日本とドイツにおけるガイドヘルプの現状調査研究 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 クロイヒヴィーク ズザンネ 関田 巖 要旨:日本とドイツで視覚障害者がガイドヘルプ(移動支援)を受けている実情を調査するために、視覚障害者に対してアンケートを行い、ガイドヘルプを受けたときの良い経験と悪い経験について調査・比較した。アンケートの回答者数は、日本人19人、ドイツ人8人である。日本とドイツの違いについて有意差を調べた結果、悪い経験では有意差はなかった。良い経験では、「乗り物を手伝ってくれる」(有意水準 0.0085)、「困っているときに助けてくれる」(有意水準 0.0899)でのみ、ドイツ人が多くなった。日本とドイツで共通することの分析から、よりよいガイドヘルプを実現するためには、良いコミュニケーション、安心して目的地に行けること、日本におけるガイドヘルパーの資質の向上、が重要であることがわかった。 キーワード:ガイドヘルプ、移動支援、日本、ドイツ、調査、有意差 1.はじめに  筆者の一人は、全盲のドイツ人の視覚障害者であり、移動時に晴眼者から支援(ガイドヘルプ)を受けたときに、助けられた半面、怪我をした経験などもあった。  日本では、視覚障害者の移動を支援するための専門的なヘルパー(ガイドヘルパー)がおり、派遣制度もある。文献[1]には、視覚障害者がガイドヘルパーからガイドヘルプを受けたときに不愉快に感じた事例が2頁にわたって紹介されている。また、文献[2]~[6]の中で、参加者の発言に、関連した内容がある。文献[7]は、ガイドヘルパー派遣制度の調査報告であり、視覚障害者からガイドヘルパーへの要望についての記述がある。  ドイツでは、視覚障害者のための専門的なガイドヘルパーはおらず、視覚障害者は身近にいる人からガイドヘルプを受けている。文献[8]は、視覚障害者と共に移動したり買い物をするときの方法や、視覚障害者に対する偏見を無くすためのアドバイスがまとめられている。ドイツでは、ガイドヘルプを受けたときの視覚障害者の声をまとめたものはない。  日本とドイツの違いに着目し、専門的なガイドヘルパーのみならず、家族や友人からガイドヘルプを受けている現状について、日本とドイツで調査・比較したものはない。本論文では、日本とドイツで、視覚障害者に対してアンケートを行い、ガイドヘルプを受けたときの良い経験と悪い経験について調査し、日本とドイツの違いについて、考察を行う。  アンケートの回答者数は、日本人19人、ドイツ人8人である。回答者の年齢は、日本人は20才から75才、ドイツ人は23才から58才である。回答者の性別は、日本人は女性10人、男性9人。ドイツ人は女性8人である。  全員がガイドヘルプを受けた経験があり、良い経験を持っていた。悪い経験があると回答した数は、日本人15人、ドイツ人7人である。  日本とドイツの違いについて、フィッシャーの正確確率検定を用いて、有意水準0.1以下(信頼度90%以上)である違いのある経験を調べた。  その結果、悪い経験では、有意差はなかった。  良い経験でのみ、以下の2経験でドイツの方が多いという有意差があった: 「乗り物を手伝ってくれる」(有意水準 0.0085) 日本人5人(26%)、ドイツ人7人(88%) 「困っているときに助けてくれる」(有意水準 0.0899) 日本人9人(47%)、ドイツ人7人(88%)。  日本とドイツで共通することの分析から、よりよいガイドヘルプを実現するためには、 ・よいコミュニケーション ・安心して目的地に行けること ・日本におけるガイドヘルパーの資質の向上 が重要であることがわかった。 2.調査方法  2009年の春に、日本とドイツで、視覚障害者に対して、付録1に示すアンケートを配布した。その中で、ガイドヘルプを受けたときの良い経験と悪い経験の有無と、そのときの状況について調査した。  日本では、アンケートを、視覚障害の友人と、社会福祉法人国際視覚障害者援護協会(ガイドヘルパーの派遣業務はしていない)の事務所に送った。  国際視覚障害者援護協会の事務所の方に卒業研究について説明し、アンケートを配布することについて許可を得た。そして、多くの視覚障害者に対して、アンケートについて説明し、アンケートの内容は、事務所から個々の視覚障害者に、電子メールならびに点字で配布してもらった。視覚障害者は主に東京在住である。回答は、事務所宛に電子メールまたは点字で送ってもらった。点字は事務所で墨訳され、回答は電子メールで受け取った。  ドイツでは、視覚障害の友人に電子メールでアンケートを送り、その友人から、更に視覚障害の友人に電子メールでアンケートを送ってもらった。