回三大学連携イベントとして開催し、本学としては3回目のイベントを行った。本稿では本学におけるイベントの報告と、今後の地域貢献としての展望や課題について述べる。 2.イベントの準備 2.1 他大学との連携  2回目の他大学等との連携は前回同様、「三大学連携・障がい者のためのスポーツイベント実行委員会(代表・香田泰子)」を組織し、本学と茨城県立医療大学、筑波大学および茨城県障害者スポーツ研究会、茨城県障害者スポーツ指導者協議会の三大学・二団体との共催とし、各大学で共催の許可をとり、また茨城県、つくば市、つくば市教育委員会、阿見町、茨城新聞社の後援を受けた。内容は昨年と同様に各大学で1回ずつ、本学、茨城県立医療大学、筑波大学の順でそれぞれの特徴を生かした内容のイベントを開催することになった。 2.2 本学でのイベントの準備  本年度開催の経費は、筑波技術大学教育研究助成財団助成事業「本学の地域貢献および障害者スポーツ振興を目指した他大学等との連携による地域の障害者を対象としたスポーツイベントの実施」(35万円)、および筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター長裁量経費「地域の障害者、障害者に関わる健常者および一般住民を対象としたスポーツイベントの実施による障害者スポーツの振興」(43.8万円)等を獲得した。  内容は、前回までの参加者の感想や希望等をもとに、実施時間や種目を検討した。継続する種目と新しい種目を取り入れ、これまで通り複数種目を時間交代制で以下のように実施することにして、指導や指導補助は各種目の専門家や公認障害者スポーツ指導者に依頼した。  1)日時・場所:2009年11月23日(月・祝)、午前10時~午後3時、本学天久保キャンパス体育館、グラウンド、コミュニケーションホール 2)実施種目・時間および指導者・指導補助者・ビームライフル(午前10時~午後3時):モンゴルライフル射撃協会ナショナルコーチ多田 尚克氏(補助者:筑波大学ライフル射撃部員) ・ボッチャ、レクリエーション(自由遊び)(午前10時~午後3時):公認障害者スポーツ指導者 ・卓球・音卓球(視覚障害者用卓球のサウンドテーブルテニス)、卓球バレー(午後1時~午後3時):本学教員、公認障害者スポーツ指導者 ・ディスクゴルフ(午前10時~午後3時):公認障害者スポーツ指導者 ・フリークライミング(午前10時~午後3時):障害者クライミング世界選手権視覚障害者の部優勝者・NPO法人モンキーマジック代表小林 幸一郎氏  また、今回は新しい試みとして、障害者スポーツを一般の方々に理解してもらうことも目的として、参加対象者として「障害者のスポーツに関心のある人」にも呼びかけることにした。さらに一般の小学校や中学校の特別支援教育コーディネーター担当の教員にもパンフレットを送付して参加を呼びかけることにした。これは、2007年から特殊教育から特別支援教育に変わったことによって地域の一般学校へ障害のある児童や生徒が入学するようになってきているが、そこでの体育・スポーツ活動がまだまだ充実されていない現状が報告されており、その背景として教員の情報・知識不足などが原因としてあげられているためである[3]。そのような教員に障害者スポーツについての理解を高めてもらうことも目的とした。  また、参加者に地域で行われているスポーツ活動や活動団体について相互に知ってもらうため、新規に「情報交換コーナー」を設置し、活動している団体などに呼びかけて掲示・配布用パンフレットを用意してもらうことにした。広報活動としては、パンフレットを作成し、郵送や配布などを行った。図1は中村が作成した本学でのイベント用のパンフレットである。三大学連携のパンフレットとこのパンフレットを、県内の市町村社会福祉協議会、障害者団体、つくば市や周辺地域の障害者施設、県内の特別支援学校、つくば市内の小学校や中学校に送付、配布した。また、地域のミニコミ誌(常陽リビング)に記事を掲載依頼し、11月21日(土)に掲載をしてもらうことができた。 図1 イベントのパンフレット(表・裏) 3.イベントの実施とアンケート結果 3.1 参加者  2009年11月23日(土)午前10時~午後3時に、計画通り実施した。約50名の参加があり、年齢は7才から60才代まで、障害の種類は聴覚、視覚、肢体不自由、知的障害で、あらゆる年代のあらゆる障害者が参加してくれた。イベントスタッフは指導者6名、指導補助者16名、本学教員4名の合計26名であった。また、今回は事前に近隣の筑波学院大学から連絡があり、学院大学の授業の一環としてボランティアスタッフとしての学生受け入れを依頼され、当日は2名の健常学生が参加した。  今回は前回よりも指導補助者数を増加したことが功を奏したのか、参加者に対して比較的きめ細かい指導ができたと思われ、単に各種目を体験し楽しんでもらうだけでなく、ディスクゴルフなどではミニ講習会のようになってスポーツの技術指導も行われ、参加者の技能向上がみられた。なお、参加してほしいと考えていた一般学校の教員など、健常者の参加者はほとんど無く、一般の人々への啓発は今後の課題となった。 図2 アンケート結果 3.2 アンケート結果  今年も参加者にアンケートに協力してもらい、イベントの感想やスポーツ活動に対する要望等を調査し、20名の回答があった。図2にアンケート結果を示す。3回目のイベントであるが、リピーターよりも初めての参加者が多く、この3回を通して徐々に参加人数が増加していた。またこれまで同様、イベントを楽しんだこと、今後も参加したいという意見が多く、さらにイベントの頻度として、年に複数回の開催希望が多かった。  自由記述による意見では、 ・スポーツをやりたいが指導者や支援者がいない。(2人) ・スポーツセンターのようなスポーツ施設がほしい。(2人) ・もっと身近に、障害者・健常者に関係なくスポーツ講座や講習会があったらよい。(1人) ・やりたい種目のサークルがない。(1人) などの意見があり、障害者においてスポーツ実施希望があっても、日常的になかなかスポーツをできない状況にあることが明らかになった。 4.今後の課題や展望  これまでの3回のイベント開催を通して、地域の障害者のスポーツ振興において、以下の課題や展望が考えられた。 4.1 スポーツイベントについて  今回が初めての参加者も多く、また県南地域以外からの参加者もあり、本学のイベントとして徐々に知られてきて、定着してきたと考えられる。しかし先述のように一般学校の障害児童・生徒に対する体育・スポーツ活動の充実を考えて地域の小・中学校特別支援教育コーディネーターにも広報したが参加者はいなかった。今後も啓発・広報を続けていきたい。