全国高等学校アンケート調査の結果報告 筑波技術大学 保健科学部 笹岡 知子 大越 教夫 坂本 裕和 小林 真 三宅 輝久 高橋 洋 隈 正雄 要旨:本学では2005年より、一般高校の視覚障害を持つ学生に関わる状況についてアンケート調査を継続して行っている。今年も同様のアンケートを実施し、計5229校の一般高校へアンケートを送付したところ、914校から回答を得た(回収率17.5%)。914校のうち44校に視覚障害者が在学しているということがわかった。加えて、有益な意見が多数寄せられたので、この結果を報告する。 キーワード:アンケート、高等学校、広報、支援システム 1.はじめに  昨今、少子化により若年者の人口が減少しており、全国の各大学では入学定員を確保するために様々な広報活動を行っている。本学においても他大学と同様に、受験生の獲得と競争の原理に基づいた優秀な人材の確保のための工夫を継続的に行ってきた。短期大学の時代には、各学科・専攻それぞれにおいて、一般高校へのアンケート調査や電話による案内等を行ってきたが、大学になった2007年度より保健科学部全体での郵送法によるアンケート調査に切り替え、毎年継続的に行っている。そもそも、一人でも多く優秀な人材を獲得することが必要であるという考えに基づき、本学の存在が十分に熟知されている盲学校とのつながりを密に保ちながらも、一般高校からの受験候補者の一人でも多い獲得を目指そうと始めたのがきっかけであった。  2009年度における各学科、専攻の在学生の出身校をみてみると、鍼灸学専攻では約85%、理学療法学専攻では約91%、情報システム学科では約43%が一般高校の出身であり、保健科学科の大半を一般高校出身者が占める。  毎年、一般高校の校長に宛て学校案内と入試案内を送付しているものの、進路指導部で実務に当たる教諭にどの程度本学が認知されているのか、どの様な指導がなされているのかなどの現状は不明である。  そこで今回、例年の調査を、進路指導部教諭に対して行い、その回答から現場の状況やニーズを推察できるかどうかを試みたので報告する。 2.アンケート調査の実施 (1)調査対象  全国の公立、私立を合わせた一般高校5229校の進路指導部教諭を対象とした。  今年度も、例年使用している全国高等学校住所データを使用した。 (2)実施方法  アンケートは、往復はがきを用いた郵送法にて行った。往信面には本学と学部の紹介および入学者基準を記載し(図1)、返信面には在学者に視覚障害を持つ学生がいるかどうかと本学の資料送付の希望の有無についての設問に加え、要望や質問などの自由記述欄を設けた。(図2)  発送は7月末に行い、アンケート文面上の返信期限は8月末とした。実際には、11月末まで回収を継続した。 (3)集計  返信されてきたアンケートは、視覚障害を持つ学生の有無と資料送付の希望の有無で分け、単純集計を行った。  自由記述欄に書かれた意見は、SPAW Text Analytics for Surveys(SPSS社)にて解析した。 図1 往信面;学校紹介と入学条件 図2 返信面;アンケート 3.調査結果 (1)回収率  返信されてきたのは、5229校中915校(回収率17.5%)であった。加えて、15校(0.2%)が宛先不明で返送されてきた。宛先不明で返送されてきた高校のうち、住所変更が1校、統廃合により閉校していたのが12校、その他が2校であった。返信のあった915校の中にも、来年度から閉校する学校が1校あった。(図3) (2)集計  集計は、返信のあった915校のうち、来年から閉校する高校を除いた914校を対象に行った。  1)視覚障害者が在学する一般高等学校数  視覚障害者が在学すると答えた学校は、914校中41校であった。(図4) 2)本学資料の送付希望の有無  本学資料の送付を希望するかどうかを集計したところ、視覚障害を持つ学生が在学する41校のうち、資料を希望すると答えた高校が39校(95.1%)、資料を希望しないと答えた高校が2校(4.9%)であった。視覚障害を持つ学生が在学しない873校のうち、資料を希望すると答えた高校は47校(5.6%)、資料を希望しないと答えた高校は112校(12.7%)、無回答の高校は714校(81.7%)であった。(図5) 3)自由記述欄の意見の解析結果  先ず、意見のあるなしについて単純集計を行った。次に、テキスト・マイニング手法を使い、高校教諭からコメントとして寄せられた疑問や要望といったニーズについて解析した。 