回答は、電子メールで直接受け取った。 3.アンケートの結果  アンケートの回答者数は、日本人19人、ドイツ人8人である。  回答者は、日本人は20才から75才の男女である。 20才代は、女性3人、男性1人。30才代は、女性2人、男性2人。40才代は、女性2人、男性1人。50才代は、女性2人。60才代は、男性3人。70才代は、女性1人、男性2人。  ドイツ人は23才から58才の女性である。 20才代は、3人。30才代は、4人。40才代は、0人。50才代は、1人。 3.1 ガイドヘルプを受ける頻度  日本人では、ほとんど毎日4人(※1)週に約4回1人週に約3回3人週に約2回3人(※2)週に約1回2人月に約2回2人月に約1回2人月に約0.5回2人(※3)  (※1:外出時にいつもガイドヘルプを受けている1人を含む)  (※2:1か月に約20時間受けている1人を含む)  (※3:去年よりガイドヘルプを受けていない1人を含む)  ドイツ人では、  ほとんど毎日4人ときどき3人ほとんどない1人 3.2 ガイドヘルパーは誰か  以下で「○○のみ」という表記には、「ほとんど○○のみ」も含まれている。  日本人では、知人のみ3人ヘルパーのみ5人ヘルパー以外の知らない人のみ1人知人と、ヘルパーのみ2人知人と、ヘルパー以外の知らない人のみ4人ヘルパーと、知らない人のみ0人知人と、ヘルパーと、ヘルパー以外の知らない人のすべて4人  ドイツ人では、 知人のみ4人知らない人のみ2人知人と知らない人の両方2人 3.3 ガイドヘルプ時における,悪い経験や良い経験の有無  日本人では、 悪い経験のある人18人、悪い経験のない人1人。  ドイツ人では、悪い経験のある人7人、悪い経験のない人1人。  日本人では、良い経験のある人19人、良い経験のない人0人。  ドイツ人では、良い経験のある人8人、良い経験のない人0人。 3.4 良い経験の状況  以下の番号で、No.1~No.19は日本人であり、No.20~No.27はドイツ人である。 ●安心して目的地に行ける  日本人15人(79%)、ドイツ人7人(88%) No.1は、安心して安全に目的地に早く行ける。 No.2は、安心して目的地に行ける。 No.4は、安心して歩ける。 No.6は、電車の乗り換えのとき駅員さんにガイドしてもらうため、安心して目的地の駅まで着くことができた。 No.8は、目的地に安心して行くことができた。 No.9は、安心して目的地に行けた。 No.10は、知らない方(外人さん)が、日本に来たばかりなのに、人に聞いてお店に連れて行ってくれた。 No.11は、広い道路を横断するときや、道に迷ってしまったときにガイドを受けて、良い経験をした。 No.12は、目的地に安心して行くことができた(特にガイドヘルパーは、依頼した時間内で安全に移動できる)。慣れていない街や道で、道案内により助けてもらっている。 No.13は、治療に来る患者さんから、道で会ったときに、しばしばガイドしてもらう。ガイドヘルパーと、買い物や病院へ行くこともある。 No.15は、駅の係員、近くの交番、周りの人からガイドしてもらい、初めてにもかかわらず、安心して東京へ着くことができた。 No.16は、航空会社の介護案内を利用し、目的地まで行くことができた。一緒におみやげを選んでくれた上に、バス乗り場の係の方に引き継いでくれた。 No.17は、目的地まで安全に誘導してもらえた。目的地までの道順を把握していないときや、夜間で暗いときに助かった。 No.18は、安心して目的地に行けた。 No.19は、自分が視覚障害者であることをきちんと説明できれば、目的地に行くことができた。 No.20は、教授からホームレスの方まで、駐車場、道路、ビル、バスの中で、助けてくれて、安心して目的地に行けた。 No.21は、行ったことのない駅からバスまで案内してもらった。万博会場で、工事をしているところから路面電車の停留所まで誘導してくれた。 No.22は、路上、駅の中、道がわからないときに、教えてもらえた。 No.23は、小さい子が危険な穴を教えてくれて、案内もしてくれた。 No.25は、目的地に安心して行くことができた。 No.26は、交通の激しい交差点を横断して、お店に安心していくことができた。停留所を探したり、路面電車や地下鉄を探すことができた。 No.27は、信号が青であることを教えてもらい、安全に交差点を渡ることができた。 ●目的地に早く行ける日本人3人(16%)、ドイツ人0人(0%) No.1は、安心して安全に目的地に早く行ける。 No.5は、スムーズに行動できた。 No.17は、時間通りに目的地に到着できた。 ●乗り物を手伝ってくれる日本人5人(26%)、ドイツ人7人(88%) No.6は、電車の乗り換えのとき駅員さんにガイドしてもらうため、安心して目的地の駅まで着くことができた。 No.7は、電車などで声をかけてくれる。 No.13は、電車の事故で大変混雑し、運転再開を待っているときにトイレに行きたくなったとき、年配の女性が列から離れてトイレまで連れて行き、もとの場所まで連れ帰ってくれた。 列車内で席がわからないときに声をかけてくれて、楽しい話をすることができた。 No.15は、駅の係員、近くの交番、周りの人からガイドしてもらい、初めてにもかかわらず、安心して東京へ着くことができた。 No.16は、航空会社の介護案内の方が、一緒におみやげを選んでくれた上に、バス乗り場の係の方に引き継いでくれた。 No.20は、教授からホームレスの方まで、駐車場、道路、ビル、バスの中で、助けてくれて、安心して目的地に行けた。 No.21は、行ったことのない駅からバスまで案内してもらった。 No.22は、路上、駅の中、道がわからないときに、教えてもらえた。 No.24は、公共交通機関を利用しているときに、時刻表を読んでもらった。 No.25は、森の中、列車の中で、駅の中で誘導を受け、楽しい話ができた。 No.26は、停留所を探したり、目的の路面電車や地下鉄を探すときに、良い経験をしている。 No.27は、バスや地下鉄で乗降を手伝ってもらった。 ●ガイドされるときに会話があることで、情報が入ったり、気持が明るくなる 日本人11人(58%)、ドイツ人5人(63%) No.1は、会話したり、情報が入る。 No.2は、気持が落ち込んでいるときに良いアドバイスをしてくれて、明るくなった。 No.3は、晴眼者に社会の知識を聞くことが楽しみ。 No.6は、外を歩いているとき、周囲の様子などを話してもらい、自分が歩いている場所が、イメージしやすかった。 No.9は、生活の知恵をいろいろと教えてもらえた。 No.12は、仲間らしき人がいるのかどうかの判断がしやすい。 No.13は、列車内で席がわからないときに声をかけてくれて、楽しい話をすることができた。 No.15は、友人とは歩きながらたわいのないことを話せるので、非常に明るい気分になる。 No.16は、航空会社の介護案内の方が、一緒におみやげを選んでくれた上に、バス乗り場の係の方に引き継いでくれた。 No.18は、登山仲間が、山道で、花やわき水を教えてくれたり、触らせてくれた。(気分が明るくなった)(食べ物がおいしく感じる) No.19は、疑問に思ったことを確認できる。 (No.20は、気分が明るくなった) No.24は、買い物のとき、値札を読んでもらったり、買いたい商品を探すのを手伝ってもらった。公共交通機関を利用しているときに、時刻表を読んでもらった。 No.25は、森の中、列車の中で、駅の中で誘導を受け、楽しい話ができた。 (No.26は、気分が明るくなった) No.27は、お店の人に、おいしいもの、新発売のもの、安いものを教えてもらったり、世間話をして楽しくなった。電車を待っていたとき、声をかけてくれた日本人と、車内で楽しい長話をした。 ●困っているときに助けてくれる 日本人9人(47%)、ドイツ人7人(88%) No.6は、道に迷っているとき、親切な人にガイドしてもらい、人の優しさを感じることができた。 No.8は、困っているとき、さりげなく手を貸してくださった。 No.10は、知らない方(外人さん)が、日本に来たばかりなのに、人に聞いてお店に連れて行ってくれた。 No.11は、広い道路を横断するときや、道に迷ってしまったときにガイドを受けて、良い経験をした。 No.12は、慣れていない街や道で、道案内により助けてもらっている。 No.13は、電車の事故で大変混雑し、運転再開を待っているときにトイレに行きたくなったとき、年配の女性が列から離れてトイレまで連れて行き、もとの場所まで連れ帰ってくれた。 列車内で席がわからないときに声をかけてくれて、楽しい話をすることができた。 No.15は、駅の係員、近くの交番、周りの人からガイドしてもらい、初めてにもかかわらず、安心して東京へ着くことができた。 No.17は、目的地までの道順を把握していないときや、夜間で暗いときに助かった。 No.19は、疑問に思ったことを確認できる。 No.20は、教授からホームレスの方まで、駐車場、道路、ビル、バスの中で、助けてくれて、安心して目的地に行けた。 No.21は、行ったことのない駅からバスまで案内してもらった。 万博会場で、工事をしているところから路面電車の停留所まで誘導してくれた。 No.22は、路上、駅の中、道がわからないときに、教えてもらえた。 