世界の切手に描かれたルイ・ブライユ-国立民族学博物館「点天展」における切手展示の記録- 筑波技術大学保健科学部保健学科鍼灸学専攻 大沢 秀雄 要旨:2009年1月4日は点字の発明者ルイ・ブライユの生誕200年の誕生日であった。2009年8月13日から11月24日まで、国立民族学博物館においてルイ・ブライユの生誕200年を記念した企画展「点字の考案者ルイ・ブライユ生誕200年記念・・・点天展・・・」が開催された。その中で「世界の切手に描かれたルイ・ブライユ」と題し、ブライユを描いた2008年以前の全ての切手と昨年末から今年にかけて発行された生誕200年の切手のうち7月までに収集できたものを展示した。 キーワード:ルイ・ブライユ、点字、郵便切手 1.はじめに  2009年1月4日は点字の発明者ルイ・ブライユ(Louis Braille、1809~1852年)の生誕200年の誕生日に当たり、2009年は世界中で、それを記念する行事が世界盲人連合(WBU)、各国の盲人協会、点字図書館、盲学校などで多数開催された。また40以上の国・地域からその記念切手が発行された。  2009年、国立民族学博物館で開催された企画展「点字の考案者ルイ・ブライユ生誕200年記念・・・点天展・・・」に筆者の視覚障害関連切手コレクションの一部が展示された。そこで、その作品の概要を紹介する。 2.点字の考案者ルイ・ブライユ生誕200年記念・・・点天展・・・  2009年8月13日から11月24日まで、大学共同利用機関法人・人間文化研究機構・国立民族学博物館(大阪府吹田市千里万博公園10-1)においてルイ・ブライユの生誕200年を記念して企画展「点字の考案者ルイ・ブライユ生誕200年記念・・・点天展・・・」が開催された。  本企画展での主な展示内容は、以下の通りである。 ①ルイ・ ブライユを描いた世界各地の記念切手(筆者提供)、ヘレン・ケラーの点字蔵書(パーキンス盲学校所蔵)、『群書類従』(和本と版木)、世界各地の点字器・点字板、「点字毎日」創刊号、第二次大戦前の点字教科書・地図帳、点字絵本などの点字に関する貴重な資料の展示 ②内山春雄氏のバードカービング、江田挙寛氏の石創画、M. Y. Yokoyama氏の継手アートなど、触覚芸術の優れた作品の展示  また会期中は様々なワークショップ、シンポジウムが開催された。 3.「世界の切手に描かれたルイ・ブライユ」  この企画展で、「世界の切手に描かれたルイ・ブライユ」と題し、ブライユを描いた2008年以前の全ての切手と2008年末から2009年にかけて発行された生誕200年の切手のうち2009年7月までに収集できたものを展示した。  展示方法:Letterサイズの切手展用専用リーフに説明を書き込み、切手、葉書などの郵便物をプラスチック製のマウントやコーナーによって貼付した合計15リーフを展示した。切手リーフの上方奥にはルイ・ブライユ、石川倉次の写真や年表が展示されているため、切手用リーフへの書き込みは切手の関する事に留めた。図1は切手の展示風景である(特別に担当者の許可を得て撮影した)。  リーフへの記載事項:切手の発行国(国名は正式名称を使う。消滅した国や国名が変更された場合は発行当時の名称を使った)、発行年、切手の図案の説明を記載した。特に、切手上に点字がエンボス加工や墨点字で印刷されている場合にはできるだけ記載するようにした。また、郵趣用語の説明も加えた。  リーフの文字サイズ:従来の切手展作品では、小さな切手を圧迫しない程度の小さな文字サイズが用いられている。今回は弱視者への配慮から可能な限り大きなフォントを用いることにし、本文部分は12ptを用いた。  全盲参観者への配慮:切手に限らず会場の展示物には点字シールによる説明が施されていた。「世界の切手に描かれたルイ・ブライユ」15リーフに加え、実際に全盲の参観者が点字のエンボス切手を触れるよう、別に1リーフ作成した(別図最終ページ)。これは点字のエンボス切手を薄いビニール袋に入れ、リーフ上に両面テープで固定したものである。会場担当者に直接口頭で確認したところ、多数の全盲参観者が触り、好評とのことであった。 4.「世界の切手に描かれたルイ・ブライユ」の構成  全15リーフの構成は以下の通りである(別図参照,60%) 1ページ:タイトル、作品の概要、参考文献などを示す。 2ページ:ブライユを描いた最初、2番目の切手 3ページ:ブライユ生誕150年、点字発明150年(1) 4ページ:点字発明150年(2) 5ページ:点字発明150年(3) 6ページ:没後125年、国際障害者年など 7ページ:生誕200年(1)フランスなど 8ページ:生誕200年(2)オランダ 9ページ:生誕200年(3)チェコ、アイルランドなど 10ページ:生誕200年(4)ポーランド、セルビアなど 11ページ:生誕200年(5)モルドバ、ルーマニア 12ページ:生誕200年(6)ベラルーシなど 13ページ:生誕200年(7)韓国、インドなど 14ページ:生誕200年(8)ブラジル、モロッコなど 15ページ:生誕200年(9)オーストラリア 5.