ろう学校教員との共同授業 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 須藤 正彦 新井 達也 要旨:ろう学校を訪問し、英語、数学の授業をろう学校の教員とともに企画、実施した。北海道、岩手、福島、沖縄のろう学校に在籍する中・高校生を対象に、日常使用しているテキスト以外の教材を用いて指導し、外国語や数学のおもしろさ、学ぶことの大切さを生徒に再発見させることを試みた。 キーワード:ろう学校、共同授業、外国語、数学 1.はじめに  本学と大学間協定を有するアメリカ聾工科大学では、大学のキャンパスにて夏休みの1週間を使って、聴覚障害の高校生を迎え入れ、“Explore Your Future”と題するキャンプを行っている。そのプログラムでは、大学の講義やスポーツを体験するとともに、生徒自身の適性・進路・職業選択を行うなど参加した生徒にとって極めて有効な情報を得る機会となっている。当キャンプに参加した学生の8割以上がアメリカ聾工科大学を受験するという。  一昨年、3聾学校(高等部、中学部)において英語と基礎的なASL(アメリカ手話)の授業を行うとともに、聴覚障害者の歌手やプロ野球選手の紹介をして好評を得た。地方の聾学校は進学や本学の情報が少なく、保護者にさまざまな情報を提供するうえでも共同での教育活動が有益であると感じ、ミニ“Explore Your Future”プログラムを企画した。将来性のある多くの生徒達を伸長し、本学を含む高等教育の可能性を聾学校の先生方、保護者にも理解してもらうために共同授業を実施することを試みた。  目的:聾学校に在籍する中学生、高校生を対象に、聾学校教諭と共同で授業を行い、知ることのおもしろさ、学習の大切さ、有益さを実感させる。 2.実施した主な授業 (1)平成19年12月福島聾学校(高等部)にて英語・ASL(アメリカ手話)基礎の授業を実施(須藤)。 (2)平成20年2月帯広聾学校(中学部)にて英語・ASLの授業、活躍するろう者に関する紹介(須藤)。 (3)平成20年2月沖縄ろう学校(高等部)にて英語・ASLの授業ならびに職業に関する授業を実施(須藤)。 (4)平成21年2月盛岡学校(高等部)にて英語・ASLの授業を実施。国際教養大学、バディング先生参加(須藤)。授業で用いたパワーポイント資料を以下に示す。 教員の声:英語+アメリカ手話学習 「もっと反応ができれば良かったのですが、生徒たちは大変楽しかったようです。覚えたASLを今も時々使っております。VTRで見せていただいた夢を実現したろう者の先輩について、スピーチ発表で取り上げた生徒もおりました。深く印象に残ったようです。」 (5)帯広聾学校(平成21年3月) ⅰ)数学授業(新井)  平成21年3月5日、帯広聾学校を訪問し、中学部生徒5名を対象に数学の実験授業を実施した。授業内容は、簡単なゲームの中に隠れた数学的法則を探すものである。対戦相手と交互にチョコレートを割っていき、最後に割った人が負けというルールを設け、どのような場合にどちらの人が勝つか、という設問について受講生と共に考察する。初めに、4行6列のピースがつながっている実物のチョコレートを割りながら、遊び感覚で何度か試行し、このチョコレートの場合に対する解答を得た。その後、もっと大きなチョコレートだったらどうなるか、という設問について考えを深め、文字や数式を用いることにより、どんなに大きなチョコレートに対しても瞬時に勝敗を特定することが可能であることを確認した。途中で、「難しい」という声も受講生の中から上がる一方、このゲームの数式化を目指す授業者の目論見を見破り、具体的な数字の決まったチョコレート(例えば、12行15列など)に対しては、正しい答えを言い当てる受講生もいた。5名の受講生たちが、素直に根気強く受講してくれたため、40分の授業の間に事前に準備していた結論まで到達することができた。この授業を通して、ありふれた事物の中にも数学的な規則が隠れていることや数学学習において不可避の一般化、抽象化の概念を体験できたと考えている。 生徒と教員の声:「今日の授業は楽しかった、難しい時もあったけれど面白かった」、「数学が苦手な生徒への指導の糸口を見つけることができた」等の感想を得た。今後も様々な形での連携を望む旨の意見を頂いた。 教員の感想、要望:「大変お世話になり、ありがとうございました。