No.23は、子どもたちがいろいろ聞いてきて、必要なことを手伝ってくれた。 No.24は、買い物のとき値札を読んでもらったり、買いたい商品を探すのを手伝ってもらった。 公共交通機関を利用しているときに、時刻表を読んでもらった。 No.26は、交通の激しい交差点を横断して、お店に安心して行くことができた。停留所を探したり、路面電車や地下鉄を探すことができた。 No.27は、信号が青であることを教えてもらい、安全に交差点を渡ることができた。 ●その他No.14は、ガイドを受けることで緊張せずに安心感が得られるので、脳にいい印象を与えてくれると感じる。 No.15は、2才のいとこが一緒に遊ぼうと遊び場所の砂浜まで誘ってくれたことに、ありがたみを感じた。 3.5 悪い経験の状況  以下の番号で、No.1~No.19は日本人であり、No.20~No.27はドイツ人である。 ●目的地に希望通りに行けなかった 日本人3人(16%)、ドイツ人1人(13%) No.13は、同じマンションに住んでいる人から、「一緒に帰りましょう」と声をかけられたのでガイドしてもらったら、マンションの裏口に連れて行かれて、「僕は駐車場に用があるから」と置き去りにされた。 引っ越したばかりの上に裏口をほとんど利用したことがなかったので、不安な気持ちのまま、周囲の音や雰囲気を頼りにエレベータホールまで、1人で行かなければならなかった。 No.15は、自分で行こうと思えば行ける場所、あるいは既に道を知っている場所で、無理やり違うところに案内され、逆に行き先がわからなくなったことが何度もある。 No.17は、道順を間違え、目的地に時間どおりに到着できなかった。 No.23は、行きたい場所(決まっているホームなど)をきちんと伝えても、晴眼者は全然聞いてくれなかった。その結果、違う電車や場所まで誘導された。 ●列車の脇に落ちたり、落ちそうになった 日本人1人(5%)、ドイツ人1人(13%) No.2は、電車とホームの隙間に落ちそうになった。 No.27は、ホームでない側の列車の出口から出ようとして、線路脇に転落した。後ろの男性に出口を聞いたところ、間違った回答があったため。 ●段差や階段から転落したり、転落しそうになった 日本人4人(21%)、ドイツ人4人(50%) No.5は、階段から落ちたとき、ガイドの言葉が不足しており、態度が悪かった。 No.6は、階段があることを教えてくれなかったので、転びそうになった。 No.12は、ガイドが視覚障害者の視力(弱視)を見誤り、階段の上下を教えてもらえず、階段を踏み外した。 No.15は、草むらと砂浜を結ぶ縁石の段差で、段差に気づかず、前に転んだ。 No.20は、キャンプ旅行のときに雑談をしながら歩いていて、ガイドしてくれた人が階段を教えてくれなかったので、視覚障害者だけが転落した。 No.21は、階段を教えてくれるのが遅すぎたため、階段から2度、落ちそうになった。 No.25は、段差を教えてもらえず、段差から落ちた。ガイドよりも先に歩かされるときが、一番危険だ。 No.26は、落ちた。 ●物や人にぶつかった 日本人5人(26%)、ドイツ人4人(50%) No.7は、柱などにぶつかった。 No.10は、柱などにぶつかった。 No.13は、日ごろ歩いたことのない道を、ものすごい早足で引っ張られて、止まっている車にぶつけられた。 No.14は、近くにいた子どもにぶつかり、転ばせてしまった。 No.15は、ガイド(妹)の不注意で、何度か電柱に激突した。 No.21は、何回もぶつかった。フェンスに沿って歩いているときに、ガイドをしてくれた人が、視覚障害者の分の横幅を確保しなかったので、フェンスにぶつかった。 No.25は、白杖をいつも持っているが、知らない人からガイドを受けたときには、よくぶつかったりした。 No.26は、ぶつかった。No.27は、ガイドをしてくれた人が、視覚障害者分の横幅を確保しないで歩いたため、細い鉄柱にぶつかり、柱に付いていたボルトに額が当たって大けがをした。 列車内を移動中、ガイドが手放したスイングドアにぶつかった。 ●不安になった日本人5人(26%)、ドイツ人2人(25%) No.6は、ガイドの人が無口で、誘導の最中にどこを歩いているのかわからなくなり、不安になった。 No.7は、危ない思いをした。 No.11は、白杖を引っ張られて、怖い思いをした。 No.13は、日ごろ歩いていない道を、ものすごい早足で引っ張られて、車にぶつかったり、日ごろ歩いていない道なので不安になった。また、視覚障害者がほとんど利用していないアパートの裏口に置き去りにされて、不安になった。 No.15は、ガイド(妹)が前を見ていなかったせいで、車にひかれそうになった。 