また、「障害者のスポーツは障害者だけのものではない」ということから、一般の関心ある人に参加してもらいたい旨をパンフレットに記載して広報したが、これも実際には参加は少なかった。これについても、啓発・広報を続けていきたい。  今回も公認障害者スポーツ指導者に指導や指導補助を依頼し、特に今年はスタッフ数を増加させたことがイベント内容の充実につながったと考えられる。今後も学外の専門家や障害者スポーツ指導者に指導を依頼して実施していきたい。そして、地域貢献の一環として、障害者スポーツ指導者の研修の場としての機能を高めていくことも望ましいと考えられる。また、上記とも関連するが、健常者にもさらに参加を呼びかけ、障害者スポーツの理解者や支援者を増やしていくことも重要な役割になると考えられる。実施種目については、参加者の希望などをもとに毎年調整していくことが望ましいが、今回本格的に取り入れた全国障害者スポーツ大会(障害者国体)の種目であるフライングディスクは継続して、参加者の競技力向上やモチベーション向上に役立てたいと思う。また種目によっては、講習会を兼ねたような内容での実施が望ましいであろう。 4.2 イベントの発展としての日常的な活動  アンケートの結果をみると、イベントの開催について年に複数回の希望が多く、また自由記述から、日常的にスポーツ活動を実践したいという意見が多い。また、指導者や施設の面からそのことが困難であるという実情も明らかになった。今後本学の役割として、何らかの定期的な活動を行っていくことも地域貢献として重要となるであろう。上記のように地域の障害者スポーツ指導者にも参加してもらい、彼らの指導力向上も目的としながら、学外者との連携による定期的なスポーツ活動の拠点としての本学利用が望まれるのではないか。また、そのために情報の拠点や情報発信といった機能をもつことも重要だと思われる。また、地域のあらゆる障害者が利用しやすいように、本学の体育施設のバリアフリー化(現状では車椅子ユーザーにとってバリアフリーで無い)も進める必要があると考えられる。 4.3 他大学等との連携や協力  今回は筑波学院大学の学生がボランティアスタッフとして参加した。これを機に、イベントの際や日常的なスポーツ活動実践において、筑波学院大学や県内の他の大学との連携が望ましい。全国的にみると、体育系や福祉系大学や学部が地域の障害者に対してイベント開催やスポーツ教室の開催などを行っている[4]。それらの大学では学生が実習を兼ねてスタッフとして計画や実践に関わって実施している。本学の場合も学生がスタッフとして活動することがある程度可能であろうが、障害のある学生として活動内容に制約が出てきてしまうのは否めないし、学生の専攻分野との相違もある。そのためにも、他大学との連携による学生のスタッフとしての参加要請なども検討していきたいと考える。 5.まとめ  3度目となった本学における障害者のためのスポーツイベント開催の報告と、今後の課題や展望について述べた。本学の地域貢献として、イベントの充実とともに、より積極的な活動を学外の関係者や関係団体等と連携し、発展させていきたいと考えている。 参考文献 [1] 香田 泰子,及川 力,天野 和彦,中村 有紀:「筑波技術大学 障害者のためのスポーツ体験イベント」実施報告.筑波技術大学テクノレポート 16巻(1号):149-152,2009. [2] 香田 泰子,及川 力,天野 和彦,中村 有紀,和田野安良,齊藤 まゆみ:「三大学連携・障がい者のためのスポーツイベント」実施報告.筑波技術大学テクノレポート 16巻(1号):153-157,2009. [3] 日本体育学会第59回大会アダプテッド・スポーツ科学分科会シンポジウム「特別支援教育における障害児童・生徒のスポーツ活動」.日本体育学会第59回大会予稿集:51-52,2008. [4] 日本体育学会第60回記念大会アダプテッド・スポーツ科学分科会シンポジウム「地域におけるアダプテッドスポーツ振興に関わる大学の役割」.日本体育学会第60回記念大会予稿集:60-63,2009. Report on Sporting Events for Disabled People and Future Issues KOHDA Yasuko, OIKAWA Chikara, AMANO Kazuhiko, NAKAMURA Yuki Research and Support Center on Higher Education, Tsukuba University of Technology Abstract: To promote sporting activities among disabled people, we have been organizing sporting events at our university's Amakubo Campus since November 2007. To expand the sporting event for disabled people, three neighboring universities—Tsukuba University of Technology, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences, and the University of Tsukuba—cooperated to host events at their campuses in 2008, thereby increasing the number of participants. In 2009, three neighboring universities also cooperated and Tsukuba University of Technology hosted the 3rd event in November. Around 50 people with various types of disabilities participated, and the event was a huge success. From the survey of the participants, many issues that remain to be solved were clarified so as to promote sporting activities among disabled people. Key words: Disabled people, Sporting event, Sports promotion, Future issues