国際シンポジウムの参加  会期中の11月22日・23日の2日間、国際シンポジウム「点字力の可能性―21世紀の新たなルイ・ブライユ像を求めて」が開催された。その中で「切手が伝える視覚障害」と題した講演と展示された切手の前でギャラリー・トークを行った。このシンポジウムには国内外の視覚障害教育の関係者が多数参加されており、その中で切手が視覚障害の歴史や現状をよく反映した資料であること、一般の方に視覚障害の啓蒙を行う際に切手が役立つことなどを主張した。 6.参観者の感想  8月末と11月の国際シンポジウムの2回、会場に行き、参観者、会場のボランティア、視覚障害教育関係者より直接聴取した感想を順不同に列挙する。 ・ブライユの切手多数発行されていることに驚いた。 ・日本はブライユ生誕200年の記念切手を発行していないのか?(筆者注;発行されていない) ・点字のエンボス切手が存在することを初めて知った。 ・点字のエンボス切手を日本は発行しているのか?(筆者注;日本はこれまで1988、1990年に2回発行)。 ・切手を見て、ブライユが身近に感じられた。 ・地元の点訳・朗読ボランティア・グループで見せたい。 ・展示してある切手を入手したい。 ・切手が点字の普及に役立つと思う。  これらの感想の中で一番多かったものは「日本はブライユ生誕200年の記念切手を発行していないのか?」であった。2025年の点字発明200年の時には、今回の事を踏まえ、関係諸団体と共に切手の発行運動を行いたいと考える。 7.まとめ  以上、国立民族学博物館の企画展「点字の考案者ルイ・ブライユ生誕200年記念・・・点天展・・・」に資料提供した「世界の切手に描かれたルイ・ブライユ」の概要を述べた。今後とも、視覚障害に対する啓蒙活動の一環で、資料としての切手を活用していきたいと考える。 謝辞 今回の切手展示に当たりお世話になった国立民族学博物館・准教授・廣瀬 浩二郎 先生に深謝いたします。  別図の切手画像をカラーで紙などに印刷した場合、郵便切手類模造等取締法に触れる恐れがありますので、ご留意下さい。 参考文献 [1] 大沢 秀雄,視覚・聴覚障害に関連した切手,筑波技術大学テクノレポート,Vol.14,281~287,2007. [2] 大沢 秀雄,視覚障害に関連する切手,切手の博物館研究紀要,第4号,3~25,2008 [3] 大沢 秀雄,「切手が伝える視覚障害―点字・白杖・盲導犬―」,彩流社,2009 図1 「世界の切手に描かれたルイ・ブライユ」の展示風景 Commemorative stamps of Louis Braille from around the world. -Record of the stamps exhibited at “Ten-Ten-Ten”(Celebrating Louis Braille's Bicentennial) at the National Museum of Ethnology- Ohsawa Hideo Department of Health, Faculty of Health Science, Tsukuba University of Technology Abstract: January 4, 2009 is the 200th birth anniversary of Louis Braille, who invented braille. The exhibition that commemorated the 200th birth anniversary of Louis Braille was held at the National Museum of Ethnology between August 13, 2009 and November 24, 2009. I contributed my collection of stamps on Louis Braille to this exhibition, and they were exhibited under the title “Commemorative stamps of Louis Braille from around the world.” Key words: Louis Braille, Braille, Postage stamp