No.25は、知らない人にガイドしてもらうときに、びっくりすることがよくあった。 No.26は、びっくりしたり、危ない思いをした。 ●体や白杖を引っ張られた 日本人2人(11%)、ドイツ人2人(25%) No.11は、声をかけられずに腕を引っ張られて、びっくりした。 ガイドするときに白杖を引っ張られて、怖い思いをした。 No.13は、日ごろ歩いていない道を、ものすごい早足で引っ張られて、車にぶつかったり、日ごろ歩いていない道なので不安になった。 No.24は、ネコのように首根っこをつかまれて、道路を渡らされた。 No.27は、行き方を尋ねたとき、白杖をもたれて、行き先に向けて地面をたたかれた。 ガイドを受けるときに、白杖を引っ張られて連れて行かれた。 ●よくないコミュニケーションがあった 日本人7人(37%)、ドイツ人6人(75%) No.5は、階段から落ちたとき、ガイドの言葉が不足しており、態度が悪かった。 No.6は、ガイドが無口なので、どこを歩いているかわからなくなり、不安になった。ガイドを依頼しても、無視された。 No.7は、口で右と言いながら、左に曲がった。 No.8は、銀行や公共の場所などで、代筆やサインを依頼しても、してくれなかった。 No.15は、自分一人でも行ける場所で、無理矢理違うところに案内されたため、逆に行き先がわからなくなったことが何度もある。 No.16は、歩く速度が止まりそうなくらい遅かったので、「普通の速さで歩いてもらっても大丈夫ですよ」と伝えたにもかかわらず、歩く速度が変わらなかった。伝え方が悪かったのかもしれないと思っている。 No.19は、白杖を持たないときに自分が視覚障害者であることをしっかり説明しない場合、単に行き先の分からない人と思われて、晴眼者に向かって話すような説明を受けた。 No.20は、キャンプ旅行のときに雑談をしながら歩いていて、ガイドしてくれた人が階段を教えてくれなかったので、視覚障害者だけが転落した。 No.21は、階段を教えてくれるのが遅すぎたため、階段から2度、落ちそうになった。 No.23は、仕事のときや駅の中や列車の乗り換えのとき、希望を正しく聞いてくれなかった。行きたい場所(決っているホームなど)をきちんと伝えても、晴眼者は全然聞いてくれなかった。その結果、違う電車や場所まで誘導された。 No.25は、段差を教えてもらえず、段差から落ちた。 No.26は、ガイドしてくれなかった。 No.27は、ホームでない側の列車の出口から出ようとして、線路脇に転落した。後ろの男性に出口を聞いたところ、間違った回答があったためである。バスの運転手に降りる駅に来たら知らせてくれるように頼んでいたが、知らせるのを忘れてしまい、終点までバスに乗ってしまった。 ●待ち合わせ時間や待ち合わせ場所が違った 日本人2人(11%)、ドイツ人1人(13%) No.1は、約束の時間に遅刻されて困った。 忘れられたことが3回くらいあった。 No.3は、待ち合わせ時間、場所が合わずに、困惑した。 No.27は、迎えに来るのを忘れられた。 ●ガイドのマナーが悪かった 日本人2人(11%)、ドイツ人1人(13%) No.5は、階段から落ちたとき、ガイドの言葉が不足しており、態度が悪かった。 No.9は、ヘルパーさんと出かけた場所などの情報を、別のヘルパーさんが知っていた。 No.26は、意地悪をされた。 ●その他 No.14は、ヘルパーに初めて会うときには、緊張する。 4.アンケート結果の考察  ガイドヘルプを受けることで、すべての視覚障害者が良い経験をする半面、日本人1名とドイツ人1名を除き、悪い経験をも持っていることがわかる。  日本とドイツの違いについて考察する。  フィッシャーの正確確率検定を用いて、有意水準0.1以下(信頼度90%以上)で有意差のある経験を求めた。  その結果、悪い経験では、有意差はなかった。  良い経験でのみ、以下の2経験で有意差があった。  「乗り物を手伝ってくれる」(有意水準 0.0085)日本人5人(26%)、ドイツ人7人(88%)  「困っているときに助けてくれる」(有意水準 0.0899)日本人9人(47%)、ドイツ人7人(88%)  「乗り物を手伝ってくれる」良い経験がある、と回答した人が、日本人よりもドイツ人が多かった理由として、公共交通機関の利用のしやすさがあると思われる。  ドイツの駅には、日本にあるようなわかりやすい点字ブロックはほとんどなく、何番線かを示す点字表示はさらに少ない。  一方、日本では、切符の券売機に点字表記や音声案内があったり、プラットホームへ登る階段の手すりには点字表記があったり、音声案内のあるエスカレータやエレベータも多い。