筑波技術大学での授業の進め方が少し感じられたように思われ、勉強になりました。地方ですと、生徒たちがオープンキャンパスに参加できることも少なく(意識、その他の理由で)情報量も少ないです。早期からの進路指導教育の一環として、ぜひ、今後もこのような機会をつくっていただけますようお願い致します。筑波技術大学ではどのようなことを学ぶことができ、どのような進路と結びついているのか、なども紹介していただければ大変ありがたいです。英語は必要ないなど消極的な考えも少なくありません。自分で自分を限定してしまうところがあるので、もっと心も機会も開けたらと思います。」 図1 英語の授業で使用したファイルの一例 図2 数学の授業で使用したファイルの一例 図3 英語の授業で使用したファイルの一例 3.考察  平成19度は英語(海外の聴覚障害者の活躍の様子やASLを含む)や職業に関する授業のみの実施であったが、平成20年度は数学の授業も行った。これは前年度の研究協議会で出された要望でもある。  平成20年度は昨年の共同授業の実績があったこと、事前に指導計画書を送信しておいたため、授業の当日ほとんど打ち合わせは行われなかったが、生徒も教員も落ち着いて授業ができた。授業後には簡単な授業研究会を行って、行われた授業の指導法についても検討した。  英語や数学への関心はもとより、聾学校の生徒の関心を本学へむけさせることができたことは収穫であった。  近年、高大連携との用語が頻繁に使用されるが、実際にはそれぞれの教育機関独自のカリキュラムがあり、組織の垣根を越えた共同での授業実施は容易ではない。しかし、授業という具体的な教育活動を通じて、教員どうしが指導法を究めれば、指導技術を互いに高めることができよう。  将来、本学で学びたいという生徒、学ばせたいとする教師や保護者も増えつつあり、微力ながらも本学に関する情報を今回提供しえたと考える。 4.おわりに  難聴学級在籍する中学生を対象した活動は、日程調整ができず実施できなかったが、聾学校の担当教諭からは「英語やASL、高等教育への進学・職業に関する意識を高めることができた」、「他県のことを知る機会になり大変良かった」等の意見を得た。また管理職からは「遠方の聾学校は情報が少ない。生徒達にさまざまな可能性を示してもらえた」、「生徒のみならず、進学や就職の話も教員が聞け、今後とも連携を望む」との意見を頂き、連携の第一歩は踏み出せた。  本報告は平成19年、平成20年度障害者高等教育研究支援センター長裁量経費支援による「聾学校生徒への夢支援プロジェクト」に基づいている。 参考文献 [1] 須藤 正彦:米国の一般大学に学ぶ難聴生の支援,聴覚障害教育工学,第24巻2号,2001. [2] 須藤 正彦:英語学習における読みの指導,聴覚障害,2002年11月号 [3] 須藤 正彦 他:第一回聾学生のための英国リーダーシップ研修,筑波技術大学テクノレポート,VOL14,2007. Collaborative Classes with Deaf-School Teachers SUTO Masahiko, ARAI Tatsuya Research Center for Higher Education for Students with Disabilities Abstract: We visited four deaf schools and conducted collaborative classes for English and mathematics with the teachers of deaf schools.For the secondary school students of deaf schools in Hokkaido, Iwate, Fukushima, and Okinawa, we attempted to increase the interest for a foreign language and mathematics among the students and show them the importance of the use of unconventional teaching materials. Keywords: Collaborative class, Deaf school, English, Mathematics