3-1)視覚障害者学生の在学の有無と意見の有無  全914校のうち、何らかの意見が書かれていたのは74校(8.1%)、無記入や無しと書かれていたのは840校(91.9%)であった。意見が書かれた74件のうち、68件(91.9%)の意見には、何らかの希望や要望が含まれており、6件(8.1%)は“本年度は(視覚障害を持つ学生は)いない。”等のコメントであった。以下、何らかの希望や要望が含まれていた68件の意見の内訳について述べる。  視覚障害を持つ学生が在学する41校のうち、何らかのコメントが書かれていたのは21校(51.2%)、無記入や無しと書かれていたのは20校(48.8%)であった。視覚障害を持つ学生が在学していない874校のうち、何らかのコメントが書かれていたのは47校(5.3%)、無記入もしくは無しと書かれていたのは827校(94.7%)であった。 3-2)コメント内容の特徴  先ず、視覚障害を持つ学生が在学している高校および、在学していない高校それぞれにおいて、意見の内容に差があるかをみた。  視覚障害を持つ学生が在学する高校21校中、9校(42.8%)が本学の資料や受験・進路についての情報提供を希望したものであった。10校(47.6%)は、視覚障害を持つ学生の進路支援やその情報、高校内での支援の仕方などについてのアドバイスを求めるもので、2校(9.6%)は他大学を受験する、というコメントあった。  視覚障害を持つ学生が在学しない高校のうち意見が記載されていた47校中、20校(42.5%)が本学の情報提供(卒後の就職先や職種、大学に関する一般情報、国家試験合格率、学生生活)を希望するものであった。他には、将来的に視覚障害者を受け入れることになった場合、どのように支援したらいいのか、相談窓口はあるのかなど、障害者支援に関するアドバイスを求めるものが14校(29.7%)、本学以外の障害者受け入れ可能な学校の情報を希望するものが7校(14.9%)、聴覚障害の進学先に関わるものが4校(8.5%)、残り2校は本年度視覚障害者はいないなどのコメントであった。(図6)  次に、希望や要望を示すキーワード(教えてください、希望します、アドバイスお願いします、情報提供お願いします等)を含む意見に対して、同時に意見の中に含まれている他のキーワードを抽出し、要望の内容とその要望の強さを観察した。  青丸の大きさはそれぞれのキーワードが使われた意見の概算数を、灰色の線の太さは線で結ばれたキーワード同士が同コメント内・同文脈上で使われていた数を示している。すなわち、青丸が大きいほどキーワードを書いた意見が多いということを示し、線が太いほどキーワード同士の結びつきが強いということを示している。  本学の情報を希望する意見以外に、一般的な大学進学に関する情報、障害者支援情報、就職先就職状況に関する情報が多く求められた結果となった(図7)。 図1 往信面;学校紹介と入学条件 図2 返信面;アンケート 図3 アンケート回収率 図4 視覚障害者の在学の有無 図5 本学資料の送付希望 図6 要望の内容1 図7 要望の内容2 4.考察  2006年に厚生労働省より出された身体障害児・者実態調査による年代別・障害別人口の結果[1]と、2005年の文部科学省による盲・聾・養護学校重複障害学級数・在学者数の調査結果[2]を元に2009年現在の一般高校に在学の視覚障害を持つ生徒数を算出すると、理論上約360名になる。一般高校に本学の受験資格を持つ生徒が、理論上の数字とはいえ360名、1学年につき120名ずつ在学している。しかし、今回のアンケートでは、視覚障害を持つ生徒が在学していると返答があったのは41校のみであった。  近年、個人情報の取り扱いが厳しくなってきたことに伴い、在学生徒の健康状態や身体障害の有無についても学内で情報が共有されないケースが増える可能性がある。この様な理由により、返信のなかった4298校と、返信されてきたが視覚障害者はいないと答えた873校にも、視覚障害者が在学している可能性があると容易に予想できる。  今回のアンケートは回収率17.4%と、郵送法によるアンケート調査の一般的回収率(約2~3割と言われている)と比較しても決して高いとは言えず、一般的な情報を反映しているとは言い難い。しかし、視覚障害を持つ学生が在学していない高校からも視覚障害者教育や支援についての情報が欲しいとの要望が多数出されていることから、日常の業務の中で必要性を感じる何かしらの経験をされている可能性が示唆される。  