このため、視覚障害者が、他の人に手伝ってもらわずに単独で行動しやすい環境になっている。  「困っているときに手伝ってくれる」良い経験がある、と回答した人も、日本人よりもドイツ人の方が多い。  その理由は、困っていることの中に、乗り物の利用が含まれるからと思われる。  日本とドイツ人とで有意差の無かった悪い経験について考察すると、よくないコミュニケーションに基づく悪い経験が一番多かった。  よくないコミュニケーションは、単に感情の悪化だけではなく、階段からの転落や、物にぶつかりやすくすることにも関係している。  「家族や知人がガイドの場合ほとんど良い経験だけである」という回答が4人(ドイツ人)あった。  「悪い経験も振り返ればいい思い出だから、悪い経験はなし」という回答も1人(日本人)あった。  後者は、仲間にガイドしてもらいながら登山をしているときのものである。  これらから、よいコミュニケーションは、よりよいガイドヘルプを実現するために重要であることがわかる。  日本ではガイドヘルパー派遣制度があるにもかかわらず、ドイツとの差が出ていない。日本人からは、ガイドヘルパーを利用しているときに以下のような悪い経験をしたという回答があった。  No.2は、電車とホームの隙間に落ちそうになった。  No.3は、待ち合わせ時間、場所が合わずに、困惑した。  No.5は、階段から落ちたとき、ヘルパーの言葉が不足しており、態度が悪かった。  No.9は、あるヘルパーと出かけた場所などの情報を、別のヘルパーが知っていた。(No.14は、ヘルパーに初めて会うときには、緊張する)  文献[7]には、ガイドヘルパーを利用するときに不快な思いをしている視覚障害者が、アンケートの回答者412人中174人(174/412=42%)いることが示されている。また、そこでの不快な思いの内容の上位3つは、  ・歩行するときに介助方法が適切でない (101/409=25%)、  ・守秘義務を守らない(90/409=22%)  ・ガイドによって、ガイドヘルプの仕方が異なる (83/409=20%)となっている。  これらから、ガイドヘルパーの資質の向上が課題となっていることがわかる。これに資するための研究も始まっている[9][10]。  日本人とドイツ人で有意差の無かった、良い経験について考察すると、「安心して目的地に行けた」良い経験が一番多かった。  視覚障害者にとって、「安心して目的地に行けること」が、ガイドヘルプを利用する上での大きな利点であることがわかる。 5.おわりに  アンケートで得られた良い経験や、悪い経験は、自由記述であるため、視覚障害者が記憶に強く残っているものが現れていると考えられる。ガイドヘルプを今まで受けてきたときの経験について、正確な比較検討を行うためには、一つ一つの経験について、頻度を正確に調査する必要があるだろう。しかし、人間は、悪いことは忘れることで、前向きに明るく生きられる面があり、すぐには思い出せない経験も多くあると思われる。  晴眼者と視覚障害者とのコミュニケーションが進み、お互いの理解が深まって、問題が解消されていくことを期待したい。映像によって、視覚障害の見え方やガイドヘルパーを理解するためのDVD[11]もある。  環境においては、ドイツでも、視覚障害者の移動をより容易にするために、点字ブロックや、音声ガイダンスのある券売機が普及されることを期待したい。 謝辞  日頃、議論いただくNPO法人視覚障がい者支援しろがめ代表 村上琢磨氏、同法人各位、本学情報システム学科各位に感謝する。 参考文献 [1] 村上,関田:ガイドヘルプの基本,第2版,文光堂,2009. [2] 東京都心身障害者福祉センター地域支援課:障害者移動介護従業者養成研修事業者向け講習会報告書,2003. [3] 東京都心身障害者福祉センター地域支援課:障害者移動介護従業者養成研修事業者向け講習会報告書2004. [4] 東京都心身障害者福祉センター地域支援課:障害者移動介護従業者養成研修を担う演習講師養成に向けた講習会報告書2004. [5] 東京都心身障害者福祉センター地域支援課:障害者移動介護従業者養成研修事業者向け講習会報告書2005. [6] 東京都心身障害者福祉センター地域支援課地域支援係:移動支援従業者研修のスキルアップ研修会報告書,2008. [7] 視覚障害者の移動支援に関するあり方検討事業調査結果報告書,日本盲人会連合,東京都,2006. [8] Herman van Dyck: Nicht so-sondern so, Kleiner Ratgeber fuer den Umgang mit blinden Menschen, Deutscher Blinden- und Sehbehindertenverband e. V., Berlin, 2009. [9] I.Sekita, N.Sato, Y.Uchida, T.Murakami, H.Shishido, T.Sakai, R.Endo, C.Mashiko, M.Ishikawa, Y.Chiba, N.Yamaguchi, T.Higuchi: Instructional Software for Sighted Guides of Visually-Impaired Travelers, 12th International Mobility Conference, CD-ROM, Hong Kong, 2006. [10] I.Sekita, S.Kreuchwig, H.Shishido, R.Endo, M.Ishikawa, T.Sakai, C.Mashiko, Y.Chiba, N.Yamaguchi, M.Pauly, T.Murakami: Instructional Software for Trainers to Teach Sighted Guides of Visually-Impaired Travelers, 13th International Mobility Conference, CD-ROM, Marburg, 2009. [11] 村上 琢磨(監修・指導):視覚障害者の生活の質を高めるガイドヘルパーってどんなしごと?,DVD,アローウィン,2009. 付録 アンケートの内容 名前 性別 年齢 1.ガイドヘルプを受けたことがありますか? 受ける頻度はどれくらいですか? 2.ガイドヘルパーは誰ですか? 2.1:知人(親戚、家族、先生、友達) 2.2:知らない人(ヘルパーさん、親切な人、その他) 3.ガイドヘルプを受けた時、良い経験、悪い経験がありますか?悪い経験の例:けがをした、落ちた、ぶつかった、びっくりした、危ない思いをした、不愉快な気持になった、意地悪された、ガイドしてくれなかった、など良い経験の例:気分が明るくなった、目的地に安心して行くことができた、など。 4.ガイドヘルプを受けて悪い経験は、どういう時、どういう場面でしたか? 5.ガイドヘルプを受けて良い経験は、どういう時、どういう場面でしたか? Research on Current Situation of Sighted Guide between Japan and Germany KREUCHWIG Susanne, SEKITA Iwao Department of Computer Science, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: This paper reports the current situation of sighted guide (guide-help) between Japan and Germany. A questionnaire on the experiences of visually-impaired persons (VIPs) with sighted guides-helps was circulated. A comparison between Japanese VIPs and German VIPs revealed the following two significant differences: In the case of using transportation services, a higher number of German VIPs had good experiences (significant difference of 0.0085). In the case of suffering inconveniences, a higher number of German VIPs had good experiences (significant difference of 0.0899). This paper also suggests the importance of the following: good communication, ensuring safety while travel, and improvement in the qualifications and quality of Japanese Guide-Helpers. Keywords: Sighted guide, Guide-help, Japan, Germany, Survey, Significant difference