今回出された要望や希望の中には、視覚障害者が就ける職業や受け入れ態勢のある進学先の情報を求める声が多かった。このことは一般高校の教諭に、視覚障害者をはじめとする身体障害者の基本的な知識の不足と、情報の入り難さがあることが予想される。加えて、現在在学中の障害のある学生対応のアドバイスを求める声や、今後障害のある学生が入学してきた場合の相談窓口を知りたいといった声も多かった。これらの声に応えられるように、本学としても支援組織などの情報を保持し、学校全体で共有できるシステムを持つ必要があるように思う。そして、視覚障害を持つ生徒に関わった高校教諭が、本学に問い合わせが出来る様な広報活動を展開出来る事が望ましく、本学学内においても問い合わせがあった場合にスムーズな対応が行えるように、システマティックな情報伝達・連絡系統を準備しておくことも大切と思われる。 5.まとめ  1.将来的な受験生の獲得および本学の広報を目的に、全国の一般高校を対象に郵送法によるアンケートを実施した。  2.アンケートの送付は全国の公立・私立の一般高校5229校に対して行い、回答は914校(回収率17.4%)から出された。914校のうち視覚障害がある学生が在籍しているのは44校であった。本学の資料を希望したのは、視覚障害がある学生が在籍する高校と視覚障害がある学生が在籍しない高校を合わせると88校であった。  3.自由記述欄に書かれた内容をみると、卒業後の進路や職業や就職率についての質問、本学以外にも身体障害者を受け入れる大学についての情報や、視覚障害者をはじめとする身体障害者の支援情報や相談窓口の情報を求める声が多く、情報の乏しさが示唆される内容であった。  4.以上のことから、今回出された一般高校からの要望に対し、丁寧に対応し実績を積み上げて啓蒙していくことが、本学の広報活動、強いては将来的な受験生獲得の可能性を高めるためにも有益な活動になりうるのではないか、と示唆された。 参考文献 [1] 厚生労働省;平成18年身体障害児・者実態調査結果,http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/index.html [2] 文部科学省;特別支援教育資料(平成17年度),http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/003/014.htm  本アンケートは、平成21年度の保健科学部長裁量経費にて行った。 Report on a Questionnaire Survey on the Situation of High Schools Comprising Visually Impaired Students SASAOKA Tomoko, OHKOSHI Norio, SAKAMOTO Hirokazu, KOBAYASHI Makoto, MIYAKE Teruhisa, TAKAHASHI Hiroshi, KUMA Masao Department of Health, Tsukuba University of Technology Abstract: In the Tsukuba University of Technology, we have been conducting a mailing method survey for visually impaired high school students since 2005. This year, we carried out a similar survey and sent out a questionnaire to 5229 high schools. Responses were received from 914 high schools, 44 out of which had visually impaired students. In addition to the responses, a number of constructive comments were drawn. In this study, we report the results of this questionnaire survey. Keywords: Questionnaire, High school, PR, Support system